戦場のヴァルキュリア 蒼騎士物語   作:masasan

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第二十話

『こちらハウンド1。敵影見えず。偵察を続行します』

 

「ライガー1、了解。定時まであと20分だ。あまり先行しすぎるなよ」

 

『了解です。通信終わり』

 

駐屯基地を後にしたヴァリウス達133小隊はガリア軍の勢力圏を抜け、今や帝国の支配域となっているガリア北部へと足を踏み入れていた。

 

敵勢力圏内での行動故に進軍は常時よりもやや遅め。随時周囲へ偵察を放つことを怠らず警戒態勢を維持している。

 

その甲斐あってか、リストニウムまであと10キロと言ったところまで来たが、いまだに帝国の部隊とは遭遇することなく順調に行程を消化していた。

 

「ここまでは至って順調だな」

 

「だが、ここはすでに帝国の勢力圏内だ。油断は出来ないぞ」

 

「分かってるさ。まぁ、だからってずっと緊張してろってのも無理な話だぜ?適度に肩の力を抜いとかなきゃ、いざって時に動けないよ」

 

無線機を首から外し、なんとなしに周囲を見渡す。周りを木々に囲まれた緑あふれる森の中にあった開いた場所に設営した野営地では食事の準備が進められている。

 

出来るだけ火は使わないようにしているため、温かい食事とは行かないが、それでも既存のレーションや保存食などよりは随分とマシな料理がラビット分隊の面々により作られていくのを遠目に眺めていたヴァリウスは

 

「しかし、こうものんびりしていていいのか?今回は時間との勝負なんじゃないのか?」

 

とのセルベリアの言葉に首を捻る。

 

「まぁ、そうなんだが・・・相手が来ないことには俺らも動きようがないからなぁ・・・・・・」

 

カリカリと頭を掻きながら疲れたような声を出しながらそれまでリストニウムへと向けていた視線を反対側、ガリア領の方向へと向ける。

 

「まったく―――なんだってこんな時に、こんなもんもらうような真似するのかねぇ・・・・・・」

 

そう呟きながら懐から取り出した黒い封筒――基地でアレハンドロから手渡された代物――を疲れたような瞳で見つめる。

 

一切が黒のそれは、どことなく不気味な空気を醸し出している。実際、それはヴァリウスにも、そして対象(・ ・)となった存在にも災厄をもたらす代物。

 

本当ならば自分の手許になど二度と来ないでほしいと願わずにはいられないモノ。

 

「特殊任務遂行書、か・・・確かに、出来うる限り見たくはない代物だな」

 

嫌悪感を滲ませながらヴァリウスの手にある黒い封筒―――特殊任務と呼ばる”反逆者への処置命令書―――を睨み付けるセルベリアは、今回の任務が常時のソレとは違う一面を持っていることに気を僅かに落し、小さな溜息を吐いた。

 

「ガリア軍内での”公には出来ない”国家反逆者、もしくは候補の内密な処理―――毎度毎度碌なものではないな」

 

「俺だってこんなものなるべく受け取りたくはないけどさ・・・”コレ”のおかげで俺たちは軍の指揮系統から外れて行動出来てるんだ。嫌だからやりませんってわけにはいかないだろ」

 

セルベリアの鋭い視線を感じながらひらひらと黒い封筒を揺らす。そうは言ったものの、ヴァリウスの表情もまたセルベリアと大差無いものだったが、これを無視することは不可能なのだと認めざる負えないのかと嫌気がさした表情は隠せていない。

 

「確かに、今更どうこう言っていても詮無い話か・・・それで?今回の標的はどのような屑なんだ?」

 

「例のごとく、としか言えないような屑だよ」

 

差し出された封筒を受け取り、口を開く。記されているのは標的の部隊番号と大まかな罪状。大まかな、と言っても記されている罪状の数は紙の半分以上を占めている。

 

「国家反逆罪、機密漏洩、民間人誘拐、人身売買。物資横流しに強姦・・・これはまた、救いようのない屑が居たものだな」

 

比較的上の方に記されている罪状を読み上げながら眉間に皺を寄せる。これまで音沙汰なしで居たのが不思議なくらいの犯罪、軍紀違反の数々にセルベリアも呆れの色が浮かび出る。

 

「その部隊の隊長、あのエルロー大佐の三男坊なんだってさ」

 

「軍略のエルローか?・・・なるほど、父親の権力を盾に好き放題やらかしていたわけだ」

 

納得と言った風に頷くセルベリアを横目に、たった今口にした名の主を脳裏に浮かべる。

 

軍略のエルロー。本名をアレックス・エルローと言い、第一次ヨーロッパ大戦時にガリア公国正規軍の中尉として参戦した歴戦の猛者。奇襲、奇策などを多用し、英雄であるギュンター将軍ほどではないにしろ、劣勢にあったガリア軍を支えた戦略家として名高い人物で、戦後はその功績を認められ、男爵の爵位を与えられた。

 

