シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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☆0を入れるにしても『つまらない』の一言ではなく、何処がどうつまらないのかも仰って欲しいものです。
評価など『おもしろい』『つまらない』で十分という方。
評価するだけ感謝べきという方、つまらない物はつまらない評価で当然という方も、一度その作品の改善点などを声に出してみては如何でしょうか。


艦隊の魔女

 猛暑日が続く中、1日の課業が何事も無く終了した楠里は、自室で寝間着に着替えていた。寝間着といっても白色の肌襦袢である。

 

 茣蓙の上に座りながら、開いた窓から顔を覗かせる月を見る。右手にはやんごとなき御方から秘密裏に進呈された扇子が握られている。

 その扇子には『桜花紋と木瓜紋』が入っていた。後世にて出す所に出せばひっくり返る様な値が付く代物だ。明日は非番である為か、傍には少量の酒が鎮座している。味覚が無いから酔わないなどと言った都合の良い物は無く、未成年の体はアルコール成分を分解出来ずに酔う。

 

 酔いはするが顔や体が紅潮しないタイプである楠里。酔っているか非常に分かりづらい事この上ない。

 月見と言う高尚な趣味が理解出来ない野蛮な楠里はポヤポヤした瞳で月を眺めている。

 

「少し邪魔をす……うぅむ」

 

 楠里に用向きがあった坂本少佐が扉を開けると、思わず黙りこくった。

 

 そこには茣蓙の上で座りながらも、艶姿でトロンとした瞳を坂本に向けるロリの姿があった。

 

 官憲らに見つかれば直ちに連行されるその場面を見た坂本は小言を言おうと口を開けた。

 

 だがノックもせずに扉を開けたのは自分であり、あの酒は楠里の給金で買った私物であり、ここは楠里の部屋であり、既に本日の軍務は終了している。加えて明日は楠里が非番の日である。

 

 以上の5点が頭に浮かんだ坂本は『風邪引くなよ』と言うと、楠里にのそのそ近づいた。

 

「どうかされましたか」

 

 もう少しで肌襦袢の中が見えてしまうと言った所で、坂本がその乱れを直しつつ口を開いた。

 

「うむ、宮藤の事だ。昼にひと騒ぎあったように、宮藤がどうにも不調でな」

「そういえば訓練の時もふらついてましたね。機材に何かあったのでは?」

「そう思って整備兵にオーバーホールまでして貰ったが異常は無かった。アレッシア女医にも診て貰ったが健康そのものだそうだ……魔法力の低下か?」

「言ってはアレですが魔法力お化け(あの量)が短期間に急減少するなど想像し辛いですね。芳佳さんの御母上や御祖母様も魔法力が衰えていらっしゃらないのですから」

「しかしなあ……」

「寧ろ逆なのでは。機体が芳佳さんの魔法力を受け切れなくて安全装置が働いているとか」

 

 坂本は『それこそまさか』と一笑すると、部屋を去っていった。後にこの予想がまさかの的中だった事を知った2人は、ナマモノを見る目で芳佳を見た。

 

 

 

 非番の日ではあるが、楠里は部隊状況把握の為にミーティングには参加していた。

 

「連合軍司令部によると、明日にはロマーニャ地域の戦力強化の為、戦艦大和を旗艦とした扶桑艦隊が到着する予定です」

 

 扶桑が世界に誇る超弩級戦艦・大和。

 46cm/18inch砲という圧倒的な艦砲と、舷側装甲410mmという規格外な防御力を誇る、現世界最強の戦艦とも謳われる。

 さらに試作対ネウロイ装甲も施されており、その生存性を飛躍的に向上させているのだ。表向きはの話だが。

 

 対ネウロイ装甲は、魔法力を通しやすい木板に、幾重もの耐衝撃と難燃術式が編み込まれた代物だ。それを装甲の薄い部分や装甲自体の裏側に張り付けてビームの威力を落としている。

 だがまだ開発中の技術であり、戦艦全体をカバー出来る量など直ぐには集まらない。

 

 坂本が、自国の艦隊が到着すると言う事は作戦の発動時期が近いと確信して声を強張らせる。

 

