戦場のヴァルキュリア 蒼騎士物語   作:masasan

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第二十一話

「いやぁぁ!放して!放してよぉ!!」

 

「黙れ!殺されてぇのか!!」

 

泣き叫ぶ女性の頭を銃床で殴りつけ、ぐったりとした体を引きずるように運ぶ。男の目的地である輸送用トラックの荷台前に立っていた見張り役の男が、彼の乱暴な扱いを見て思わず「あんま傷付けるなよ」と声を掛けた。

 

「そんなやつでも大事な商品なんだ。あんま乱暴に扱ってると隊長にどやされるぜ?」

 

「んなこと言ってもよぉ、暴れるんだからしょうがねぇだろうが。クソッ、他の奴らみてぇに黙って従ってればいいってのによぉ、こいつは!」

 

苛立ちが収まらないのか、気を失っている女性の髪を引っ張りながら毒を吐く。見張りは「だから止めろって」と窘めながらも気持ちは分からなくもないけどよと心の中で呟く。

 

ああも泣き叫ばれては手間がかかってしょうがない。好きに(・ ・ ・)していい(・ ・ ・ ・)のならば我慢も出来るが、生憎と今回の商品は出来るだけ無傷で運ぶようにとの話だ。ストレスが溜まるのも無理からぬ話だ。荷台の中へと入っていく男達を見送りながら、見張り役の男はこの後に控えているお楽しみ(・ ・ ・ ・)に思いを馳せる。

 

幸いなことに、今日は自分たちの番だ。少し前に隊長のお気に入りに手を出そうとした馬鹿が居たおかげで多少時間がずれたが、次の休憩時間には中にいる商品(・ ・)の中から好きなモノを選んで好きにできる。

 

少し前ならば絶対でに出来なかったことが、今はこうも容易く出来る。

 

「まったく、戦争様々だな」

 

平時には民間人が消えれば大騒ぎになるが、今は戦時下だ。民間人の失踪や行方不明などはありふれたもの。こうして自分たちが狩って(・ ・ ・)いても(・ ・ ・)なんの問題もなく処理される。

 

他の最前線にいる奴らからすればたまったものではないだろうが、そんなことは知ったこっちゃない。碌に抵抗もできない民間人を攫い、好事家や貴族に売れば大金が手に入るのだ。

 

「なに一人でブツブツ言ってんだよ」

 

「ん?いや何、戦争のおかげで儲けてんだよなって考えてただけだよ」

 

「あ?何らしくないこと言ってんだ、お前」

 

「らしくねえか・・・確かに、らしくねぇな」

 

「だろ?んな難しいこと考えるような頭は俺らにあるわけねぇての。精々できるのは金勘定くらいだろうが」

 

俺を含め、この隊はバカばかりなんだからよと言い切る男に違いないなと苦笑する。実際、さっきまで考えていたようなことは、自分らしくない。

 

こいつの言うとおり、自分ができることなど、ケチな金勘定くらいのもんで、戦争がもたらす不幸だとか幸福なんてものを考えるのはもっと()のある奴がすることだ。

 

「ハッキリ言いやがるなぁ・・・ま、いいか。で?あれ(・ ・)で最後の荷か?」

 

「ああ、あれで最後の商品(・ ・)だよ。ったく、ギャアギャア騒ぎまくりやがってよぉ。商品は商品らしく黙ってりゃいいのによぉ」

 

「ま、分からなくもねぇけどよぉ。傷残すような下手仕出かすなよ?それで値段下げられたりしたら、頭に殺されかねぇぞ?」

 

「分かってるよ、そんくれぇ。それと、()じゃなくて隊長(・ ・)だぞ?」

 

呼び方間違えるとうるせぇんだから気をつけろよ。

 

そう言われ、ああ、そうだったなと頭を掻く。前までの、街で好き勝手していた頃とは違う点の一つが頭―――否、隊長であるジョン・エルローが、現在の立場を部下である自分たちの不用意な一言で壊れることを恐れ、皆に呼び方を変えさせていた。

