戦場のヴァルキュリア 蒼騎士物語   作:masasan

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第二十五話

~ギルランダイオ要塞 某所~

 

 

他国からの侵攻を防ぐべく建てられたギルランダイオ要塞。今はガリア侵攻軍本隊の拠点として使用されているそこの一室で、二人の男が机越しに向かい合っていた。

 

「そうか・・・第四補給基地が、落ちたか」

 

「如何いたしますか?」

 

「・・・影響はどれくらい出る?」

 

「約30%程かと。また、最近はあちらでも裏切り者の摘発を開始したようですので、それも考慮すると、さらに10%程の影響が予想されます」

 

「40%か・・・。無視するには些か大きい数字だな・・・分かった。こちらでも手を打とう。下がっていいぞ」

 

「では・・・」

 

王への拝謁を終えた臣下のような一礼。第三者が見れば、異様と思うだろうそれを当然の如く受けたルシアは踵を返した男の背をなんとなしに目で追った。男が退出し、誰も居なくなった室内でルシアはしばらく一人で黙考していた。

 

表情はまるで変わらず、よくできた彫像のよう。その頭の中では、今回の件で出るであろう損失と、それを補うための計画を展開していた。

 

沈黙が続く室内。いつまでも続くかと思われたそれは、予定に無い客の登場により終わりを告げた。

 

「失礼するよ」

 

「・・・失礼すると言うのなら、ノック位したらどうだ?」

 

許可も得ていないというのに酷く堂々とした様子で訪れたのは相変わらず暗い目をしたフェルスター博士。

 

ルシアの言葉に全く関心を示すことなく、手に持った資料をバサリと彼の机へと放り投げた。

 

「今期の研究状況についての報告書だ。まぁ、被検体の質が悪いせいで碌に進んでいないがな」

 

「珍しいな・・・あなたが自ら報告書なんてものを持ってくるなんて」

 

「用があったからな。ついでに持ってきただけだ」

 

そう言ってフェルスターは懐を探り、タバコを一本口に咥える。

 

「さっきも言ったが被検体の質が低い。このままでは碌な成果を出すことなど出来ない」

 

「・・・もっと被検体を寄越せと?」

 

「未だに質を見分ける事が出来ないんだ。なら、数を揃えるしか方法は無いだろう?」

 

当たり前の事を聞くなとでも言うように吐き捨てたフェルスターは咥えたタバコに火を灯し、紫煙を吐き出す。

 

空中に消える紫煙をなんとなしに目で追いながら、フェルスターは続ける。

 

「今のところ、僅かなりとも資質と呼べるような物を持っているのはガリア(・ ・ ・)の国民のみ。幸い、戦争中なんだ。少し位人が消えたところでそうそう大事にはならんだろ?今のうちに取れるデータは取っておきたいんだよ」

 

「国主がヴァルキュリアの血を引いていると豪語しているだけはあるな」

 

しかし、とルシアは続ける。

 

「いくつかの補給ルートが既にガリアの手で潰されている。それに、あなたも言う通り今は戦争中だ。現代の戦争では物資の運搬は戦闘行為よりも重要視される。今後は、我々の研究用の被検体確保よりも、物資輸送が優先されるはずだ。今ある数では足りないかな?既に100以上は確保しているはずだ」

 

たかが(・ ・ ・)100だ。それに、その100の中から成功したと呼べるような実験体は二人(・・)しか出ていない」

 

「こちらとしては、二人もなんだがな・・・」

 

フェルスターはたったの二人と、ルシアは二人もと、自身の持つ認識の違いから現在確実にヴァルキュリア人と言える能力を示すまでに至った被検体の数を論じる。

 

ルシアとしては、資質を持つ者を特定する技術は今現在完成していない。そんな状況で、「覚醒」領域まで到達するような者が二人も出たことの方が奇跡と言えると思っていた。

 

しかし、フェルスターからしてみれば過去に行っていた実験ではこの倍以上の数の被検体が覚醒していたのだ。現状に不満があるのも無理のない事だと言えた。

 

「で、その貴重な二人の様子は?」

 

「処置が効いているおかげで、大人しいものだ。もっとも、精神年齢は若干後退してしまったが、まぁ想定内さ」

 

「そうか・・・二人は完全に制御下にあると見て問題無いのだな?」

 

「ああ、問題ないよ。それに、マリーダと接触させたのが良かったのか、精神的にもかなり安定している。実験にも協力的だ。まぁ、能力の方はまだまだ規定値には達していないが、それも時間をかけさえすれば何の問題も無くなる」

 

成功体と言えるのはわずかに二体のみ。だからこそ、フェルスターは自身の研究の精度を上げるため、個体の増量を求めているのだ。

 

「分かっているのは、資質あるものが覚醒するために必要なプロセスが、重傷を負い瀕死の状態から回復する事位しか分かっていないんだ。もっと精細なデータを得るためには更に実験をこなすしかない」

 

「そのことに関してはこちらからも情報を与えているだろ?ヴァルキュリアが力に目覚めるために必要なのは」

 

「使える主への忠誠心か?そんな曖昧なもの、私が信じるとでも本気で思っているのか?」

 

―――自らの主が危機に瀕した時ヴァルキュリアは真なる力を目覚めさせ災厄を払う―――

 

古代ヴァルキュリア人に関する遺跡から見つかった、今のところ唯一の古代ヴァルキュリア人の持つ”力”に関する一文。

 

明確なまでの力に関する情報は現在のところこれ以外、帝国の持つものはほとんどと言って良いほど無い。

 

