~征歴1935年3月17日~
征歴1935年、3月15日の帝国からの突然の宣戦布告から二日、ダモン将軍が指揮していたギルランダイオ要塞は瞬く間に帝国によって占拠され、帝国との国境を守っていたはずの要塞は今や帝国のガリア侵攻軍の中枢基地へと変貌した。
開戦直前に上層部からの命により首都・ランドグリーズに帰還していたヴァリウス・ルシア中佐率いる第133独立機動小隊は、敗走したギルランダイオからのガリア軍部隊の撤退を支援するため、要塞近郊において戦闘を繰り広げていた。
「こちらライガー1!ホーク小隊各員へ!ポイント233に敵指揮官らしき人物が見える!!そちらから狙撃できるか!!」
『こちらホーク2、現状では敵指揮官はこちらからでは確認できません。狙撃ポイントを変更する必要がありますが、敵にも狙撃兵がいるようで、下手に動けない状況です』
『ホーク4。同じく敵指揮官を視認出来ません』
『ホーク6、確認出来ません』
「そうか・・・了解した。ジャガー1、支援砲撃要請!方位1-7-5へ砲撃を開始しろ!」
『こちらジャガー1,了解。これより支援砲撃を開始します!!』
ヴァリウスの要請とほぼ同時に帝国の歩兵部隊に降り注ぐ砲弾の雨。44口径の砲塔から放たれる砲弾は平原に展開していた帝国兵達へと次々に襲い掛かり、ヴァリウス達を抑えていた戦線に穴があけられた。
「よし!!ライガー1より各員へ!!これより敵指揮官部隊へ攻撃を開始する!!俺に続けぇ!!」
雄たけびをあげると同時に率先して敵陣へと切り込んでいくヴァリウス。
彼の後方から各々腕に持つ火器を放ちながら追走する、隊員達。その中にはセルベリアの姿もあり、彼らは瞬く間にヴァリウスの行く手を阻もうとする帝国軍兵士達を撃破していく。
ヴァリウスの俊足に負けじとついていくライガー分隊の面々。走りながらの銃撃戦と言う、通常では命中が期待できないような状況でありながらも、彼らの放つ銃弾はそのことごとくがヴァリウスの足を止めようと動く兵士たちを貫き射殺していく。
彼らと共に敵陣を疾走するヴァリウスの腕にには、大口径ライフルと片刃の長剣を組み合わせた、ガンブレードの一種である銃剣ディルフが握られており、自身の行く手を阻もうとしていた敵突撃兵へとその異形の武器を向け、撃破する。突撃兵がディルフから放たれた銃弾によって倒れる様を見もせずに、次の得物である敵重機関銃兵達へと疾走。2,3人ながらも、放たれる弾幕はまさに壁と言っても過言ではない密度。馬鹿正直に突っ込めば瞬く間に蜂の巣になるであろうそれを、ヴァリウスは容易にかいくぐり、驚愕の表情を浮かべた重機関銃兵へと一閃。
一刀の下、瞬時に切り捨てられた敵兵に見向きもせず先へ進んでいく。
通常の部隊ならばありえない突破力に対し、帝国軍の兵士達は半狂乱状態に陥り、ただただ銃弾をまき散らすだけでろくに当たりはしない。
普通ならば多少なりとも怯んでしまう銃弾の雨の中、ヴァリウスと共に駆け抜ける5名の隊員達の表情におびえの色など一切無い。それどころか、帝国兵たちが冷静な判断能力を失ったと見るや、抵抗を続ける兵士たちのみに狙いを定め、被害を拡大させていく。
帝国兵たちは、次々と倒れていく同胞達の姿に自身の姿を投影し、「次は自分の番なのでは」と恐怖し、自分達の命を狩りに来た死神達に恐れを成した。その恐怖に耐えきれなかった兵の中には、すでに逃げだそうとしている者まで現れ始めていた。
『た、隊長!!ダメです、ガリア軍の部隊に次々と防衛ラインが突破されて行きます!!このままでは持ちません!!グァァァァア!!』
通信機から流れる味方の断末魔。それを聞いていた指揮車両の周囲に展開していた兵たちは、一様に表情を恐怖で歪めだした。
「だ、第四防衛ライン、突破されました!隊長!!すぐに敵がここに来ます!!撤退を!!」
交戦を開始してから、まだ30分と経っていないにもかかわらず、すでに5つもの防衛ラインが破られている。尋常ではない侵攻スピードに、敵が只者ではないと今更ながらに感じ取った副官は、せめて上官だけでも逃がそうと進言するが、それに対する指揮官の返答は味方の無能を罵る言葉だった。
「ええぇい、何をやっている!!敵は一個小隊に満たないではないか!!さっさと駆逐しろ!!」
「隊長!!第七戦車部隊からの通信が途絶!!我が方の戦車部隊、全滅です!!」
