シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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また内容重複してたんですって奥様。
ご指摘くださった皆様ありがとうございました。

再発防止に努めます。


不明の魔女

『寒中水泳!?』

 

 第502統合戦闘航空団が駐留するペテルブルグ基地にて。

 レクリエーションの一環でニパが打ち出した提案はラル少佐によって可決された。

 

「何でこんな寒波吹き荒ぶ時期に氷水にダイブしないといけねーんだ」

 

 管野はニパにその事を問い詰めるも、ニパは笑顔でひかりとの絆を深める為だと言い張った。何やら別の思惑も見え隠れしているが、そこに気付く人間は居ない。

 

「ニパ君、人は寒い外で氷水には入らないんだよ!?」

「そんな事ありませんよ。オラーシャでもよく行われている健康法です」

 

 常識人であった筈のサーシャからの意見は、場に更なる混乱を生み出した。

 

「あの、教育者としては風邪になる事が目に見えているので反対します」

 

 ロスマンが皆を心配して、かつ戦力に影響を及ぼすのを避けるために再考を上申した。

 

「しかしな、寒冷の恐ろしさに慣れておかなければこの先辛いぞ」

「でしたら日常生活の中でも十分に味わえるではないですか」

 

 ラル少佐とロスマン曹長が意見を言い合う中、黙って聞いていた楠里が口を開いた。

 

「仮に寒中水泳を行うとして、手本を見せて頂きたく思います。手始めにラル少佐から」

「え」

 

 ロスマンは楠里の意見に同調した。

 

「そうね。そこまで言うからには少佐もやらないと示しが付かないわね」

「……それは、私の腰に効くか?」

「あぁ、それは悪化しちゃうかも」

 

 ラル少佐は欧州撤退戦の折、ネウロイとの戦闘において被弾した。脊髄に深刻な後遺症を残したが、懸命なリハビリと魔法力が練られたコルセットを使い戦線に復帰した。更にネウロイ撃墜数世界3位でもある。

 

 腰が治ると言うならば寒中水泳もやる覚悟だが、治らない上に寧ろ酷くなるなら絶対にやりたくない。

 

「そうか、残念だ」

 

 心の中で安堵の声を上げつつ、エースとしての誇りを守り通したラル少佐。だが運が悪い事に、ここには言葉遊びに絶大な力を有する扶桑のウィッチがいるのだ。

 

「扶桑には乾布摩擦というびっくり健康法がありまして。乾いた布で肌に刺激を与えて血行を促進させたりします。肌が傷ついたりもしますが、我々ウィッチはそれぐらいなら直ぐに治ります。上半身裸かつ外で行いますが、これなら腰に影響はありませんね」

「おお確かにそうだな! 俺らが氷水に飛び込む傍でそれを行って是非とも心意気を見せてくれ!」

 

 自分たちが寒さに震える中、暖かい部屋でコーヒーを飲んで落ち着いているのが若干気に食わない菅野が楠里に同調した。

 

「だから変に刺激を与えたら悪化するんだが。大体摩擦熱で血行を良くするならサウナでいいだろ」

 

 やりたくないの意思が籠ったラル少佐の意見だが、菅野らはその言葉を待っていた。

 

「だったら俺らも態々寒中水泳なんざしなくてもサウナで何かやればいいじゃねえか! 大体寒冷地の常識を世界の常識と履き違―――むぐぐ」

 

 楠里は菅野が勢い余って面倒な事を言うのを阻止しつつも再度口を開いた。

 

「雪合戦とかでいいではないですか」

 

 

 少し時が経ち、寒空の下で。

 

「氷割れたから入ろっかー」

 

 ニパが満面の笑みを振りまきつつ、ひかり達に振り返った。

 

「ニパさん寒いです!」

「大丈夫だよひかり。入れば慣れて寒くなくなるよ」

「しょ、正気の沙汰じゃねえ……」

「もー菅野も大げさすぎ」

 

 楠里はどうせ痛いんだろうなと思いつつ、覚悟を決めてさっさとその身を投げ入れた。

 

 飛び込んだために、水柱が立ち上がった。

 

