原神の世界に転生したので自由に生きたい 作:ヘルメットのお兄さん
13 武装船隊南十字
南十字は武装船隊である。頼もしい火力を積み、誰もが頼れる璃月における海の護り手である。
北斗は南十字の頭領である。その名を聞けば誰もが揃えて口を開く
「彼女は海を割り、剣で雷を召喚し冥海怪獣を真っ二つにしてしまう」
それが真実かはともかく、彼女は船員達だけでなく街の住人にも親しまれている。
そんな南十字は今、恒例となっている長距離の航海に出ている。しかし何度も行っている航海、珍しい出来事もなくただ海の上で時間が過ぎていく……
「……はぁ」
「北斗姉さん、どうしたんですかい?」
「ん?」
「溜息なんて珍しいじゃないですかい」
船内で溜息をついている北斗の目の前にいるのは部下の一人、歌と酒が好きな海の男の手本のような奴だ。北斗は瓢箪の酒を飲み干すと
「……最近たるんでると思ってな、確かに海は穏やかなままだが流石にたるみすぎだ」
「あー、確かになんにもないっすもんね。今回の航海」
北斗は席を立つと船内から甲板に移動する、ここから一つ激励でも飛ばしてやろうかと息を大きく吸うと
「ほ、北斗の姉さん!!」
船員の一人が声を荒げてかけて来る、思わず吸い込んだ息を吞むと
「どうした、冥海でも出てきたか!」
「香菱が大物を釣りそうなんすよ! 姉さんも手伝って下さい!」
思わずのけぞりたくなる報告に北斗は呆れてしまう。
「全く……やっぱりお前らたるんでいるな? 一度……」
「うげっ……あ、後で怒られるんで見に来るだけでも! せっかくなんで!」
二の句を継ぎたくなるが北斗自身大物が気になるので思わずついていってしまう、件の大物を釣っている最中の場所まで行くと船内中の男たちが一斉に釣り竿を掴み引っ張っている。香菱も引っ張っているが仮にも南十字の船員達、かなりの力がある筈だが中々相手も手ごわいらしい。
「よし、アタシにもやらせな」
「おお! 北斗の姉さん!」「姉さんだ!」「早い!」「来た! これで勝つる!」
頭領の登場に沸き立つ男たち、一人が釣り竿を北斗に渡すと水面に映る影へ宣戦布告をし持てる力を込めて竿を引く、すると男たちでもびくともしなかった釣り竿が一気に進み水面から引きずり出した。
「流石姉さんだ!」「俺たちができないことを平然とやってのけるッ!!」「そこにシビれるあこがれるゥ!」
男たちが歓声をあげながら釣り上げた獲物に目を向ける、すると先程までの歓声がぴたりと止む。
「うん? なんだお前たち、折角アタシが釣り上げたんだからもっと……」
振り向いた北斗も思わず固まった、釣り上げたのは魚や獲物などではなく大量の珊瑚や海藻が絡まった三メートルはありそうな程巨大で細身な人間だったからだ。
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……息が出来る、重く濡れた瞼を開けば青く広がる空が見える。背中に感じる感触は固く、お世辞にも快適とは言えないベッドに寝ていたことがわかった。
頭痛のする頭を持ち上げると目の前には改造したチャイナ服とでも言うような黄色い衣装を纏っている少女……
「……香菱?」
「あ、起きた! 北斗姉さんー! おっきい人が起きたよー!」
そう言って彼女は何処かに行ってしまった、完全に身を起こすと……船? そうだ、確か元の時代に帰れるかもと飛び込んだら水の中で溺れていたんだ。ということは海に放りだされていたのか……
「起きたか、セス」
海を座りながら見ていたら俺に声がかかる、そちらを振り向くと北斗が居た。
「えっと……、どうして助けてくれたんですか?」
「その前にアタシは北斗、この武装船隊南十字の頭領をしている。そしてあんたはアタシの部下が偶然釣り上げたって事だ」
「釣り上げた……って、なんで俺の名前を?」
「あんたの仲間が教えてくれたよ、ここまでデカい人間は初めて見たけど喋るヒルチャールも初めてだ」
そう言って指を指した先には北斗の部下や香菱にもみくちゃにされているダダが居た。
「ヒルチャールって喋れるんだな……」
「さっきの空中から出現するやつもっかい見せてくれよ!」
「仮面に模様は描いてねぇんだな、描かねぇのか?」
「ええいオマエら! オレに触るな!!」
……大丈夫そうだ。
「で、セス。本題に入りたいんだがいいか?」
「あ、はい。どうぞ」
「そこのヒルチャールから大体の事は聞いた、旅をしていたら変な空間みたいなのに入って海に瞬間移動していたと」
どうやらダダは部分的にぼかしてくれたようだ、話を合わせるために頷くと