「クソッ!!まさか、ガリアなどという弱小国家に、これほどの部隊が居ようとは・・・!!全部隊に通達!!戦線を下げ、態勢を立て直「隊長!!」なんだ・・・!!まさか、そんな馬鹿な!!あれほどの防衛ラインを、もう突破してきたのか・・・!!」
たった一個分隊程度の人数であれだけいた追撃部隊を撃破し、あまつさえ本陣にまで攻め入ってきた彼らに底知れない恐怖を感じた指揮官であったが、自身が怯えていてしまえば部下達が耐えられないと考え、
折れそうになる心を何とか保ちながら攻撃宣言を下した。
「恐れるな!!相手は歩兵、それも、たった6人だ!こちらには戦車がある!!砲手、しっかりと狙え!!」
「は、はい!!」
自身が乗る中型戦車の砲手へと砲撃指示を下す。しかしヴァリウス達は相手が戦車であるにもかかわらず、まるで恐れていないかのように、一直線に突っ込んでくる。
「馬鹿め、血迷ったか!」
必殺を確信し、笑みを浮かべる。ただまっすぐに突っ込んでくる歩兵など、ただの的に過ぎない。
「ッ!!撃てェエ!!」
「散開ッ!!」
砲弾が放たれる直前、ヴァリウスは散らばるように指示を下す。命令に即座に反応したライガー各員たちは、一斉に散らばり、直後放たれた砲弾を全員が完全に回避を成功させた。
「ックゥ!!機銃掃射!!急げ!!標的は先頭にいる敵指揮官だ!!」
「りょ、了解!!」
砲弾を避けるという離れ業に数瞬茫然としていた砲手は指揮官の言葉で我に返ると、砲塔と連動している機銃をヴァリウスへと放とうとする。だが、そうはさせないとばかりに、ヴァリウスの後方に居たセルベリアが、その手に持った長大なライフルを戦車の本体と、砲塔の連結部分に狙いを定め、攻撃を放つ。
「ッなんだ!機銃掃射は!!」
「ダ、ダメです!!先ほどの攻撃で、砲塔の回転機能が破損!!機銃掃射できません!!」
セルベリアの一撃は敵の砲塔の下部にある回転機構を破損させ、ヴァリウスへの迎撃を不可能にさせた。
機銃が使えなければ、敵は容易く接近し、ラジエーターなどに攻撃を加えてくる可能性が高い。そう判断した戦車長は、即座に後退を指示しようと口を開いた。
「ッ!!くそ、後退だ!!早く・・・!!」
機銃が撃てなくなってしまい、後退を指示する敵指揮官。だが、すでにヴァリウスは彼らの戦車へととりついていた。
しかし、彼が持っているのはディルフのみ。それを見た指揮官はひとまず戦車の装甲が破られることは無いと安堵した。
「落ち着け!!ヤツの持っているのはただの銃だ!!恐れることは・・・」
これだけの至近距離ならば、敵の会話も容易く聞こえる。指揮官の部下を鼓舞する言葉を聞いたヴァリウスは、指揮官の微かな希望と言えるその言葉を、目の前で否定した。
「悪いな・・・コイツはちょっと特別製なんだ」
中から聞こえてきた言葉に対してそうつぶやくと同時にヴァリウスは引き金を引く。撃鉄が信管を叩き、弾頭がディルフの銃身から轟音と共に飛び出した。
ゼロ距離から放たれた銃弾は、戦車の装甲をいとも簡単に貫くと、中に居た操縦者達をズタズタに引き裂いた。
「そ、そんな!!せ、戦車の装甲を、ただの銃弾で、貫くなど・・・!!」
戦車の装甲を、鋼鉄の塊である戦車を、いとも容易く貫通した。今目の前で起きた現実が認められないその指揮官は、数秒の間呆然となる。
しかし、ここは戦場である。
数秒といえども、その隙を見逃すほど彼ら、ライガー分隊は甘くはなかった。
「今だ!!総員、放てー!!」
ヴァリウスが戦車から離れたのを確認したセルベリアは戦車の背後へと回っていた隊員達と共にその手に持った長大なライフルを、戦車のラジエーターへと放った。
高威力の銃弾が立て続けにラジエーターへと直撃し、ついに耐久度が限界に達し、戦車の機関が暴走を始める。計器が異常な数値を示し、室内温度が急激に上昇する。
「こんなところで、わたしは・・・私はぁぁぁあ!!」
指揮官の断末魔と共に爆発、炎上する戦車。燃えさかる戦車を少しの間見つめていたヴァリウスは、その残骸に背を向け、セルベリア達の下に歩み寄る。
「さて、これで一応任務終了って事になるわけだが・・・セリア、現状報告を頼む。」
「敵追撃部隊はは瓦解、撤退していたガリア軍も無事戦線を抜けたそうだ。こちらも特に目だった被害もない。完勝と言える結果だ」
セルベリアの報告によし、と頷くヴァリウス。
実際、彼らは多大な戦果をもたらしていた。
