シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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アニメ準拠で進むと暫くは大きな戦いがありません。
だからといってそう何度もオリジナルネウロイは出せないのです。怪我とかして堕ちても、どうせこいつなら大丈夫という認識も広まってますから。



調査の魔女

 芳佳らが基礎の修行から戻って来て数日後。猛暑日のハンガーにて。

 

「ほう。これがカールスラントの新型か」

 

 ミーナと坂本は目の前に鎮座するユニットの性能を確認していた。

 

「正確には試作機ね。Me262v1・ジェットストライカーよ」

 

 カールスラント亡命臨時政府であるノイエ・カールスラントの技術省より送られてきた、先行試作機である。

 

「これだから尉官は」

「ジェットー?」

 

 半裸で寝ぼけ眼のハルトマンが聞きつけ、ミーナと坂本の会話に入った。

 

「ハルトマン中尉?」

「書類書類書類」

「……どうしたんだその恰好」

 

 比較的規則が緩い501とは言え、風紀を乱す服装は良くない。そういった坂本の視線を流しつつ、ハルトマンはぽけーっとユニットを眺めていた。

 

「こらハルトマン、服を着ろ服を!」

「書類をゴミ箱へシュート」

「……ジェットストライカーだって」

「研究中だったアレか」

 

 ミーナが先程からブツブツと五月蠅い楠里を羽交い締めにしつつ、器用にもバインダーに挟まれた書類を読み上げた。

 

「レシプロに代わる新世代のユニットね」

 

 最高時速950kmという音速一歩手前の性能を聞いたシャーリーは目を輝かせた。

 

 履いてみたいと言うシャーリーに対して、バルクホルンが自分が履くと譲らない姿勢を取った。

 

「……このユニットの仔細報告書、私が纏めるんですか?」

 

 楠里の視線を受けミーナは、笑顔のまま顔を逸らした。

 

「頑張れよ津家大尉。貴官の事務処理能力は信頼している」

 

 バルクホルンとシャーリーの喧嘩を眺めながら、坂本は楠里に対して発破を掛けた。

 

「本来は戦闘隊長や基地司令がやる事では」

「自慢じゃないが、私は感覚6で理論が4の比率で動いていてな。最終的にミーナの負担が増える書類を毎回作っている」

「丸投げなんてしないから、津家さんも手伝ってね?」

 

 楠里はミーナの表情を見ると、どうしても逆らえなかった。501を正常に運営し、基地のメンバーを纏めるには多大な重圧と責務が圧しかかる。

 それはベテランである坂本でさえ殆ど経験が無い。

 

 ミーナの仕事にしっかりと対応して付いて行く事が出来るのは、全く以て残念な事に現状は楠里だけである。無論坂本も普通以上に仕事は出来るのだが、コレに関しては楠里が僅かに経験がある。腹立たしい事だ。

 

 そう言っている間にも、バルクホルンとシャーリーの口論は白熱していく。

 

「超音速の世界を知っている私が履くべきだ!」

「お前の頭の中はスピードの事しか無いのか!」

 

 ミーナと坂本とハルトマンが呆れた視線を2人に向ける中、楠里はミーナの手から件のバインダーを受け取ると、ジェットストライカーに近づいた。

 

 手元の書類と現物を見比べて、楠里が1つの結論を出した。

 

「これは、私とは相性が絶望的ですね」

 

 まだ試作段階である為、そのシステムも理論も未完成である。だが楠里がこのジェットストライカーを履いても、起動すら出来ないと確信した。

 

 まず起動に必要な最低限の魔法力すら無い。楠里はレシプロ機で特定の箇所に集中して流し、何とか起動させているが、コレはそんな小細工をしても無理である。

 よしんば起動できたとしても、その魔法力の消費量に耐え切れず、直ぐに死へと直結する。

 

「いっちばーーん!」

 

 その言葉を聞いて楠里が上を見ると、ルッキーニが天井の鉄骨からダイブをして迫ってきていた。

 キレイにユニットに足を通すと、魔法力を流してユニットを起動させた。

 

