原神の世界に転生したので自由に生きたい 作:ヘルメットのお兄さん
この世界に転生して二か月、時がたつのは早いものだが俺のスケジュールはある程度固定化されてきた。
朝、膝まではみ出る小さな(これでも大きい方だった)ベッドから起き上がり別室で寝ているウェンティを起こす。宿主であるおばあさんに挨拶をしてから鹿狩りで朝食をとる。
午前中はウェンティと別れて一人で聖遺物を集める、最初はウェンティが同行してくれていたが今はスムーズに試練を突破できる程度には強くなれたので一人で
午後はウェンティの補佐をしたり冒険者協会からの依頼を受けたりしている。……そう、今俺の所属は冒険者協会にある。ひと月前それなりに腕がついた俺は何かできないかと考え、冒険者協会のモンド支部へ向かった、受付をしていたキャサリンは俺の事を知っていたようで若干気圧されながらも歓迎してくれた。まぁ協会は何度も通っているし、特徴が分かりやすい以上知る機会も増えるだろう。
そして依頼をこなした夜はウェンティと適当な酒場で合流して飲み明かす……大体酔いつぶれたウェンティを俺が宿まで運んで一日は終わる。モンドでの噂も広がったのか俺を見て警戒する人は減ってきて愛称として「モンドの巨人」なんて言われることが増えた。
そんな感じで今日も
「お、モンドの巨人じゃないか……ということはもう午後か」
「俺は時計代わりですか、それでこの集まりは……」
「お前なら見えるだろう、今日ディルックが遠征から帰還したんだよ」
「ディルック……?」
「ん? お前はお目にかかるのは初めてだったか? 丁度一ヶ月前の遠征だったから出発の時見ていると思ったんだが」
一ヶ月前は確か依頼でヒルチャールの討伐をしていたはず……あぁ、帰還する途中で西風騎士団の馬車を見たからおそらくそれだろう。
「いえ、見てませんが……これだけ人が集まるってことは凄い人望があるんでしょうね」
「そうだなぁ、正義感の塊みたいな奴で、どんな任務も華麗にこなす。それにまだ成人もしていないのにあの実力だ、そりゃ人も集まるだろうよ」
なんて話していると子供達が俺を見つけ集まってきた。
「あーっ! 兄ちゃん見つけた!」
「お兄ちゃん僕を持って!」
「ディルックたいちょうが見えないの!」
子どもたちにまで好かれるとはおそるべしディルック隊長とやら……まぁゲームでは知っているがこの世界では顔も見たことがないし。
「お前も大概好かれてると思うがな」
そうは言うが俺はあそこまで人が集まることはない、足元でうろつく子供たちを纏めて抱えると立ち上がる、今の俺なら例え10人同時でも持てるだろう。中心を見ると大勢に囲まれて笑顔で対応をしている人物、ディルックがいた。服装は違うし幼さがまだ微かに見えるがあの髪はディルックに違いないだろう。俺がその様子を見ていると子供達がディルックに向かって手を振る、すると気づいたのか子供たちに向かって手を振りかえしてくれる。うん、嬉しいのはわかるが落としかねないから暴れないで欲しい。
そうして彼が粗方対応して対応人がまばらになった頃、俺が持ち上げた子供達を降ろすとディルックの所にすぐに向かっていった。彼は子供達にも笑顔を全く崩さずにいると子供達を連れてこちらに向かってきた、何故?
「君が噂のモンドの巨人だね」
その雰囲気を見て思わず驚く、ゲームではどこか無気力、というより暗いものを抱えた感じだったが目の前のディルックは爽やか好青年。
「君の噂は聞いている、巨人の生まれ変わりだと思う程の長身で、腕の立つ冒険者として活動していると」
「え、えぇ……腕が立つかはともかく活動はしています。」
「敬語はいらないよ、君が西風騎士団ならともかく冒険者なら気にしなくていい」
「まぁ……善処します」
うん、と頷くと本題に入る。
「冒険者である君に依頼をしたいのだがいいだろうか?」
今度はこちらが頷く。
「僕の後輩であるジンという少女がいるのだけど、もうすぐ彼女の誕生日なんだ。彼女には世話になった事もあるし何かしてあげたいがどうすればいいかわからなくてね」
話していて感じたがこの時代のディルックはかなり明るい、騎士という自分の中の信念を持っているからか、暗いものなんて感じないし正義のヒーロー、と言う感じがする。
「それは構わないですけど具体的に何をするんですか? プレゼントを上げたいなら買うなり材料を集めるなりしますし盛大に祝いたいなら準備を手伝いますよ?」
そういうとディルックは迷うような仕草で考える。
「うん……プレゼントか……それはいいな。でも何を送ろう……」
ジン……ジン・グンヒルドは将来の西風騎士団の副団長で蒲公英騎士だ、言い方はあれだが真面目、勇敢、優しさで構成された人間だ。自分の睡眠時間を削ってまでやりたいことが他人を救うなのだから相当なものだろう。しかしだからといって(あるかどうかはともかく)寝なくなる薬を渡すのもプレゼントとしてはどうだろう。
