原神の世界に転生したので自由に生きたい 作:ヘルメットのお兄さん
「──────────い……──」
……陽の光だろうか、真っ暗だった視界が瞼越しに明るくなる。
「──────……おーい…………──」
……そうだ、昨日はヒルチャール達から逃げて……風立ちの地にある巨木の上で……
「──―……おーいってばー」
……誰かの声がする、体を起こし目を光に慣らす様にゆっくりと目を開けると。
「あ、起きた」
……ウェンティがいる。
「……へっ? ……うわあぁぁぁ!?」
「あっ……」
思わずのけぞるとバランスを崩して枝から落ち、ドスン! と大きな音を立てて背中から地面に落ちる。幸いにも怪我はないがすごく痛い。
「大丈夫かい?」
顔をあげるとそこには緑を基調とした衣装を身に纏い、黒髪だが三つ編みにした先は蒼く染まっている童顔の少年……ウェンティがいた。
「あ、あぁ……大丈夫だよ」
ウェンティ──原神の世界において主人公と出会うキャラの一人、これから向かう予定だったモンドの街にいる自由な吟遊詩人……なのだが、色々と訳ありで。
俺は痛む背中を抑えて立ち上がると
「うわっ、君寝ていた時も思ったけど立ち上がると凄く大きいね。もしかして巨人の子供だったりするのかい?」
「これは生まれつき……生まれつき? ……とにかく巨人の子供ではないよ」
「そうなんだ、それじゃあ巨人さん? 聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
巨人じゃないが、思ったより見た目に対しては追求してこないな。……しかし、ゲームではメインで使っていたこともあるしウェンティと言う人物についてはよく知ってると思っていたが……
「……? あれ? もしもーし」
こうしてみると本当に男なのか疑いたくなってくるな、それに吟遊詩人だけあって話し上手なのか油断したらペースに飲まされそうな気がする。
「おーい、巨人さん?」
「ハッ……ごめん、聞いていなかった」
「もう、しょうがないなぁ。それじゃあもう一度……巨人さん? 聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ああ、答えられる範囲ならいいけれど」
「それじゃあ一つ、君はどこから来たのかな?」
地球……と素直に答える訳も行かないがどうするか、誤魔化せるか?
「……それがよくわからないんだ、元々辺鄙な村に住んでたけれどふと目が覚めたら湖の所にいたんだ」
そう言って星落としの湖の方向を指差す。辺鄙な村云々は嘘だが目が覚めたら湖にいたのは事実だしな。
「ふーん……それじゃあ二つ目、実は昨日君がヒルチャール達に追われているところを見ていたんだけど、突然消えたと思ったらこの木の上にいたよね? 見たところ神の目は無いようだけどどうやったんだい?」
昨日の視線はウェンティだったか……しかし空間術について言ってしまってもいいのだろうか……いや、誤魔化したとしても相手はウェンティだし何かの拍子にばれるかもしれない、管理神関連の事をぼかしてあとは全部話せばなんとかなるか……?
