シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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ちょっとだけ長い前書き

今までは1話でアニメ2話分を詰め込んでいましたが、今回より1話分だけになります。
1万字越えが普通で長かったですが、適切な長さの文章になったかと思います。
これに伴い、短編から連載へと小説の状態を変更します。

楠里の過去話が不幸自慢に聞こえてしまうというご指摘がありました。(以前にも似たような評価は頂いておりました)
これは作中のキャラの台詞と地の文で語っている為、諄い表現に見えてしまっているかと思います(多分)
過去も軽く流してサクサク進める方が見やすいのですが、私の頭と指が一番動くのは暗い話を書いている時です。
何卒ご理解いただけますと幸いです。

※この前書きに関する事は感想欄に書き込まないで下さい。皆様の普段通りの感想や評価が私の活力になります。


輸送機の魔女

 楠里達が搭乗する二式大艇は、その見た目とは裏腹に滑らかな機動でビームを躱していた。

 

「ネウロイ確認。距離、約12000!」

 

 坂本が固有魔法の魔眼でネウロイとの距離を目測する。

 

「ダメですね。完全に敵の射程内です」

 

 二式大艇の装甲は頑丈で防弾性はあるとはいえ、対ネウロイ装甲が施されていない。故に1発でも胴体に直撃すればただでは済まない。

 

「う、うわわわ」

 

 ビームを躱した際の揺れで、芳佳が坂本の胸に飛び込んだ。

 楠里も壁に手をついて何とか耐えるが、長くは持たないと悟った。

 

 さらに運が悪い事に、坂本の従兵である土方が負傷してしまった。

 

「土方!」

「土方さん!」

 

 芳佳が駆け寄って治療魔法を行使する。

 前よりも魔法力操作の練度が向上している為か、直ぐに土方の表情から苦痛の色が消えた。

 

 坂本の指示で回避に専念して撤退するよう操縦士に伝達した。

 操縦士は高度を速度に変換して振り切れないか試みるが、如何せんビームの射程が長い上に敵の速度が速い。

 

 

 坂本と芳佳が操縦席で話し合っている中、土方と楠里は無線機を使って援軍を要請していた。

 

『ロマーニャ第一航空団から津家大尉及び土方兵曹へ。指定の座標は当航空団の保有する機体では航続距離不足だ。すまない』

「了解」

 

 土方は叩き付ける様に無線機を切った。

 

「土方さん。確か504も近かった筈では?」

「駄目です津家さん。先日行われたトラヤヌス作戦で504はその戦闘力を喪失。調整再編中の為出撃出来ません」

「となると、最早この戦域は……」

 

 土方は楠里の言葉に同意すると、坂本に現状を報告した。

 

「残念ながら、そういう事になります……坂本少佐、付近の基地に援軍要請を行いましたが、航続距離不足の為出撃不可との事です。また504統合戦闘航空団も同様に出撃不可との返答です」

「くそっ、航続距離に戦闘力喪失か」

 

 楠里が窓の外を見ると、先程までは見えなかったロマーニャ海軍の艦隊が砲撃戦を行っていた。

 

「少佐、あの艦隊は?」

「この海域の哨戒を行っていたのだろう。だがネウロイが巨体過ぎる為、主砲弾の焼夷弾が効いてない」

 

 楠里は機体に格納されているユニットに目を向けた。

 積み込まれているユニットは、芳佳が横須賀鎮守府から履いて来た物と、坂本の紫電五三型の2つである。

 

「……出撃する。津家は残り機体を守れ」

「了解」

「待ってください坂本さん! 坂本さんはもうシールドが張れないんですよ……」

 

 芳佳がお願いですと坂本を諌めるが、坂本は新型と烈風丸があると芳佳に笑顔を向けた。

 それを聞いた芳佳は、決意を固めたかの様に坂本にお願いを言うのであった。

 

 傍からそのやり取りを見ていた楠里は、九九式二号二型改13mm機関銃に弾を装弾した。

 

 

 

 艦隊の危機を守る為。

 坂本や土方を守る為。

 

 芳佳は二式大艇より飛び立った。

 

 だがそれと同時、発射口にビームが掠ってしまい、発射装置に異常を来した。

 更に不運が重なり、紫電改の魔導火計器が損傷して出撃不可となった。

 

「ユニットに当たってないのに何故壊れるのか」

 

 楠里は疑問の眼差しを整備兵に向けるが、整備兵は作業を続けながら応えた。

 

「最終確認の為に開けていた箇所から、被弾の衝撃で飛んできた破片が入ったようです」

 

