シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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古参兵の魔女

1

 

「―――ッ!―!」

 

 日付も変わり、基地のメンバーが寝静まった時間帯。

 狙撃型ネウロイの妨害により、家具の到着が遅れた自室で目を覚ました。

 

 身を包んでいた毛布を小さく折り畳んで地面に置くと立ち上がった。

 

「うるさい」

 

 楠里の部屋は、サーシャが直した暖房器具以外は全くの手付かずである。それ故に隣室であるクルピンスキーの部屋から時々物音が聞こえるのだ。

 

 今夜聞こえてきた音は、クルピンスキーとロスマンの情事の声だ。

 どれだけ大声なのかと最初は思ったが、どうやら部屋を区切る壁自体が防音性皆無らしい。

 

 狙撃型ネウロイの一件以降、火が着いたのかタガが外れたのか連日連夜この状態であった。

 

 クルピンスキーは本来、病室のベッドで安静である。だが自室の方が落ち着くという理由で病室には居ないのだ。楠里も首が物理的に吹き飛びかけたので病室案件なのだが、あの手この手で自室療養となった。

 なので当初は我慢していた楠里だが、それも5日も経てば話は別である。

 

 遣欧航海中の赤城、501、502といった環境に慣れてしまった楠里は、最果て時代とは比べ物にならない程弛んでいた。

 当時の楠里が今の楠里を見れば、本当に同一人物かと目を丸くするであろう。

 

 何とかしなければと思いつつ部屋を出ると、未だ仕事をしているラル少佐の執務室へと足を向けた。

 

 

「だからといってな、私の所に来られても困るんだが」

「相部屋の命令を出されたのは少佐ご自身ですので、是非ともご協力頂きたく」

 

 ラル少佐は『こいつマジ?』といった表情を楠里に投げかけると、溜息一つ立ち上がった。

 そして部屋の温度が上昇するよう暖房器具に設定を入力してソファーに座った。

 

 そのソファーは来客が座る応接用であるため質が高い。

 

「今日はここで寝ていい。だが明日は雁淵の部屋にでも行け」

「お2人に少々自重して頂けるよう言って下さればいいんですが」

「それを言う為にも先ずは起床時間を待たねばならん。大体素直に改修と家具を受け入れていればこんな事にはならなかったんだがなあ」

 

 ラル少佐は楠里にブツブツ文句を言いながら、机に隠していた茶菓子を数個投げ渡した。

 

「私は味覚がありません」

「よし返せ。白湯でも飲んでもう寝ろ」

 

 機密書類に味覚云々は無かったろうがッ……!といった表情を浮かべながら頭を掻き毟るラル少佐。

 

「では本日だけお借りします」

「はぁ……私は仕事を続ける。風邪なんざ引いてくれるなよ」

 

 その後、よくよく考えれば病室に行けばいいだろというラル少佐のツッコミが炸裂した。

 

 

 楠里のユニットをネウロイが持ち去った。

 

 ネウロイがユニットを解析するのかどうか疑問が残るが、当面の問題はただ一つ。

 

「津家軍曹のユニット……予備がありません!」

 

 扶桑から送られてきた追加物資には、新しいユニットと予備パーツ一式が入っていた。

 だがブレイクウィッチーズの活躍があり、見事に使い潰された。

 

 サーシャは規格の違う他国のユニットに互換性を持たせ、ニコイチやらで頑張っていた。

 だがその頑張りは、予備パーツやら新品ユニットの部品という犠牲の上に得られた結果だ。

 

 それ即ち、手元にあるのはガワこそ零式艦上戦闘脚だが別物となった何かである。

 内部はスカスカで起動すら怪しい。

 

「多分、本来……いえ絶対、あの物資は津家さん用でした。けど、けどもぉ!」

 

 サーシャが涙目で楠里の肩を掴み揺らす。

 その必死さに目を背けた楠里は、横で冷や汗を垂らしている3名に視線を向けた。

 

 楠里と視線が合った3人は、明後日の方向へ視線を向けた。そして3人で和気藹々と世間話を始めた。

 

 それを見たサーシャは全身に魔法力を纏い、拳をグーに握り締めた。

 

「お待ちください。魔法力を使った暴力は……これをどうぞ」

 

 楠里は懐から銃剣を取り出してサーシャに持たせた。

 

