原神の世界に転生したので自由に生きたい   作:ヘルメットのお兄さん

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まだセスが過去のモンドにいた時の話です。
蛇足と言うか好きに書いてます。



幕間 数千年の恩返し

 一か月、それがモンドに来てヴァネッサ達が城主になってから経った日数だ。

 相変わらず紙袋を被ったままヴァネッサの指示に従っている、そろそろ声の出し方を忘れそうだ。

 

「あの……巨人様」

 

 メイドの一人が呼んでくる、この時間の呼び出しはヴァネッサだろう。手を挙げて返事をするとヴァネッサの執務室に向かう。

 

「……あぁ、来てくれましたか。どうぞ、そこにかけてください」

 

 ヴァネッサに勧められて椅子に座る、するとヴァネッサは俺に資料を渡す。

 

「今回は奴隷商店を制圧します……多くの奴隷商人には解放させ代わりの仕事を与えましたが一人だけ抵抗しています」

 

 ヴァネッサが城主になってから奴隷制を撤廃したのだが、当然当事者達は抵抗したがヴァネッサは奴隷商としての手腕を買いそれぞれの希望の仕事を紹介しているのだがそれでも抵抗している相手も勿論いる、俺の仕事は金を握らせ強制的に足を洗わせる事だ。とはいえ武力が必要な場面だけ俺が動くのだが。

 

「その、今回の奴隷商なんですが……かなり奴隷に対する扱いがぞんざいらしく意図的に奴隷に傷を与えているそうです」

 

