シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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渡鴉って方が正しいけど、字面的に「り」を入れました。
誤字ではないです。


渡り鴉の魔女

1

 

「ダメだ、このままではッ」

 

 ペテルブルク軍集団、フレイヤー作戦司令部にて。

 

 マンシュタイン元帥とマンネルヘイム元帥の2人は打つ手が無いか模索していた。

 切り札である筈だった雁淵孝美中尉の魔眼は、巣のコアを特定した。

 

 危機的状況に陥る中、502のウィッチが直に列車砲の砲弾をぶつけるという離れ業を成し遂げたにも拘らず、巣の破壊は失敗した。

 

 船団護衛任務時に遭遇したデュアルコアの特性を持っていたグリゴーリは、現場のウィッチや兵士の士気を挫くには十分であった。

 

 最後の力を振り絞り、孝美は絶対魔眼を用いてコアの座標を算出する。

 

 それに賭けた司令部も列車砲に砲撃を命じるが、巣の周辺に復活した雲により砲弾が分解された。

 

 

 絶望が支配する中で、ひかりを抱き抱えた楠里が孝美達に合流した。

 皆が驚きながらも2人を出迎える中、楠里はさてどうするかと巣を見ていた。

 

 だが依然司令部では沈黙が支配していた。

 

 

 取り払った雲も復活し、頼みの砲弾も無力化された。

 列車砲も破壊され、もはや打つ手無しかと思われたその時、ひかりが立ち上がった。

 

「私に、接触魔眼を使わせてください。私も、戦います!」

「俺もだ! 俺もまだ戦える!」

 

 管野もひかりと同じく、戦闘継続を訴えた。

 その他の人員が無理だと悲観的になっていても、その声に諦観の色は湧いていなかった。

 

「何だ、先程から傷が疼く……?」

 

 ラル少佐が何かを感じ取ったらしく、件の方角へ目を向けた。一同がその現場に着くと。青白い光を放っている物体が地面に突き刺さっていた。

 

「これは、魔導徹甲弾の……」

 

 近づいて確認してみると、強い魔法力が検知された。

 

「……ふっ。管野、お前の望みを叶えてやる……殴ってこい」

 

 その言葉を聞いた管野は、盛り上がってきたと腕を回して叫んだ。

 

「ッ、くく」

 

 皆が驚いている中で、少し笑っている人間もいた。

 

 その存在の名前を、津家楠里と言った。

 昔から、扶桑の人間はどこかしらタガが外れていると言われてきた。

 

 良い意味でも悪い意味でもあるのだが、この場合は比較的悪い意味である。

 

 巣を殴れと言われて喜ぶ人間など、欧州には基本的には居ない。

 それどころか世界中を探しても滅多に存在しない。

 

 エイラの姉などの例外を除き、そんな事を言われれば無理ですと返すのが普通だ。

 

 だが管野は普段の戦闘でもネウロイを殴っているし、楠里は銃剣で倒した事もある。

 だったら今更そう言われても普段と変わらない。

 

 行って、殴り刺すなりして、そして終わりである。

 

 

 ひかりが姉の孝美に向けて決意を示した。

 雁淵ひかりらしいと場に和やかな雰囲気が訪れる中、楠里はホルスターから1911を取り出した。

 

 マガジンを抜いて、懐から別のマガジンを取り出した。

 

「ん、津家ちゃんは何をしているんだい?」

 

 それに気づいたクルピンスキーが質問を投げかけると、楠里は菅野の拳を指さしながら説明を始めた。

 

「管野さんの技と烈風穿を組み合わせた様な物です」

 

 ウィッチが撃つ銃と、普通の兵士が撃つ銃の違いは何か。

 それは魔法力の有無である。

 

 魔法力を伴っていない小火器の攻撃は、ネウロイの装甲に対して効果は薄い。

 薄いだけで撃破は可能だが、どうしても効率や威力は落ちてしまう。

 

 弾切れの際に使用する拳銃も、空の上では風の影響をしっかりと受ける為、中々本来の威力が出ない。

 

 ましてや拳銃の射程距離は、機関銃に比べれば余りにも頼りない。

 

