1
備考:甲自身による漏洩の場合は、甲が所属している部隊の指揮官を管理不行き届きと機密漏洩の罪で厳罰に処する。
要約すれば、楠里が502で機密ぶちまけたらラル少佐の全責任な!という意味である。
そんな理不尽な一文を苦い表情で眺めつつ、サーシャが楠里を引き連れて来るのを待つ。
「権力を持つ事は相応の責任も増える訳だ。いやー、尉官で良かったー」
ラル少佐を煽るクルピンスキーだが、残念ながら彼女も罰せられる側である。サーシャも含めて、司令室に居た4人は不正規に軍機を覗き見た事に変わりは無く、今から本人に聞いたという体にしても遅いのだ。
少し考えれば分かるだろうにと、ラル少佐は心の中でクルピンスキーを貶す。
そのように背筋に薄ら寒い感覚を各々が覚えていると、件の問題児が司令室へとやってきた。
「津家さんを連れてきました」
そう言って楠里は司令室に通され、幹部要員4名の視線を一手に集めた。
「さて……さて、うむ。まずはお茶にしようか」
ただ一言、この経歴は真実かと聞けばいいのだが、他人の暗い過去を勝手に知って聞くと言うのは、中々に勇気がいる行為である。ましてや本人がソレをトラウマに感じているのであれば尚不味い。
「はぁ」
呼び出しておいて何やら躊躇う雰囲気。楠里は何となく状況を理解した。
「えっと……最近どうですか」
「私の過去を知りましたか」
サーシャが必死に考えたであろう質問に対し、特大のカウンターで返答をする楠里。
淹れたてのお茶がどこか冷たく感じるラル少佐らだが、本人から言って来たのであればもう止まらない。
「まぁそのような感じだ」
そう言って機密情報が載ったバインダーを楠里に手渡した。
受け取ったソレを興味なさげに一読し、チラッとラル少佐の執務机を見た。そこには、ウォーロック事件の機密書類があり、色々と察する楠里であった。
因みに、察しても望み通りの言動が出来る訳ではない。
「私たちが聞きたいのはこの経歴が真実であるかどうかです。もし真実であれば……」
サーシャが切り出した話の内容を、ラル少佐が引き継いだ。
「お前の扱いを考え直さないといけない訳だ。安易に自分の過去を言い触らすなだとかをな」
「何やら私も知らなかった情報も一部ありますが、概ね真実ですね」
「その過去と501統合戦闘航空団での戦闘経験を合わせれば、あの戦闘技術にも納得行くというものだ……知らなかったとはいえ、これだけの物を良く騙し通せているものだ」
軍令部総長は楠里の為に最善を尽くしているが、政治屋も絡んでいる為に思う様に動けない。肝心の扶桑司令部は、さっさとくたばれという思いを隠しつつ融通を利かせる方針である。
平時であれば、この機密は扶桑に対する牽制やらで恰好の攻撃材料なのだが、ネウロイとの生存競争真っ只中である人類にとっては非常に不味い。
今次大戦、連合軍の主力を担う扶桑が今瓦解して欧州から全面撤退などになると、それこそ詰みである。戦力不足に陥った連合軍は瞬く間に壊滅し、解放されたガリアや最終防衛ラインのブリタニアも一瞬の内に呑み込まれる。
そうなると次の戦場はどこになるのか。
北太平洋を主戦場とし、リベリオンが総力戦へ移行するのか。それともアジア圏を突き進み、扶桑へと雪崩れ込んでくるのか。
どちらにしても碌な結果にはならない。
じゃあ、仕方ないから扶桑やブリタニアの機密に関して各国とも協力しよう、というのが今の状態である。
無論扶桑の諜報部も全力で火消しやら根回しやらを行い、終戦までには楠里関連のゴタゴタを片付ける気ではいる。
「貴女は私よりも幼い頃から、ここに居るウィッチと遜色無い地獄を生き抜いたわ。貴女の過去を上手く利用すれば尉官……いえ、佐官にもなって今直ぐにでも退役出来る筈よ」
ロスマンのその言葉は、まさしく楠里にとっては救いの一言である。だが再び書類に目を落とした楠里は、お目当ての一文を見つけると、ロスマンにも分かるように指さした。
備考2:甲が退役となった際、軍人恩給といった生活保障を行わないものとする。