「扶桑の港で見た事あるんだ。すっごく大きいんだよ」

「へぇー」

 

 芳佳とリーネが話していると、教卓の上に設置されていた非常電話が鳴り響く。

 

 ミーナが受話器を取って要件を確認した。

 

「はい、ええっ、大和で事故!?……はい、了解しました」

 

 話によると、大和の医務室で爆発事故が発生。負傷者が十数名出たとの事で、医師の派遣を要請する物であった。

 

 二式大艇での輸送を坂本が提案する中、芳佳が行くと言い出した。

 戦闘こそ不安定ではあるが、治癒魔法は健在の為、坂本はそれを許可した。包帯ぐらいは巻けると言ったリーネも同行予定だ。

 

「津家、航続距離に優れるお前も2人を援護してやれ」

「了解しました」

「分かったわ。宮藤さん、リーネさん、津家さんは大至急大和へ向かってください」

 

 芳佳とリーネは返事をすると準備をする為部屋を駆け出して行った。

 楠里は先ほどミーナが使った電話で整備兵に連絡を入れ、銃への装弾と初期始動をしておくように下命した。

 

「では私もハンガーへ降ります」

「気を付けてね」

 

 

 

 

 海上で飛行する事数十分。

 

 大海原を切り裂いて、威風堂々と進む艦隊が見えて来た。

 これこそ戦艦大和を旗艦とする扶桑皇国海軍聯合艦隊である。大和の両舷には随伴護衛空母の役割として千歳と千代田が居る。

 その他にも一等巡洋艦(重巡洋艦)の高雄といった重武装の艦艇も確認できた。

 

 艦隊の中心には現代換算でうまい棒3000億本分の建造費を誇る大和の姿もある。

 

 3人は艦隊からの誘導通信に従いつつ、大和へと着艦する。

 僅かに話が逸れるが、航行中/停泊中関係なく、艦艇への着艦には凄まじい練度が要求される事を記しておく。ユニットはその場に滞空出来るので簡単かと思うかもしれないが、風やら艦艇の出している速度やらで微調整が必要になるので、おいそれとは出来ない。

 そういった細かな部分をアシストしていくれる機能や機械は、1945年現在開発されていない。よってほぼ人力作業である。

 

 まあそんな凄い事を特に苦も無く行った3名は、案内に従い医務室を目指している。

 

『艦内放送、艦内放送。501所属、津家大尉は大至急艦橋へ』

 

 楠里は2人を見て『私?』といった風に自分を軽く指さした。

 芳佳とリーネもキョトンとしながらも頷いた。

 

 医療行為で役立てる事はほぼ無いという結論に至った楠里は、艦橋へ向けて足を向けた。

 

 士官で許可が下りたので機密の塊たる艦橋へは入れるが、進んで入ろうとは思わない場所である。

 また何かあったのかと思いつつ、楠里は艦橋へと繋がる昇降機へと乗り込んだ。

 

 

 波は穏やかとは言え、ここは外洋。

 船体が受ける揺れも内海とは比べ物にならない程に強い。波で揺れる中、更に乗り心地最悪の昇降機。

 

「大丈夫ですか津家大尉」

 

 楠里は案内の兵に対し、無言で手を向けて『構うな』と伝えた。今話しかけられても辛いだけである。

 

 永遠ともとれる時間が漸く終わりを告げ、艦橋の出入り口を兼ねる水密扉の前に足を付けた楠里。この頃には既にフラフラであった。

 

 

「津家大尉、到着致しました」

「入ってくれ」

 

 楠里を出迎えたのは、嘗て赤城の艦長であった杉田淳三郎大佐を始めとする艦橋要員であった。

 

「お久しぶりです杉田大佐。樽宮中佐もご壮健でなによりです」

「こちらこそよく来てくれた津家さん。早速だが用件に入ろう。副長、頼む」

 

 杉田艦長がそう言うと、副長の樽宮中佐が口を開いた。

 

「実は、今回のお礼として宮藤さんにまた何か贈ろうと思うのだが……何か良い意見は無いか」

 

