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ストライクウィッチーズが再結成されてから数日後。新たに拠点となった基地にて訓練が行われていた。
「これはまた、酷いものだ」
「た、弛んでいるッ……」
「……」
坂本、バルクホルン、楠里の3人は、半年間も軍から離れていた芳佳らに視線を送る。
「ペリーヌは自分の領地復興に、リーネはその手伝い。宮藤は一般人の生活だったからな」
坂本は仕方ないといった表情を浮かべるが、呆れも入っているのは隠せない。
「少佐、こんな状態で実戦など到底無理だぞ! 津家も何か言ってやれ!」
「私ですか……まずは水の上から歩くとかでどうですか。後はもう死ぬ気で頑張れとしか」
坂本は楠里が502に属していた時の報告書は見ている。であるため、楠里が如何に教師役に向いていないかを証明するロスマン文書にも、当然目を通していた。
「ふむ。まあそうなんだがな」
問題は、この坂本美緒という存在も中々の根性論を持つ人物であるという事だ。
流石に楠里程ではないが、大まかな考えは似通っている。
「そういう問題じゃないだろう2人とも!?」
この場で唯一真面な判断が出来るバルクホルンが楠里らを諌める。
「ではバルクホルンさんには何か妙案が?」
だからといって急に振られてもバルクホルンは対応出来ない。
「え、えっと……走るとか?」
「お前……」
「バルクホルンさん……」
プルプル震えたバルクホルンが俯きながら言葉を漏らした。
「少佐は兎も角、津家から憐れみの視線を受けるとは……」
屈辱の極みだと項垂れるバルクホルンに対し、楠里は心外だと目線で訴えた。
「とりあえず、ペリーヌとリーネと宮藤は1から再教育だ!」
▽
再教育を受けた3人が教師となる人物に会う為基地を離れてから数時間後。
芳佳らが居なくても時間は進む。
基地のブリーフィングルームでミーティングが行われていた。
「作戦を説明します。現在、ロマーニャからガリアに向けて陸戦型ネウロイ2体が侵攻中。現地にてガリア守備隊の陸戦ウィッチが防衛に当たっていますが、どうやら航空型ネウロイ3機により戦線が押されている状況です」
「空陸一体かぁ。うへえ面倒」
ハルトマンの呟きはウィッチの総意であった。
地上を侵攻するネウロイは、普段楠里らが相手取る航空型とは違い、桁外れの装甲を有する。
陸戦ウィッチや戦車の大口径火力か、航空機であれば重爆撃機クラスでないと真面にダメージが与えられないのだ。
地面に立てる分、陸戦ウィッチらは火力と装甲が高いが、その分空への敵には無防備に等しい。
航空ウィッチはその逆で、陸戦型のネウロイには決定打を与えられない。
「事態は急を要します。バルクホルン大尉を戦闘隊長とし、津家大尉とリトヴャク中尉に出撃してもらいます」
「待ってくれ中佐! サーニャが行くな……あん? 津家『大尉』ぃ~?」
その言葉に、ミーナと坂本以外が楠里に視線を向けた。
「なんだエイラ。お前も現場に居ただろう?」
坂本がエイラに質問するが、エイラは楠里を指さして応えた。
「いやあの場限りの階級じゃなかったのかよ」
不思議そうにするエイラの質問には、楠里自身が返した。
「本国で士官教育課程を1週間と少しで終わらせました」
「ん? 何それどゆこと?」
ルッキーニを始め、即座に理解出来ない人員の方が多い。
当たり前だが、士官教育を半年も経たずに終わらせるなど常識的に不可能である。
だのにそのようなパワーワードを平然と口にするこの楠里がおかしいのだ。
「そういえばちゃんと言ってなかったわね。津家さんは扶桑で正式に……正式に? 兎に角士官教育を終わらせて大尉へと昇進しました」
「へえー、じゃあ津家も正式に私の上官かぁ。津家大尉、懐のお菓子ちょうだーい」
楠里は後でハルトマンにあげようと思い持っていたチョコレートを投げ渡した。
「こらハルトマン! 津家もそう簡単に渡すんじゃない!」
「ほらお喋りはそこまでだ。最終的な決定は現場に任せるが、バルクホルンが対空対地戦闘を、津家が対空戦闘を行い、サーニャが対地支援戦闘を行うように」