「こういった保障を得るには、しっかりとした戦果やら身元やらを一定範囲内に公開しなければならないようでして、少しでも漏洩のリスクを減らしたいのでしょうね」
幾らでも書類の改竄や隠蔽ぐらい出来るはずが、楠里関連では頑なに強硬な姿勢を貫く扶桑司令部。
「どうも君の経歴が晒されると、予想以上の人員が吹き飛ぶらしいね」
「そうですね。軍令部総長のお話では将官クラスが半分程、佐官や尉官も3割程が消し飛ぶらしいです」
「ラル少佐、今すぐにでも津家軍曹を後方へ下がらせるべきです。彼女の腕があれば、新兵をより練成させる事が出来ます」
サーシャがそう進言するも、ロスマンは首を横に振った。
「残念だけど、彼女程の戦力を手放せるほど余裕は無いわ。それに雁淵軍曹に対する根性論を聞いていたら、とても教師に向いているとは……」
「ふーむ……お前、本当に面倒な奴だな」
ラル少佐は思わず本音を出してしまった。だが流石に不適切な発言かと思い、口元に手を当てて軽く謝罪をした。
「事実ですのでお気になさらないでください。それと恩給やらに関してですが、私自身の寿命はどう足掻いても後2年程ですので、金銭やら階級やらに拘りはありません」
もうすぐ死ぬから金も権力も要らないとぬかす楠里の本音は、ますますラル少佐達の胃にダメージを与えた。
ロスマンはその言葉を聞いて、楠里を優しく抱きしめた。
「貴女にもっと早く出会えていれば、もっと違う未来があったのかもしれないわ」
楠里は何も言わず、暫くの間ロスマンの抱擁を受け入れていた。
▽
楠里にしてみれば、先程のような状態は、ああまたかといった程度の思いである。誰も彼もが楠里の過去を聞いて同情し涙を流す。
楠里はいい加減そのスパイラルに慣れていたし、泣かせるぐらいなら何も言わない方がマシだと思っている。だから聞かれた時以外は、楠里からは何も言わない。
向こうが勝手に知った、それを知った上で聞いてきたなら自業自得なのだが。
「では実務的な話に移ろうか」
色々と楠里の闇が明らかになり、等しく胃にダメージが行ってから数分後。
目出度く楠里も502の幹部要員待遇となった。使えるものは使う前線に於いて、使わないという選択肢は存在しない。
それを分かっている楠里は、仕方なしと受け入れた。
「津家さんには経理関係をお願いしたいですね。私の様な半端とは違い、しっかりと基地司令を熟されていたのですから」
色々と吹っ切れたサーシャは、あわよくばこの辛さを分かち合おうと楠里を引き込む。
「
節々に思いを込めてサーシャに立ち向かう楠里。
対するサーシャはあの手この手で追い込んでいく。
「まあそこら辺りは後々調整するとして。今は補給船団に関する事だ」
▽
どす黒い闇を垣間見て暫くした後。
食堂で朝食を楽しむウィッチ達の下に、ラル少佐とロスマン曹長がやってきた。
話の内容としては、ブリタニアからムルマンスク港へ向かっている補給船団の護衛だ。飛行隊長を任じられたクルピンスキーが嫌だとぼやくも、扱いを心得ているロスマンの策により、やる気が引き出された。
そうしてメンバーの選出を任されたクルピンスキーは、管野・ニパ・ひかりの3名を選んだ。
「このメンバーなら津家もじゃねーのか」
管野の疑問は尤もである。楠里の零式は航続距離に優れているため、今回の様な長距離任務においては最適な筈である。
少し後に分かるのだが、クルピンスキーは将来に成長性のある3名を選出し、実戦や成長の機会を与えたに過ぎない。
だが楠里はと言えば、既に技術も心構えもロスマンのお墨付きであり、機密や本人談が正しければ2年で死ぬ。
連れて行けば成功率も上がるが、落ち着いた時間を過ごすべきというクルピンスキーの考えにより、今回は外されたのだ。
それを聞いた幹部要員は、意外と人を見ているとダメ人間の評価を少し上げた。
だが後々、クルピンスキーはこの時の判断をこう語る。
―――いやあ舐めてたよ。彼女は死ぬその瞬間まで、戦いから逃れられないのかもね。
1,fin.