 

正直、周りとしては「そんなどうでもいいことを気にするのか」と思うものも少なくなかったのだが、実際に頭と読んで罰せられた者が居たので他の者も彼の居る場所、居ない場所問わず、頭ではなく「隊長」と呼ぶようにしていた。

 

「おっと、いけねぇ・・・言うなよ?」

 

「今度一杯奢れよ?」

 

そんなくだらない掛け合いをしていた二人のもとへ、「おい、お前ら!」と一人の隊員が駆け寄ってきた。

 

「おい、見回りに行ったやつらがはぐれ(・ ・ ・)の巣(・ ・)を見つけたってよ!」

 

「巣って・・・もしかして、狩った(・ ・ ・)のか?」

 

「ああ。なんでも、ガキと偶然会って、遊んで(・ ・ ・)たら(・ ・)見つけたんだと」

 

「数は?それと割合は?」

 

「全部で30。しかも驚け・・・なんと、若いメス(・ ・)が多いんだってよ!」

 

「おい、マジかよ!ここら辺でそんな巣なんざ、あるわけねぇと思ってたのによ」

 

「結構奥の方にあったらしくてよ、帝国の奴らにも気付かれてなかったらしいぜ?」

 

「ってことは・・・」

 

「ああ、手付かず(・ ・ ・ ・)だよ!しかも、上玉が居るって話だぜ・・・!」

 

男の持ってきた知らせに、二人は怪しく嗤う。

 

偶然見つけたはぐれ(・ ・ ・ ・)の巣(・ ・)。しかも、手付かずの女たちが半分以上を占めていると聞けば、彼らの脳内に浮かぶのは、たった一つのことだけだった。

 

「で、頭・・・じゃなかった、隊長はなんて?」

 

「決まってるだろ・・・!さっさと移動の準備をして、狩り(・ ・)を始めるってよ!!」

 

興奮を隠せない様子の男。頬を上気させ、愉悦の色を見せる彼と同様に、対面の二人もまたこれから行われる狩り(ゲーム)に笑みを深めた。

 

「了解だ。すぐに行く」

 

「おう、早くしろよ。皆もはしゃいでっから、モタモタしてるとやっべ~ぞ?」

 

ニヤけながらの一言に「おうよ」と返し、さっそくトラックを移動させるために動き出す。二人の頭は、既に狩り(ゲーム)の後のお楽しみ一色に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、こんなところにまだ手つかずの集落があったとはなぁ・・・」

 

「ああ。けど、これで隊長の機嫌も少しは良くなるだろう」

 

「幸い、あそこにいるのはほとんどが若い女みたいだからな。おこぼれにもありつけやすそうだ」

 

下卑た笑みを浮かべながらそう漏らした男に続き、「少なくともテメェのミスを精算するくらいの価値はありそうだな」とからかう長髪の男に、からかわれた男は「ほっとけ!」と悪態をついた。

 

「確かに。これなら、隊長の機嫌もすぐ治るな」

 

二人の喧騒をよそに、目の前で危険が迫っているとも知らない様子で笑い合っている女達

(獲物の群れ)を見つめながら久々の大捕物に笑みを浮かべる。

 

棚からぼた餅とでも言おうか。降って湧いたこの幸運は、怒りに満ちていたボスの機嫌を確実に好転させられる。

 

「けどよ・・・あのガキほっといて良かったのか?殺しといたほうが良かったんじゃ」

 

この幸運をどう活かそうかと考えていた男は、長髪の男が口にした”ガキ”と言う単語で現実へと意識を戻す。

 

「あ?何の話だよ」

 

「何の話って・・・さっきのダルクスのガキのことだよ。結局途中で見失ってそのまんまだけどよ。もしあのガキが村の奴らに俺たちのこと知らせたら面倒なことにならねぇか?」

 

もしもを想像したのか、若干顔を強ばらせる長髪の男。彼にからかわれていた男もまた、「そうだよな・・・」と今更不安になってきたのか表情を硬くする。

 