「そこであんたに提案があるんだ、アタシの南十字に入らないか?」
「南十字にって……部下になれと?」
「あくまでも一時的にだ、航海ももうすぐ帰るだけだしアタシ達の帰還する璃月港に戻れれば解散していい。船にいる間だけだよ」
「……」
つまりこの船で陸に連れて行ってくれる対価として部下になると、もちろんタダで乗るつもりはなかったし雑用なり何なりはするつもりだったがあちらから提案してくれたなら乗った方が早いだろう。
「それじゃあよろしくお願いしますね、頭領」
「と、頭領?」
「あれ、変でした?」
「いや……普段言われたことがなくてな……あぁ、いいや、アタシは呼び捨てでいいし敬語もいらないよ、これから頭領呼ばわりはむずがゆい」
「それじゃあ……よろしく、北斗」
そういう訳で俺は一週間ほど南十字で世話になった、まず船員達に挨拶をして顔を覚えてもらった。とはいえ皆は俺に
「お前はデカいからな、すぐ覚えられるぜ?」
「でっかいセスとちっさいダダのコンビだろ! とっくに覚えたぜ!」
と結構すぐに覚えられた、ダダはヒルチャールでも平均的だからべつにそこまで小さくないが……
それから船内の掃除だったり香菱の料理の手伝いだったり色々させられた。香菱は特に俺の知識にある地球料理に惹かれたのか何度も手伝わされた、おかげで店はまだ無理だが身内に振舞うには十分すぎる技術が身についてしまった。
それとたるんでると北斗に集められた彼女の部下たちが船内で出来る訓練をしている時、北斗から
「お前は戦えないのか?」
と聞かれたので冒険者をしていることを伝えたら
「そうなのか? でも武器がどこにも持ってないだろう?」
と言われて誤魔化すために海に放りだされる際に失くしたと言うと
「それなら代わりに一本貸してやるよ」
と気前よく渡された、だが他になかったらしく渡されたのは大剣だったが……でもいい練習にはなった。
ダダにも北斗は聞いていたがダダは
「オレは喧嘩は苦手だ、群れにいた時もほとんど狩りに出なくて追い出されたし」
と断った、やっぱりヒルチャールとしてはかなり変わり者なんだろう。
そんな感じで一週間が経ち、俺もかなり南十字として馴染んで来た時にそいつは現れた。
「セス、あんたも覗いてみるか? もうすぐ璃月が見えるぞ」
「俺はいいよ、高いからよく見える」
「ははっ、そうか。それなら見張り台にでも立ってもらおうか?」
「さっき変わったばかりなんで遠慮するよ」
まだ水平線しか見えないとはいえもうすぐ璃月に到着すると分かっていた俺達は気が緩んでいた、その時見張り台に立っていた男から声がかかる。
「北斗の姉さん!!」
「どうした? まさか香菱が火加減を間違えたか?」
「はぁっ……はぁっ……ヤバい! バケモンが現れて、一隻食われちまった!!!」
その一言で俺と北斗の目が変わり急いで船首に走り出す、するとそこで目にしたのは
「……なんだアレ、見たこともないぞ……」
全身が赤黒い鱗で覆われ、頭が三つに分かれた二十メートルは優に超える巨大な海蛇が一隻の船を噛み砕いている瞬間だった。
「あれが北斗の言っていた冥海怪獣か……?」
「いや、アタシもあんな蛇は知らない……知らないけど南十字号を襲っておいて放っておくわけにもいかないだろ!!」
北斗が大剣を構えて海に飛び込まんとする勢いで走り出したため北斗の部下たちが必死に止める。
「姉さん! 流石にこの距離じゃ届かねぇよ!」
「せめて近づくまで耐えてくれ!」
「くっ……」
俺も三股の海蛇を睨んでいると次の獲物を見つけたのかこちらに向かって突き進んでくる。
「来たぞ! お前ら離れろ! 巻き込まれるぞ!」
海蛇の真ん中の頭が北斗を食べようと口を大きく開きながら迫ってくるのに対し北斗が大剣を下から上に振り上げると彼女の大剣が蛇の顎を打ち上げのけぞらせる。
「ちっ、硬い……!」
舌打ちをして北斗が何度も大剣を振り抜くが蛇頭は鱗に軽い傷がつく程度で致命傷に至っていない、そうしているうちに残りの二つの頭が船を壊そうと牙をむいて来る。
「させるかよ!!」
俺は片方の頭に貰った大剣で殴りつける、聖遺物で強化された俺の筋力は脳震盪を起こすには十分だったらしくふらふらと頭を動かすが諦めたように引いていく、最後の一頭を見ると香菱含む北斗の部下達が相手取ってくれている、あの分だとまだ持つだろう、彼等に任せて北斗の助太刀に行く。
「北斗!」
「セスか! 今忙しいのわかるだろ!」
「だから助けに来たんだよ!」
「くっ……だったらこの頭任せていいか! アタシが仕留めるからさ……!」
