シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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留守番の魔女

「では追加の予算申請書の件、よろしくお願い致します」

 

 501部隊司令室。

 ミーナが書類を捌いていく中で、楠里は電話対応をしていた。502のサーシャと似たような待遇になった楠里は、これもお世話になったミーナ達の為と思って働いている。

 

 受話器を肩と耳で挟みつつ左手で決済の書類を纏め、右手で下から上がって来た報告書を捌く。やってる事は繫忙期のサラリーマンと何ら変わらない。

 

 トラヤヌス作戦が失敗し、ヴェネチアに巨大な巣が現れてからというもの、欧州戦線はより一層の激しさを増していた。

 坂本の同期で親友の竹井大尉が所属する第504統合戦闘航空団も、その戦力を喪失して出撃不可の状況だ。

 

 1939年、黒海に突如として現れ何の予兆も無く始まった第二次ネウロイ大戦は、5年の月日が流れても終結の兆しが見えない状況である。

 

 欧州がネウロイの電撃的な侵攻を受けた時、人類は態勢を立て直すために撤退を選んだ。

 だがダイナモ撤退作戦やハンニバル撤退作戦を始めとし、その欧州撤退戦は苛烈と悲惨を極めた。

 

 軍事大国カールスラントを始め、ガリア・スオムス・オストマルクは特に酷い物であった。

 ブリタニア・ヒスパニア・バルトランドに亡命した多くの軍人はその場で再編成されて、祖国奪還の任に就くことになった。

 

 そしてネウロイの魔の手は、遂にブリタニアまで差し迫った。

 ブリタニアが陥落してしまえば、交通の要衝である海路が封鎖されてしまい、人類が大陸反抗作戦を行う事は不可能になってしまう。

 それ故に、ブリタニア空軍所属・ダウディング空軍大将の必死の働き掛けを以て結成された決戦部隊が異常な戦力を持つのは仕方の無い事なのだ。

 戦火に巻き込まれた欧州各国が滅亡し、貸し付けた利益の回収が危ぶまれる事態になると、リベリオンは直ちに総軍を派遣した。世界中が協力し合う中で動かないのは国外評価が著しく下がる上に、国内世論が傾き暴動が起きる可能性があるのも理由の1つだ。

 

 

 だがその想いとは裏腹に、501結成の為に無理をしたダウディング空軍大将は各国の不信を買ってしまい失脚してしまった。

 

 設立にあたり数多くの難題が持ち上がり、設立後も引き抜きや工作で弱体化した部隊を此処まで建て直したミーナの腕前は、誰もが称賛するものだ。

 

 楠里はその重荷を僅かでも肩代わり出来たらと考えている。

 

 とは言え―――。

 

「失礼致します。津家大尉にお手紙です」

 

 楠里は入室してきた兵士の言葉を聞くと、蟀谷に手を当てて疲れ目を揉み解した。

 

「津家さんは人気者ね」

 

 楠里がこの様な手紙を貰うに至った理由は非常にシンプルだ。

 

 フレイアー作戦の映画が思った以上に欧州で反響を呼び、是非その戦闘機動を部隊に伝授して欲しいといった手紙が多く届くようになった。

 

 504の戦闘隊長である竹井から坂本へ宛てた手紙には、楠里をくれと書き込まれていた。坂本は一も二も無くそれを断ったが。502のラル少佐からも、席は空けているとの手紙が届いた。

 

 『最も長い撤退戦』を指揮し成功に導いた英雄にして、第505統合戦闘航空団『ミラージュウィッチーズ』の隊長を務めるグレーテ・M・ゴロプ少佐からの手紙は簡素な内容であった。

―――その能力と功績、命令に絶対服従する姿勢を評価する。私は貴官を我が隊に組み込む用意がある。

 語るも悲惨な極限状況を強いられた彼の部隊からすれば、楠里の忍耐力と精神力は参考程度にはなるらしい。

 

 ガリア防衛を主任務とする貴族部隊である第506統合戦闘航空団『ノーブルウィッチーズ』からも打診や手紙が数度かあった。

 意外かもしれないが、楠里は血筋だけで見れば欧州で言う貴族、扶桑で言う華族の血が入っているのだ。

 これは楠里の父親であった中将が扶桑の華族と遠縁であった為である。希釈され過ぎて1μℓも華族の血が入っているか怪しいが、不思議な事に華族の血が入っている扱いなのだ。