「はいどうも」

 

 その様子を見た3人は大声で叫んだ。

 

『サスペンスになる!?』

 

 後に、再結成した501でも似たような事件が起こる。

 

 

 夜のハンガーにて、楠里はユニットを弄っていた。

 

 中身を抜き取られた零式艦上戦闘脚二二型が使えるかどうかの実験も兼ねている。

 魔法力、所謂エーテル放出機関は無事であったが、魔法力でペラを生成する部品が無かった。

 

「ポクルイーシキン大尉、器用ですね」

 

 あまりに鮮やかなサーシャの技術力に楠里は苦戦していた。

 

 ジャンクが入った箱の中から規格に合う物を手に取っては試し、一定以上の数値が出なければ取り外す。

 この作業を始めてもう5時間近くになる。

 

 当初は何も反応を示さなかったユニットだが、何とか起動シーケンスが完了する所までは漕ぎ着けた。

 

 そんな風に寒いハンガーにてせっせと内職をしていると、急に廊下に繋がる扉が開いた。

 

「あれ、津家さん何してるの?」

 

 入って来たのはひかりであった。

 楠里はスパナで自分の肩を叩きながら、事のあらましを伝えた。

 

「ひかりさんこそこんな時間にどうしましたか」

 

 ユニットの整備も出来る楠里を尊敬の眼差しで見つめていたひかりは、楠里の質問にハッとなり答えた。

 

「お姉ちゃんの事なんだ。あれから何も連絡が無くて……」

 

 雁淵孝美中尉は、北極海での負傷で本土送還となったひかりの実姉である。

 

「確か、今は舞鶴の軍病院だったかと」

 

 チラッとラル少佐宛てに来た報告書の中身を盗み見ていた楠里は、ひかりにその事を伝えた。

 流石に容体まではとも付け足したが。

 

 

 だが、そんな2人の下へ管野がやってきた。

 

「心配すんな。孝美は簡単にくたばる奴じゃねえ」

「そう、ですよね」

 

 管野のその言葉は、心の底から雁淵孝美の事を分かっている声色だった。

 そこから管野とひかりは2人で話し込んだ。

 

―――何もここで話さなくても。

 

 寒いハンガーだというのに襦袢で話し込む2人。楠里は我関せずとユニットの部品をまた試し始めた。

 だがそこで管野から楠里に指名が掛かった。

 

「で、お前はこんな時間に何してんだ」

「追加補給で来たユニットの中身『も』予備パーツに使われていまして。なのでジャンクの中から使える部品を探しているんです。何故無いのか、詳しい事情をご存じありませんか」

 

 楠里は管野に問いかけた。

 原因なんて普段の行動と昼のサーシャを見て分かっているので、管野がどう答えようと楠里は誤魔化せない。

 

「知らね。大変だな」

 

 楠里はその答えを聞くと、管野の後ろを指さした。

 

 だが管野のとて今の返答が不適切である事を理解している。なので楠里が少しでも何か言ったら謝る予定であった。

 

「―――」

 

 だが楠里は何も言わずに管野の後ろを指さすだけだ。

 そして管野も歴戦のエースであるため、その意味をしっかりと受け止めた。

 

「か・ん・の・さ・ん・♡」

 

 膝を笑わせながらも必死で現実逃避する管野は、ひかりに視線を向けた。

 

 だがそこに映っていたのは、スヤスヤと眠りこける雁淵ひかり軍曹の姿であった。

 

 夜のハンガーに悲鳴と怒号が響き渡った。

 

 

 

 数日後、サーシャが管野を庇って撃墜された。

 

 度重なるウィッチ撃墜が続き、またもやペテルブルグ基地は警戒態勢に入った。

 

 だが管野が思い悩む中でもネウロイが待ってくれたりはしない。

 怪我をしたサーシャと、ユニットが無い楠里を残し、他のウィッチは出撃した。

 

 滑走路を離陸していくメンバー達を、サーシャと楠里の2人は病室の窓から眺めていた。

 

「501では坂本少佐の魔眼でコアの位置は瞬時に分かりました。ヴィルケ中佐の三次元空間把握で戦域内はウィッチの独壇場でしたし、リトヴャク中尉の全方位広域探査で見失う事もありませんでした」

「それ聞くとヴィルケ中佐は戦力を抱えすぎですね……」

 