 また不運な、と楠里は整備兵から視線を外して坂本を見た。

 

「クソ、こんな時に限って!」

 

 坂本の焦りは尤もである。芳佳を援護しなければならないのに、肝心の翼が無いのだから。

 

「一応機関銃の装填は終わらせておきました」

 

 楠里は坂本にそう告げる。

 

「よし……これなら行けるか。津家、発進口から機関銃で宮藤を援護してやれ。牽制程度にしかならんが、ネウロイの攻勢を多少は削げる筈だ」

「了解」

 

 楠里は台に上り、上半身を外に晒しながら九九式二号二型改13mm機関銃の安全装置を外した。

 

「よし、撃て!」

 

 坂本の指示と同時に狙いを定め、芳佳に猛攻を加えていたネウロイに向かって発砲した。

 

 

 機関銃を撃つ楠里は、やはりこの位置では効果的な迎撃が出来ないと歯噛みした。そもそもこちらの射程の外という段階で論外なのだが、それに加えて強風である。

 

 照準を覗き込んで撃ってもまず当たらず、偏差を付けて撃っても本来の威力ではない為効果が無い。

 

「弾の無駄ですね」

 

 楠里はそうぼやくと、さてどうするかと周りを見渡した。

 何か方法は無いかと探していると、丁度坂本から通信が入った。

 

「よし津家、最適位置に付いた。撃つのを止めてこっちに来い」

「え、こっちって……あぁ、了解」

 

 楠里は、あろうことか生身で機首に立っている坂本を視界に収めると、銃の安全装置を掛けて機内に落とした。普段であれば暴発の危険がある為大目玉だが、緊急事態の為仕方がなかった。

 

 尤も、土方が寸でで受け止めたため大事になる可能性は低かったが。

 

 

「来たか津家。502でやった事を生身でやるだけだ。銃剣用意!」

 

 楠里は坂本の言葉と同時、懐から銃剣を抜き放って刀身に魔法力を込めた。

 ユニットを装着していない分魔法力が増幅されていない為、いつもよりは強度が落ちる。

 

 坂本も魔法力を全身に回してネウロイを見据えた。

 

 

 その日、二式大艇を操っていた操縦士達は、魔女2人の背中を見た。

 

 1人は背中に扶桑刀を背負い仁王立ちをして、1人は銃剣を逆手に持って自然体で佇んでいる。

 

「……侍が2人だ」

 

 誰かか漏れた呟きと同時、状況が動いた。

 

「先導します。止めはお任せします」

「分かった。タイミングは合わせる」

 

 楠里はそこから3秒ほど様子を見て、好機と判断した。

 

 そして、一切の躊躇なく機体より飛び降りた。

 

「坂本さん! 楠里ちゃん!」

 

 芳佳の驚愕と制止が混じった声と共に、2人の魔女がネウロイに向かって突撃した。

 

 楠里は飛んできたビームを最低限の動作で躱して進み続ける。

 あと数ミリでも動けば当たるという距離だ。

 

 坂本は楠里が躱したビームを切り裂きつつも肉薄していく。

 

「―――烈風穿・改」

 

 そこからは簡単だ。

 楠里がネウロイと接触したと同時、銃剣を装甲に突き立ててスキーの様に滑って切れ込みを入れていく。

 

 

「必殺、烈風斬!」

 

 入れられた切れ込みを修復する為、意識を削いだ所に、最大火力である烈風斬がネウロイの中心部を突き破った。

 

 

 

「もう、もう! 何で2人はそんなに無茶をするんですか!? 刃物を持つと皆そんな風になるんですか!?」

 

 芳佳が2人を諌める言葉を紡ぐ。

 坂本は芳佳に抱えられているが、少しの間なら生身で飛べる楠里はその場で浮いている。

 

「確かに無茶かもしれませんが、私は芳佳さんには言われたくないです」

「こっちの台詞だよ! 何で私が呆れた視線を受けてるの!?」

 

 納得出来ないと唸る芳佳に抱えられた坂本は、そのやり取りを見て笑った。

 

「まあだが言った通りだろ。シールドが無くても私は戦える。この烈風丸があればな」

 

 シールドが張れないなら、防御手段を攻撃に全振りしてやられる前に倒すという理論である。

 

「そうかもしれませんが、そうかもしれませんが! 大体楠里ちゃんも坂本さんと似たような事やってたけどアレは!?」

「烈風穿です。坂本少佐から教えて貰いました」

「坂本さん!」

「はっはっはっはっは」

「もーーーーー!」

 

