原神の世界に転生したので自由に生きたい 作:ヘルメットのお兄さん
凝光から翠雨の手伝いをしてみないかと言われて快く(半強制)受諾してから半日経った、今俺は翠雨堂支店の全く座高の合わない椅子に座って書類仕事をさせられている。
手伝う事になり渡された一部の仕事は会合や計画の承認を除けば現在取得している骨董品の整理だったり仕入れの履歴整理だったり、それ自体は普通だし俺も伊達に日本から転生していない。記憶はなくとも仕事は出来るのですいすいとこなしていたのだが
「セス様流石です! よければ翠雨様の仕事をもう半分手伝ってみませんか?」
と瑪瑙から提案されたので調子に乗っていた俺はOKを出してしまったのだ、すると目の前に置かれたのは
「はい! では翠雨様の書類です!」
山が現れた。
比喩ならどれほどよかったか、目の前にあったのは座っていてなお180cmはある俺に迫る書類の山。意識が一瞬くらみ嘘だろと瑪瑙を見れば笑顔で「──―なので、頑張って下さい!」と何かを喋った後どこかに行ってしまった、幸いにも一つ一つの仕事はそれ程難しくはないのだが数がおかしい。後で聞いたことだが翠雨はここ数百年で相当数の人脈を築きあげているらしくそのほとんどが商売相手として繋がっているためこれだけの書類になるらしい、これを捌いていた翠雨もそうだが瑪瑙も相当おかしい。
「あと何枚だ……?」
「オレの身長を切ったから……あと1000枚……」
「……」
俺は泣いた。死んだところを管理神に拾われテイワットに転生してからはや数年、危険もトラブルも幾度となく乗り越えてきた。だが俺はこの短い人生で初めて絶望を味わったのかもしれない。
~~~~~
「セスー、生きてるか……ってうわ!」
翌朝、北斗が翠雨堂支店に顔を出すと店の奥にこの世の負を凝縮したかのようなオーラが充満していた。
北斗が店の奥に駆け出すと中にいたのは大量の紙に埋もれたセスとダダが涙を流しながら気を失っていた。
「一体何が……」
北斗が傍に落ちていた書類を一枚手に取ると後ろから元気な声が聞こえてくる。
「おはようございます! セス様! ……あれ?」
「おい、瑪瑙……一体どうなってるんだこれは」
「さぁ……? 私は
瑪瑙が散らばっている書類を纏めて読んでみると、その全てが完璧に終わらせられていた。
「取り敢えずセス達を起こさないと……」
「セス様……これ全部昨日終わらせたんですか?」
「……う、朝……?」
「お、起きたか?」
「そうか……何時の間にか朝になってたのか……瑪瑙、どうだ……俺は間に合わせることが出来」
「私が頼んだのは机の上に置いた書類だけですよ!?」
「……???」
俺は瑪瑙の言葉がよく聞き取れなかった。
「い……いやいや……まさか……」
「た、確かにこれを終わらせていただいたのは物凄く助かったのですけど……机の
「な……なんで?」
「えっと……翠雨様は最近気分転換と言って支店で仕事をする事が多いので……セス様に渡したのは確かに今日までに纏めないといけない書類の半分でしたが……そこに置いていたのは現状ある翠雨様の残りの仕事全部です……」
「つ……つまり……?」
「……セスが翠雨の時間に余裕のある仕事を全部、それも一日で終わらせたって事だな」
「………………ふっ」
北斗が苦笑いをしながらそう言うと俺はそっと目を閉じた。
「セス様!?」
「おいセス目を覚ませ!」
もっと早く気づきたかった……いや、翠雨の負担が減ったしいいじゃないか……いや、でもここまでやる必要はなかったんじゃ……
などと消えゆく意識の中色々な思考が巡ったが俺は答えを出せぬまま襲い来る眠気に体を預けた。
~~~~~
うん……? 後頭部に柔らかいものが当たっている……重い瞼を開けようと手を動かそうとするとそっと目が柔らかい手に覆われる。
「あら……お目覚めですか? セス様……」
「……瑪瑙?」
「いいえ……違いますよ……私は貴方様をずっと待っていました……」
「……」