そんな偉大な男の三男として生まれたのが今回の標的であるジョン・エルローガリア正規軍少尉だ。

 

「この723小隊だけど、エルロー少尉の伝手で集められたゴロツキばかりらしい。こんなんでも一応戦果は挙げてるらしいから、多少の問題行為は親のネームバリューもあってお偉方も黙認してたらしいんだが」

 

「流石にあの雌猫の目を掻い潜ることは出来なかったわけだ」

 

鼻を鳴らしながら相槌を打つセルベリアに苦笑しつつ、首肯する。

 

「流石に、彼のアレンスウェード家の情報網を抜けるのは実家の名を掲げても無理だったらしいな。最近は帝国への物資と情報の横流し、ダルクス系の民間人を誘拐、人身売買を主に取り扱ってるみたいだ」

 

「しかし、それだけか?いや、確かにそれだけでも十分粛清対象として選ばれる理由はあるが、あの雌猫が標的に選び、私たちが充てられた理由としては少々弱い気がするが・・・」

 

今まで受けてきた黒い任務は、今回のような小悪党のような輩ではなく、まさに国家の敵と呼べるような相手がほとんどだった。むしろ、そう言った相手でなければよほどのことが無い限り黒手紙(抹殺指示)が届けられるような事態にはならないはずだ。

 

だと言うのに、今回に限っては小物と言ってもいいレベルの標的だ。何かしらの裏があるのではないかと思わず勘ぐってしまう。

 

「さぁ、そこらへんは俺にもよく分からんが・・・少なくとも、黒手紙(コレ)をもらうような何かを仕出かしたってことなんだろ。なら、俺たちは指令通りにそれをこなすだけだよ」

 

それが命令であるならば、従うのが軍人として正しい姿であり、基本だ。指揮官と言う立場に居るのならば、多少考えることは必要ではあるが、余計な考えを持つことは兵士には必要ない。

 

そう言うのは上の人間の、政治家の考えることだ。

 

「それに、こう言っちゃなんだがアルト直々のご命令なんだ。少なくとも俺らに不利になるようなことをあいつが指示するとは俺には思えないけどな」

 

「・・・・・・確かにな・・・・・・仕事(・ ・)に関しては公正なのは認める」

 

「間があるなぁ・・・」

 

答えを口にするまでの間に苦笑しながらヴァリウスは黒手紙を懐にしまう。二人の相性の悪さと言うか、顔を合わせたら即座に殺気を飛ばしあう仲なのはよく知っているが、公務には誠実であることは彼女も認めているのだ。

 

ただ、それを素直に認めるのは嫌らしいが。

 

「ま、とにかくこういう訳で今回の任務はちょっとばかし特殊なわけだ。復帰早々こき使ってくれるとは思うけど、お仕事はしっかりやらなきゃいけないだろ?」

 

おどけた仕種を見せながらも、その瞳は鋭い。どのような小物であろうと、獅子身中の虫を生かしておくような温厚さは彼には微塵も無い。

 

「だからこそ、今回の任務は万全を期したい。後で皆にも話すが、そのつもりでいてくれ」

 

「了解した。・・・もっとも、私はいつでも万全を期しているがな」

 

「知ってるよ」

 

最後に軽口を交し合い、夕食の用意がされているはずのテントへと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、なんで俺たちがこんなことやらなきゃいけねぇんだよ・・・!」

 

苛立ちをぶつけるように枯葉が積もる地を踏みしだく。手に抱えるのは、ガリア軍で支給されているガリアン‐1。偵察職種に就く兵士が一般装備しているそれを抱える男達は、ガリア正規軍の蒼い軍服を各々の好みに合わせて身に纏い、薄暗い森の中を三人の男たちが闊歩していた。

 

明らかに軍人、それもガリア正規軍の者達であることが分かる。

 

「全くだぜ。せっかく商品(・ ・)の味見が出来るはずだったのによぉ~・・・それもこれも、テメェが余計な事言いやがったせいだぞ?」

 

「あ?俺のせいだってのか?ふざけんなよ、テメェ?アレはどう考えたってワルドのせいだろうが!!」

 

「ケッ、ほざけよ。テメェが隊長のお気に入りに手を出そうとしたせいだろうが!そのせいで俺らまでとばっちり受けてんだぞ?どう考えたってテメェのせいだろうが!!」

 

しかし、軍服を纏ってはいるものの、パッと見でその男達を軍人だと判断できるものは居ないだろう。

 

正規軍、義勇軍問はず、軍人に見えないような輩は少数ながら存在して(と言うよりも、義勇軍は民間からの志願兵なのだから軍人に見えなくても当然だ)いる。しかし、そんな者達でも軍服を纏っていればなんとなく「あ、この人は軍人なのだな」と判断できる。

 

それは、荒くれ者のような顔をしていても”その道”の輩と区別が付けられることと同じだ。服装とは、纏っているだけでもその者の身分を証明することが可能な認識章みたいなものなのだ。

 

だが、そんな軍服を纏っていながら、森の中を歩くその男達は完全にそこいらのチンピラと同じ空気を纏っており、とてもではないが正規の職業軍人とは思えない。

 