「了解した」
「了解」
「分かりました」
3名の返事を聞くと、ミーナが締めの言葉に入った。
「エイラさんはサーニャさんが抜けた今夜の夜間哨戒の為、出撃は許可できません。では3人は先に退出して出撃準備を。シャーリーさんとルッキーニさんはハンガーにて予備戦力として待機を命じます」
「ミーナ、私はー?」
「あら、珍しくやる気ね? いいわ、同じく予備戦力として待機を」
「ではミーナと私が管制室で指揮か」
ミーナはそうねと纏めると、全員が行動に掛かった。
なお、予備戦力として待機を命じられた3名は、直ぐに爆睡した事を記す。
▽
ガリア共和国の某所にて。
「味方戦闘機隊壊滅! 制空権を喪失しました!」
ネウロイの巣が新たに出現したことにより、ロマーニャとの国境に面していたこの地にも警戒態勢が敷かれていた。
この日、突如としてロマーニャから押し寄せて来たネウロイらは、容易く国境守備を突破して雪崩れ込んできた。
ただでさえ復興やらのゴタゴタで満足な物資も無く、人員も少ない。
所属している陸戦ウィッチも3名と少なく、うち1名は戦時徴用で入隊してから僅か半年である。
「おい新入りィ! 突っ立ってないでさっさと撃て!」
大声で怒鳴られているのは、その新人の陸戦ウィッチである。
「は、はい!」
カールスラント製陸戦用ストライカーユニット『ティーガー』を駆る彼女は、上官からの指示で行動に移る。
「司令部応答しろ! 追加の航空支援はどうなっている!?」
怒鳴る上官のすぐ横を、火達磨になった戦闘機が墜落する。細々とした破片が飛び散る中でも、敵の侵攻は続く。
『こちら司令部。現在501部隊よりウィッチ3名が戦域へ急行中。到着まで10分』
「聞いたな貴様ら! 天使らが来るまで耐え抜くんだ! 曹長、負傷兵を纏めて下がらせてくれ!」
「了解」
扶桑皇国より援軍として派遣された陸戦隊曹長が怪我人を纏める作業に入った。
「空からの薙ぎ払いが厄介すぎるッ」
装甲と火力に物を言わせた地上型が強引に道を切り開き、航空型が目となり脅威を先んじて潰していく。まさに理想的な空陸統合運用作戦である。
「ほ、本当に支援は来るのでしょうかっ。我々のシールドも持ってあと5回程です!」
「弱音を吐くな新入りのお貴族様。味方を信じて耐えるしか生き延びる道は無いぞ!」
ティーガーを駆る新入りの陸戦ウィッチが息を切らせながらも弾を装填する。
楽しい時は時の流れが速く感じるが、辛い時などは遅く感じるものだ。
永遠とも思える10分が経過した頃、既に陸戦ウィッチも歩兵も限界であった。
空から一方的な攻撃に晒され、対空砲も真面に機能していない。
だがどんな時間でも必ず過ぎていくのだ。
『こちら501st
待ちに待った援軍が到着した。
しかも空対空戦闘においては右に出る者が居ない501のネームド達である。1名不純物が混じっているが、地上からすれば援軍である事に変わりはない。
「白の5番に白百合!? あのバルクホルン大尉とリトヴャク中尉か!」
地上に鬨の声が響いた。ネームドの航空支援など滅多に受ける事は出来ない上に、ガリア解放の英雄たちである。
「あれが、あれが空の英雄たち……」
「呆けている場合か。インカムとスモークを使って座標を指定しろ」
「了解!」
新入りが急いで懐から赤のスモークを取り出して、ネウロイの足元に投擲した。
「よし場所はいいぞ。おねだりの仕方は知っているな? さっさと済ませろ」
双眼鏡を覗き込んでから新入りは言葉を発した。
「こちらハーゼンクレファー軍曹! 敵ネウロイの脚部に攻撃をお願いします!」
『え? は、はい!』
上官は新入りの言葉を聞いて頭を抱えた。
戦時促成教育の徴兵である彼女は、つい最近まで銃など握った事の無い一般人だった。更に言えば、没落したとはいえ有名な貴族の血筋である。
「はぁ……
『了解しました』
▽
「泥沼だな」
戦域に到着し、戦闘を開始したバルクホルンは呟いた。
「ネウロイも制空権を意識し始めたと」
