シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

25 / 53
拙者、ストパンのキャラ好きすぎて全員出したい侍。


会議の魔女

 最低限の要員以外がまだ寝静まる夜明け。

 501のナイトウィッチ、サーニャは夜間哨戒から帰還した。欠伸をしながら滑走路に降り立つと、格納庫前で涼みながら本を読む楠里が目に入った。

 

「おはようございますサーニャさん。夜間哨戒お疲れ様です」

 

 サーニャに目を向けた楠里は本を閉じると挨拶をした。

 

「おはよう楠里ちゃん。毎朝早いね」

 

 楠里はゆっくりと飛ぶサーニャの横を歩きながら本を懐に入れた。

 

「自然に目が覚めますから」

 

 用意していた紅茶をティーカップに淹れると、ソーサーと共にサーニャへと手渡した。

 

「ん、美味しい」

 

 リラックス効果のあるハーブも使ったので、疲労状態のサーニャは目をトロンとさせた。

 

「本日の正午より露天風呂が使用可能になりますので、時間を見つけてお入りください」

「そっか、工事が終わったんだ」

 

 サーニャは再び欠伸をすると、楠里に就寝の挨拶をして去っていった。楠里は手早く後片付けを終えると、始業ラッパの準備へと赴くのであった。

 

 ウィッチは航空と陸戦の2種類に大別される。花形とされているのは空を飛べる航空ウィッチだ。ウィッチは数自体がとても少ない。魔法力適正を見出されて発現しても、ウィッチに成れるのは一握りだ。そんな狭き門をクリアしても、多くのウィッチは飛行適正が無い為に陸戦ウィッチとなる。

 苦労して航空ウィッチになっても、その他の部分で才能に欠ければ忽ち大怪我を負い、下手をすれば死に直結する。

 そんな厳しく選び抜かれた航空ウィッチの中でも、更に厳しい選抜を乗り越えたウィッチがいる。それを世界では『ナイトウィッチ』と呼ぶ。

 月明りと星明りしかない夜間に有視界戦闘を行うには、文字通り血反吐を吐く様な訓練を乗り越えなければなれない。天性の才能で高い適正を示しても訓練を積まなければ戦力にはならないのだ。

 ここまでやってもまだ選抜は続く。先程の選抜や訓練に続いて、夜間戦闘に活用出来る一芸や固有魔法を有しているか否かでも戦力評価が分かれる。例として挙げるならサーニャの全方位広域探索や、現夜間戦闘撃墜数世界1位のハイデマリー・W・シュナウファー少佐の魔導針や夜間視能力だ。

 夜間哨戒は基本的に単機で行う為、大出力かつ重武装が搭載可能なユニットも必要とされる。そのため内向的な性格で儚げな美少女が多いナイトウィッチだが、扱う銃器は20mm弾使用のMG151/20やフリーガーハマーと意外に物々しい。

 

 空戦ウィッチ、急降下爆撃ウィッチ、ナイトウィッチなど数多くある中で、ウィッチの間で尊敬されるのはナイトウィッチだ。すわ緊急時ともなれば、昼間航空戦力としても活躍するのだから、敬われて当然である。

 

 一部例外として、好きな人と一緒に飛びたいウィッチ(エイラ)気合と根性だけのバカ(楠里)の様な夜間戦闘担当もいるが、あくまでも例外である。

 

 カールスラントにはそんなナイトウィッチだけで編成された夜間戦闘航空団(Nacht Jagd Geschwader)―――通称、NJGが存在する。

 

 楠里が毎朝サーニャを出迎える理由は、サーニャが友人であり貴重な戦力であり、重要な夜間哨戒をして皆の安全を守っているからだ。

 

 そんなサーニャの為に紅茶を振舞うぐらい、楠里にしてみれば当然である。尚楠里当人がそれをやられたら申し訳無さで謝罪をする。

 

 

 そんな朝の一件が過ぎ、本日は自由行動の日である。ネウロイなどの緊急事態が発生しない限り、訓練でも趣味にでも好きな事をして良い。

 

 そして楠里が早朝にサーニャに伝えた通り、ミーナの口から露天風呂の事が伝えられた。

 その事に喜ぶ芳佳達が目に入った楠里は、完成まで実に苦労したと目を細めた。

 

 風呂は本当に必要なのかという上からの嫌味に始まり、そんな資材何処からどう出すのかという補給班からの苦情、業者や設備設置の人員を基地に入れる為の許可証や作業中の見張りなど。実は目に見えない所でミーナと一緒に調整作業を行っていた楠里。

