原神の世界に転生したので自由に生きたい 作:ヘルメットのお兄さん
「さっさとしろ! 前を向け!」
「城壁の外に出るんだ!」
『酷いな』
「……あぁ」
俺は街の死角から手枷を付けられて兵士たちに連れられているヴァネッサとムラタ人達を見ている、ハッキリ言って胸糞悪いが今は耐えて傍観するしかない。
「というかウェンティは何処に行ったんだ?」
『わからない、オレ達がここに着くときには居なくなった』
何もしない筈がないのはわかるが何をするかぐらいは把握したかったが……
「剣闘士ヴァネッサッ!! 貴様がこの十二回目の決闘で最後に戦う相手は魔龍ウルサだ!」
『魔龍ウルサ!?』
「まさかヴァネッサが話していた奴か!」
「魔龍を撃退できれば貴様とその一族は自由にしてやろう!」
城壁の上にいる町人達がざわめきだしている、もしかして彼らも初耳なのか?
「ああ、魔龍を撃退できたら自由どころかこの俺が持つ財産とモンドを好きにしていいぞ。はははっ城主ヴァネッサ様の誕生だ!」
そう言ってヴァネッサ達の元に剣が投げ入れられる、彼らの中に子供たちもいるのに戦わせるつもりか!?
「旦那様、下で多数の民衆が講義をしております」
「勝手にやらせておけ! いい加減理解してほしいものだ! 魔龍に供物をささげることこそ平和を得る一番の方法だとな!! そんなに英雄になりたければ講義でも何でもさせておけばいい!」
あの城主の言葉にダダが憤慨している、気持ちはわかるが今はウェンティに言われた通りの仕事をしなければいけない。
──────―ヴァネッサ……彼女が決闘をしている間他のムラタ人を守ってほしいんだ、あの城主にはバレないように────
「無茶振りするのは昔からだったのかな」
「戦えるものは二人一組に! 子供と年寄りを囲うよう戦って!」
『セス! 始まったぞ!』
よし、準備はできている。
「碌に使い道の無かった空間術、見せてやろうじゃねぇか」
▼
「このままじゃ……! 城に退避しましょう!」
ヴァネッサの一声でムラタ人達は子供に年寄り達を支えながら走り出す、戦えない者たちだけでも一度退避させられれば心置きなく戦うことが出来る、屈強な一人の男が城門に向かって走り出した瞬間
「射てっ! 途中退場は許さんぞ!!」
城主の一声で放たれた矢が魔物ではなくムラタ人達を貫いていく、男は喉を貫かれ声も出せずに膝をつき女は胸を穿ち徐々に動きが鈍くなっていく。
前方も後方も塞がれたヴァネッサの目は怒りに満ちその矛先は城主と目の前で睨む魔龍ウルサに注がれる。
「ウルサアアアァァァァァ!!!」
ヴァネッサが剣を振る度に小さなヒルチャール達が真っ二つになり倒れていく、声が潰れ始めても気迫は衰えず魔龍を横に縦に縦横無尽に斬りつけていくがその鱗の鎧には傷が見えず鈍らの剣ばかりが欠けていく、体中に血を付けながら剣を振るうヴァネッサの身体が彼女の思考とは裏腹に膝をつかせると魔龍はその爪を振るおうとし
──―時は満ちた、荒野に漂う万霊の残骸よ────
一陣の風と共にヴァネッサと魔龍の間に降り立ったのは白い翼を背負い一介の吟遊詩人からモンドを守護する神としてのウェンティが居た。
「──風の導きに従いたまえ」
ウェンティが天空を弾くと風がヴァネッサを纏い彼女の剣を突き動かす。
「え、ええっ!?」
導かれるがままに剣を振るうと先程までとは違い魔龍の鱗を紙のように切り裂きその身から鮮血が噴き出される。
驚愕の表情を浮かべる魔龍の前でウェンティが天空を弾く。
「我の命に従い悪しき龍を退けよ──―」
魔龍が恐れたのは神か英雄か、羽ばたきその場を飛び立つと何処かへ行ってしまう。
「ねぇ! ウェンティ……その恰好は一体」
ヴァネッサが出で立ちが全く異なるウェンティに声を掛けると彼はヴァネッサにそっとリンゴを渡し
「ヴァネッサ、君の名前を僕の詩に入れていいかな?」
「……あなたの脇役として喜んで、ウェンティ」
そう言うとウェンティは笑い
「これは君が主役の物語だよ」
「一族が本当の自由を得るために君は戦っている、だったら僕にも手伝わせてよ、君の自由のために戦わせて。僕たち友達でしょ?」
ヴァネッサは思わず笑みを浮かべるがハッとなると仲間達を探す、自らを庇うように倒れた戦士達、彼らを探すがその亡骸はどこにも見えず……
「ヴァネッサ姉さん!」
「リンド!」
声のした方向を見ると愛する家族であるリンドがこちらに走ってくる、彼女を抱きとめるとその方向から生き残った者たちだけでなく矢で射抜かれた者たちもヴァネッサを称えるように歩いてくる。
「あれ……どうして……」
「巨人様が助けてくれたの! ふしぎな力で私たちを守ってくれたの!」
「巨人様……?」
こちらに向かってくる彼等の最後尾を見ると昨日ウェンティと共に出会った紙袋を被った巨人が子供達に囲まれながら歩いてくる、巨人はヴァネッサとウェンティを見るとせがむ子供達を降ろしウェンティの傍へ向かう。
「本当に守ってくれたんだね、約束」