楠里の考えを裏付けるように、今も地上は苦戦を強いられている。
「話は終わってからにするか。津家は航空型を。私はサーニャとお前を援護する」
楠里は返事をすると、エンジンを噴かせてネウロイに攻撃を加えた。
地上型への援護に集中していた為か、楠里への反応が遅れたネウロイは初撃を許してしまった。
その隙を見逃さず、楠里は機関銃をネウロイにばら撒き装甲を削る。
3機いるネウロイはチームワークを発揮しつつ、楠里を囲い込むように展開するが、楠里も簡単には包囲網の中には入らない。
ネウロイが放ったビームをロール機動で回避しつつ、隙を探す。
だが後ろばかりに気を取られても危ない為、適度に前を向きつつ自分の位置を把握し続ける。
「バルクホルン大尉」
名前を呼ばれたバルクホルンが目を向けると、まさしく絶好のチャンスであった。
楠里を追いかけるネウロイが、丁度バルクホルンに横腹を晒していたのだ。
「了解した」
たったその一言で両者の間に作戦が共有され実行に移された。
楠里が直線機動で引き付けつつ、バルクホルンが隙を見せたネウロイに照準を定めて引き金を引いた。
2丁のMG42から吐き出された弾丸の嵐は、無防備なネウロイの横腹に着弾し、装甲とコアを消し飛ばした。
これに驚いたのが他の2機であり、急いでバルクホルンに注意を向けた。正確に言えば向けてしまった。
「1機撃墜」
180度ループと180度ロールを行い、インメルマンターンと言うマニューバを決めた楠里が、バルクホルンに注意を向けた個体の後ろを取って撃墜した。
「見事だ津家。私はサーニャの援護に回る」
「了解。直ぐに終わらせます」
▽
空を我が物顔で蹂躙していたネウロイ3体が、501が来てから僅か5分程度で残滓となり消え失せた。
「て、敵航空型ネウロイ全機消滅! 制空権確保!」
絶望的な状況が僅か数分で引っ繰り返された。
「よし! よぉぉぉし!」
その戦果により士気が回復した地上部隊が息を吹き返した。
更にサーニャによる的確な航空支援により、地上型ネウロイ2体の足が止まった。
「今なら火力を集中できます!」
「陸戦ウィッチ総員、右側の個体に火力を集中しろ! 戦車部隊らも残存火力を陸戦ウィッチらと同目標に集中だ!」
散漫であった火力が1点に集中したことにより、強固だったネウロイの装甲が飴細工の様に砕かれていく。
戦車砲が、陸戦ウィッチの重火砲が、歩兵の対装甲ライフルが。
この戦場に存在するあらゆる火力が1体に集中する。
そして遂に、片方の地上型ネウロイが撃破された。
これを好機と言わんばかりに、停滞していた戦線が押し上げられる。
「戻りました」
丁度タイミング良く戻ってきた曹長が、陸戦ウィッチの隊長に報告に来た。
「素晴らしいタイミングだ。制空権が一瞬で取り戻せたぞ」
その言葉を聞いた曹長は上空を飛んでいるウィッチを視界に収めた。
「名高き501ですから当然でしょう。それにあの方もいらっしゃいますから」
「お、何だ知り合いでもいたのか?」
男勝りな隊長は、鬼神と名高い陸戦隊曹長に問いを投げかけた。
「えぇ。嘗ての私の上官で、部下思いな優しい御方です。扶桑の第9陸戦隊は全員あの方の盾になる事を厭いません。問題は、ご本人が死んでもそれを望まれないという事ですが」
「ほーう。中々に熱いじゃないか」
「何か仰いましたか」
「何でも無い。で、お前が敬愛するウィッチの名前を聞こうじゃないか」
いつの間にか戦闘が終わり、これまたいつの間にか傍に居た新人の陸戦ウィッチも興味津々に話を聞いていた。
「津家大尉です。扶桑海軍所属のウィッチ、津家楠里大尉です」
「どこかで聞いたな……ふむ。あー……んー?」
「私聞いたことがあります!」
新人が勢い良く手を挙げた。
「まずはこの戦闘の事後処理からです」
陸戦隊曹長がそう纏めると、その場はお開きとなった。
1,fin.
本来は新入りがくしゃみをして、勢い余って銃のトリガーを引き、その弾が奇跡的に楠里のユニットと肩に当たって不時着とかいう流れでした。
また無駄に長くなるから没。