 苦労にあった分、芳佳達が喜んでくれるなら報われると言う物だ。

 

 皆が一緒に入ろうと言いあう中で、坂本が風呂に楽しく入る方法があると言った。

 

「訓練で汗をかけ! 全員、基地の周りをランニングだ!」

「でも、訓練ならいつも―――」

「つべこべ言わず、走れー!」

 

 その掛け声と共に芳佳達は外へ走って行った。

 

「自由時間とは」

「まったく、どうして風呂如きでそんなに燥げるんだ」

「それで英気が養えるならいいじゃない」

 

 ミーナが自分の肩を叩き、楠里も指で自分の目を解した。

 

「2人共疲れているようだな」

「最近はネウロイと戦うよりも、上層部と喧嘩している事の方が多い気がするわ」

「司令部へ出頭すると、重箱の隅をつつくような揚げ足取りばかりですからね」

「そういえば出撃する回数も減っているな。確かミーナの撃墜数も確か……」

「長い間199機のままね」

 

 後1機落とせば勲章らしいが、そんなのいいから書類を減らしてほしいというのがミーナの本音だ。

 

「で、津家の撃墜数は?」

「単冠湾での戦果を除けば150程度ですね。解散前の501で70機程度、502で60機、今の501で20程度ですから」

「最果てをも合算すれば280か。カールスラントのトップエースにも劣らない大戦果だな」

「私もそんな戦果やらはいいですから仕事を減らしてほしいです」

 

 ミーナと楠里は『ねー』とお互いに顔を合わせると、手伝ってくれないかなーと坂本に視線を向けた。

 

「風呂に入って温まれば疲れも取れるぞ。2人も入ったらどうだ」

「あぁでも、この後も書類の整理が残っているから……考えておくわ。ありがと」

「私は今から着替えて方面軍司令部で折衝作業です。コレ中佐のお仕事ですよね」

「前の基地被害の関係で私は動けないのよ。あ、包帯忘れないでね」

「2人とも無理するなよ?」

 

 楠里は坂本に微妙な視線を向けるが、全く気付かない坂本は外へと向かっていった。

 因みにミーナが言った包帯は会議にて必需品である。

 どの時代、どの組織内でも自分の意見を通すには何かしらの手段が必要なので、あって困るような物ではない。そういった場合、最終的に物を言うのは物理的殴り合いといった肉体言語だ。

 そういう時代で、そういう組織なのだから仕方がない。

 

 扶桑海事変の時の扶桑司令部も、参謀本部での会議では怒鳴り合い殴り合いは起きた。史実西暦世界の第二次世界大戦末期、日本の司令部でもドスやら軍刀が抜かれた記録もある。

 

 少々メタな話になるが、未来でミーナが坂本の配属先を捥ぎ取った時も最終的には殴り合いになった。

 

 

 楠里はアリアリと嫌な表情を浮かべながら輸送艇に乗り込み、魑魅魍魎の伏魔殿たる司令部へと向かうのであった。

 

 

 

 基地では超極小虫型ネウロイがウィッチ達のズボンに忍び込んだりして猛威を振るう中、楠里は坂本や竹井と同じ白い第二種軍装を着込み、軍帽を被り直して司令部の地に降り立った。

 

 輸送機の操縦士に指定の時間まで待機なり休憩を言い渡すと、警備兵の案内に従って歩き始めた。

 

「だがこれでは……」

「いやしかしこの数値でなければ―――」

「くそ、また物資の一部が変な動きをッ―――」

「まず許可を取ってから……」

 

 様々な情報が高速で行きかう中、楠里は遂に目的の部屋まで到着してしまった。

 部屋の中は既に大きな喧騒に包まれているであろう事が、扉越しにも伝わってくる。

 まだ本格的に事は起こっていないものの、火種を放り込めば直ちに己の我を通す為の大いなる戦いが勃発するのは明白であった。

 

 楠里は案内の兵にドアを指さしつつ『マジでココ?』と言った表情を見せた。兵も頷くと、その場で敬礼をして去っていった。明らかに巻き込まれたくないという感情が浮かんでいたのを、楠里は見逃さなかった。

 見逃さないついでに、兵士が手に抱えていた機密書類らしき紙に目を向けた。楠里は殆ど何も見えなかったが、唯一『Drug Plan』の文字だけ目に入った。

 

 

「第501統合戦闘航空団副指令・津家大尉、入ります」

 

 扉を開けると、其処は正しく魔境であった。

 

 部屋の中には各JFWで職掌が司令の者や、虎の子かつ自慢の部下1名を副官として引き連れていた。

 楠里も以前からミーナの護衛兼従兵役として参加しているが、単独での参加は久しぶりである。

 