「やっと会えました……まさか千年も待つことになるとは思いませんでしたけど?」
「……もしかして翠雨か!?」
跳ね起き視線を動かすとそこには艶やかな黄金色の髪を持つ、緑を基調とした着物を纏った美しい狐耳の女性が居た。
「千年ぶりですね……セス様?」
「お……おう、変わったな……?」
「千年も経っていますもの……貴方様に似合う女になっていなければ可笑しいでしょう?」
正直、俺が知っている翠雨は小さくて俺の後ろをとてとてとついてくる子供の様な愛い子だった。それが気付けば誰もが振り向きかねない美人に成長していた、彼女からすれば千年も経っているのはわかるが俺からすればたった数週間で急成長しているのだ、どう接すればいいのかわからない。というかよく一カ月しかいなかった俺を覚えていたな……
「どうですか……? 私の翠雨堂は……」
「どう……って、ここは?」
一見普通の部屋だが今更緩やかに部屋が揺れていることに気づく、窓の外を見ると海が見える。反対を見れば港が見える……ここは
「ここが……翠雨堂の本店か?」
「ええ……貴方様を待つ為にこの船を作りましたの……貴方様が元の時代に帰ってからも私は貴方様の助けになれるように色々頑張ったのですよ?」
翠雨の言葉に思わず部屋を見る、この部屋が船内で最も広い船だとしてもかなり広い、壁や机には地図や資料などが置かれており棚には何やら箱に詰められた物が見える。
「あら、貴方の想い人は目覚めたみたいね?」
そう言って部屋に入ってきたのは凝光、何やら手紙を持っている。
「こんにちは凝光、あなたのお陰でこんなに早く会えることが出来たわ」
「お礼はいいわよ?それと貴方、瑪瑙から聞いたけど……この子の仕事を一日で終わらせたんでしょう?」
「あー……まぁ」
「あれを終わらせるなんて相当の腕よね、良かったら秘書として働かないかしら?」
「いや……俺はむぐっ」
流石に断ろうとすると翠雨が腰に抱き着いてくる
「駄目よ凝光……この人は渡さないわよ?」
「冗談よ? ……仕事ぶりとしては本当に雇いたいけれど」
はい、と俺に手紙を渡してくる。中身を見ようとすると
「それは群玉閣への招待状、秘書としては諦めるけど……客人としてはいつでも歓迎するわ」
そう言うと彼女は部屋を出ていった、俺は手紙を仕舞うと背中に更に強く抱きしめられる感覚がする。
「翠雨?」
「……本当に、待っていました」
「……うん、悪かった」
「本当ですよ……でも……もういいんです」
座っている俺に抱き着いてくる翠雨に俺は何もせず、ただただ時間が過ぎていった。
~~~~~
いつまでこうしていたのか、ようやく翠雨が離れると彼女は凛とした顔をする。
「さて……私としては貴方様の為に心からおもてなしをしたいのですが……貴方様もお疲れでしょうし今日はここに泊まってはいかがですか?」
「ああ、そうするよ」
「それでは、貴方様のおかげで私も休みが出来ましたし一緒にいさせてもらいますね? それとこの部屋のものは自由に見ていただいて構いませんので」
そういうとぴったりとくっつかれた、折角なので言われた通りに部屋を見渡してみる。一言で例えるなら執務室兼応接室だろうか、執務机の上には書類にペン、棚には何やら怪しい壺や箱がある。俺は箱を手に取って開けてみる
「……神の目?」
「それはただのガラス玉です、骨董品ではありませんが私の秘書に硝子細工が好きな子がいるので商品にしているんです」
「へぇ……」
俺は炎元素の神の目……のガラス玉を手に取る、透き通っていて本当に炎元素が操れそうだ。俺はガラス玉を戻すと隣にも箱があったのでそちらを開ける。
「あれ? こっちもガラス玉か」
「あぁ、それは邪眼ですね」
「ぶっ!?」
思わず噴いた、なんでそんなもんがあるんだここに。
「何で持ってるの……? 邪眼ってファデュイ達が持ってる奴だよね……?」
「昔ファデュイの何とかという愚か者が商売の邪魔をしてきたので……没収してきました」
かわいそうに、名も知らぬファデュイよ。
「所でどうやってファデュイから?」