 

 

 海水に深く突っ込んだ楠里は、大きな水柱とその衝撃と傷口の痛みで意識を取り戻した。

 幸か不幸か天候は頗る快晴であり波も穏やかだ。これが陸から遠く離れた外洋であればもっと波は高くなり、楠里にはどうする事も出来なかったであろう。

 

 傷口に咄嗟に手を当てて魔法力で塞ごうとするも、上手く力が入らない。そして先程から何故か分からないが左目付近にも激痛が走っている。

 

―――あの流木が生命線か。

 

 浮かんでいた流木にしがみついた楠里は、傷口が海水に浸からないようにしつつ、流れに身を任せた。履いていたユニットも喪失している。

魔法力は傷口の保護に回している為浮く事も出来ない。

 

 どれだけ最善を尽くしても20分辺りが限界だと楠里は判断した。

 

 状況確認も含め、霞む視界で辺りを見渡せば目視範囲内に陸が見えた。潮の流れは陸の方へ向いており、何事も無ければ浜辺へと打ち上げられる。

 

 流木にしがみ付きつつ、少しでも速度を上げる為足で海中を蹴る。極寒の海に比べればこの程度は楠里にとって何の事も無い。

 

 但し楠里は501と502という恵まれた環境に甘えて過ごして来たので体力が落ちている。更にミーナが基地副指令に楠里を任命したのも大きい。訓練はしていたが、結局の所は才能が無いにも拘らず出撃を怠り環境に甘えた当人の自業自得なのだ。

 

 だがそうしている間にも時間は進み、10分近くで楠里は浜辺に打ち上げられた。

 

 基地から戦闘脚で海上を全力飛行で20分、ネウロイを捕捉してから攻撃に移る段階まで5分。

 そして海に落ちてから流されて10分と、徒歩で基地に帰還するには難しい距離になってしまった。

 楠里が奇跡的に到達した浜辺は、ローマ市近郊の浜辺であった。戦時でなければ観光地として賑わっているであろうその場所は、今や無人の様相を呈していた。

 

「ぐッ……う'ええ」

 

 溺死の危機を乗り切った楠里は、緊張の糸を緩めてしまった。その代償はアドレナリンが抑えられた事による痛みの自覚だ。

 

 また焼灼止血法かと思い傷口を見ると、楠里は違和感を覚えた。

 

―――ネウロイのビームじゃない?

 

 ネウロイのビームであれば、傷口は焼け爛れた様な物になるのだが、この傷は違った。

 まるで大口径の銃弾を喰らった様な傷口である。

 楠里は銃創かと思ったが、あの空で楠里を撃つ人間は居なかった。

 

―――長距離狙撃、ネウロイの裏に隠れていた?

 

 ここまで考えた所で、楠里はまた意識が朦朧とし始めた。

 

 元は観光地だったのか、すぐ近くには道路が敷かれており、運が良ければ見つけて貰えるかもしれない。

 

 魔法力で傷口を抑えていたのだが、それも限界に達しつつあり、夥しい程の血が流れ始めた。

 

 

 

「無線が通じないわね。故障かしら」

 

 連合軍第504統合戦闘航空団『アルダーウィッチーズ』戦闘隊長、竹井醇子大尉は501の基地に向けて車両を飛ばしていた。

 現在、高度3万mという高さに位置するネウロイを攻撃中のサーニャ達は、帰還に必要な燃料が無い為、赤ズボン隊による回収が予定されている。竹井はその回収関連の報告や501との共同作業の為に基地へ向かっているのである。

 いまこうしてる最中にも回収作業は行われている筈であり、所用で出発が遅れた竹井が急いでいるのはこう言う理由だ。

 何度目かの定時報告を送ろうと無線機を繋いでも、聞こえてくるのはノイズのみであり、501基地からの応答は一切無かった。

 仕方なく戦域司令部へ状況確認を要請する無線を繋いだが、司令部らも状況が分からないという回答であった。

 

 浜辺に面した海道に入って暫くした頃、道端に人が蹲っているのを竹井は発見した。

 

「え、ちょっと!?」

 