 あくまでも牽制用、もしくは対人の護身用といった認識が一般的である。

 そんな中で楠里は拳銃を有効活用出来ないかと模索し、試作品として完成させたのがこのマガジンだ。

 

 1つ、つまり7発分しか作れなかったが、上手く利用できればネウロイの装甲にも大ダメージを与える事が出来る。

 

 夜にチビチビと、1発1発丁寧に魔法力を縫わせたその弾丸は、拳銃弾とは思えない程の威力と速度を実現した。

 

 ライフル並みの初速と貫徹力を持った何かは、空気抵抗すらもある程度は無視して飛んで行く。

 有効射程の問題こそ解決しなかったが、少なくとも脳内麻薬術式を使って偏差射撃しないと当たらないという事は無くなった。

 

 問題はまだある。

 楠里のような頭が可笑しい狂人の精密な魔法力操作がないと作れないのだ。

 

 才能の塊であるハルトマンの妹、ウルスラであれば慣れたらすぐ出来る。

 だが1人や2人が作った所で、全体に配備など出来ない。

 

 それに楠里が7発作るのに2か月近く掛かっている。

 

 そもそもコレを使う時点で作戦自体が失敗の時が多く、大抵は撤退の確率を少しでも上げる為だ。

 まかり間違っても巣のコアに近づいて撃ち込む為の物ではない。

 

 ない筈なのだ。

 

「そんな物作ってたんだ……試した事あるの?」

 

 ジョゼがおずおずと尋ねると、楠里はホルスターに1911を戻しながら答えた。

 

「まあ、氷は割れましたよ」

 

 

 ひかりの接触魔眼でコアの位置を探り、管野の剣一閃でコアを潰す。

 

「まさしく総力戦ですね」

 

 ラル少佐の直ぐ後ろに付いた楠里はそう呟く。

 

「501もこんな風に結束してるんでしょ?」

 

 クルピンスキーが楠里に問い、気になったラル少佐もチラッと後ろに目を向けた。

 

「結束と言う点では皆さんにも負けていません。ただ今回のひかりさんと管野さんと下原さんの動きを、坂本少佐お1人で簡単に出来てしまうので」

「うっわぁ、それ聞くとやっぱり扶桑のウィッチってどこかアレだよね」

「アレとは……私は普通という自信があります」

「それはない」

 

 ラル少佐のツッコミを締めに、グリゴーリの雲へと侵入を開始した。

 

 ラル少佐の持つ銃から放たれた超爆風弾の断芯は、グリゴーリを覆う雲に穴を開けた。

 侵入可能な回廊を形成し、ウィッチ達はその中へと突入していく。

 

 楠里も機関銃を撃ちながら触手ネウロイを撃破する。

 

「何としてでも、管野さんと雁淵さんを送るのよ!」

 

 サーシャがそう指示を出しつつ、突入に最適な経路を確保する。

 

「―――ッ、あっちです!」

 

 手を付けてコアの位置を確認したひかりは、管野の前に出て先導する。

 

 触手型を誘導し、射線を確保して撃破する。決して管野に注意が逸れない様に突き進む。

 

 楠里も管野の直ぐ後ろに付いて、後方から迫りくる個体に対して機関銃を撃つ。

 だが飛行しながらでは効果的な迎撃が出来ない為、その場に留まった。

 

「おい津家!?」

 

 管野が後ろを振り返ると楠里は返答した。

 

「行ってください。光差す、その方へ」

 

 管野はそれを聞くと、少し驚いた後に前に向き直った。

 

 そして今度はもう迷うことなく、ひかりのすぐ後ろで構えた。

 

 

 そして―――。

 

 

 

 特大の魔法力が込められた拳は、ネウロイの装甲を突き破った。

 

 だがその衝撃は止まる事を知らず、コアと真コアすらも突き破った。

 荒れ狂う魔法力がネウロイとコアを押し潰し、その威力に耐えきれずにとうとう崩壊した。

 

 

 一際高い金属音を奏で、ネウロイの巣は砕け散った。

 

 

 