「貴方様が居なくなってから暫くして、私にも神の目が宿ったんです」
そう言って着物を動かすと帯に隠れるように草元素の神の目が現れた。
「草元素……? というかなんで隠すんだ?」
「神の目って、持っているだけで一部の人には羨ましがられて特別な人という目で映るんです。無用なトラブルは避けるに越したことはないでしょう?」
俺自身神の目はないからわからなかったがそんな悩みもあるんだなと邪眼を仕舞おうとして。
「あっ、邪眼って俺も使えないか?」
「それは……やめたほうがいいと思います、邪眼は命を奪いかねない危険なもの。誰かに使われても危ないのでここに保管しているんです」
「そうか……」
でもどうしても気になるので頼んでみると渋々と言った感じで了承してくれた。
「……では、もし何か体調に変化が起きたり私からおかしな点が表れたら即座に止めます」
「わかった、それじゃあ……氷の邪眼なら大丈夫かな……?」
そっと氷の邪眼を持つとそっとなんとなく力を込めてみるが何も起きない、色々構えを変えたり力をもっと籠めたりしたが結局何も起きなかった。
「邪眼の才能もないのかなぁ……?」
「正直ほっとしました、私は貴方様が傷つくのは嫌ですから」
そう言われるとこれ以上使えないし諦めて邪眼を戻す、このまま封印するのが正解なんだろう。今日はこのまま寝てしまおうと席を立つ
「どちらへ?」
「今日はもう寝ようと思って……って、どこで寝るんだ?」
「でしたらこちらへ……」
先導してくれる翠雨について行く、廊下を歩いていて気づいたが天井がかなり高い、3mはあるだろうか?俺でも背伸びをしても頭をぶつけることがなさそうだ。などと考えていたら到着したその部屋は高級ホテルの一室の様な景観が広がっていた、大きなベッドに海が見える小窓、高級そうなソファーにほんのり部屋を照らしてくれるランタン。ベッドは触ってみると指がどこまでも沈んでいく。
「いいのか……? こんな所に」
「勿論……貴方様の為に用意しましたもの」
確かにこのベッドはかなり縦に長い、オレの身長を超えるんじゃないかと言うくらいの大きさ……というか完全に俺用じゃないか?
「と、とにかくありがとう。それじゃあ早速寝ようかな」
俺は着替えようと服に手をかけるが何故か翠雨はニコニコと俺を見ている。
「あの……翠雨?」
「はい、なんでしょう?」
「俺着替えるんだけどなって……」
「ええ、承知していますよ?」
「……」
考えたら昔も目の前で着替えていたような気がする、というかそういう事にしておこう。うん。
着替えている間ずっと笑顔の翠雨に戸惑いながらも寝巻きに姿になる。
「それじゃあ……おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ」
俺はランタンを消しベッドにもぐりこむとふわりとした感覚に思わず息を漏らす。
「……久しぶりに足を延ばせるな」
「そうでしょう? 貴方様の身長はちゃんと覚えていますのよ?」
「そうか……何でいるの?」
今おやすみっていって帰ったんじゃなかったの?
「私と寝るのは嫌でしたか?」
「そういう訳じゃ……」
「貴方様がいた頃……何度か一緒に寝かせてくれましたよね」
そう言われるとそうだった気がするが……
「千年ぶりなんですもの、一度だけでも……駄目ですか?」
「……わかったよ、一緒に寝るか」
翠雨の顔が暗がりでもわかるほどに明るくなって耳も揺れている、俺は天井に目線を移しこれからの事を考える。
「(翠雨に会えたしこれからどうするか……群玉閣に行ってみるのもいいな、北斗たちにも世話になったし……)」
そう考えているうちに段々瞼が重くなってきて、ゆっくりと意識を手放していった。
「あ、ウェンティ」
完全に手放す直前吟遊詩人が笑顔でこちらを向いていた、全力で弓を構えながら。
タイトルは適当なので今までのでもいいのが思い浮かんだり提案されれば変えるかもしれません、私は名づけのセンス怪しいので。