「久しぶりだな津家。また怪我をしたらしいじゃないか」

「お久しぶりですラル少佐、お元気そうで何よりです。その節は大変ご心配をお掛けしました。504の竹井大尉のお陰でこうして復帰いたしました」

「そうかそうか。それでミーナはどうしたんだ?」

「またしても現れた特異個体への対応の為に本日は私1人です」

「そうやって部下に何でも投げる環境は良く無いな」

「そうですね。特に経理関係を部下に投げているなどあり得ませんよね」

「はは、そうだな」

「ええまったくもって」

 

 この程度は牽制にもジャブにもならない。お前の所はあっち部隊などはなど、揚げ足取りから嫌味に始まって言い合う会議では、まだまだ優しい方である。

 

 この会議の目的は、各統合戦闘航空団の大まかな方針や現状を報告し合い、有事には即座に連携が取れるようにするという名目だが、実態は先ほどの通りだ。やる意味あるのかとは思うが、こうした言い合いの中でも情報を整理して有意義に使う事の出来る人材しかここには居ない。

 

「まぁ新人の子を偽装入隊までさせる『ネウロイ以下の悪党』も世の中には居ますから、今更そんな事ではね」

 

 そう発言するのは506・ノーブルウィッチーズの隊長であるロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐だ。

 グリュンネ少佐の後ろにはジーナ・プレディ中佐が呆れた目でグリュンネ少佐を見ていた。

 

「流石貴族の集まり。部隊を完璧に纏め上げられない誰かだと下も苦労するだろうな」

「あらお生憎様。セダン・ディジョン両部隊の結束は盤石ですよ」

「ネウロイと戦うよりもガリア王党派らとの牽制が多い部隊は言う事が違うねー」

 

 502と506の言い合いに交ざって来たのは504司令のフェデリカ・N・ドッリオ少佐。但し2人の言い合いを面白がっているような顔でもある。

 因みにだが、随伴していた502のサーシャも504の竹井大尉も、そして506のプレディ中佐も早々に上司から離れて巻き込まれない様にしている。

 

 508より初めてこの会議に単独で出席する事になった雁淵孝美大尉は、場の雰囲気に呑まれてキョロキョロしている。507からは司令のハンナ・ウィンド少佐と迫水ハルカ中尉が来ており、場を落ち着かせようとしていた。

 第503統合戦闘航空団『タイフーンウィッチーズ』からはブロニスラヴァ・F・サフォーノフ中佐がニコニコと全員を見ており、副指令のフーベルタス・フォン・ボニン少佐はイライラとした表情だ。

 505からは何故かダキア空軍予備大尉のコンスタンティア・カンタクジノの1名のみが出席という有り様だ。

 

―――魔境。

 

 楠里の心の声は、その部屋のカオスさを一言で表していた。2人で言い合っていたかと思えば、突然乱入してきて3人になり、聞き捨てならなかった言葉に反応した別の1人が入ってきてなどを延々と繰り返し、貴重な時間は失われていく。

 

 描写はしていないが、この部屋には各方面軍の御偉方もそれなりに居る。彼ら彼女らも言い合いをしては他方面で管轄外のJFWにアレやコレやと嫌味を言う。そして自分が掌握している指揮下のJFWを持ち上げたりとも忙しい。

 

 人類はネウロイという脅威を前にしても、真に団結出来ない事は欧州撤退戦で分かってはいたが、コレを見ると納得出来るというものだ。

 無論楠里にも嫌味やら同調を求める圧力やらを言われるが、のらりくらりと言い返したり煙に巻いたりとしている。

 

 そういった中でも隊長職らは情報を整理して、各部隊の状況を頭に叩き込んで連携を取れるようにしておく。

 

 

 散々喧嘩の様な言い合いをする事3時間。各責任者が概ね話し終えた所で、漸く解散となった。その頃には全員が疲れた表情をして、一刻も早く帰りたいという気持ちであった。

 

 竹井大尉やサーシャや孝美らといった面識のある人物と軽く挨拶を終えると、楠里は疲れた足取りで士官食堂へと赴いた。

 

 嫌味や揚げ足取りの中から必要な情報を抜き取って整理するのは存外堪える。書類やらと照らし合わせてこちらに矛盾や嫌な事があれば指摘され、相手のそういった部分を見つけて指摘する。

 無駄な会議に見えるかもしれないが、ちゃんと必要な会議なのだ。

 

 水を飲みながら夕陽を見る楠里の背中は、人生に疲れ切ったサラリーマンである。

 