 欧州最後の防波堤であったため、力の入れ様も凄まじいのだ。

 各国のエースの中でも、更に一握りのトップ達で構成されている。

 

「では私の最初の任地の話を。航空戦力は私1人で、武器は歩兵用の銃が1丁のみでした。貧弱な火力でコアを探す作業は骨が折れましたよ。ユニットなんてポクルイーシキン大尉が中身を抜いた物ぐらい酷かったですし」

「機密書類で見ましたが、改めて聞くと極端ですね……」

「大尉殿は頑張っておられますよ」

 

 サーシャはそれを聞いて、窓の外をもう一度眺めた。

 

「……怪我したせいで忘れてたけど、ヴィルケ中佐からお手紙が届いていたわ。貴方、ちゃんとヴィルケ中佐にお手紙出した?」

 

 瞬間、珍しく楠里の額に汗が流れた。

 

「……」

「貴方からの手紙が来ないって書いてあったわ……涙で滲んだ痕跡もあったし」

 

 楠里は手を口元にやり、目を瞑って考えた。

 もういっそ開き直って忘れてましたと言うか、今から書いて謝るか。

 

 長い間悩んだ結果、楠里は手紙を書くことにした。

 

「すいません。席を外します」

 

 サーシャは苦笑してそれを見送ると、管野達が戻ってくるのを待つのであった。

 

 

 

 その日、ペテルブルグ基地に輸送機が降り立った。

 そして機体の中から、元帥徽章を付けた人物が出てきた。

 

 

「マンシュタイン元帥に敬礼」

 

 ラル少佐を始め、ブリーフィングルームに集まった全てのウィッチが敬礼を取る。

 ペテルブルグ軍集団を統括する最高責任者の1人であるマンシュタイン元帥は、敬礼を返すと着席するように言った。

 

 マンシュタイン元帥から伝えられた言葉は、ネウロイの巣であるグリゴーリ攻略作戦についての概要であった。

 

 概要を聞いたラル少佐は、巣の破壊方法は501に準ずるのかと質問をした。

 だが元帥はネウロイの技術は手に余ると言ってその杞憂を払拭した。

 

「まあ巣を破壊した当事者の1人がいるのだ。選定した魔眼持ちのウィッチと共に頑張ってくれ」

 

 前半はラル少佐だけに聞こえるようにしつつ、後半は室内全員に聞こえるように言った。

 

「ふむ?」

 

 ラル少佐は元帥を狸爺と心中で罵倒しながらも、表面上はその発言の意味が分からないよう振舞う。

 

「……まあいい。気を付けたまえよ少佐、僅かに視線が彼女に向いたぞ?」

「……」

 

 

 ひかりに危険な真似はさせられないとウィッチ達が異議を唱える中でも、マンシュタイン元帥はどこか涼し気な顔であった。

 

 そんな中で何も喋ってない楠里は、ラル少佐とマンシュタイン元帥の間から嗅ぎ慣れた機密と策謀の匂いを感じ取った。

 原因かつ張本人の楠里は、大変ですねと呑気な考えを張り巡らせていた。

 無論ラル少佐がどのような事で元帥と睨み合っているのかも全部理解した上での行動だ。

 

 座りながらソレを眺めつつ、元帥に対して騒ぐウィッチ達の声に耳を傾ける。

 

「……おや、エンジン音?」

 

 楠里のその言葉は、騒がしかった人員の眼を窓に向けるのに十分であった。

 

 そのエンジン音を聞いたひかりは、笑顔で滑走路へと駆け出して行った。

 

 

 

 雁淵ひかり軍曹の姉である雁淵孝美中尉が前線に復帰した。

 基地のメンバーと挨拶を交わして復帰を喜ぶ中、楠里は離れた所でそれを見ていた。

 

 楠里は孝美へ一言も声を掛けずにその場を離れた。

 

「あっちか」

 

 目指すはひかりが居る滑走路である。

 

 そしてお目当ての人物を見つけると声を掛けた。

 

 

「ひかりさん」

 

 驚いたひかりはぱっと振り返ると、視界に楠里の姿を収めた。

 すると突然ひかりの眼から涙がポロポロ零れ始めた。

 