 その言葉に俺は紙袋の中で顔をしかめる、そういう話を聞いて喜ぶ奴はいないだろう、俺は椅子から立ちあがり部屋を出る。

 

 ~~~~~

 

「連れていけ! 他にも隠していないか吐かせるんだ!」

 

 ヴァネッサが指揮を執りあっさり捕まった小太りな奴隷商を連行していく、件の奴隷商店を捜索してみれば出るわ出るわ犯罪証拠だらけのオンパレード。後で聞いたが同業の奴隷商からも疎まれていたらしく今回の件で元同業の現宝石商は「いつか痛い目を見ると思ってたけど早かったな」と笑っていた。

 

「ひっ……」

 

「?」

 

 檻に入れられていた奴隷達を解放するとヴァネッサ達に保護されていく、それを見ていた俺はふと檻の端で小さな悲鳴が聞こえた。

 

「な……なんで……?」

 

「……」

 

 俺は素早く周囲を確認する、目の前には汚れてくすんでいるがそれでも輝いていると分かる黄金色の髪をした短髪の幼女がいた。しかしヴァネッサ達は全く気付いていない、不思議そうに部屋の隅を見つめる俺をヴァネッサ達が見て来る。

 俺はジェスチャーで先に行かせるよう指示すると訝しみながらも行ってくれた、念の為空間術でこの場を隠蔽すると紙袋を取る。

 

「あー、あー……んんっ、言葉はわかる?」

 

「ど……どうして見えるの……?」

 

「どうしてと言われても……最初から見えていたけど」

 

 そう言うと幼女は信じられない、というよりはおびえた様子で俺を見る。俺は今背を合わせようとしゃがんでいるがそれでも一メートルはある、ならばとさらに伏せ狭い檻に体をぶつけながらようやく目線を同じにすると幼女は怪訝そうに俺を見て来る。

 

「……叩かないの?」

 

「叩かないよ?」

 

「あの人は私を見ると怒って叩くから、目を閉じて静かにしていると気付かないでくれるの……」

 

 ボロ布で隠されてはいるが腹部や背中に酷い擦り傷がある、俺はあのデブに対し評価を改めていると幼女は俺に近づき

 

「……さわっても大丈夫?」

 

「うん、いいよ? 俺は何もしないし叩いたりしないよ」

 

 おそるおそる幼女は何故か俺の鼻をつまむと髪、耳と段々いろんなところに触ってくる、鼻は息苦しいのでできればやめて頂きたい。

 

「……怖くない」

 

「……」

 

 そう言うと幼女は俺の顔に抱き着いてくる、かなり力を入れているせいか密着され息が出来ない。

 

「あの人も鎧の人達も怖かったけど……あなたは怖くない、どうして?」

 

「……」

 

 わからない、俺は何か特別な事をした訳ではないし今している事と言えば抱きしめられている事くらいか。というかそろそろ酸欠がヤバい、冗談抜きで死んでしまう。

 

「ねぇ……名前はなんていうの?」

 

「……セス、ちょっと大きいだけの冒険者だよ。君は?」

 

「……昔はあった、でも……新しい名前、あなたが付けて欲しい」

 

 名づけの親になれと、しかし俺に名づけのセンスは……何か思いつかないか改めて彼女を観察する。黄金色の髪、アクセサリーの類は一切なくお尻には狐の尻尾が揺れて……は? 

 

「え、君って狐?」

 

「え……お母さんは確かに「せんこ」だけど……どうしてわかったの……?」

 

「いや、尻尾」

 

 そう言うと尻尾に気づいてハッとなり次の瞬間には尻尾が消えていた、代わりに耳が現れたが。

 狐か……狐だから金狐……いや今の無しだ、狐……狐の嫁入り? 雨……甘雨はもう居る。

 

「翠雨……はどうだ」

 

「翠雨……?」

 

「いや、深い意味はないんだけど……どうだろう」

 

「……うん、私はこれから翠雨。あなたと一緒にいる」

 

 なんやかんやで翠雨と呼ぶことになった狐っ子を連れてヴァネッサ達の元に戻ると今度は姿が見えるらしく驚かれた。

 それから俺が元の世界に戻るまでの一か月、翠雨は秘書見習いとして俺にずっとついて来て色々学んでいた。

 俺が元の時代に帰る数日前にある話をしていた。

 

「ねぇ、セス」

 

「どうした?」

 

「あなたはみらいの人なんだよね」

 

 そう、どこから知ったか知らないが翠雨は何時の間にか俺の事情を一番詳しく知っている人間になっていた。

 

「あぁ、そうだな」

 

「それじゃあ……いつか帰っちゃうの?」

 

「……まぁ、そうなるな」

 

 ずっとここにいる可能性もなくはないがそれは一生帰る手段が見つからなかった時だ、まだ諦めるつもりはない。

 そう考えていると翠雨が俺の裾を掴んでくる、しゃがんで顔を覗き込むと涙目で俯いていた。

 

「もし帰ったら……もうセスに会えないの?」

 

「……いや、そんなことはないだろ」

 

「え?」

 

「ほら、俺は未来から来たんだ。つまりお前が待っていてくれればいつか俺に会えるんじゃないか?」

 

 そう言うと翠雨は顔を明るくして俺の顔に近づいてくる。

 

「……それじゃあ待ってる、ずっと、ずっと待ってる……もし帰ったら、きっと会いに来てくれる?」

 

「勿論、まぁ帰れたらの話だけどな」

 

 そう言ってからたった数日で帰ったのは悪かっただろうか……それに彼女には言っていなかったが未来は数百年先、詳しくはないが仙狐である彼女でも流石に寿命が先に尽きてしまうだろう、それについて後悔がないといえば嘘になる。

 

 ▼

 

 璃月で最も商売に長けた存在はと問うと殆どは群玉閣の主、凝光と答える。しかし璃月で最も人脈に長けた人物と問うと皆口を揃えて翠雨堂の主だと答える。

 璃月には一つの骨董屋がある、その本店は巨大な船の上にあり常に璃月港の一部に停めている、しかし誰もそれを不思議に思わず気にしない。

 翠雨堂の主が最も恐れられているのはその人脈である、食事処に宝石店、果ては一介の玩具売りまで、その全てが翠雨堂の主が懇意にしていると言われている。

 彼女の顔は璃月でも有名であり、彼女が仙狐である事を象徴する耳と尻尾、黄金色に輝く美しい長髪に全てが一級品の素材で仕立てられた翡翠の色の着物を纏う姿は誰もが美しいと口に漏らす。

 翠雨堂の主、翠雨は友人である凝光の群玉閣に立ち、璃月を見下ろす。

 

「あら、凝光。いい天気ね?」

 

「ええ、これで貴女が予約を取って来ていたら完璧だったわね」

 

「固いことを言わないで? 今日はつい浮かれて思わずここに来ちゃったの」

 

「貴女が浮かれるなんてよっぽどね、新しい甘味処でもできたかしら?」

 

「私の恩人……昔、私の人生を変えてくれた人が帰って来たの」

 

「初耳ね、千年も生きている貴女に帰ってきてくれる人が生き残っていたなんて」

 

「ええ、言ってないもの」

 

 そう言って翠雨は着物の袖から穴の開いた紙袋を取り出すとそっと抱きしめる。

 

「貴女がそこまで大切にする人ね……きっと歴史に残る程の偉人かしらね?」

 

「そんな人じゃないわよ、あの人は普通の人。ちょっと背が大きくて、口下手で、たった一ヶ月でいなくなっちゃったけど……絶対に約束は守ってくれる人」

 

 下を見ると数隻の船が見える、あれは北斗の南十字だろう。その中に一人、懐かしい顔が見えた。

 

「千年も待たされたんですもの、ちょっとくらい拗ねてもいいでしょう?」

 

 翠雨の姿が消えるとそこに残っていたのは群玉閣へ来るための許可証と凝光もまだ繋がっていない商売相手への紹介状だった、それを凝光が拾うと溜息を一つ吐き、空に溶けていった。




オリキャラってその世界に落とし込むのが苦手なのであまり生まれさせないのですが翠雨は本能が書けって言ってきたので作りました。今後も登場させるつもりではあります。
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