通常ならば撤退する部隊には多少なりとも被害が出てしまっていただろうこの作戦を何の被害もなくやり遂げた彼らはまさしく、ガリア最強部隊と言われるにふさわしい戦果である。
しかしヴァリウスにはそのことを別に自慢するつもりもない。
流石にしっかりと上に報告し、実績にふさわしい報酬などは貰うつもりで居るが、無駄に戦果を広めようなどと言う気持ちはさらさらなかった。
任務が終了した彼らは、次の任務までしばしの休息をとっていた。
ヴァリウスは食事をしながら、先ほど戦車に放った銃弾と同じ物をしげしげと眺めていた。
「しっかし、この徹甲弾、思ったよりも使えるな。一発しか打てないのが難点だけど」
「そう言うな。無理言って開発陣に作ってもらった物だ。第一、お前のディルフに合わせて作った代物なのだから文句を言うモンじゃない」
分かってるってと答えながらスープを口に運ぶヴァリウス。
先ほど撃った銃弾は戦車の徹甲弾を歩兵でも撃てるようにならないかと言うヴァリウスの無茶な要求にガリア武器開発部の技術者達が頭を悩ませ、やっと完成した物だった。
もともと、狙撃銃の一種に対戦車用ライフルというものがすでに存在しているのだが、ヴァリウスが要求したのは白兵戦を仕掛けた状態でも使用できると言う物で、狙撃ライフルでは、白兵戦など出来るはずもなく、そこが開発陣が一番苦心した所でもあった。
対戦車ライフルは戦車の装甲を貫くこともできるが、その反動によって、立射での狙撃などが困難な物である。
しかしそれは戦車の装甲という厚い鉄板を貫くためには必要な物であった。
だが、ヴァリウスの要求は、白兵戦で使用できるもの。
そんな物が出来ていたら今頃対戦車槍やライフルなどすでに廃れている筈であることから分かる通り、そんな物は今まで存在せず、誰もそんな物は作れなかった。
しかし、相手はガリア軍最強と言われる男。そんな男がわざわざ頼んできたにも関わらず、出来ませんでしたでは、申し訳が立たない。
そのため開発部は、様々な試行錯誤の末、完成したのがこの試作型高速徹甲弾であった。
通常の徹甲弾はその質量、炸裂薬などで装甲を貫通させているが、今回のこの試作型高速徹甲弾は、むしろ質量を軽減し、ラグナイト、通常の金属などを複合させた弾頭を形成し、初速の早さによって装甲を貫く事にした物であった。
しかし未だに試作品の上、通常の経口のライフルなどでは流石に装甲を貫く事が出来なかった。
ヴァリウスの銃剣であるディルフは普通のライフルなどよりも連射性が低い代わりに大口径だった為、なんとか装甲を貫けることに成功したのだ。
だが、そんな急造品である代物が何の問題も抱えていないわけがない。
この弾丸は装甲に密着した状態か、それに近い状態で無ければ装甲を貫けなかったのである。
しかしその問題はヴァリウス自身の戦闘能力によって解決され、見事今回の戦果をもたらしたのだった。
「分かってるって。正直自分でも無理だと思ってたし、こうして戦車相手でもある程度の攻撃力を持てたんだ。感謝こそすれ、文句なんてないさ。あの力を使わなくても、俺たちは戦うって決めたんだしな」
そう言って徹甲弾を置くヴァリウス。
彼やセルベリアは生身であろうとも戦車を相手取る力をその身に宿しているが、むやみやたらにその力を使おうとは考えていなかった。
あの力は、ここぞと言うとき、それも命に関わる事でもない限り使わないと言う誓いを立てていたのだ。
彼らを拾い、育ててくれたあの父親に報いるためにも。
「ところで、本部からの連絡はなにかあったか?」
「いや、本部からはなにも。だが、偵察部隊から連絡だ。帝国と思われる部隊がこの先にある街に進軍しているらしい」
「街?こんな所に街なんてあったっけ?」
そんなヴァリウスの言葉に思わずはぁ・・・とため息を吐いてしまうセルベリア。
「ブルールと言う小さな街がある。彼のベルゲン・ギュンター将軍の故郷だそうで、確か今もご子息達が住んでいるという話だ」
「あ~あ、ギュンター将軍ね。そう言えば教科書でこの辺だって書いてあった気がするぜ。まぁとにかく、その帝国軍を追うとしようか。できるだけ民間人に被害を被らせるわけにはいかないからな」
「了解だ。では、各隊に通達してくる」
「ああ、頼む」
そう言って出て行くセルベリアを見て、ヴァリウスはこの後に起こるであろう戦いで、民間人の被害が出ないようにと願うのだった。