「あれは空間術と言って多分ここらだと俺以外使えない魔……技術だ。空間を繋げて瞬間移動したり物を別の空間へ仕舞ったりできる」
そういうとウェンティは目を丸くする。
「神の目も無しにそんなことが出来るのかい? 、もしかして君のお師匠さん的な人は神様だったりしない?」
神様ではあるが流石に言えない。
「さぁ……つかみどころがない人ではあったけど神様かどうかは……っと、俺からも質問していいか?」
「あ……うん! いいよ? 何が聞きたいの?」
これ以上話してもボロが出そうだしこちらから質問した方がいいだろう、それにそろそろ名前で呼びたかったし。
「ここがどこなのか、それと君の名前を教えて欲しい。先に自己紹介すると俺はセス、好きなことは食べる事だ」
「セスだね、それじゃあ僕の名前はウェンティって呼んで、好きなことは歌うこと、それとお酒を飲むこと!」
差し出されたウェンティの手を掴み握手する。初めての原作キャラだ、感動で思わず涙が……出ていないけれど。
「それじゃあここについてだけど……」
それからウェンティにこの場所の事、モンド城がどういった場所なのかを簡単に教えてくれた。大体は知識通りだがあまり過信はしない方がいいだろう、何せ今の時代はジンやディルックもまだ大人にはなってないだろう。そう考えるとあまり変わらないウェンティに出会えたのは幸運だろう。
「……ってところかな?」
「なるほど、ではさっきの湖の像がその神様なんだな」
「そうだよー……そうだ、ねぇセス? 一個お願いがあるんだけどいいかな?」
「なんだ? あまり難しいことは……」
「大丈夫だよ、それに一緒に来てくれればモンドの街に入れてあげるよ!」
なんと、考えてみればこの姿で一人モンドの街に入ったら目立つどころではないし下手したら怪しい人物として捕まりかねない、特に拒否する理由もないし是非頼もう。
「それならお願いするけど……何をすればいいんだ?」
「取り敢えずモンドの街に行こう、近くまで来たら教えるよ」
それから数十分、歩きながら折角だと空間術の練習をしてみたりウェンティから神の目について教えてもらったりしながらモンドの門前に着いた。
「それでどうすればいいんだ?」
「そうだね……セス、ちょっとかがんで」
▼ ▼
モンドの街は大きな壁と巨大な湖に囲まれている。人の手によって作られた守りと湖による天然の守り、この二つがあるからこそモンドの街中は平穏に暮らせている。その内のモンドの街と外の世界を繋げる唯一の橋、その正面にある門を守るのは西風騎士であるローダスとウランの仕事である。
街に入る人を確認し、観光について聞かれたらおすすめの場所を教える。門番としては物足りない気もするが平和なのはむしろいい事だろう。二人はそう思っていたが……
ある日の昼下がり、ぽかぽかとしたお日さまに眠気を誘われるが橋の向こうから手を振る人物を見てあくびを噛み締める。
「ん……ありゃ吟遊詩人の坊主じゃないか」
「お……珍しいな、いつもは街中で詩を歌ってる最中じゃないか?」
「あぁ……ん? なぁウラン……」
「どうした? ローダス」
「何か……でかくねぇか?」
何がでかいのだろうかとウランは改めてウェンティを見る、笑顔で手を振る様子は少し珍しいがおかしくはない、では何が──、そこまで考えて気づく。
乗っている。
何かに肩車されてこっちに向かっている、彼らは知らないが実年齢はともかく見た目はまだまだ少年だ、肩車されてもおかしくはないが……問題は彼を肩車している存在だった。
デカい。彼が門の目の前まで来て最初に感じた感想がそれだ。肩車されているウェンティを除いても3メートルはある、顔立ちこそ普通そうだがそれ以外がどう見ても普通の人間ではないとわかる。
「こんにちは! 彼は途中で出会った旅人でね、この街に入りたいんだって。入れてもいいかな?」
肩の上に乗っているウェンティは全く気にしていないという風にウランに話しかける、ウェンティの下にいる男は一言も発せずただただ無言で二人を見つめている。
ふと男と目があってしまったウランは思わずひるんでしまう。人間とは未知の物に恐怖する、群れで襲い掛かるヒルチャールにも、軽々と人間を吹き飛ばす力を持つ遺跡守衛に対しても彼らは恐れず立ち向かえる。それは知っているからだ、敵の習性を、長所を、弱点を。しかし目の前の男は全く未知だった、ここまで巨大な人間は見たことないしそもそも人間か怪しい、どうすればこの場を切り抜けられるか心の中で助けを求め、その末に彼に手を差し伸べたのは