遺跡自体はあれど、”力”に関する部分だけ、ほとんどの遺跡で破壊されたか、風化してしまっていたのだ。

 

故に、現在発見されているヴァルキュリアの力を持つとされているマリーダ、そしてガリアで発見された二人のヴァルキュリア人には、主、または親のような存在を潜在意識にすり込むことにより力を発現させようとしていた。

 

「曖昧なもの、と言うのは否定しないが・・・ヴァルキュリアの力がそう言った人物への献身、情愛で発現するのはあなたとて理解しているだろう?」

 

「そう言った感情的なものが鍵に成りうる事は否定しない。だが、その”想いの強さ”などという不確定すぎる要因がヴァルキュリアの力を左右するなどと言う戯言に関しては私は一切信用していない」

 

「人の気持ちなど、不確定なものだろ?それに、あれはそう言った”キレイ”なモノとは別物だ」

 

紫煙を吹かすフォレスターから視線を外し、背後の窓へと眼を向ける。眼下では訓練を行う兵達や、前線への補給物資を積んだトラックがせわしなく動き続けている。

 

「主への忠誠心・・・綺麗な言葉だが、要は隷属と同義だ」

 

「・・・・・・」

 

「主人の危機に身を盾と成す・・・全ては王のために・・・血に刻まれた呪いだよ」

 

意味深な言葉を紡ぎ、フォレスターへと視線を戻す。当のフォレスターは彼の語った血の呪いと言う言葉に関して何の反応も示さずにいた。

 

「呪い、ね・・・悪いが、私はそう言ったオカルト的なものは信じないことにしている」

 

「・・・ヴァルキュリアの力も十分オカルト的なものじゃないのか?」

 

「あれはただの”現象”だ。現象の究明は科学の性だが、呪いなんてものが理由だと言われて、私が納得すると?」

 

「柔軟性は必要だと思わないのか?」

 

「それが根拠ある話しならば、私も信じる気になるが?」

 

暗に「貴様の知っている全ての真実を話せ」と告げるフォレスター。そんな彼女の言い分に対し、ルシアは微かに笑みを浮かべながら「あなたは既に知っているよ」とだけ呟いた。

 

その言葉に対し、フォレスターは数秒ほど沈黙する。目は下を向き、意識は自己の中へと向けられる。

 

そして数秒後、フォレスターは再び意識を外へと向けた。

 

「・・・なるほどな。”アレ”がお前の言う王とか言うものと言う訳か?」

 

「さて・・・どうかな?」

 

フォレスターの問に、曖昧な返答と笑みを浮かべる。はぐらかしているとも取れるその行動に、しかしフォレスターは特に何の反応も示さずに、

 

「まぁ、いい。私が今興味あるのはヴァルキュリア同士の戦いだ。お前の目的がなんだろうと、それが達成され、私の研究が続けられるのならば他のことなど何でも構わん」

 

「フッ・・・あなたのそう言った所が私としては気に入っているんだ」

 

「そうか」

 

タバコを灰皿に押し付け、フェルスターはその覇気のない濁った瞳をルシアへと向ける。

 

「では、そのお気に入りの私からのお願いだ。研究材料の補充、及び増量を要求する」

 

「補充はともかく、増量は厳しいが、なんとか手を打ってみよう。しかし、それなりの成果は期待してもよろしいかな?」

 

出来(・・)損ない(・ ・ ・)でよければいくらでも。完成品に関しては期待するな」

 

「十分だ。では、研究の方はよろしく頼むよ。博士」

 

ルシアの言葉を背で受け止め、フェルスターは用は済んだと部屋を出て行き、ルシアはその背を微かに笑みを浮かべた顔で見送った。

 

「失敗作、か・・・あなたの言う失敗作でも、必要としているところは思いの外あるだがな」

 

机にある通信機を手に取り、数字を打ち込む。数秒の間が過ぎ、沈黙が終わる。

 

「私です。ええ、ご注文の品は間もなく第一次生産を終えます。出来の方はそちらの要望を叶える程度の性能は持ち合わせているかと―――ええ、そちらの資金援助のおかげで順調ですよ。既に二名だけとは言え、覚醒者も出始めています」

 

『―――――』

 

「ご心配なく。そちらの懸念するような事態にはなりません。幸い、博士の方は研究をしてさえいれば満足なようですから。殿下の方も虎の子の覚醒者を使えない状態で戦場に出すような事はしないはずです」

 

『―――――!』

 

「大佐ですか?そちらの方もご安心を。彼女こそ、殿下の命無しには動くことなど万が一にも有り得ません」

 

『――――――』

 

「式典?ああ、七月に行われると言う例の・・・ええ、それまでにでしたらそうですね・・・七体ほどでしたら、そちらにお届けする事が出来るかと」

 

『――――――』

 

「ええ・・・それでは、準備が整い次第そちらへお届けします。それでは、今後共よろしくお願いします―――ボルジア枢機卿」

 

通信機を置き、眼を伏せる。しばしの間沈黙を保っていたルシアは、肩を震わせながらクククッと声を漏らした。

 

「どいつもこいつも愚かしい・・・ヴァルキュリアと言う存在がどういうものかも知らず、ただその力のみに魅せられているとはな・・・実に愚かしい」

 

だが、今はその方が良い。この混沌とした世界であるからこそ、己の―――我が一族の悲願を遂げる事が出来るのだから。

 

「踊れ、愚昧共―――やがて訪れる、新たなる世界の創造のためにな―――」

 

 

 

 

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