「随分と疲れているな」

 

 そんな楠里に後ろから話し掛けるのは、グレーテ・M・ゴロプ少佐であった。

 

「……規律を絶対順守するゴロプ少佐が会議に出席なさらないとは珍しいですね」

 

 どうやら士官食堂で時間を潰していたらしく、顔は生き生きとしている。

 

「あぁ、どうせ不愉快な言い合いばかりだ。それに事前に全ての部隊情報は集めてある……後はあの予備大尉が持ち帰った内容と照らし合わせれば良い」

「とかいって、部屋の外で全て話を聞いていたりとか」

「はっ」

 

 ゴロプ少佐の使い魔は個体こそ違えど、楠里と同じワタリガラスである。名は体を表すというか、使い魔は性格を表すと言われるように、2人の性格は似通っている所がある。ここにいるのは祖国の為ならば誰にどう思われようと構わない人間と、友人達の役に立てるなら自己犠牲も厭わない人間の2人だ。

 

「そろそろあの予備大尉が五月蠅くなる頃合いだ。また会おう津家」

「ゴロプ少佐殿もお元気で」

 

 ゴロプ少佐は『元気、か……ふん』と呟きながら軽く手を振ると去っていった。何しに来たんだと思いつつ、楠里も待たせている輸送機へと向かった。

 

 

「お疲れ様です津家大尉」

「えぇ。待機中に変わった事は?」

 

 操縦士が自慢げに足元にある大量の箱を指さした。

 

「他のJFW付きの奴らと賭けまして、特に502の酒やら嗜好品を分捕ってやりました」

「それはそれは。501公庫へ一定量入れるなら見逃しますよ」

「流石津家大尉殿! さあ変に文句を言われる前に帰りましょう」

 

 心の中でサーシャに謝った楠里は、さっさと分捕り品を輸送機に搭載すると離陸した。

 

 そして離陸した直後、サーシャが大慌てで滑走路に来たのを確認した楠里は、目を合わせない様に機内へと引っ込んだ。

 

 世の中は弱肉強食なのだ。

 

 

「おい津家、お前1人があの屈辱を味わっていないって不公平だろ!」

 

 魔の会議を終えて501基地に帰還し、輸送機から降りた楠里を出迎えたのはエイラであった。

 

「何の事ですか」

 

 また基地で何かあったかと身構えた楠里だが、エイラは『ウガー』と唸るだけで理由を話さない。

 

「駄目よエイラ。楠里ちゃんに当たるのは良くないわ」

 

 楠里は夜間哨戒ついでに基地近郊からサーニャの護衛を受けていた。一旦補給に戻ったサーニャはエイラに言い聞かせると、また夜空へと上がっていった。

 

「で、お前何処行ってたんだよ」

「伏魔殿」

「は?……あー、司令部での定例会議かぁ……うへえ。大体管轄方面が違うのに集まる意味あんのかよ。508に至っては太平洋方面統合軍司令部だろうが」

 

 だが主な活動海域は大西洋で欧州反抗作戦支援と、中々面白い構造の部隊である。

 

 エイラはうごごと唸ると何も言わなくなった。

 

「……やけに基地が暗いですね」

「あぁ、説明してやるよ」

 

 と、昼間にあった騒ぎを聞いた楠里はこう言った。

 

「もしかして電力復旧作業の指揮、私が執るんですか?」

「しょうがねーだろ? ミーナ中佐は不貞腐れてもう寝た」

 

 その言葉通り、基地の補修要員が既に滑走路傍に待機しており、指示を待っていた。明日で良いと思うかもしれないが、そんな事は無い。電力は基地運営に必須である。

 7割は復旧しているが、残りの3割は未だ手付かずだ。

 

「エイラさんはシャーリーさんを呼んで来てください。その後はもう課業終了でいいです」

「さっすがー。話が分かるー」

 

 エイラは未来予知でシャーリーの場所を突き止めるとさっさと歩いて行った。

 

 ついでに輸送機の操縦士へ分捕り品だとかを公庫に入れるよう指示を出し、楠里の権限で明日を非番にしてやった。労いも込めてお疲れ様と言うと、向こうもピシッと敬礼をして去っていった。

 

「さて……サーニャさんが戻るまでには終わらせますか」

 

 楠里はスパナで肩を叩きつつ指示に入るのであった。




505のアニメ化待ってます。

正直この辺りから楠里の性能では501に付いて行けないんですよね。
所詮1期で死んでる奴なんですもん。


※少しネタバレ

本作に度々出てくるあの人が、近いうちに死にます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。