「あ……あぁ、ようこそモンドへ」
西風騎士団として頭に叩き込まれた騎士団ガイドVer.1だった。
▼ ▼
「どう? 入れたでしょ」
にひひと笑うウェンティに俺は思わず顔を覆ってしまった。
ウェンティの出した作戦とは俺がウェンティを肩車してそのまま「あれ? 僕の友達ですよ?」といった感じを出しながら素通りするという作戦ですらないもの。何故か入れたから良いもののあのまま止められたらどうするつもりだったのか、そもそもあの門番半分涙目だった、確実に俺のせいだろう……
「まぁまぁ、さて、目標である街に入ることは達成されたんだ、今度は僕のお願いを叶えておくれよ」
「約束だから勿論いいが……何をするんだ?」
「ようし、じゃあついてきて!」
そう言って案内された先には……エンジェルズシェア? ……モンドで一番の酒場だ。だけど昼間から酒とは……
「ウェンティ……まだ昼間だぞ……?」
「そう言わないでよ、昨日は一杯も飲めなかったのさ。だから少しだけ……ね?」
「……まあ約束だしな、でも俺は金なんて持ってないぞ? 俺を連れてどうするんだ?」
「まぁまぁ、取り敢えず入って!」
ウェンティは扉を開けると俺の手を引っ張りながら入っていく、しかし一体何をするのか。俺は周りの奇異な人間を見る視線を感じながらされるがままに扉に
「痛っ!?」
入れず額を思い切りぶつけた……
痛みはあるが仕方ないのでしゃがみながら入るとウェンティはカウンターの向こうのバーテンダーと話していた。
「だから未成年には酒は出せないんだって、悪いけど帰ってくれ」
「大丈夫だよ、今日は言われた通り大人を連れてきたから!」
なるほど……保護者代わりか。
「大人ぁ? 確かに昨日はつい保護者でも大人でも連れて来いって言ったがあれは……」
そう言ってバーテンダーは天井に頭をぶつけそうな俺を見ると
「……」
固まってしまった。それはそうだろう、彼はウェンティが基本的に一人なのを知っているから保護者を連れてこいなどと言ったのだろうがまさか本当に連れて来るとは思わなかったのだろうし、連れてきたのが巨人なんだから。
「あー……貴方が本当にこいつの保護者なので?」
「ええ……そういう事らしいです」
上を見ながら話すバーテンダー、俺は座った方が良さそうだな……
「ね? これでリンゴ酒は飲んでいいよね?」
「いや……しかしなぁ……」
なおも渋るバーテンダー、まぁ確かに(見た目は)未成年のウェンティに飲ませるのは抵抗があるだろうな。実際にはかなりの酒豪だけど、だがこのままだと話は平行線だろう。
「ウェンティ、金持ってるか?」
「え? あるけど……」
モラの入った袋を受け取るとバーテンダーの前に置く。
「リンゴ酒を一杯、俺・に・売・っ・て・く・れ・」
「貴方がか? ……だが……」
バーテンダーはウェンティをチラと見る、俺が買ったのをウェンティに渡す事を危惧しているんだろう。
「大丈夫だよ店主、俺は俺が飲みたいから買うんだ。別に彼が飲みたいから代わりに買うんじゃない。飲ませる気はないよ」
なおも悩む顔をしていたがやがて諦めた様で
「わかったよ……一杯2000モラだ」
「ありがとう。それじゃあこれを」
俺は礼を言うと2000モラを手渡す。金額については既にウェンティから学んでいる。
「ほら、リンゴ酒だ」
そう言って渡されたのは二杯のリンゴ酒……バーテンダーを見ると。
「お客さんは初めてだろう? サービスだよ、次もぜひ贔屓にしてくれ」
ありがとうと改めて礼を言うと両手にリンゴ酒を持ったまま外のテーブルに着く、そして片方をウェンティの席に置く。
「おや? いいのかい?」
「二杯も貰って、バーテンダーには悪いけど俺は一杯だけ飲むことにするよ、あまり酒は強くないからな」
そういうとウェンティはくすりと笑い
「それじゃあいただくよ、──乾杯」
「乾杯──」
原神の世界に転生して二日目、あまり冒険らしいことはしてなかったがそれでも充実した日々を過ごせそうだと目の前で楽しそうに酒を飲むウェンティを見て思った。
その後、結局俺とバーテンダーが止める間もなくモラを宿代を残して全て酒に変えた錬金術師ウェンティを宿まで抱えながら一日を終わらせた。
……宿を取ろうとする俺を見て宿主のおばあさんにも怖がられた……
次回くらいには戦闘とかしてみたいですね、現状転生特典が息をしていない…