「わかった……けど、どうするんだ……!?」
「こいつの根っこからぶった切ってやるのさ……!」
北斗が相手の一撃を弾くとその首に飛び乗り体へ向けて駆けていく、獲物を見失った頭に俺が素早く挑発をすると相手は簡単に引っ掛かり襲って来た。
「お前は俺がやってやるよ!」
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北斗が海蛇の首に飛び乗ると残り二つの頭は異変に気付き自身の一部である真ん中の首の上で走っている獲物を捉える。
「一気に切り落とす……!」
駆ける北斗を二頭が牙で貫こうと首を捻りながら襲い掛かる、北斗が跳躍すると一頭を踏みつけ更に飛び上がり、それを繰り返して二頭を翻弄する。
「どうした! デカいのは図体だけか!?」
余裕が生まれそう口に出した直後、とうとう気が付いたのか北斗の乗っている首が暴れだす。
「なっ!?」
反射的に首に大剣を突き刺し自身を繋ぎ止めるもその痛みによって暴れる勢いがより強くなっていく。
「ぐっ……!」
振り回される視界の中自身の船を見ると部下達が砲台を構え北斗を助けようとしているのが見えた、しかしこの海蛇と船の距離が近くこのまま撃てば狙いは変わり船は一瞬で残骸にされてしまうだろう。
「お前らッ!! アタシに構ってないで逃げ……!」
伝えようとするも声は届かず砲弾が発射され、蛇の胴体に当たりのけぞらせることは出来たがそれだけだった。
「!」
三頭の首は動きを止め目の前の船を睨む、それに反射的に北斗は自身の雷の力を込め全身に紫電を走らせる。
「GYAAAAAAAA!!!!」
大剣から紫電が伝わり鱗に覆われた肉を焦がしていく、三頭全てに痙攣が起き巨大な咆哮があがる。
「今なら……!」
三頭の動きが止まりこれ以上無いチャンスを得た北斗は大剣を引き抜きその首目掛けて大剣を振りかぶる、しかし海蛇も最後の抵抗として一頭が首を振り回し北斗を叩き飛ばす。
「こいつまだ……!」
咄嗟に剣の腹を盾に防いだが首から吹き飛ばされ今は空を舞っている、ゆっくりと流れる思考に北斗は考える。
「(剣は届かない……この距離だとアタシの雷でも倒しきれない……なら届かせる!)」
「お……ッらあぁぁぁぁぁ!!!」
北斗は空中の不安定な姿勢から紫電を剣に纏わせると三つ首に向かって投げつける、しかし僅かに逸れた大剣は首の横を過ぎるだけで回転しながら飛んでいく。
悔しさと恨みに唇を血が滲むほど噛むがふと大剣が視界から掻き消える、思わず目線だけを動かし大剣を探すと何時の間にか北斗の大剣を手に構えたセスが紫電を全身に纏いながら空から落ちて来るのが映った。
「いい加減くた……ばれぇぇぇぇ!!!!」
一週間と言う短い期間とはいえ同じ船にいたセスから初めて放たれた咆哮と共に大剣は三本の脊椎を一度に貫く、巨大な雷が落ちたと錯覚するほどの轟音が海蛇から放たれるとその身をゆっくりと海面に横たわらせていった。
「(……なんだ、十分やるじゃないか)」
安堵の息と共に北斗は海に沈んだ。
▼
俺生きてる?
北斗が吹き飛ばされて剣を投げたのを見て反射的に転移で受け取ってからあのでっかい蛇に突き刺したけど全身が物凄くしびれて死ぬかと思った。あの後海に感電したまま落ちたけど船の皆に釣り上げてもらった、うん、肩叩いて褒めてくれるのはうれしいんだけど釣らずに普通に引っ張れなかった?
背中に赤い紅葉ができそうになってきたころに同じくずぶぬれになっている北斗が俺の元に来た。
「あ、北斗」
「驚いた、あんな芸当出来たんだな!」
「おかげ様で……待って北斗まで肩叩かれると流石に痛くなってくる」
「おっとそりゃ悪かった。それでセス、もう一個提案ができたんだが聞くか?」
「うん?」
「アタシの部下にならないか?」
「……それは、正式にって事か」
「ああ、アタシが思ったよりずっと強くて度胸もある。アタシの右腕にもなれる筈さ!」
後ろで彼女の部下が「セスも仲間になるのか!?」と歓声を上げたり「いきなり右腕かよ!」と羨ましがられたり好意的な反応を受けている。だが……
「悪いけど、俺は陸の方が向いてるよ」
「そうか……まぁ、そういうとは思ってたよ」
「モンドに帰らないと怒られそうだしさ、それに……」
「それに?」
俺は見えてきた璃月港に目線を移す、船の上からでも見えるほど活気づいている。
「俺は冒険者だからな!」
この日、南十字は大冒険の末新しい伝説を生み出した。
次から璃月編になります、とはいえあまり話は組んでいないので何処まで続くかわかりませんが…キャラストーリーの情報が欲しい…