第二に、男達の態度だ。

 

男達の装備や行動を見るに、彼らは今偵察任務中なのだろう。でなければこんな人気のない森の中を集団で歩くようなことはしない。

 

だと言うのに、大声を上げながら仲間を罵る様は丸っきりチンピラだ。

 

少なくとも、彼らと同じ立場にある他の軍人ならば何かしらの不満があったとしてもこのような場所で自分たちの位置を知らせるような愚行は犯さないはずだ。

 

「ギャアギャア煩せぇぞ、テメェら!!少しは黙っていられねぇのか!!」

 

後ろで騒ぐ男たちに堪え切れなかったのか、三人の中で唯一黙って歩いていた先頭の男が後ろを振り返る。突然の介入にビクリと体を震わせた二人だが、片方を責めていた男が「けどよ、こいつが!」と不満を露わにする。

 

「黙れっつたぞ!?俺だってなぁ、お預け喰らってイライラしてんだよ!!ごちゃごちゃ抜かしてねで、さっさと見回りなんざ終わらせようとか考えやがれ!!」

 

殺気立つ男の言に気圧されたのかそれまで騒ぎ立てていた男はしぶしぶといった様子で口を閉じる。その様に鼻を鳴らしつつ、横でにやけている男にも「テメェもうぜぇんだよ!」と拳を振るう。

 

「いいか、もう一回言うけどなぁ・・・俺もテメェのせいでやりたくもねぇ見回り何ざさせられて苛ついてんだよ。これ以上手間掛けさせるようなら・・・殺すぞ?」

 

「わ、分かってる・・・!分かってるよ・・・!ほ、本当に悪いって思ってる!!」

 

「なら黙ってやることやれや」

 

本気だと思わせるには十分な殺気を向けられた男は先頭を行く男へ怯えながらも謝罪を口にし、震えながら周囲を窺う。

 

(ったく、ギャアギャア、ギャアギャア騒ぎやがって・・・せっかくのお楽しみ取り上げられてムカついてるっつうのによぉ・・・)

 

気分が悪い。こうなれば、なんでもいいから一発ぶち込んでスッキリしたいところだが―――

 

「・・・ん?」

 

「なんだ?」

 

「いや、何か動いたような気が・・・」

 

後方を歩いていた一人が数メートルほど先の茂みを指さした。指の先を追い目を向けてみるも、何もあるようには見えないが―――

 

(・・・アレは―――)

 

今度は自分にも見えた。茂みの間から覗く、紺色の(・ ・ ・)髪。精一杯動かないようにじっとしているが、微かに紺色の髪が茂みの中から覗いていた。

 

「おい、そこに隠れてんのは分かってんだ。さっさと出て来い!」

 

強い口調で命令する。髪の主は、大声に驚いたのか一瞬ビクリッと体を振るわせた後、おずおずと茂みから姿を見せた。

 

「まさか、こんなところでダルクスのガキに出くわすとはな・・・」

 

出てきたのはまだ子供と言える年頃のダルクス人の少年。瞳は恐怖に彩られているが、軍服を見て自分たちがガリア軍の者だと分かると多少安堵したようで、震えながら「す、すみません・・・近くの村の者なんです。怪しいものではありません」と主張してきた。

 

「近くに村だぁ?知ってるか?」

 

「俺が知るかよ」

 

少年の言葉に訝しげな声を出す二人。彼らの様子に慌てたのか、「ほ、本当です!この先に僕たちの村があって・・・小さいですけど、ちゃんと領主の方にも届け出てます!」と自分たちが違法居留者ではないと声を張る。

 

その様子は酷く必死だが、ダルクス人と言うだけで迫害を受ける彼らからすれば、ここで変な疑いを持たれるようなことは出来るだけ避けたいのだろう。

 

何とか信じてもらおうと身体を振るわせながらも訴えてくる。

 

だが、男にとってそんなことはどうでもいいことだった。

 

「お前、一人なのか?」

 

「え?あ、はい・・・ちょっと薬草を取りに・・・」

 

「そうか・・・」

 

にやりと、怪しげに嗤う。男の表情に、危険を悟ったのか少年はビクビクと怯えながら後ずさる。

 

「あ、あの・・・もう戻らなきゃいけないので・・・」

 

そう言うとすぐさま踵を返し脇目も振らずに駆け出した。その後ろ姿を見送る男は、少年が自分の考えをどことなく悟ったのだなと僅かに関心しながら、仲間達へと笑みを向ける。

 

「おい、喜べよお前ら―――退屈しのぎが出来たぞ」

 

男の言葉に、二人もまた笑みを浮かべる。ガリアン‐1を握りしめ少年が走って行った方向へと目を向ける。

 

少年の姿は、森に慣れているためかかなり先にあった。その速さに口笛を吹きながら男は銃を構えた。

 

「―――キツネ狩りの時間だ」

 

一発の銃声が、森の静寂を切り裂いた。

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