 大急ぎで車を寄せてその人間に近づくと、それは年端も行かない様な幼い少女であった。だが着ている服は扶桑海軍指定の寒冷地用野戦服であり大尉の階級章が付いている。さらに足にもホルスターが装着されており、中のリベリオン製拳銃1911も確認された。

 

 軍属である事が直ぐに分かった竹井は、蹲っている少女の上体を起こすと、夥しい量の血が付いていた。

 少し悲鳴を上げた竹井は、車両に積み込まれている応急セットを取り出すと、少女に止血作業を試みた。

 

 手や腕といった場所であれば患部を清潔なガーゼや布で抑えて、患部より上を圧迫して止血したりと方法があるのだが、少女は不思議な事に右胸に銃創らしき物が大きく出来ており、残念ながら手持ちの応急セットでは対応が難しかった。

 更に左目下から下頬にかけて熱い物が押し付けられたかのような火傷を負っている。

 

「くそッ、でもこの子……無意識に魔法力で血液の流れを遅くしてる。これなら……」

 

 竹井は車両の無線周波数を再び司令部へと繋げると事を報告した。

 

『了解。ローマ市の軍病院が受け入れ態勢を整えている。そのウィッチの身元を証明出来る物はあるか』

 

 竹井が少女の顔を改めて確認して、驚愕の声を上げた。

 

「こ、この子、津家大尉!?」

『津家……最果ての渡り鴉か!? そのウィッチはロマーニャ公国の公女様とも知己だぞ!?』

 

 兎も角急いで指定の病院へ搬送すると無線で伝えた竹井は、なるべく揺らさない様に少女―――楠里を車に乗せると、出せる限りの速度で来た道を戻った。

 

 

 軍が何かしら手を回したらしく、ローマ市内に入ると病院への道は軍が確保しており、一直線に向かう事が出来た。

 

 竹井が大急ぎで病院の正門へ車を止めると、白衣を着た扶桑の軍人が嫌々ながら出迎えた。

 

「扶桑海軍所属、茂野少佐だ。コレの運搬本当にご苦労様だ竹井大尉」

 

 茂野少佐は楠里を乱雑に担ぐと、『あー手が滑って匙投げちゃおっかなー』とぼやきながら病院内へと消えて行った。

 

 

 楠里が目を覚ましたのは、その3日後であった。

 治療を担当した茂野少佐はさっさと次の任地へと行ったらしく、今は別の医師が経過観察に当たっている。

 

 目を覚まして真っ先に楠里が口にしたのは、501はどうなったのかであった。

 ストライクウィッチーズの基地とは2日前に無線が繋がり、被害は大きいが死者は何と0という結果であった。勿論重傷者は大勢いる上に、基地自体への物理的被害も凄まじかったが、楠里がネウロイへ向かった為に以降は攻撃が止んだらしい。

 

 楠里は死者0は流石に嘘かと思ったが、どうやら今回はしっかりと基地の人員を守れた様である。司令部やミーナの推察では、あのまま楠里が基地に残っていればより甚大な被害が出ていた可能性があり、図らずも最善の行動が為せたのだ。

 

「竹井大尉、今回は本当にありがとうございました」

 

 楠里は竹井が病室に見舞いに来てくれたのを確認すると、急いで立ち上がって深く頭を下げた。

 その際少し姿勢を崩してしまい、顔を竹井の胸へと埋める事になった。

 

「いいのよ津家さん、そんなに慌てなくても……それと、美緒達が帰れる場所を守ってくれてありがとうね」

 

 竹井は楠里を優しく抱きしめると頭を撫でた。

 

「ほう、芳佳さんやルッキーニさんの気持ちが少々……ではなくて、もう立てます竹井大尉」

 

 

 落ち着いた所で、竹井と楠里は今回の事件の話し合いを始めた。

 

「津家さんの右胸はネウロイのビームでは無く銃創だったわ。貴方が使っていた九九式二号二型改13mm機関銃と同口径よ。何か心当たりはある?」

 