2
「起きてください。出立時間が迫っています」
楠里はクルピンスキーというダメ人間を起こしていた。
「う、うーん……」
クルピンスキーの横で衣服がはだけた状態で寝ていたロスマンは、その騒々しさに目を覚ました。
「お目覚めですか。随分とお楽しみだったようですが、もうブリーフィングは始まってますよ」
「……えっ」
何故楠里がここにいるのかという疑問と、何故寝坊してしまったのかという疑問。クルピンスキーとの関係を見られたという羞恥と、自分の裸体を見ても平然としている部下。
色々な感情が混ざり合って、暫く口をパクパクさせていたロスマンだが、段々と顔を赤らめた。
「お二人の着替えは畳んで机に置いておきました。なるべく早くいらしてください」
「ッ、ッ!~~~~!!?!?!?」
寝起きの頭は状況を完全に理解した。
部下に情事の後を見られ、脱ぎ捨てられた衣服は綺麗に整えられている。そしてソレを見ても特に表情を変えずに去っていった部下。
実は先程から起きてロスマンの反応を楽しんでいたクルピンスキーは、もう我慢できずに吹き出した。
そうやって暫く笑った後、部屋の中から響いたのは偽伯爵の悲鳴であった。
▽
「先生とクルピンスキーはまだ来ねーのかよ。何してんだ全く」
管野のぼやきを聞いた楠里は、ラル少佐に視線を向けた。
―――言いますか?
―――
止めたいのか止めたくないのか分からないその返答に、楠里少し考えた。
「まあ暫く会えないのですし」
楠里のその回答の真実は、事情を知っているラル少佐以外は誰も分からなかった。もしここにいるウィッチ達がもう少し耳年増であれば、顔を赤らめたりと色々な反応がある。
「遅れてすいません」
「いやー、寝坊しちゃって」
楠里は心の中で思った。
別々の時間帯で来ないと露見するのではと。
「先生でもそんな事あるんだね」
「気を付けろよな」
杞憂かと楠里は結論付けた。
皆さんはとても純粋ですねと心の中で宣った。
▽
クルピンスキー、管野、ニパ、ひかりの4名が船団護衛任務の為に出撃してから数時間後。
502が駐留するペテルブルグ基地に警報が走った。
直ちに基地所属のウィッチがブリーフィングルームへと集められた。
「基地へ向かっていた補給車両がネウロイの襲撃を受けた。先行した歩兵からの情報で、今回のネウロイは非常に厄介な事が判明した」
その歩兵が現場に到着した時、物資を搭載したトラックは破壊されておらず、補給兵だけが蒸発していた。
だが奇跡的に、片腕を失った歩兵1人にまだ息があるのが確認され、救護の為に部隊が近づいた。
その瞬間、近づいた歩兵と負傷兵が全員ビームで消し飛んだのだ。慌てて銃を構えて応戦するも、どうやらビームは遥か遠くから放たれたらしい。
随行していた陸戦ウィッチのアウロラ・エディス・ユーティライネン大尉が撤退を指示。現場から数キロ離れた地点で基地を構築中との事だ。
「長距離狙撃型。しかもあえて1人を残して誘き出すなんて……」
これまでのネウロイとは違い、明らかに知性を持った戦い方をする個体の出現に、場の雰囲気はより一層重くなった。