 何とか止めようと手で拭うも、堰が切れたのか止まらなかった。

 大声で泣くのではなく、ただ静かに泣くその姿を見た楠里は、優しくひかりを抱き寄せた。

 

 楠里の方が小さいので何とも恰好付かないが、今のひかりには十分であった。

 

 膝を突いたひかりは楠里の胸に顔を埋めて涙を流した。

 手をぎゅっと腰に回して泣くひかりの頭に楠里は手を乗せて撫で続けた。

 

 

 夕焼けが辺りを照らす頃、楠里はひかりの涙と鼻水でドロドロになった野戦服を洗っていた。

 

 傍には泣き止んで顔を赤くしたひかりも立っている。

 

「私に姉妹は居ませんので大きなことは言えませんが、雁淵中尉の気持ちは分かるつもりです」

 

 ひかりからすれば、あれほど憧れていた姉と共に戦えると舞い上がっていたのに、姉からは冷たい目で帰れと言われたのだ。

 頑張って訓練もして、最近ではその頭角も現してきた矢先にコレである。

 

 だが姉の孝美からすれば、可愛い妹が自分の怪我のせいで最前線で戦っているのだ。しかもまだ予備学校を出ていない学生であるにも関わらずだ。

 

 胸が張り裂けそうな程心配し、冷たく接してでも安全な場所へ行かせたいのだ。

 まあカウハバも貞操が失われるという意味では危険地帯ではあるのだが。

 

 孝美は幼い頃から妹のひかりを溺愛してきた。

 それ故にマンシュタイン元帥と取引をしてでも戦場から退かせたかった。

 

―――ダメ、か。

 

 楠里は真面な人生を歩んでいない為、高尚な助言などは出来ない。

 なので落ち込んだひかりを慰める言葉などは思いつかない。

 

 出来る事と言えば、黙って涙を拭いて話を聞いてあげる事だけである。

 

 

 だがそんな些細な事でも、今のひかりにはありがたい事だったのだ。

 

 

 

 孝美とひかり。

 どちらが502の部隊の人員として相応しいか。

 

 危険から遠ざけたい姉と、やってみないと分からないと引き下がらない妹。

 

 ラル少佐は薄く笑うと2人に魔眼を用いたコア特定の勝負をするよう言い渡した。

 

 だが負けた方はカウハバへの転属となり、ここを去る事になる。

 

「私はやるよお姉ちゃん。やってみなくちゃ分からないし、やらねばならないなら、やるしかないんだよ!」

 

 それを聞いたロスマンは顔に手を当てて沈痛な表情を作り溜息をついた。

 

「あぁ……」

 

 不肖の弟子が超害悪思考に染まった。

 ロスマンは元凶である楠里に視線を向けたが、当の本人はひかりを見て頷いていた。

 

 死ぬ気でやれば何でも出来る精神の楠里は、唐突に手を挙げた。

 

「どうした津家。言っておくが肩入れなどするなよ」

 

 そんな事しませんよと前置きをしつつ、楠里は内容を述べた。

 

「私は雁淵ひかり軍曹がカウハバへ着任するまでの護衛兼教官の役目でした。雁淵軍曹が着任後はそのまま本来の配属先へ向かう予定でした」

「……で?」

「前の命令は撤回されていません。今は雁淵軍曹が502にいるため、私もラル少佐の指揮下に入っている状態です。少佐はお分かりかと思いますが、彼女が本来のカウハバに行く場合は、私も502より抜ける事となります」

 

 その発言は、ラル少佐以外を驚かせるのに十分であった。

 

「それについてはこちらも元帥と交渉中だ」

「ペテルブルグ軍集団は北部方面司令部隷下で、私の所属は西部方面司令部隷下ですが」

 

 いかに元帥と言えども、他方面の人事、ましてや他国の人事においそれと口出しは出来ない。

 津家楠里を502に留める代価として何が出来るのか、または差し出せるのか。

 元帥は楠里も使ってでも作戦に臨めと言ったが、部隊から引き離さないとは言っていない。

 

「ちょっと待てよ! あの時少佐は上には私から言っておくって言ったじゃねーか!」

 

 それは、ひかりと楠里が初めて502のメンバーと出会った時の話である。

 

「あの時は事態が事態だったからアレで通っただけだ。状況が本来の形に戻りつつある今、津家の意見は正しい……まあ易々とは手放さん」

「西と東の狼か……」

 