 だが芳佳は最終的に、坂本を尊敬の眼差しで見つめていた。

 雰囲気が柔らかくなった芳佳の横で、楠里は先程のネウロイを思い出していた。

 

「あのネウロイ。502だととんでもなく苦戦するのでしょうか……」

「ん、どうした津家」

 

 楠里は坂本を珍しい生き物を見る視線を向けた。

 

「いえ、502の下原少尉、管野中尉と雁淵軍曹ら3名の働きをこの短時間に1人で行い達成した坂本少佐の事を尊敬しますよ」

「嬉しいのだが何だろうか、そこはかとなく他意を感じる……?」

 

 楠里はやっぱりこの人たちだけ異常に強いと心の中で思った。

 

 この後、坂本が烈風丸という名前はどうかと2人に問うが、芳佳はかっこいいと答えた。

 楠里もいいですねとは言ったが、本音では使えれば名前など何でもいい。

 

 

「手応えが、無さすぎる」

 

 海に緊急着水した二式大艇の上で、坂本は着替えつつ懸念を漏らした。

 楠里はそれを聞いて、ネウロイの残滓に目を向けた。

 

「クルピンスキー中尉の戦闘報告書にあった個体と同じ機能があるなら、再生するかもしれませんね」

「何だと……うむ。事前に聞いているといちいち驚かなくて済むな。状況は最悪だがな」

 

 楠里の言葉通り、ネウロイの残滓が自由落下を止めて逆再生の様に戻っていく。

 

「―――ッ行きます」

 

 芳佳が銃を構えて空へと上がった。

 

「ネウロイのコアは再生中の先端だ。ぶち抜いて止めを刺してやれ!」

「了解!」

 

 芳佳がユニットを駆り攻撃を開始するが、どういう訳か効果が薄い。

 

 奮戦するも、疲労と魔法力の残量が少なくなった芳佳は、背後からのビームに対処しきれずに吹き飛ばされた。

 楠里であれば、シールドを張る間もなく今ので消し炭なのだが、芳佳は普通ではない。

 たとえ張れたとしても一瞬で抜かれてどのみち助からないが。

 

 

 何とか芳佳を助けようと楠里も浮くが、魔法力も少ない上に増幅機たるユニットを装備していない。

 必然的に少し進んだ所で、間に合わないと確信してしまった。

 

「芳佳さ―――」

 

 その時、楠里の目の前を1発の銃弾が横切った。

 

 楠里は咄嗟に銃弾を目で追うと、今まさに芳佳に追撃を加えようとしていたネウロイの装甲を貫いた。

 

「ッまさか!」

 

 坂本の喜色を帯びた言葉と同時、芳佳の横を猛スピードでシャーリーが駆け抜けた。

 

 

 ロマーニャが誇るエース、フランチェスカ・ルッキーニ少尉。

 リベリオンが誇るエース、シャーロット・E・イェーガー大尉。

 

 2人のエースが芳佳の傍に寄った。

 

「シャーリーさん! ルッキーニちゃん!」

「久しぶりって言いたいけど、後だな!」

「チャオ!って、えー……さっきの効いてないのー?」

 

 楠里は3人を視界から外すと、急いで機内へと戻った。

 

「すぐに坂本少佐が上がられます。手伝えることは?」

「そこの圧力計を確認しつつ伝達管を繋いで下さい! それが最後です!」

 

 楠里が坂本の為に整備兵の手伝いをしている中で、次々と501のメンバーが集まってきた。

 シャーリーが火力が必要と漏らしたと同時、大口径の銃弾が飛来した。

 

 ブリタニア製ボーイズMk1対装甲ライフルより放たれた弾丸は、的確に装甲が薄い部分を貫通した。

 

「芳佳ちゃーーん!」

「ほらほら、感激している暇なんてありませんわよ」

 

 ブリタニア空軍のエース、リネット・ビショップ曹長。

 自由ガリア空軍のエース、ペリーヌ・クロステルマン中尉。

 

 芳佳と頭一つ仲が良かった2人が芳佳の下に駆け付けた。

 

 全員が再会を喜び合う中、再びネウロイの活動が活発化した。

 

 だが―――

 

 中距離より放たれたロケット弾が次々とネウロイに命中した。

 

「サーニャちゃん! エイラさん!」

 

 オラーシャのエース、サーニャ・リトヴャク中尉。

 スオムスのエース、エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉。

 

 北欧のエース2人が友人の為に駆け付けた。

 

 そして、ネウロイにとっての終幕がやってきた。

 

 