「好みがないなら花を贈るとかどうですかね、花が嫌いな人はいないでしょうし」
そういうとディルックはそれだ! というような顔をする。
「そうか……ありがとう、君の言う通り花を送ってみようと思うよ」
「えぇ、なんなら選ぶのも手伝いますよ」
「……そうだ、名前を聞いていなかった。僕はディルック、西風騎士団の騎兵隊隊長だ」
……この熱血とまではいかないが熱いディルックが10年かからずにああなると考えると世界の無情さに何とも言えない気持ちになる、今はどうしようもないから仕方ないが。
「セス、姓は無し。今は冒険者をやっています」
「セスだね、それじゃあ依頼だけど……」
ディルックから依頼を受けて俺は今星拾いの崖に来ている、蒲公英の花と個人的に欲しいセシリアの花を集めるためにはここが丁度良い。
蒲公英の花ならモンドの街にも生えているだろうと思うだろうが何故かどこを探しても蒲公英は無かった。蒲公英騎士という称号があるのに何故街にないんだ。
まぁないものは無いので仕方なくここまで来て集める事にした、幸いにもそこかしこに生えているので集めるのは容易だろう。そうして集めていると何やら背後から視線を感じ、後ろを見て見ると
「じー……」
赤を基調とした服装、頭に着けたウサギのようなリボン、そして透き通るような琥珀色の瞳でこちらを見て来る少女……
「……君は?」
「……! 私はアンバー! 貴方はモンドの巨人でしょ!?」
やはりアンバーだったゲームではモンド唯一の偵察騎士、だが今の時代は偵察騎士は普通に何人もいるし今の彼女は神の目も無い。
「モンドの巨人かと言われたら確かにそうだけど……どうしてここに?」
「やっぱり! 貴方すっごく大きいもん! 今日はおじいちゃん達が訓練してないから街を歩いてたけど、友達皆が貴方の話をしてて、貴方が街の外に行くのを見たら気になって追いかけちゃった!」
おじいちゃんと言うと彼女の祖父か、現在の偵察騎士小隊の隊長で偵察騎士の柱となっていると聞いた。しかし暇だから俺を追いかけて、しかも単独で街の外に出るとは……
「アンバー、元気なのはいい事だけど、何も言わずに街の外に出ると君のおじいちゃんが心配するよ?」
そういうとアンバーは頭のリボンと一緒に表情がしおれていく。
「あぅ……ごめんなさい……」
「次から誰かに言ってくれたら俺は怒らないよ、送っていくから街に戻ろう?」
そういうとアンバーは少し元気を取り戻して頷いてくれた、昔から元気が有り余っているらしい。
彼女を肩車してやるとすごく喜んでくれた、木登りで高い木に登った時とはまた違う良さがあるそうだ。街に向かう途中話を聞くとどうやら子供たちの間で俺に肩車されるのが流行っているそうだ、アンバー曰く「いつもより高くて風がきもちいい」らしく、もしかしたらこの頃から既に飛行チャンピオンとしての素質があるのかもしれない。
夕方頃にモンドに戻ると門の前で仁王立ちしている人物がいた、俺は知らないが上のアンバーが申し訳なさそうな顔をしている辺り彼が祖父だろう。俺が彼の前でアンバーを降ろすと、
「お帰り」
と言って彼女を抱きしめた。抱きしめられたアンバーも徐々に涙目になって彼の胸に顔をうずめてしまった。
その後祖父が俺に礼を言って来たが正直本当に大した事はしていないので感謝されるほどでもないと言ったら。
「君は大きい人間なんだな」
と言われた。多分身長じゃなくて器とかの話なのだろうが生憎聖人ではないし恥ずかしいのでその場をそそくさと去った、途中ディルックに会ったので蒲公英とついでにとったセシリアの花も渡した、その時少し話したのだがディルックが
「あの子……アンバーと言ったかな、彼女が突然いなくなったと聞いた彼は凄まじかったよ。街で君を追いかけていったという情報が出るまでは表情には出してなかったけど迫力があって、かなり心配している様子だった」
と言っていた、中々な親バカな気もするがよく考えなくても親は子が可愛いものだし当然だろう。
そうしてディルックとも別れ、今日はキャッツテールで合流したウェンティに今日の話をしたら
「ディルックって、アカツキワイナリーのオーナークリプスの息子のディルックかい!? どうして僕も連れて行かなかったのさ!」
そういえばディルックの家業はアカツキワイナリーでの酒造だったな……俺は悔しがるというか残念がってるウェンティをなだめキャッツテールおすすめのカクテルを飲む。
数年後聞いた話だが西風騎士団の一室では常に蒲公英が大切に飾られ、西風騎士団副団長の本にセシリアの花を押し花にした栞が挟まれているらしい
主人公の聖遺物ですが大量のマラソンのお陰でメインステ、サブステ共に攻撃力全振りになっています(多分700くらい)。銘記の谷しか巡ってないので奇跡シリーズのままですが。