 ネウロイの巣を撃破した。

 

 ウォーロックというネウロイの技術を使わず、人類の力だけで成し遂げた。

 開戦以来、一方的に領土を奪われ続けるだけだった人類連合軍が、初めて自分たちの力だけで人の住む土地を取り返したのだ。

 

 巣の残滓が大量に舞い散る中で、502のメンバーは皆喜び合っていた。

 

 下原とジョゼは孝美に肩を貸しつつも笑い会い、ロスマン達も集まって笑顔を浮かべている。

 

 ひかりや管野、ニパも笑顔でお互いの健闘を讃え合う。

 

「どうだ津家、どうせならこのまま502に正式に着任しないか」

 

 ラル少佐は楠里の傍に寄ると、大胆な提案をしてきた。

 

「またヴィルケ中佐……ミーナさんと争われる気ですか」

 

 それを聞くと、ラル少佐はそれを笑った。

 

「アイツとは昔から取ったり取られたりの関係だ」

 

 楠里はふっと笑うと、最初から決まっていた返答を口にした。

 

「もし最初に出会っていたのがラル少佐らであれば、はいと応えたんですがね」

「お前はまるで風みたいな奴だ。どんな時でも傍にいるが、無くなれば一抹の寂しさを覚える」

 

「その評価は初め……」

 

 楠里が返答している途中に、ふと黙った。

 

「どうした」

「これは……此方へ!」

 

 楠里が珍しく大声を上げた。

 その声に皆が反応したと同時、楠里がラル少佐の手を強引に引っ張った。

 

「何を―――」

 

 その瞬間、先程までラル少佐がいた場所を、極大のビームが通り過ぎて行った。

 

『!?』

 

 その場に居た全員が驚く中、ラル少佐が指示を出した。

 

「総員警戒!……どうやら狙撃型ネウロイ(無粋な乱入者)が居るらしい」

 

 巣の残滓に溶け込んで隠れ居ていたらしい狙撃型ネウロイは、その姿を現した。

 

「……先生と津家を墜としたってネウロイはアレか!」

 

 管野が怒りに満ちた顔で狙撃型ネウロイを睨みつけた。

 

「以降、あの個体を狙撃型ネウロイ(XS-1)と呼称する。戦闘用―――!?」

 

 XS-1が何の予備動作も無くビームを放ってきた。咄嗟にシールドを張ったラル少佐だが、凄まじい威力により数メートルも押された。

 

「フォーメーションを組んで攻撃開始!」

 

 サーシャが直ぐに編隊指示を出して態勢を立て直した。

 

 機関銃が、対装甲ライフルが、フリーガーハマーが次々と殺到する中で、XS-1はその全てをロール機動で回避した。

 

 その後も、当たると確信して撃った銃弾はその悉くはロール機動で避けられた。

 

「また外れた……でも、あの避け方って」

「ちょこまかと、鬱陶しい!」

 

 管野が隣に居たひかりに銃を投げ渡すと、残った魔法力を拳に縫わせて突撃した。

 

 だが、それすらも嘲笑うような機動で全ての拳が避けられた。

 

「何だよあの超機動ッ」

「み、皆、アレ見て!」

 

 魔眼を使っていた下原が指を指した。

 

 それは、ユニットであった。

 

 正確には、津家楠里が履いていたユニットであった。

 

「あのネウロイ、津家さんのユニットを取り込んでいる!?」

 

 ロスマンが核心を口に出すと同時、またもや極大の威力を持ったビームが放たれた。

 

「くそ、何だよアイツ! ビームの予備動作が無くて速度も桁違いじゃないか!」

「おまけに、嫌みなぐらい偏差で狙って来やがる!」

 

 ニパと管野の言葉は、ラル少佐とロスマンにある結論を呼び起こさせた。

 

「まさか、津家さんの戦闘機動をユニットから抽出して模倣しているの!?」

 

 その事実は、楠里を含んだ全員に多大な衝撃を与えた。

 

 だが件のXS-1は、一通り攻撃と戦闘機動を終えると、一目散へと別の方面へ飛行を開始した。

 