 故にノーブルウィッチーズB部隊で教官として迎え入れたい旨を打診されている。

 

 統合戦闘航空団の前身部隊(プロトタイプ)とも言われる『スオムス義勇独立飛行中隊』通称、いらん子中隊だったウルスラからも手紙を受け取っていた。

 現在は第507統合戦闘航空団『サイレントウィッチーズ』へと再編された部隊である。当初は二線級以下の人員と機材の寄せ集めであったが、いつの間にか試作機や新兵器の実験部隊となり、最終的にスオムスを救った最精鋭部隊に変貌した。だが楠里の経歴並みに情報統制がされた機密満載の部隊である為、ウルスラからはあまりおすすめしないという内容であった。寧ろ私の補佐になりませんかという要望の方が強かった程である。

 

 空母から発着艦が問題無く可能で、洋上航法を取得していて戦闘技術も問題無しとの判断が下った楠里には、8つある中でも特に異色の第508統合戦闘航空団『マイティウィッチーズ』からも打診が来ていた。

 502部隊より転属して昇進となった雁淵孝美大尉の推薦でもある。508は扶桑・リベリオン・ブリタニアの3カ国から成る部隊で、空母を拠点とした機動艦隊だ。

 

 その他にも42JFSといった各方面から勧誘の手紙が相次いで届き、楠里をウンザリさせる事になった。

 だが楠里はその手紙全てに丁寧な謝辞を以て返答した。自分の腕や戦果を評価してくれた事への感謝から始まり、自身が501に留まりたい理由と、勧誘に応じられない事への謝罪など、出来うる限りの事をした。

 

 そうしてやっと数日前に落ち着いたかと思えば、またもや手紙が送られてきた。

 良くも悪くも我が強いウィッチらの中で、楠里程の丁寧な対応は先方の気を更に引いたらしい。

 

 手紙を無視すると言った事はしない。部隊の運用もそうであるが、何かあった時に頼れる人脈というのは非常に得難い物だ。力あるウィッチらと仲を深めておくとメリットもある為、楠里は手紙に返信をする。

 

 楠里にしてみれば、扶桑司令部の楠里排斥派将校でさえ貴重な人脈である。彼ら彼女らは楠里の事が嫌いかもしれないが、楠里は別段嫌ってはいない。補給の件での白々しい言い訳と映画を阻止出来なかった事を除けば優秀な人間である事は間違いが無いからだ。

 

 502に届いた追加物資と共に届いた手紙を見た時、楠里は確かに怒気を孕ませた。だがそれは頑張っている陸戦隊の苦労を思えば、あの言葉が許せなかったというのが理由だ。

 

 

 501にはプロパガンダ任務も含まれており、1945年現在では非常に貴重なカラーフィルムを多用した撮影が行われている。この撮影にはソレ専門の撮影隊らが配属されている。

 

「どうぞ」

 

 日常生活や戦闘を大迫力のカメラアングル(ズボンや尻を中心)で撮影し、世界中から高い評価を受けているカルラ・ルースポリ大尉が中心だ。

 

「……」

 

 全く気配を察知させず姿も見せずに近距離撮影を行う事からステルス能力を有していると噂される彼女からしてみれば、常に自分の隠形を見破ってくる楠里は興味深い存在と同時に忌々しくもあった。

 

 今も楠里にお茶を差し出され、なし崩し的に受け取ってしまった。ルースポリは考えても詮無いかと区切りを付け、気配を消して3名の撮影を続行した。

 楠里は基本的にカメラに映ってくれるが、固有魔法や薬物を使った時だけ絶妙にカメラアングルから消えるのだ。目立たないが確実に戦果を挙げている楠里の記録が進まない。

 以前、出撃するメンバーに同行せず管制室で指示をする楠里に密着撮影した事があるが何も起きなかった。数回の密着撮影を試み、何も無い為諦めて出撃メンバーに付いて行った時に限って、別方面からネウロイが来た。

 ルースポリ曰く『死に際を撮った撮られたの仲じゃないですか』との事。

 そんな経緯があり、彼女は楠里に若干お熱である。

 

 

 現在、基地司令室にはミーナと坂本、楠里が居る。

 