「なんだよお前ら今更になってビビってんのか?安心しろよ、あのガキはここに戻ってなんてこねぇよ」

 

「?なんでそんなことが言えるんだよ」

 

自信に満ちた顔で言い切る男へと不審な目を向け問いかける。横の長髪も何故言い切ることができるのかと怪訝な目をしている。

 

「簡単だ。俺たちは最初に”狐狩り”って言っただろ?そんで、あえなく俺たちは獲物だったガキを見失っちまったわけだ」

 

「・・・それで?」

 

「なんとか逃げ切ることが出来たガキは考えるわけだ。”このまま村に帰るわけにはいかない”ってな」

 

「だから、なんでそうなるんだって聞いてんだよ」

 

「まだ分んねぇのか?”狐狩り”なんて言う奴らが追いかけてきてんだぞ?自分たちの村(ダルクス人の村)が狙われるかもしれないって考えるだろ普通」

 

「そうなれば、このまま村に戻ったんじゃ俺たちに場所を教えちまう。なら、村と反対方向に逃げなきゃいけねぇってのはガキでも思いつくぜ」

 

男は二人を見下すかのようにそう言い切り、二人の反応を楽しむ。普段から、”脳筋”だの、”バカの浅知恵”だの頭から言われている自分が、これだけの推理を披露したのだ。

 

ぐぅの音も出せまい。

 

「よぉ、待たせたなお前ら」

 

「ッ!隊長・・・驚かさないで下さいよ・・・」

 

物音一つ立てず背後に立っていた男、ジョン・エルローへと引きつった笑みを向ける。

 

「ヘッ気づかなかったテメェらが間抜けなんだよ・・・で、獲物の様子は?」

 

「特に変わった様子はないですぜ。これから自分たちに何が起こるのかも知らずに、暢気に

してますよ」

 

「そうか・・・そんじゃま、テメェら・・・」

 

立ち上がり、背後に控えていた軍勢(猛獣)達へと振り返る。

 

その顔には、酷く獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

「――――狩りの時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!!」

 

激しく息を乱しながら、一心不乱に脚を動かす。撃たれた足からは動かす度に血が流れるがそんなことを気にする余裕など無い。

 

逃げなけでば殺される。脚を止めれば死んでしまう・・・!!

 

死の恐怖に支配された少年にはただ”逃げる”ことしかなかった。

 

故に、自分が今どこに向かっているのか、追手が本当に追ってきているのかを確認する余裕など一切なく、自分の前方からやってくるガリア軍の者達に気が付くことも無かった。

 

「・・・・ッ!止まれっ!」

 

視界が制限される森と言う環境故か、かなり近い距離になってようやく自分たちの方へと迫っていた人影に気づいた隊員の一人が鋭い視線を人影へと遣り、銃を向ける。

 

ここまで接近を許すなど、弛んでいるなと自分を叱咤するも、その後の行動が迅速なのは日頃の訓練の賜物と言えた。

 

他の隊員達も男が警戒する方向へと銃口を向け油断なく先を見据える。

 

しかし、現状においてこの行動は残念ながら不適切なものだったが。

 

「ヒッ・・・!!」

 

背後から迫っていた命の危機に怯えていた少年は、彼らが向ける鋭い視線とその手に持つ銃に酷く怯え、転倒。そのまま涙をポロポロと零しながら体を震わせる。

 

「子供・・・?おい、君「殺さないで・・・!お、お願いします・・・殺さないで・・・!!」・・・おいおい・・・」

 

向けられる複数の銃口と、再び訪れた死の危険を前にし、完全に錯乱状態に陥ってしまった少年は、ひたすら「殺さないで」と繰り返す。

 

尋常じゃない様子に男は「参ったな・・・」と漏らしながら周囲の隊員達を見渡し、仕方なく少年を保護することに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・間違いないのか?」

 