 だが僅か数秒でルッキーニはユニットから飛び出し、少し離れた別の発射装置の陰へと身を隠してしまった。

 

 ルッキーニ曰く、何やらびびびっとするらしい。

 それを聞いたシャーリーはルッキーニの心配を無駄にしたくない為、履く事を辞退した。

 

 だがバルクホルンはそれを怖気づいたと判断した。

 

 ルッキーニに代わりバルクホルンがジェットストライカーを履いて起動した所、特に問題は無いようであった。

 

「感覚派の人間が履くと何らかの刺激が有り、理論派が履くと特に症状は無し。もしくは使い魔次第か」

 

 楠里が報告書類にそう書き込むのを、ミーナと坂本は少し離れた位置から見ていた。

 

「ね? 津家さんはちゃんと書類を片付けてくれるわ」

 

 ミーナが坂本にそう言って視線を向けると、どこか気まずくなった坂本はバルクホルンとシャーリーに目を向けた。

 

「しかし、バルクホルンとシャーリーは津家と同じ階級だが先任なんだぞ。どうして津家の方がベテランで先任に見えるんだろうな……しかも年下だ」

 

 ミーナも釣られて視線を向ける。

 そこには未だに言い合う2人と、それを仲裁する楠里の姿が目に入った。

 

 結局その喧嘩は芳佳とリーネが料理を運んできても収まらず、縺れに縺れた結果、勝負をする事になった。

 

 

 サーニャとエイラと楠里が空に上がり、バルクホルンとシャーリーの勝負兼性能テストを行う事になった。

 

 まずは上昇勝負だ。何も武装を搭載していない状態でエンジンを全力稼働させて最高到達高度を測る。

 

「シャーリーさん1万2000mで上昇止まりました。バルクホルンさんまだ昇ってます」

「ほえー」

「イェーガー大尉、使用機材P-51,1万2000m。バルクホルン大尉、使用機材Me262v1,1万5000m突破」

 

 

 楠里は空の上だというのに器用に報告内容を書き留めていく。その程度であれば態々空に上がる必要は無いのだが、気になる点も1つあったので付いて来た次第である。

 

 上昇勝負が終わり、並んで帰投する中で楠里はバルクホルンに尋ねた。

 

「バルクホルン大尉。魔法力はどの程度使用しましたか」

 

 楠里の質問にバルクホルンは素直に答えた。

 

「まあ普段よりは多く使ったな。普段が3であれば5程度だ」

「ふむ。バルクホルン大尉でもその程度食うのであれば、やはり連続使用は控えた方がよろしいかもしれません」

 

 だが楠里もバルクホルンが言って素直に聞くとは思っていない。

 

「なに、まだまだ試作段階の機体なんだ。その程度の誤差など」

 

 シャーリーと楠里は互いに目を合わせて、同時に首を振った。

 

 

 ハンガーに戻ってきても、2人の些細な争いは収まらない。沢山ある蒸かした芋の1つを態々取り合い周囲を呆れさせている。

 

「次はどれだけ多く持てるかで勝負だ」

「搭載量か。また私が勝つに決まっている」

 

 今回もまた楠里は同行する。今どのような感覚なのかと、その場でしか分からない事も多少はあるからだ。

 

「重火砲を搭載した際の消費魔法力がどの程度かも精査します」

「あぁ。迷惑を掛けるが頼むぞ」

「全く以て迷惑以外の何でもないよな津家?」

「何だと!?」

「何だよ!?」

 

 楠里は2人の争いを手を叩いて諌め、さっさと空へ上がらせた。

 

 

「50㎜砲1門/30mm機関砲4門、爆撃機並みの重武装ですが、如何ですか」

「なに、この、程度なら全く問題は無い!」

 

 空に上がってテストを重ねる中、楠里がバルクホルンに尋ねた。

 

「左様ですか」

 

 楠里はバインダーに挟んだ紙に消費魔法力の点で問題有りと書き留めた。この津家楠里の悪い所は、本人が大丈夫だと言っているなら、本当にその言葉を尊重してしまう所である。