 楠里は頭を捻って考え込むが、どうしても原因が掴めなかった。まさか整備兵が細工を施したかと思ったのだが、501を支えるウィッチ以外の人員、凡そ1000名は軍司令部とミーナの厳重な身辺調査をクリアした者だけが任命される。

 仮に楠里排斥派の人間と繋がっていた場合は、そもそも人員には迎えられない。

 

 現場での状況も楠里は説明を始めた。

 

「様子見で2発程撃ったのですが、その直後に銃が爆散して右胸に痛みが走りました」

「それも何かおかしいわ。暴発するにしてもさせるにしても初弾で良い筈よね」

 

 あーだこーだと推測を述べていく中、楠里はネウロイにも触れた。

 

「ネウロイの形状ですが、こう……何というか、厚さは薄く丸かったですね」

「丸い、ねぇ……扶桑煎餅みたいな。丸い、丸い……」

「……」

 

 竹井は何と無く部屋を見渡すと、壁に取り付けられた丸い鏡が視界に入った。

 

「……鏡? まさかファンタジーみたいに銃弾が跳ね返って来たとか?」

 

 そもそも撃った銃弾がそのままの軌道で跳ね返るなど、それこそ創作の中である。ましてや強風吹き荒ぶ海上で、楠里は戦闘脚を履いて高速移動中だったのだ。

 

「仮にそうだとした場合、今後同個体が現れた時はシールドを張りつつ小口径弾で様子を見るか、長距離から攻撃をして様子を見るかですね。シールドをすり抜けて来ない事を願います」

「今分かるのはこの程度か。軍も本格的に調査を始めているから、何か分かるまで報告を待つとして……津家さん、ちょっと504に来ない?」

 

 楠里はその度重なる負傷と固有魔法の行使により、肉体が崩壊寸前である。魔法力も全盛期に比べ3分の1以下に落ち込み、飛ぶだけで精一杯な状況だ。

 シールドは一応張れるが、見かけだけで防御力は一切無い。しかも固有魔法は薬物によるブーストが無いと満足な効果が得られない為、戦力としては使い物にならない。

 

 少し分かりづらいが、固有魔法自体は少ない魔法力で発動できるが、狂乱状態に至るまでに必要な魔法力が楠里には無い。特殊強心剤はあくまでも脳内麻薬術式で生み出されたアドレナリンを大幅にブーストさせるだけであり、都合の良い魔法力カートリッジなどではない。

 

 楠里はどうしようもなく役に立たない自身の手を暫く見つめて、乾いた嘲笑を浮かべた。

 

「お誘いはありがたいのですが、私の居場所は……501で在りたいと思っています」

「……美緒の言っていた通りだわ。貴方はもう止まらないのね」

 

 楠里の眼は、もう自分の死期が大まかに分かっている眼であった。

 

「竹井大尉の事は坂本少佐から伺っておりました。部隊や人員管理において扶桑で知らない者は居ないと」

「美緒らしいわね。因みに、今は映画の影響で貴方は欧州で一番有名かもしれないわ」

 

 楠里はそれを聞くと『世の中どうかしていますね』と吐き捨てた。

 

「それで竹井大尉。先程から気になっていたのですが、その小箱は何ですか?」

「あ、気になる? これはね、津家さんの為に用意した化粧セットよ」

「……は?」

 

 主治医曰く、左頬の火傷は機関銃から排出された薬莢が当たった事が原因らしい。

 薬莢は人間に向かない様に基本的には右へ排出されるのだが、不自然な事に押し付けられた様な痕跡が確認されたという。

 

 詳しい事は事態が解明されるまで分からないが、酷い火傷痕を隠すために化粧を教えるとの事だ。年頃の少女にしては珍しく、楠里は美容やらの知識は全く無い。

 下地を整えて火傷部分を隠す様にファンデーションやらを付けていく中、楠里は塗り壁だとか塗装工事だとかを頭に浮かべていた。ウィッチは化粧をしなくても便利な魔法力で優れた容姿を維持しているが、物理的な怪我は別である。

 ハリウッドの特殊メイクかと見紛う程、竹井の化粧技術は優れた物で、一目見ただけでは火傷があるなど全く分からない程に仕上がった。

 