 楠里はそう呟くと、ひかりに視線を向けた。

 

「というか津家、本来の部隊ってどこなの?」

 

 ニパがなんと無しに質問を投げかけた。

 その質問に答えようと口を開けたその瞬間、ラル少佐が答えた。

 

「オラーシャ空軍第404航空隊だ」

 

 少佐は楠里に黙ってろと視線を向け、楠里はその口を静かに閉じた。

 

「兎も角、結果如何では私もここから消える事になります」

 

 楠里はそう言うとブリーフィングルームを去っていった。

 

 ラル少佐は頭を回転させる。孝美が勝てばひかりと楠里が消える。

 だがひかりが勝てば能力と戦力が1級の孝美が消える。

 

 文面だけ見れば孝美を残す方が正解なのだが、楠里という航空戦力も手放すには惜しい。持っていると劇物に変わりは無いが、それを差し引いても経験と戦闘力は貴重である。

 

 だがラル少佐がひかりに何も期待していなければ、そもそも勝負すら言い出さなかった。

 その言葉を引き出すだけでも、ひかりの人望と成長速度は凄まじい物である。

 真っ直ぐな言動は誰からも好かれる物であったし、ラル少佐もそれを気に入っている。

 

 あとはラル少佐の悪癖で、分の悪い方に賭ける性分が働いたのだ。

 

1,fin.

 

2

 

 

 

 兎にも角にも、勝負の日はやってきた。

 

 楠里のユニットは、マンシュタイン元帥と共にやって来たパーツのお陰で飛行が可能となった。

 更にサーシャがお詫びも兼ねて、基地の整備兵と共に出来うる限りの改造を施した。

 

 とはいっても、魔法力を伝達する管の配列を少々弄り、僅かに伝達効率を上げたりなどである。

 そんな些細な改造ではあるが、魔法力の無い楠里にとっては劇的に動かしやすくなった。

 

 孝美に勝てば巣への特攻。負ければカウハバで貞操が散る。

 しかも姉の純粋な心配で起きた今回の事件。

 

 地獄への道は善意で舗装されているとは良く言ったものである。

 

 扶桑海の巴御前も喰われたと言うのだから、カウハバはキケンがアブナイのも納得ではある。

 

 

 敵は以前の船団護衛任務でクルピンスキーらが撃墜した筈の個体。

 どういう訳か完全に再生しており、再度戦う事となった。

 

 戦闘が始まって僅か数秒、孝美がネウロイのコアを特定した。

 それをラル少佐が的確に撃ち抜き、勝負は決まったかに思えた。

 

「コアの中に、もう一つコアがある!?」

 

 その言葉に、楠里はまたこのパターンかとネウロイを睨んだ。

 それは人類の戦術がネウロイの戦術に何歩か遅れていると証左するに等しかった。

 

 幾重にも小型に分離したネウロイは、次々とひかり達に襲い掛かる。

 

 その場で必死に応戦する孝美だが、その横をひかりが通り過ぎた。

 

 驚いて止めようとするも、ひかりはネウロイの攻撃をヒラヒラと躱し続けている。

 

「ここで、体をこう捻る!」

 

 それは、楠里に手を引かれて体験した戦闘機動を模した物だった。

 

 非常識な機動を扱えるようにひかり自身がアレンジした物で、ひかりがエースの仲間入りを果たした証でもある。

 

「あんなに……あんなに強くなったのね、ひかり」

 

 何処に行っても恥ずかしくない自慢の妹だと抱きしめてあげたかったが、それでも姉として妹の危険を見過ごす事は出来ない。

 自分が残ってでも危険から遠ざけたい過保護な姉は、負けじと敵に喰らい付いた。

 

 

 

 熱い姉妹勝負の結果は、傍目から見れば引き分けであった。

 

「流石撃墜数世界3位殿」

 

 楠里はラル少佐に称賛を送るが、茶化すなと返した。

 

「さて、引き分けか」

 

 ラル少佐は敢えて引き分けと言った。

 だが傍で九七式自動砲二号D型改を構えていた楠里は、胡乱な視線をラル少佐に向けた。

 

「速度か正確性か。どちらを選ばれますか」

 

 コアの特定が早い孝美か、直に触れて正確性を上げるひかりか。

 