「さっき、司令本部から連絡があったわ」

「今回のネウロイの件か?」

「ええ。ロマーニャの海軍と空軍が後を引き継ぐことになったわ」

「ほう?」

 

 何やら年寄りじみた湯吞みの持ち方をする坂本が、ミーナの報告に目を少し見開いた。

 ロマーニャ公国軍も自国の領土に巣があり戦力が割けない中で、少しでも結果が欲しいのだ。自国の軍隊が戦果に乏しいと、国民や軍自体の士気が大幅に下がってしまう。国内・国際世論を都合の良い方向に持って行く為にも、ここで何としても活躍したという結果を求めなければならない。

 

「件の公女様の発破もありますしね」

「お手並み拝見、だな」

 

 楠里はミーナと坂本に聞こえない程度の声でルースポリに呟いた。

 

「アレが熟年夫婦ですかね」

 

 ルースポリは心の中で『知るか』と罵ると、ミーナのズボンをドアップで撮影し始めた。

 

 

「では本日2000よりブリーフィングを行うわ。津家さんは司令部から送られてきた資料とプロジェクターの用意をお願い」

「了解」

「美緒は出撃メンバーの選定と各種戦力の最終確認を」

「分かった」

 

 時が進み、今回ブリーフィングを行うレクリエーションルームにて。

 

「こ、高度3万m!?」

「ああ。コレが時速10km程度で移動中だ」

 

 塔型ネウロイのコアは、よりにもよって一番天辺にあると坂本の魔眼で観測された。

 楠里は説明の進行度に合わせてプロジェクターを操作する。

 

「えっと、高度3万mっていうと富士山の……」

 

 今回の作戦では、レシプロユニットにロケットブースターを外付けしてウィッチを打ち上げる作戦となった。

 

 ペンシルロケット、あるいは多段式ロケットの応用であるこの方法を用いて、成層圏まで上がるという内容だ。

 

「申し訳無いのですが、私はブースターを使える魔法力が無いので地上待機となります」

 

 では何の為にこの部隊に所属しているんだという理由はさておき、楠里の魔法力では精々5秒ほど噴かせる事が出来れば上出来である。

 

 ロケットであればその5秒で大きく高度を上昇させる事が出来るが、それは加速しきって本来の速度に達する事が出来ればの話だ。

 

 シャーリーらがあーだこーだと議論する中で、坂本がメンバーを選出した。

 

「津家は基地で指示を出すとして、瞬間的かつ広範囲に攻撃できる者として……サーニャ、コアへの攻撃はお前に頼みたい」

 

 そう発表されるとエイラが予想通りの反応を見せた。

 

 だが坂本がエイラにシールドを張れるのかと聞いても、返ってくるのは張った事が無いという返答だ。

 ネウロイの挙動や攻撃、停止位置まで完璧に予知出来るエイラにとって、シールドなど張るだけ魔法力の無駄である。

 彼女にしてみれば、予知して少し体を捻るだけで全てが済むのだから。

 

 念を込めてシールドを張った事が無いと確認を取ると、自信満々にその通りだとエイラは応えた。

 

 呆れた顔で蟀谷に手を当てた坂本は、芳佳をサーニャの護衛として指名した。

 

 芳佳は富士山ならぬ富士算を未だに指で続けており、坂本の指示に慌てて返答をしてしまった。それがエイラの嫉妬心を爆発的に引き上げてしまう。

 

 

 ロマーニャ公国の海軍と空軍が塔型ネウロイに接触を行い攻撃を加えるも、芳しくない結果となった。

 これをもって501が正式に塔型ネウロイに対処するよう命令が下った。

 

 第1打ち上げ班が通常動力で高度1万mまで、第2打ち上げ班がロケットブースターを使い2万mまで打ち上げる。最後にサーニャと芳佳がブースターに点火をして最終目標の高度3万3333mまで上昇する。

 

「カウントダウンスタート。皆さんの無事の帰還を願います」

 

 滑走路先端で打ち上げが始まる中、楠里は管制室で指示を出していた。

 建物の中に居るというのに耳に響く轟音を聞きながらレーダーを見ていた。

 

「……ん、津家大尉。レーダーに一瞬不審なエコーを捉えました。アンテナを件の方向へ向けてレーダー波を照射していますが探知出来ません」

 

 レーダー観測員からの報告が上がってくると、楠里は別の人員に話を振った。

 

「飛行予定表を」

「こちらです」

 