「これでよし。後はまあその日の肌の調子に合わせて細かな修正をすればいいわ」

 

 メモを取ってその手順や必要な道具・化粧用品を記録した楠里は、心の中で『面倒』と呟くと竹井に礼を述べた。

 

「しかし、よくもまあ上手く隠せるものですね」

「女の子なんだからそういった知識も知っておかないとね。美緒もやらないだけで化粧の知識はあるわよ?」

「へ、え……」

 

 余りにも衝撃的かつ意外な事実に楠里は珍しく言葉を詰まらせた。

 

 余談だが、別の部位の皮膚を持って来て火傷の上に移植する植皮医療は、残念ながら1945年現在では確立されていない。

 

 退院まで竹井は楠里に付き添い続け、話し相手になり続けた。ミーナとは違った意味で包容力がある竹井に、楠里は気を許して色々と話を続けた。

 様々な話を通す中で、楠里は坂本に上手く書類仕事をさせるコツを教わった。

 

「ユニットはこちらで用意したから、501の皆によろしくね」

「分かりました。竹井大尉、重ねてお礼を申し上げます」

 

 竹井は最後にもう一度楠里を抱きしめると、飛び立つ後ろ姿を見送った。

 

「願わくば、貴方の旅路が幸多からん事を。そしてその旅を終える時、貴方が幸せで在りますように」

 

 

 

 少し時間は巻き戻る。

 

 楠里が定時連絡を絶ってから数分後、ミーナら打ち上げ班第1陣が基地上空まで戻ってきた。

 

「何よ、これ」

 

 目に入った基地は、出発前とは違い無惨な状態であった。

 基地の東部分は大規模な火災が発生しており、滑走路の先端は抉り取られたかのように消失していた。

 

「津家大尉応答せよ、津家大尉!」

 

 坂本が必死に基地に居る楠里に呼びかけるが、一切反応が無かった。

 大急ぎで滑走路に降り、ハンガーに近づいてみれば、そこは負傷者だらけであった。

 

「あ、ご無事でしたか司令!」

「これは一体どういう事!?」

 

 ミーナらに気付いた兵士が大慌てで駆け寄ってくると、急いで状況を説明した。

 

「クソ、今すぐ津家の救出に行かなければ!」

 

 バルクホルンが急いで武装を整えようとするが、そこに新たな情報が入って来た。

 

「弾薬庫への道も瓦礫で塞がれていました! 大至急復旧作業を行っても、3時間程掛かります!」

「……ッ私が瓦礫を片付ける!」

 

 バルクホルンが案内されながらその場を離れる中で、ハルトマンはミーナの傍に寄った。

 

「津家が居なかったら基地もより酷かったかもね。どうするミーナ」

 

 ミーナは苦い表情を浮かべながら頭を捻っていた。

 

「航続距離と速度の面でシャーリーさんに先行してもらいます」

「はいよ。武装は置いていくぜ」

「構わないわ。兎に角離脱を最優先に」

 

 そしてミーナの指示の下、シャーリーは出せる速度で楠里が飛んで行った方角へと向かった。

 

 

『通信装置の一部を最優先で復旧させたわ。シャーリーさん聞こえる?』

「はいよ。感度良好だぜミーナ中佐」

『シャーリーさん聞こえているかしら?』

「あれ?……受信機能は治ってないのか?」

『こちらの受信部分にまだ問題があるようね……取り敢えずこのまま話すわ。戦闘が行われていないようなら海上を重点的に探してね。こちらもなるべく急ぐわ』

 

 シャーリーは言われた通りに海面近くを飛行して手がかりが無いかと探すが、何一つ見当たらない。

 

 だが探し始めて10分近く経ったころ、漸く浮遊物を見つけた。

 

「これ、まさか津家の銃か!?」

 

 まさかこの辺にいるのかと必死で探していると、坂本とハルトマンとバルクホルンが追いついて来た。

 

「どうだシャーリー」

「津家の銃らしき物は見つけた」

 

 坂本はそれを聞くと、辺りを魔眼で見渡した。

 

「あれは、零式二二型ッ」

 