「サーシャの言う通り、今回は非常に知恵が回る相手だ。よって、シールドを張れるウィッチが物資に近づき、敢えて狙撃をシールドで受ける。その他のウィッチは上空から監視し、発射地点を特定せよ」
「危険ですが、現状方法はそれしかありません」
ラル少佐とサーシャが前に立ち状況を説明する中で、楠里は気になる事があり挙手をした。
「どうぞ津家さん」
「そのネウロイのビーム、通常のより細かったりといった報告は上がっていませんか」
サーシャはチラっとラル少佐を見ると、頷いた少佐は報告書に目を落とした。
「ある。通常よりも一回り以上小さいビームで的確に手足を消し飛ばすらしい。まあ一掃する時はいつも通りの大きさらしいが」
楠里はそれを聞いて、左手で右手首を抑えつつ発言を続けた。
「以前の任地で、同じような戦術を取るネウロイと交戦した事があります」
「……ほう」
ラル少佐は、目で続けろと促した。
楠里は野戦服の袖を巻き上げつつ、皆に右手首が見えるようにしながら話を続けた。
「その時はウィッチも歩兵も足らず為す術がありませんでした。私の右手首に貫通創を作成してもなお仕留め切れずに逃がしました。どういった目標で動いているのかは分かりかねますが、その時は私の負傷を機に、以降は姿を見せませんでした」
楠里の傷跡をみて、余りの痛々しさにジョゼが寄ってきた。
「あの、私の治癒魔法で直せるかな」
だが楠里は首を横に振った。この傷跡は時間が経ち過ぎており、あの芳佳でさえ涙ながらに首を横に振った程である。
楠里は扶桑本土の病院でも治療不可と言われた事を話しジョゼに謝罪した。
この傷が原因で普通は握力だとかが衰えるのだが、幸運な楠里には幸いにも後遺症は無かった。
無論この幸いは中将が言い放った皮肉であり、当時は満足な治療が行われなかった。
それでも感染症やら出血やらが抑えられたのは、ひとえに楠里が魔法力を持っていたからである。
これが一般の兵なら、腕自体が蒸発して無くなるか、出血死か感染症か敗血症である。
「そのネウロイの姿形は覚えているか」
「どこか装甲ライフルを彷彿とさせる形でした。そして左右に前進翼が生えてます。位置が捕捉されたと判断すれば空中戦に移行してきますが、逆を言えばこちらが捕捉している事に気付かせなければ、空へ上がる前に殲滅出来るかと」
「ふむ、思わぬ所の経験談が生きたな。お前が居なければ、対策も取れずにまたも犠牲が出ていたかもしれん」
楠里は椅子に座ると、内ポケットから写真を取り出した。
「……貴方達の犠牲の上にまだ生き長らえてます。同個体かは分かりませんが、必ず御礼参りはしますね」
その狙撃型ネウロイの犠牲となった数名の陸戦隊1人1人の顔を見つつ、再度決心した楠里であった。
▽
件の補給部隊が襲撃を受けたのは、ペテルブルグ郊外の森林である。
昼は太陽光で見通しもそれなりなのだが、夜の帳が降りると直ちに死の森へと変貌する。
故に陽が昇っている間に撃破しなければならない。