「……はぁ。元帥との交渉が纏まらなかったのが痛いな」

 

 その言葉が指す意味とは、即ちひかりが敗北したという意味であった。

 

 あわよくば3名とも502に抱え込みたかったが、現実はそうも甘くないのだ。

 ミーナの様な化け物クラスの立ち回りを演じてもギリギリだという程、人材は貴重なのである。

 

「よろしければ、501にひかりさんを推薦しましょうか」

「止めろ……いや本当に止めてくれ」

「遠慮なさらず。きっと受け入れてくれますよ」

 

 だから問題なんだとラル少佐は頭を抱えた。

 ただでさえミーナの下にはJG52のハルトマンとバルクホルンが付き従っているのに、スオムスやガリアやオラーシャのトップエースまで抱え込んでいるのだ。

 ブリタニアの超掘り出し物であるウィッチや、扶桑のトップエースまで在籍している。

 ついでに楠里も、挙句にひかりまで取られたら本当に手が付けられなくなる。

 

「少しは他の部隊の影響も考えて欲しいモノだ。割を食うのは私達だぞ」

「少佐も書類に魔法を掛けて物資の流れを変えているではありませんか」

「そうでもしないと一瞬で崩壊するからな」

「確か下原さんも元は501に着任予定でしたね」

「そうだな」

「グリゴーリ攻略作戦において坂本少佐も引き抜こうとしておられたとか」

「そうだな」

「……どうりで」

 

 まあ楠里自身もミーナの抱える戦力の大きさはどうかと思う。

 だが思うだけで何も行動は起こさない。

 

 ミーナもラル少佐も、方々に手を尽くして戦力や物資をかき集めている。

 楠里は2人の手腕を尊敬こそすれ、貶める気は無い。

 

 だがその腕の影響で嘆く部隊も居ますねという思いがあるだけである。

 

 

 

 その日、正式に雁淵ひかりと津家楠里の両軍曹が502を離れる事になった。

 

 楠里は輸送車を運転する兵士と経路の再確認を行っていた。

 

 その傍ではひかり達がお別れを言い合っている。

 

「あの、軍曹殿は参加しなくてもよろしいのですか」

 

 歩兵は気を利かせて楠里に問うが、本人は首を振った。

 

「どうせ直ぐに会う事になるので大丈夫です」

 

 先日、エイラから手紙が届いた。

 その内容はミーナ宛てへの手紙を忘れていた事を怒る文と、ユニットと銃の整備を怠るなという文であった。

 

 最初は意味が分らなかったが、どうもエイラの占い関連から出たアドバイスだと考えると気も引き締まる。

 

「そうですか……」

 

 ウィッチにはウィッチの事情があるのだろうと納得し、再び地図に視線を落とした。

 

「津家、本当に津家も転属なんだね……」

 

 ニパが寂しそうに楠里の手を握った。

 

「カタヤ……ニパさん。今生の別れではありません。またいずれ何処かで会えますよ」

 

 楠里は寿命的に会えるか分からないが、平然と嘘を言い放った。

 その言葉は幾分かニパを慰めるに至ったらしく、先程よりは柔らかい表情となった。

 

 少し離れた所で見送る管野を視界に入れつつ、楠里は輸送車へと乗り込んだ。

 

 そして暫くしてひかりも乗り込んできた。楠里は運転手に出発を指示し、とうとう輸送車は動き出した。

 

 

 

 ペテルブルグ、スオムス駅。

 

 北欧における交通の要衝であるこの駅には、戦時である為軍人が犇めき合っていた。

 

「確かスオムスから迎えの人が……」

「あぁあちらのお2人ですね」

 

 そう言われてひかりの目に入ったのは、嘗てサトゥルヌスで基地にやって来たエイラとサーニャの姿であった。

 

「よお」

「2人とも、久しぶり」

 

 エイラとサーニャはひかりと楠里に近寄って挨拶をした。

 

「エイラさん! サーニャさん! 迎えに来てくれたんですね!」

 

 ひかりが嬉しそうに近づく中、楠里はサーニャから静かな怒気を感じて僅かに離れた。

 

「久しぶりだなひかり。津家もどうせ逃げられないんだから諦めろ」

 

 

 そうして4人は列車での移動となった。

 

 向かい合わせで座り雑談を繰り広げた。

 