「敵ネウロイはコア移動タイプ。再生力は従来型を遥かに超えるわ」

「再生速度より早く潰せばいいだけじゃん」

「まったく、せっかくのクリスとの休暇がふいになった」

「ふふっ、貴女が一番に来るって言ったのよ?」

「フレイアー作戦の時援護に行けなかった時の借りを返したいって言ってたもんねー」

「な、お前らッ……ああもう!」

 

「ミーナ隊長! バルクホルンさん! ハルトマンさん!」

 

 芳佳が満面の笑みで3人を見た。

 

 カールスラントのエース、ミーナ・ヴィルケ中佐、ゲルトルート・バルクホルン大尉、エーリカ・ハルトマン中尉。

 

 世界中の国々から集められた最強のエース達が、今ここに再集結した。

 

 

 ミーナの指示の下、戦闘隊形を形成した芳佳達がネウロイに挑む。

 

「少佐、紫電改行けます!」

「全動力計異常ありません。ユニット発射台も修復を完了しています」

「分かった!」

 

 整備兵がユニットを修理し、楠里もそれを手伝いつつ発射台を治した。

 

「お気を付けて。土方さんも私も坂本さんの無事の帰還を祈ります……ね、土方さん」

「はい!」

「2人とも……ああ! 行ってくる!」

 

 再び、扶桑が誇るエース、坂本美緒が空へと舞い戻った。

 

 

 

 そこから先はもう特別語る事は無い。

 

 強いて言うならば、蹂躙の一言であった。

 

 最後は坂本の烈風斬でネウロイは一刀両断され、その残滓は海へと還った。

 

 芳佳らが空で再会を喜び祝している中で、楠里は機体の屋根からそれを見上げていた。

 

「……眩しい」

 

 それは何に対しての言葉かは分からないが、少なくとも楠里が目を眩ませるようなモノであった。

 

「お疲れ様です津家さん」

 

 土方が労いの言葉と同時に、温かいコーヒーを淹れてくれた。インスタントではあるが、貴重な真水も今ぐらいは使っても文句は言われないとの事だ。

 

「土方さんも皆さんもご苦労様です」

 

 楠里は受け取ったコーヒーを飲みつつ空を見上げていた。

 

 

「あれ、そういえば津家は? さっきチラッと見かけたけど」

 

 シャーリーが疑問を口に出すと、坂本があそこだと顔を向けた。

 

「ありゃ、寛いでコーヒー飲んでる」

 

 他のメンバーよりも断トツに視力が良いルッキーニが楠里の様子を実況する。

 

「そういえばミーナ中佐。ちょっと前に行けなかった緊急支援要請あったじゃん。アレって結局なんだったの?」

 

 そうそう直に会う事が無い為か、聞けていなかった疑問をシャーリーはミーナに投げかけた。

 

『あ』

 

 だが真っ先に反応して声を上げたのはバルクホルンとハルトマンだ。

 

「ふふふそれはね、オラーシャにあったネウロイの巣を破壊するフレイアー作戦が原因なのよ」

「へー。確かにあの時は色々な所でネウロイが活発になってたな」

「あそこで呑気にコーヒーキメてる津家さんもその作戦に参加していて、大惨事一歩手前だったのよ!」

 

 それを聞いたシャーリーらは驚愕の声を上げた。

 

「いやフレイアー作戦って502だろ? なんで津家が参加してんの?」

「だからその502統合戦闘航空団ブレイブウィッチーズの隊長に、私の不注意もあったとはいえ津家さんを引き抜かれたのよ!」

「ええーー!? じゃあ楠里はこの半年の間に502で巣を潰したって事ー!?」

「私とペリーヌさんの所に来た援護要請もソレですか……」

「あ、あの時は私の領内にもネウロイの動きがあって行けませんでしたわ……」

 

 ルッキーニの簡潔に纏めた一言が全てである。

 

「あぁ津家、逃げた方がいいかもしれんぞ……」

 

 エイラもサーニャもコレに関しては素知らぬ顔だ。

 

「ん、あの津家さん。皆さんがこちらに向かって来てます」

「そうですね……皆さんいい笑顔ですね」

「恐れながら津家さん、皆さんの目が笑っていません!」

「……」

 

 楠里は土方にマグカップを手渡すと、機内へと退散した。

 

 

 1945年。

 

 この日、第501統合戦闘航空団は再結成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




軍医少佐

度々出て来て楠里を叱る人。
その言動から常識人に見えるが、本作中一番のやべー狂人。
あくまでも端役で作中でほぼ絡まないが、文字通りのアンタッチャブル。
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