万が一取り逃がせば、再捕捉する為に更なる出血を強いられるであろう。
「ニパさんが居れば、安心して囮をお願い出来るんですがね」
サーシャの言う通り、自己治癒に長けたニパであれば、万一負傷しても自力でどうにか出来る可能性はある。
だが彼女は船団護衛任務に就いており、あと数日は帰還できない。
「仮に居たとしても、代償はユニットの全損かもしれませんよ」
何気にロスマンが酷いことを言うが、薄情な事に否定するメンバーは居なかった。
『危険だが、一番魔法力とシールドが安定しているサーシャが適任だ。先生の火力は位置特定後に一帯を一掃するために置いておきたい』
「まあ来たとしても1発ですから大丈夫ですよ」
時間が無い為、空の上でブリーフィングを行うウィッチ達。
サーシャも緊張はしているが、重要な役目である為弱音も吐かない。
「基地からの砲撃支援は可能ですか」
楠里が管制室で指示を出しているラル少佐に問うも、返って来た返答は無慈悲な物であった。
『今日に限って一番ベテランの砲兵担当が有給でな。街に出ているのを確認しているので呼び戻している最中だ』
それはつまり、狙撃型ネウロイの位置が分かっても対処が難しいという事だ。
西暦世界において狙撃兵は一番嫌われる兵科であり、捕まれば捕虜にすらなれない。
それはスコープ越しに覗いた敵兵は確実に生きていられないからである。
狙撃兵1人で1個中隊規模なら数時間足止め出来る上に、今回の様に生餌の戦法も躊躇なく行う。
それ故に敵味方双方から嫌われる/嫌われていたのである。
ではそんな狙撃兵相手に有効な戦術は何か。
それは今も昔も、西暦世界もこの世界も変わらない。
答えは簡単で、怪しい所を片っ端から火砲や爆撃で吹き飛ばせばいい。
だが今回それが出来るのは、ロスマンの持つフリーガーハマーだけである。
「作戦空域に入りました。総員警戒を」
戦闘隊長のサーシャの後ろに、続々とウィッチが続く。
そうして件の補給車両の真上に来たメンバーが見たものは、飛び散った人間の四肢やら、かつて人間であったであろう炭化した物体である。
その凄惨さに、楠里以外のウィッチは口元を抑える。
「こんな、酷い……」
下原のその言葉は、その場に居たメンバーの総意であった。
そんな惨劇が繰り広げられている地上では、あえて生かされている歩兵が居た。
だがその右腕は既に無く、夥しい程の血が噴出している。
「ッ、降下して攻撃を誘います。皆さんは位置の特定を」
サーシャが負傷兵を助ける為にも、シールドを張りながら降下していく。
ジョゼも応急処置を行う為サーシャに続く。
その上空では、楠里らが目を光らせて全周警戒を行っている。
「ぁ……つ、そ」
今にも息絶えそうな歩兵を守るように降り立ったサーシャとジョゼ。
そこで、サーシャは瀕死の歩兵の服に違和感を覚えた。
―――この服、津家軍曹のと同じ?
直後、そのシールドにネウロイのビームが着弾した。
威力こそ低かったものの、明らかに急所を狙った一撃に、サーシャは肝を冷やした。
「捕捉しました!