 血塗れの怪我人が大丈夫と言っても誰も信じないが、この問題児はそうはいかない。

 

 なのでバルクホルンの強がりを分かっていても、先程の様な言葉が出てくる。

 

 

 ハンガーに帰投し、夕食となった時。

 案の定バルクホルンは魔法力の使用過多でへばっており、少し離れた所で下を向いていた。

 

「芳佳さん。タオルと湯をお願いします」

「はいどうぞ」

 

 楠里は芳佳から言った物を受け取ると、バルクホルンの下へと歩みを向けた。

 

 

「……あぁ津家か」

「随分と窶れられましたね」

 

 楠里はタオルを湯に浸し水気を絞ると、優しくバルクホルンの顔を拭き始めた。

 

「わ、……すまん」

 

 楠里程ではないが、目の下に隈が出来たバルクホルンはそれを受け入れた。

 

「まだ続けられますか」

 

 楠里もいい加減止めて欲しいと思いつつ再確認を取った。

 

「無論だ」

 

 芳佳らがバルクホルンに夕食を持ってきたが、どう見ても喉を通る状態ではなかった。芳佳の手前精一杯強がってはいたが、芳佳らが立ち去ると頭を下げた。

 

 楠里は芳佳とリーネが作った肉じゃがを少量だけスプーンに載せ、手を受け皿にしつつそっとバルクホルンの口へと運んだ。

 

「多少は食べなければ持ちませんよ」

 

 甲斐甲斐しく食べさせて貰いながら、バルクホルンは明日の事を考えていた。

 

 

 翌日のシャーリーとの勝負時、異変は起こった。

 

「ん、何だ?」

 

 シャーリーがスピードで負けてショックを受けている中、突如としてバルクホルンの機動がふらふらと不安定な物になった。

 

「コレをお願いします」

 

 楠里は手に持っていた実験記録が書き留められた報告書をシャーリーに押し付けると、出せるだけの力を振り絞ってバルクホルンに近づいた。

 

 

 比較的早期から機動の不安定を見抜いていた為、何とかバルクホルンの体を掴むことに成功した楠里。

 だがジェットエンジンが止まる様子は無く、抱き抱えた楠里ごと海面へと一直線に降下していた。

 

 シールドも満足になる物が張れない中、楠里はバルクホルンの頭部を守る行動に出た。

 

 バルクホルンの顔を自分の胸に宛がい、両手を回して包むように抱き込む。

 海面まで後3秒程と言った所で少し体を捻り、頭からでは無く左腕から落ちるように微調整をした。

 

 

 2人は即座に救助された。

 幸いにもバルクホルンは何処も怪我をしておらず、一先ずの安堵が得られた。

 

 だが救助に当たって間抜けにも怪我をした問題児が1人いる。

 

 楠里は海面に左腕から落下した結果、見事に複雑骨折の症状を招いた。

 ウィッチである事、咄嗟に魔法力を使ってシールドで衝撃を和らげた事が幸いした。

 

 高度5000mからジェットで海面に突っ込んだにしては、奇跡とも呼べる顛末である。

 

 

 この事件をきっかけに、基地司令であるミーナはジェットストライカーの使用と実験を凍結。

 バルクホルンには飛行禁止命令と謹慎が言い渡された。

 

 無駄に怪我をした楠里は、芳佳のバカげた魔法力による強引な治療が施された後に、基地専属軍医であるアレッシア女医に丸投げされた。

 

 そこで楠里はアレッシア女医の愚痴を延々と聞くことになる。

 

 

 

 楠里は再結成された501での中では、比較的出撃回数が少ない方だ。

 

 戦力は現状十分であり、態々楠里も含めた全員で出る必要は無い。更に楠里は緊急時の予備戦力としては破格の性能と能力を有している。

 他のウィッチが別方面へ迎撃中の場合、どうしても基地へ向かってくる個体は後回しになってしまう。

 さらにミーナも複数の作戦指揮を同時に行える程毎回余裕があるわけではない。

 

 従って楠里が基地副司令の様な扱いになっている。

 