「……」
「正直最初は半信半疑だったけど、今は信じるよ、君の言う外の神様とやらを」
「……」
「あ、せっかくだから君の事も詩に入れていい? 名前があればいいんだけど」
「……」
「むう、全然喋らないなぁ。昨日はもうちょっとおしゃべりだったでしょ?」
何やら会話と言えるのかわからない交流をしているがウェンティが諦めるとずっと呆然としていた城主へ向き直ると
「あ、そうそう。さっきこう言ってたよね、ヴァネッサが魔龍を撃退したらこのモンド城を彼女に任せるって」
顔を青ざめさせる城主を前にしてウェンティはウィンクをすると
「ゲームはルールを守らなきゃ」
こうしてモンドの街は本来の姿を取り戻す、『古代戦争』のあと、人々の思いにより設立されたモンド本来の姿に──
▼
『一件落着だな!』
「そうだなぁ」
ムラタ人達が矢に射抜かれる瞬間、彼らを結界で囲い少し離れた所に隠蔽を施しながらまとめて転送、その結界には射抜かれた彼等の幻像を映してあたかも倒れたかのように演出する……我ながらうまくいった。
結果としては死傷者ゼロ、怪我はヴァネッサの頬の傷が一番重症という事になる。
『オレ達いつ帰れるんだろうな』
「さぁ……方法もわからんしなぁ」
あれから二ヶ月は経っている、急な城主の変更と奴隷制度撤廃に混乱していたモンドの民も徐々に活気が現れ始め子供達が街を走る姿が増えてきた。最初の頃は貴族達が兵士を寄越してヴァネッサ達を暗殺しに来たりもしていたが俺が潰したり本人自ら潰したりとしていたら大人しくなっていた。
『ところでいつまでそれ被ってるんだ?』
「いやお前が被れっつったんだからな」
もうすぐヴァネッサの西風騎士団が設立される、西風騎士団の設立者のことは以前図書館の文献で呼んだことがあるがこうしてその瞬間を目の当たりにするのはかなり光栄なことなのでは?
「ここにいたのですね」
噂をすればヴァネッサが来た、因みに今俺が居るのは星拾いの崖の端っこにいる。
「ウェンティとあなたのお陰でモンドは……私たちは変わることが出来ました、西風騎士団も皆のお陰で建てることが出来て……」
ヴァネッサは俺の隣に座ると同じ海を見る、日も暮れ始めて橙色に輝いている。
「西風騎士団が出来たら私は団長として活動していくことになります、これから苦難も待っているでしょうけれど私はあの街を守っていきたいと思います」
俺が頷くとヴァネッサは微笑んでくる、だがその直後何かを決意した表情になって
「あの……それで、もし西風騎士団が正式に設立する事が出来たら……あなたに副団長として補佐をしてほしいんです」
「……」
それは……俺が元の時代に帰らなければいけない現状としてはどうしても肯定することが出来ない。
「ダメですか……いえ、分かっていました」
少し悲しそうな顔をしたがすぐに明るい顔を作ると俺の方を見る。
「……ウェンティから聞いたんです、空にある島に行けば神になれるか……と。あなたはどう思いますか?」
「……」
「彼は叙事詩を歌ってくれました、その中に巨人盤古の血液が江河になり……あなたは、もしかして」
「俺は……」
思わず口に出してしまった、ヴァネッサが驚愕の顔で染まっている。
「俺は、ウェンティの言う神の話は知らないし巨人の話も知らない。だけど、ウェンティが言うなら真実なんだろう」
「……」
「もしあんたがその空にある島に行ったらどうするんだ?」
「……私は」
『セス! 下!』
「(どうした、今いい話をしている所なのに……)」
『あの穴! オレ達が来た奴じゃないか!?』
思わず身を乗り出して崖下を見る、すると宇宙の色で塗りつくされたブラックホールの様な空間が見えた。
「……あの?」
「……俺はもう行かないといけない」
「え、何処に!?」
「ヴァネッサ、あんたの正しいと思う事をしたいなら、それをすればいい。きっと皆ついてくれる、だから前を見てればいい」
「待って! そんな急に……それに二ヶ月も居たのに名前も教えてくれないんですか……!?」
「名前……」
俺はヴァネッサへ振り向くと紙袋を外し顔を晒す。
「俺はセス、ウェンティには内緒にしてくれよ!」
紙袋をその場に放り崖を飛び出すとそのまま穴に向かって落ちる。
「嘘……」
ヴァネッサが崖下を覗き込むともうそこにセスの姿は無く、彼が居たことを証明するのは穴の開いた紙袋だけだった。
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モンドには一つの話がある、風神の命により空から舞い降りた巨人がその地の英雄と共に自由を奪われたモンドを取り戻す物語。今の時代その記録はほとんど残っていないがその巨人が実在したこと、モンドを英雄と取り戻した直後彼が身に付けていた仮面を残してその姿を消したという記録だけは残されていた。
短かったですが過去のモンドでの話はこれで終わりになります、次の地は何となく決めてますが具体的なシナリオは模索中です。