軍用地図にAからZまで格子状に直線を引き
今回の場合は
下原の魔眼を用いた観測により、楠里達はその座標へ急行する。
そうして目標に近づいた時、ロスマンがフリーガーハマーを使いネウロイに攻撃をしかけた。
一斉発射された弾頭が、ネウロイが潜んでいるであろう地点を焼き尽くす。
だが煙が晴れても何も反撃は行われず、辺りには痛いほどの静寂が舞い降りた。
そうして暫く警戒していたのだが、結局何も反応が返ってこなかった。
「失敗……」
座標が間違っていたのか即座に移動したのか分からないが、一度サーシャの下へ戻る事となった。
悲痛な表情で各々がサーシャの下へ合流すると、既に息絶えた歩兵が横たえられていた。
「……」
「仕方ありません。一度退却して態勢を立て直しましょう」
「何も反応が無いのが気になりますね」
サーシャとロスマンがそう話し合う中で、楠里は息絶えた歩兵の顔を見つめていた。
さらに嘗て無い程に歯を食いしばり、今にも持っている九七式自動砲を握り潰しそうな程である。
「魔眼で発射地点は見えていました……どうやら発射直後に移動したようです」
周囲を警戒しながらも軽く状況分析を続ける。他のウィッチ達も各々が気を張り詰めている。
「ではユーティライネン大尉の野営地へ撤収します」
そうやって他の空へと次々と空へ上がっていく中で、楠里だけがその場に残り続けた。
「……貴方は、故郷の幼馴染と結婚するのだと言っていたじゃないですか」
楠里は既に物言わぬ歩兵に対して声を掛ける。
その様子を不審に感じたロスマンが楠里の下へ戻ってきた。
「何をしているの津家軍曹、撤収よ」
楠里はロスマンを一瞥し、歩兵の懐から認識票を見つけ出すと胸ポケットへと入れた。
「遅れました。直ぐに合流します」
ロスマンに一言掛けると、楠里も空へと上がった。
▽
野営地にて。
サーシャ、ロスマン、楠里の3名は地図を囲んで話し合っていた。
周りには基地所属の歩兵が巡回を行い、簡易だがテントも張られている。
だが話し合いの結論は一向に出ず、結局はネウロイが撃った後直ぐに移動をしたという意見に落ち着いた。
「次はウィッチを広範囲に置き索敵します。捕捉した場合は、確実に攻撃が当たる範囲まで接近した後に囲んで叩きます。地を這って動けば必ず痕跡は残ります。空に上がれば我々の目にも留まります」
「知性を持ったネウロイ……この1体だけで基地の補給線が潰されたに等しいわね」
楠里は、今こそミーナやサーニャが居てくれたらと願った。彼女らの固有魔法はこのようなネウロイに対して凄まじい効力を発揮すると共に、一方的に攻撃を加える事が出来るからだ。
「どうやら補給車両に近づく生物を狙撃しているようです」
楠里自身の見解も述べ、大まかな方針が決まった。
「日没まであと3時間と言った所です。今より小休止の後、作戦を開始します」
サーシャがそう伝えると、各々が自分の銃の予備弾薬を確保していく。水を飲んだりして気を落ち着ける者もいる。
そんな中、楠里は少し離れた場所で木に背中を預けていた。
手に持った先程の認識票を眺めながら、かのネウロイを殺す算段を頭の中で組み立てる。
「ちょっといいかしら」
楠里が考え込んでいると、ロスマンがやってきた。
先程様子がおかしかった楠里を心配して、様子を見に来たのだ。
「どうされましたか」
正直に言えば1人にして欲しいのだが、楠里はロスマンへと視線を向けた。
「犠牲になった兵を見ていた時、泣きそうな顔だったわ」
「よくある話です。戦死した味方が知り合いだったとか、そういうものです」
「……そう。差し支え無ければ聞いてもいいかしら」
楠里はその認識票を眺めながら、ゆっくりと語り始めた。
「扶桑海軍、第9陸戦隊所属の上等兵でした。私の、部下だった人です」
「……」
「彼は、本土に帰れば結婚するのだと言っていました。幼馴染と2人で写った写真を、何度も見せては周囲に自慢していました」
「……」
「私の着る服が無かった時、野戦服の予備をくれたのもあの人です。1日を乗り切る度に、今日も生き残れたと写真を胸に抱いて泣いていた人です。彼の地にはそのような兵士だらけでした」