 楠里はソレを暫し眺めると、机の上に広げている戦略図面にバツ印を入れた。

 これは不審な反応があった座標である。

 

「現在、高度3500m。部隊は順調に上昇中です」

 

 楠里は部隊に変化があれば伝えるよう指示を出すと、念の為にハンガーへ連絡を入れた。

 

「こちら津家大尉。私の機関銃に弾を装填しておいてください。ユニットも即時稼働可能な状態に」

『了解しました』

 

 整備班からの返答を受け取ったと同時、再び報告が上がって来た。

 

「再度反応を捉えました。先程よりも近いです」

 

 再び戦略図面にバツ印を入れた楠里は、ふーむと考え込んだ。

 

「ネウロイだとして、基地に向かっている訳でも中佐達に向かっている訳でもないか」

 ミーナに連絡するよう通信員に伝え、楠里はふと窓の外を見た。

 天気は雲一つ無い快晴であり、海も非常に穏やかだ。

 

 綺麗な海の青色と空の水色が織りなすコントラクトは、その水平線らをより鮮明に映し出した。

 

―――そう、その水平線に一瞬現れた小さな小さな『赤い光』をも。

 

「―――総員、衝撃に備え!」

 

 楠里のその言葉と同時、大きな振動が基地全体を襲った。

 そして凄まじい音が鳴り響き、基地は一瞬にして火災に包まれた。

 

「げほっげほっ……」

「今のは一体……」

 

 混乱が辺りを支配する中で、楠里がいち早く立ち直った。

 

「被害状況を。中佐に通信を繋いで下さい」

 

 次に早く立ち直った人員が急いで基地内の事を調べ始めた。

 

「ダメです! 通信装置破損、レーダーも沈黙しています!」

「東部集積所全壊! 滑走路も先端が有りません!」

 

 その言葉を聞くと、楠里は言葉を発した。

 

XS-1(アレ)の様な特異個体ですかねぇ。念の為に引き続き中佐らに通信を続けてください。被害状況の把握と人命救助を最優先に。あと少しで中佐ら第1陣が基地周辺まで降りてくるはずです。私は少しでも空で時間を稼ぎます」

「了解しました。大尉殿、お気をつけて」

 

 楠里は手早く指示を出すとハンガーへ向かい始めた。

 

 

 奇跡的に格納庫は無事であったため離陸した楠里。

 

 先程攻撃が飛んできた方向へ飛び続ける事20分。

 

「……」

 

 そこには、待ってましたと言わんばかりに見慣れない形状のネウロイが留まっていた。

 円形状で厚さは無いと言っていい程に薄い。まるで薄い煎餅をそのまま大きくしたような見た目である。

 

 だが円の中心には莫大なエネルギーが収束しており、基地への攻撃はアレが原因だと言うのは一目で理解出来た。

 

 楠里は持っている機関銃を様子見がてら2発程発砲した。

 

 だが次の瞬間、機関銃は突如として爆散し、細かな破片が楠里の全身をズタズタに切り裂いた。

 

「―――がッ」

 

 更にどういう訳か、楠里の右胸から突如として大量の鮮血が噴き出た。

 

 

 真面に呼吸も出来ない中、楠里は何の対策も得られずに意識を手放した。

 

 




ちょっと長い後書き。

ワールドウィッチーズは御大らが1から10まで綿密に練り上げた世界です。ストライクウィッチーズやブレイブウィッチーズはその世界で起こった事の一部を抜き取って作られています。
場所も時系列も全く違うのにアニメ化やコミカライズ化しても一切の矛盾が生じないのはこういう理由です。

で、そんな完成された超名作の中に不純物のオリキャラを混ぜ込んでも、同じような活躍をさせるのは難しいのです。オリキャラらしく1期部分で坂本の被撃墜場面で楠里を動かしましたが、結局坂本も楠里も堕ちました。
コイツ1人居た所で大まかな流れは変わらないし変えられないという典型的な例ですね。

ではそんな楠里を良い悪い関係なく目立たせるには、新しくネウロイを生み出すか体が弱って行く描写ぐらいしかありません。そして被弾なりして物語が進むわけです。
なので多少の強引は展開や不自然な状況を見逃してください!
これだけは伝えたかった。


友人「一番上を10として、楠里の容姿ってどれぐらい?」
私「読者次第」
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