「ええ。まぁ子供の、それもようやく落ち着いた子の証言なので多少信憑性に欠けますがほぼ間違いないかと」

 

「・・・厄介な事になったな・・・」

 

森へと先行偵察に向かわせていた隊の報告を受けたヴァリウスは、もたらされた情報の厄介さに眉間に皺を寄せた。

 

偵察を行っていた彼らと偶然遭遇した負傷したダルクス人の少年。自分たちが彼の恐る者とは違うと言い聞かせ、キャンプに連れ帰り治療を施したのが30分前のこと。

 

そして、森の中で何があったのか。その怪我は一体どうしたのかを聞き出した隊員は、聞き出した情報の重要性に慌て、リストニウム攻略について議論を交わしていたヴァリウスの下へと慌てて駆け込んできた。

 

そして語られたのは、「ガリア軍の軍服を着た者達に撃たれた」と言う証言。ただ撃たれただけならばまだ――少年にとっては酷だが――良かった。

 

しかし、それが「狩り」と称して行われたこと、そして彼らが少年から目標を変えた形跡があることが問題だった。

 

「ダルクス人を”獲物”に見立てた「狩り」・・・報告と合致しているな」

 

「おまけに、近くに村があることも喋ったみたいですし・・・隊長、これはかなりまずいんじゃないですかい?」

 

セルベリア、ギオルの言葉に目を瞑る。二人の言う通り、今回遭遇した少年を追い立てていただろう相手はおそらく自分達の討伐目標となっている者達―――第723小隊だ。

 

彼らは――公に知られてはいないが――今までも幾度かダルクス人を獣に見立てた「狩り」と呼んでいる行為を幾度か行っているらしい。

 

そして、件の少年は偶然723小隊の哨戒に出くわし、運悪く「狩り」の標的とされたと言うわけだ。

 

「しかし、ここらにダルクス人の村があったなんて・・・」

 

「隠れ里でしょう・・・街に住めないダルクス人が身を寄せ合って自然と出来たんでしょうね。ダルクス人にはよくあることよ」

 

アリアの言葉にどこか憂いを宿した瞳で答えるシルビア。同じダルクス人としてどこか思うところがあるのか、その表情は少し硬い。

 

「とにかく、少年が無事だったことは不幸中の幸いだな・・・おかげで連中の次の行動が予測出来る」

 

十中八九、723小隊の連中は少年が住んでいたと村を襲撃するだろう。彼らの目的が「捕獲」か「殺し」かは分からないが、そこに大量の「獲物」が転がっているのだ。手を出さないはずがない。

 

「確かに、行動先を知れたのは良いが・・・場所が問題ではないか?」

 

「少年の証言によると、隠れ里の場所は・・・うわ、リストニウムから4キロも離れてない!隊長、これじゃあ戦闘音で帝国に気付かれますよ」

 

卓上に広げていた地図を指差し、困惑の声を上げる。グレイの言う通り、保護した少年の隠れ里はリストニウムから約3キロ半の場所にあった。

 

これだけ離れていれば普通は見つかりはしないが、戦闘音や爆発音などが連続的に響くとなれば3キロ半と言う距離は十分とは言えない。

 

小銃程度ならまだしも、敵が戦車を3台以上所持しているのは既に判明している。もしも723小隊と戦闘になれば、確実に戦車が使用され、帝国軍に自分達の存在がバレてしまう。

 

そうなれば、作戦達成が困難になるのは必至。故に、無策で挑むわけにはいかない。

 

「分かってる。だからこそ・・・キース」

 

「はい」

 

「ハウンド分隊に特殊戦の用意をさせろ。今回はお前たちが肝だ」

 

「―――了解です」

 

「他の隊は通常装備で命令あるまで待機。日が沈んだら作戦開始だ」

 

幸いにも、既に時刻は夕刻。ここから隠れ里のある場所までは1キロも無い。移動は容易いはずだ。

 

「さて―――奴ら(723小隊)に、本当の狩りってものを教えてやろう」

 

 

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