「そういえば気になってたんですが、お2人ってあの第501統合戦闘航空団だったんですよね!? 501の話を直にお聞きしたいです!」

 

 ひかりがキラキラした目でエイラ達に詰め寄ると、サーニャはひかりに落ち着くよう宥めた。

 

「ん、聞くも何もメンバーだった津家から―――」

「エイラ!」

「あ……今の無し」

 

 にはならない。

 楠里がひかりの横であーあと天を見上げる。

 

「え、ええええ!?」

 

 ひかりの驚いた声が車内に響き渡った。

 

「ラル少佐の監督不行き届きになりましたねコレは」

 

 エイラはうごごと頭を抱えて下を向いた。

 

「もう……ひかりさん、今聞いた事は他の人には言わないようにね」

「え、どうしてですか!?」

 

 サーニャは楠里の方を見たが、楠里は視線を逸らした。

 仕方が無いのでサーニャが理由を言おうとした。

 

「えっとね……えっとね。い、色々あって……」

 

 正直に言う訳にもいかず、かといって何か良い理由も思い浮かばない。

 なので出てくる言葉はこのような玉虫色の返答である。

 

 横でエイラがどうしようかとオロオロする中、楠里はひかりの肩を指で叩いた。

 それに気づいたひかりが楠里を見ると、楠里は黙って窓の外を指さした。

 

「あ、皆だ……」

 

 地上からでもはっきりと見える飛行機雲。

 そしてそれを作り出しながら大空を進む502のウィッチ達。

 

 1人1人の姿を確認して、頑張れと応援をする楠里。

 

 エイラも姉がいるのでその気持ちが理解出来るらしく、優しくひかりの話を聞いていた。

 

「はぁ……あぁーん?」

 

 エイラは自分たちも出撃したいとぼやきながらタロット占いを行った。

 

 だがエイラにも予想外の結果が帰って来た。

 

「エイラ、どんな未来が視えたの?」

「死神の逆位置ぃ?……死神に好かれてんなお前」

 

 死神の逆位置が示す意味は即ち、転換・スタート・終わりである。

 それは暗闇の状態が終わり明るくなることもあれば、逆の場合もある。

 

 エイラはブツブツと文句を言いながら軍用無線機を取り出した。

 そして周波数を合わせて、今も作戦中の軍用回線への盗聴を開始した。

 

 

 暫くして聞こえて来たのは、苦戦を意味する通信であった。

 

 どうやら巣の真コアの特定が出来ずに手をこまねているようである。

 

 それを聞いたひかりは後部車両へと駆け出した。

 

「おいひかり!」

「ひかりさん!」

 

 エイラとサーニャが2人でひかりを追いかけ、楠里だけその場に残った。

 楠里はひかりが走ってでも行くであろうと予想しているので、特に慌てていなかった。

 

 ユニットは後部車両に積み込まれていたが、その車両は既に前の駅で切り離されている。

 

「なるほど。だから銃とユニットの整備は怠らないように、か。流石エイラさんですね」

 

 楠里は座席の下に隠していたユニット一式を取り出した。

 

 無造作に押し込まれていたため取り出すのに若干手間は掛かったが、楠里は取り出したユニットを担いで後部車両へと足を進めた。

 

 

 

 ひかりが皆と姉を助ける為、勢い良く外に飛び出した瞬間、後ろから凄まじい力で引き戻された。

 

「えっ、え!?」

「ユニットは1人分ですが、ひかりさんを抱えるぐらいは出来ますよ」

「おいお前らそれ命令違反……」

「思い出してくださいエイラさん。芳佳さんなら『行かなきゃ』の一言ですよ」

 

 エイラとサーニャはありありとその情景を思い浮かべた。

 

「もう。じゃあコレを持って行って」

 

 サーニャは楠里に小型無線機を手渡した。

 

「ありがとうございます」

「ったく、途中でひかりを落とすなよ」

 

 楠里はひかりを抱き抱えると、ユニットを起動して空へと飛び立った。

 

 

「エイラ、ミーナ中佐に連絡をしましょう」

「どうせ過保護な人だから状況とか予想してるだろうナ」

「もしかしたらハルトマンさんが来てたりとか?」

「まっさかー」

 

2,fin.

 




次回、多分最終回。



まだストパン2期にすら入って無いってマジ?
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