「……」
「名誉除隊をして、秋田に帰ったと思っていたんですがね」
「かつての貴方の部下と、その右腕の貫通創を以てしても仕留められなかった相手。必ず、今日ここで撃破しましょう」
「そうですね。そろそろ行きましょうか」
楠里もロスマンも、決意を新たにその1歩を踏み出した。
▽
再度補給車両上空に来た楠里達は、今度は広範囲に散開して待機する。
そして先程と同じく、サーシャが車両に近づいてシールドを張った。そして少し間を置いた後、ビームがシールドに着弾した。
「捕捉しました!」
下原がそのビームの発射地点を特定して味方に伝える。だが今度は直ぐに手を出すのではなく、動きが無いかをじっくりと観察する。
「動いたわ。どうやら撃ってから5秒程その場に留まり、10メートル程前後左右に動くようね。フリーガーハマー着弾までなら、十分可能な動きよ」
「あ、目標が止まりました!」
「座標再確認。固定……大丈夫です、今なら……あれ、まだ少し動いている?」
砲身の先がゆっくりとだが空へと向き、薄く発光しだした。
その瞬間、楠里は強烈な寒気を覚えその場を退避した。
直後、楠里が先程まで居た場所を極大のビームが通り過ぎて行った。
『なっ!?』
その場に居た全員が驚愕し、即座にネウロイに銃を構える中で、その行動を取れない人物が居た。
「しまった、ユニットが!」
―――機を掠ったか。
ロスマンと楠里のユニットが被弾し、黒煙を吐きあげて高度を落としていく。
「今助けに行きます!」
ジョゼがそう言って近づこうとするが、楠里が真っ先にそれを止めた。
「相手の思う壺です。こちらは何とかしますから一度撤退を」
ロスマンという火力が無くなった今、確かにネウロイに対して効果的な攻撃は行えない。サーシャは一瞬判断に迷うも、自分よりベテランかもしれない楠里の意見を信じ、下原とジョゼに退却を命じた。
2人がそれを拒絶するも、ロスマンからの言葉も付け加えられ、撤退する事となった。
「何度撃墜されたのでしたっけ」
もう自身でも覚えていない事をぼやきながら、暴れるユニットを操作して地面に何とか降り立った。
そのすぐ近くでは、ロスマンも何とか不時着をしている。
「曹長、こちらへ」
太い木の根元に不時着した楠里は、ロスマンの腕を引っ張って自分の下へと寄せた。
「はぁ、はぁ……貴方、慣れてるのね」
「ネウロイのビームを食らって穴開いた体で、極寒の海に突っ込んで海水浴をしたご経験は? 文字通りの死に物狂いで陸に上がった後、吹雪の夜をユニットを担ぎながら素足で雪中行軍したご経験はありますか。それに比べればこの程度」
「流石に、それは無いわね……」
「ロスマン曹長殿でしたら、私より悲惨な過去をお持ちなのかと」
―――そんな過去を経験してたらもっと擦れている自信があるわね。
そう思いつつもお互い息を整え、何とか撤退しようと立ち上がったその時。
「しまっ―――」
ロスマンが足に激痛を覚え、隠れていた木から出てしまった。
不時着の衝撃で捻ってしまったと瞬時に悟り急いで戻ろうとするが、長年の経験から来る勘が極大の警鐘を鳴らしていた。
まるで走馬燈を見ているかのようにロスマンの体感が遅くなる。
チラリと横を見ると、ネウロイの細いビームが迫って来る様子を、ロスマンはハッキリと肉眼で捉えた。
ロスマンの眼は、自分の肉体が楠里によって突き飛ばされ、ビームの脅威から守ってくれた事もはっきりと捉えた。
そして不幸な事に、楠里の首にネウロイのビームが直撃する様子もしっかりと捉えた。
その瞬間、楠里の首から噴き出した大量の鮮血が、ロスマンの全身を紅く染め上げた。
「あ…、ああ……嫌あああああああああああ!」
ロスマンの悲鳴が、森の中に響き渡った。
2,fin.
私「どんなキャラで楠里をイメージしてる?」
リア友「Teach○ng feel○ngのシル○ィ」
※実際に行われた会話です。
今回の座標計算や狙撃型に対する対応について。
実際の座標や戦術を修めておられる方からすればおかしい所だらけの筈です。
でも演出の為だから許してください!(予防線)