 バルクホルンが謹慎を言い渡された次の日。早くもネウロイ出現の警報が基地に鳴り響いた。

 

 芳佳、リーネが予備戦力として基地に残り、ミーナと楠里が管制室で指揮を執っていた。

 

「津家さん。私と芳佳さんとリーネさんも出撃します。以後の基地の指揮をお願いね」

 

 楠里も左腕の複雑骨折により、当面の間は出撃禁止命令が出されていた。更にネウロイは想像以上に強力な個体であり、油断ならない相手であった。

 

「了解。3人ともお気をつけて」

 

 背中を見守る楠里の視線を受けながら3人は出撃していった。

 

 楠里は自分の立場を履き違えてはいないが、事実上ミーナから全権を委任された身である。故に相応の権限が付与されている。

 

「津家大尉、格納庫から強大な魔法力反応です!」

 

 通信管制官からの報告を受けた楠里は、バルクホルンの所有するインカムの周波数で通信を始めた。

 

「行かれるのですか、大尉」

『津家か。ミーナ達の足では間に合わないからな……なに、帰還したら罰を受けるさ』

 

 バルクホルンは己の過失で皆に心配を掛けた上に、楠里が骨折する直接の原因となってしまった事を悔いている。

 

「分かりました。お気を付けて……聞こえていましたね中佐」

 

 通信内容をそのままミーナにも流していた楠里は、ミーナからの反応を待った。

 

『……5分で切り上げさせて。それと、出撃を許可した津家さんも罰を受けて貰うわ』

「了解しました。ミーナ中佐や皆さんの帰還をお待ちしてます」

『まったくもう』

 

 楠里は管制室に居た基地要員全員に指示を出し続け、事態は収束へと向かっていた。

 

 

 

 今回のジェットストライカーを生み出したウルスラ・ハルトマンは、エーリカの双子の妹である。

 姉とは違い常に冷静沈着で論理的な思考をしているが、その実は姉とは別方面でやべー人間だ。

 

 研究室を吹き飛ばすのは当たり前であり、開発する物もどこかズレていたりと中々である。それでも姉のエーリカ同様にウィッチとしては稀有な才能を有しているのだ。

 

「今回は大変お騒がせしました」

「いや、試作機に事故は付き物だ。それより壊してしまってすまなかった」

 

 ウルスラとバルクホルンが互いに謝る中、楠里は件の報告書を見返していた。

 

「ハルトマン中尉。こちらが詳細な実験報告書です」

 

 楠里は話を終えたウルスラにバインダーを手渡した。

 

「ありがとうございます。津家さんも今回はご迷惑をお掛けしました」

 

 楠里はお気になさらずと返答し、報告書を交えながら2人で話し合いを始めた。

 

 

「津家はアレだな。誰とでも専門的な会話が出来るな」

 

 罰として芋の皮を剥いていたバルクホルンが楠里を見ながら呟いた。

 

「本人は意図していないが、自分の領域で専門的な会話が出来る相手には誰もが好感を持つものだ。ウルスラ中尉の会話に対等に付いて行ける相手などそうは居ないから、余計に嬉しいのかもしれんな」

 

 尚、現実は楠里の頭は何一つウルスラの話を理解出来ておらず、それっぽい言葉を適当に羅列していくだけである。

 それでも会話に整合性があり破綻していない辺り、それもある意味では才能かもしれないが。

 

 どちらにしろ褒められるものではない。津家楠里は頭を使う事より、何も考えず体を動かす方が得意な脳筋なのだ。

 さもなければ擁護できない程の超害悪思考精神論も持ち合わせていない。

 

そういえば津家さん。左目があまり見えてないのでは?

 

 周りに聞こえないように小声で話したウルスラは、楠里の症状を指摘した。

 

視力も落ちてきましたからね。あまり大声では言えませんが

でしたら私の予備の眼鏡をお使いください

 

 度数が違うのではと楠里が指摘すると、後日調整して送るとウルスラは提案してきた。楠里がその話を受けると、ウルスラは嬉しそうの微笑むのであった。

 

 

 

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