「待ちやがれ! どこに逃げる気だ!」

 

 管野がそう発すると、ラル少佐が慌てて管野を止めた。

 

「待て管野、逃げる……? あれ程の力を持ちながら簡単に、いや奴はそもそも巣で何をしていた?」

「……グンドュラ?」

 

 ロスマンはラル少佐にどうしたと声を掛けるが、ラル少佐の顔はどんどん蒼ざめて行った。

 

「仮にだ。XS-1の目的が別だとしたら……例えば、同個体の増殖とかな」

 

 それを聞いたロスマンとサーシャ、クルピンスキーも顔を顰めた。

 

「って事は何かい。遠距離と中距離では堅実な回避を、近距離では超機動を行い、的確な支援と攻撃を行いつつも、補給線を潰せるだけの知性を持った個体を増やそうとしているって事かい?」

「……もし仮にその予想が当たってたなら」

「ラル少佐、残念なお知らせがあります」

「言ってみろサーシャ」

 

 サーシャが蒼ざめた顔でネウロイの逃げる方角を指さした。

 

「あの方角は、ウォルフです……巣の機能を使えば量産も、出来てしまうのでは」

 

 ラル少佐は勘も良く当たる。それは政治面でも良く発揮されていた。

 

「―――ッ」

 

 そしてラル少佐の背筋に、極大の悪寒が襲った。

 

 それ即ち、サーシャの予想は当たっているとう事である。

 

「津家さんの能力をコピーした知性持ち個体が大量にベルリンに現れるといのうの!?」

「総員、何としてでもアレを撃墜しろ! さもなくば、ベルリン奪還など夢のまた夢になるぞ!」

 

 

 ラル少佐の焦った命令で、事の深刻さが伝わったメンバーは、必死に追い縋る。

 

 だが悲しい程に全ての攻撃が躱され、徐々に距離が開き始めた。

 

「くそ、全回線で全ての基地へ通達を―――」

 

 そう言った瞬間、ネウロイの逃げる方向から魔法力の反応が2つ検知された。

 

 そして、ウィッチ達に当たらない様に撃たれた銃弾が、XS-1の進路を的確に妨害した。

 

「はいほー!」

「いやあ、怖いぐらいドンピシャ。流石私だナ!」

 

 そこに現れた2人を見て、502のメンバーは度肝を抜かれた。

 

「エーリカ・ハルトマンにエイラ・イルマタル・ユーティライネンだと?」

 

 楠里は会いたかった仲間たちに手を振った。

 

「やっほー津家、お怒りのミーナの指示で助けに来たヨー」

「サーニャの下に早く帰りたいんだ。早くしろー」

 

 予想だにしなかった援軍が来た。

 しかもカールスラントとスオムスが誇る最強のエースである。

 

 ラル少佐は、後で色々と文句を言われるのを覚悟しつつ、無線機で指示を出した。

 

「おめでとう。昇進……野戦任官だ。津家軍曹は現時刻を以て昇進、大尉の階級を与える」

「え、ちょっと」

 

 本当に珍しく、楠里は困惑の声を上げた。

 

「聞け、これより臨時編成を行う。アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉、エーリカ・ハルトマン中尉、エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉、ジョーゼット・ルマール少尉、エディータ・ロスマン曹長の5名は、津家大尉の指揮下に入れ!」

 

 どのような事をするのか。付き合いが長いロスマンが呆れながらも質問を返した。

 

「もう!……それで、部隊名は?」

「そうだな、奴は……よし、ワタリガラスだ。ワタリガラス(Raven)飛行隊(Squadron)だ」

 

 

 混成(Combined)臨時(Temporary)統合(Joint) 戦闘(Fighter) 飛行隊(Squadron)「ワタリガラス」( "Raven")

 

 通称、ワタリガラス飛行隊。

 

 後に、最強のごちゃ混ぜ部隊と呼ばれ、畏怖と敬意の狭間で語り継がれる部隊がここに結成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最終回だと私も思っていた。
あと1話だけお付き合いください。



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いえ、求めれば与えられると聞いたのでつい……。

すいません。
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