 遠くの海面を漂っていたユニットを、坂本の魔眼が捉えた。

 

「……間違いない、津家のだ」

「そんな、そんな訳あるか! あいつはまだ死んでいない!」

「あぁ、辺り一帯を探すぞ!」

 

 シャーリーとバルクホルンが大声で楠里を呼びながら捜索する中、坂本は魔眼で近くの浜辺を捜索したが、特に手掛かりは得られなかった。

 

 波打ち際で流した血は既に消え、道路に向かう途中に流した血は既に乾いていた。

 

 サーニャとエイラら戻った後も海域で捜索が勧められたが、この日津家楠里が見つかる事は無かった。

 日も傾き、これ以上の捜索が出来なくなった部分も大きい。

 

 

 復旧作業が終わった夜のハンガーにて。

 楠里以外のウィッチが集まったが誰一人口を開いていない。

 

「……」

 

 バルクホルンが落ち着かない様子でハンガーをグルグル歩き回り、ハルトマンがいい加減鬱陶しいと注意した。

 

「鬱陶しいだと!? 仲間が、津家が堕ちて行方不明なのによくそんなに落ち着いていられるなお前!」

「だからそうやって当たり散らしても何も変わらないよ。トゥルーデが普段言っている事じゃん。カールスラント軍人たるもの如何なる時でも冷静にって」

「私は仲間がやられて落ち着いていられるほど―――……すまんフラウ」

「いいよー別に。リーネとペリーヌが用意した紅茶でも飲んできなよ」

 

 バルクホルンはシュンと頭を下げると、2人の下へ向かっていた。

 

「ハルトマンさん……」

「大丈夫だよ宮藤、大丈夫だから」

 

 ハルトマンと宮藤はハンガーの外に広がる夜空に目を向けた。

 

「ねぇシャーリー、場所的にローマとかに流れ着いてないかな?」

 

 ルッキーニがシャーリーにそう質問を投げかけるが、シャーリーは難しい顔をして答えた。

 

「どうだろうな……浜辺からローマはかなり離れているから車でなきゃな……」

「ねえエイラ。エイラの占いで楠里ちゃんの様子とか分からないの?」

「さっきからやってるけど、意識がない上に深い切り傷?……切られたような傷もあるんだ」

 

 501のウィッチ達は知らない事だが、楠里はこの時は緊急手術を受けている。

 

「ペリーヌさん、リーネさん。私達にも紅茶を貰えるかしら」

 

 ミーナと坂本も紅茶で喉を潤わせ、何とか落ち着こうとする。

 

「今回、楠里の行動に落ち度はあったか?」

「……強いて言うなら、第1陣の帰還を待たなかった事ね。大まかな方針を残して行ったのはいいけど、細かな指示部分はどうしても楠里さんが居ないとね」

「まあ楠里が迎撃に出なければ、次弾が基地に着弾して取り返しの付かない事になっていたのは事実だ」

「そうね。ウィッチ1人と基地の人員を比べたら、楠里さんの判断は正しいわ。全く躊躇する事無く皆の為に自分の命を捨てる事が出来る彼女は凄いわ……でも、でもねッ」

 

―――自分の命も大切にして欲しいわ。

 

 涙を浮かべながら小声でミーナはその言葉を絞り出した。

 

「……津家」

 

 

「ほ、報告します! 通信機復旧と同時、司令部より入電! 津家大尉はローマ市内の病院に搬送されて手術中! 501は直ちに状況を報告せよとの事!」

 

『!?』

 

 その報告は、暗い雰囲気であったミーナ達に希望を与えた。

 

「す、直ぐに行きます。そのまま司令部とは繋げておいて!」

 

 即座に復活したミーナは坂本と共に通信室へと赴いた。

 

 

 楠里が基地へ帰還した後、沢山のお説教を貰った事を記す。

 

 なお、この事件以降前にも増して楠里に対する過保護度が上がり、楠里を困惑させる事になった。

 




早いもので、もうそろそろ楠里の顔面にもテコ入れする時期ですね。

展開次第では楠里のサービスシーンでポロリもあるでよ。
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