 いい歳をしたナイスミドルの口から出た言葉は、年頃の娘へと送るプレゼントの相談であった。

 

「……お二方」

「いや待て津家大尉、確かにこの緊急時に悠長なと思うかもしれないが、この機会を逃すのも忍びないのだ」

「この船にも女性乗組員はいらっしゃるでしょう」

「宮藤さんは情報統制でほぼ無名だ。だのに贈り物をと相談すると余計な波風が、な?」

「だから事情を知っていて、同じ歳の津家大尉に頼んでいるのだ」

 

 楠里は何だこいつらと目を細めると、顎に手を当てつつ口を開いた。

 

「そもそも以前は何を贈られたのですか」

「扶桑人形だ。扶桑海の巴御前と名高い陸軍の穴吹中尉がモデルの精巧な一品」

 

 何故その様な方向性で行ったのかは謎だが、次も人形を送れば良いと楠里は応えた。

 

「ではモデルは誰が良いか」

 

 胸が大きい人と楠里が答えようとしたその時、警報が鳴り響いた。

 

「電探室より報告。方位3-4-0、距離60,000に大型ネウロイの反応有り」

「馬鹿な、ここは安全圏の筈だぞ」

「私は最近、安全圏という言葉が全く信用出来ません」

「同感だよ津家大尉。マルタ島の様に何処かが既に落ちているが気付けていないのかもしれん」

 

 楠里は『縁起でもない』と言いつつ、杉田大佐と樽宮中佐に敬礼をして艦橋を出た。

 どうするかなどお互い全く聞く気が無い。分かりきっている事を一々確認して時間を潰すほど、艦長らも楠里も暇ではない。

 ここで報連相がなってないと思うか、自分で考えて行動出来ると思うか。人によって考え方は様々である。

 

 

「ビショップ曹長と宮藤軍曹が暫くすれば到着します。私は一足先に直掩に上がります」

 

 楠里は早口で整備兵にそう伝えると、昇降機の上昇を待たずに飛び立った。

 大和より発艦した楠里は、千歳と千代田から発艦した直掩機の前に出た。

 

『こちら津家大尉。千歳・千代田両航空隊を援護します』

『こちら千歳隊隊長機、感謝します津家大尉。前衛は我等千歳隊が抑えます』

『千代田隊は津家大尉に続きます』

 

 千歳艦載機隊が正面からネウロイを引き付けつつ、楠里と千代田隊が上空から撃ち下ろす。そうしている間に大和が主砲の発射用意に入る。

 即席とはいえ中々に良い連携具合である。

 

 問題は、そんな連携など歯牙にもかけない程に大型ネウロイが強力な存在である点だ。

 

『両航空隊へ。ビームの兆候を視認、注意されたし』

 

 先陣を切る楠里がそう警告を発するが、それも殆どは無駄な結果に終わる。

 

 

 たった一斉射。ただの一度の薙ぎ払いで、20機近く居た筈の千歳隊は消し飛んだ。

 楠里が歯噛みをしつつ、上空から急降下して攻撃を加えると、今度は楠里に向けてビームを放った。だが受け切れる程のシールドが張れない楠里はひらりと躱す。

 

 何度かその攻防を行うと、今度は狙いを楠里の後ろに続いていた千代田隊に定めた。

 

『千代田隊、薙ぎ払いが来ます。ブレイク』

 

 だが楠里のその言葉に、咄嗟に反応出来たのは、ベテランか勘の良い一部のパイロットだけであった。

 こちらも20機近く居た航空隊は、3機程までにその数を減らした。

 

 千歳隊、千代田隊合わせて残存戦力は7機程に陥った。

 

『大和より通達。主砲発射用意良し、甲板要員並びに航空隊は退避せよ』

 

 その言葉を聞いた楠里達は一旦大和へ射線を譲る。

 

 

 その時、大和より凄まじい轟音が鳴り響き、巨大な質量弾が射出された。

 肉眼でも見える程の砲弾は、的確にネウロイの中心部へと吸い込まれて行き着弾した。

 

「……」

 

 それが2回程続いたが、どうにも楠里は効いてるように思えなかった。

 

 威力は十分だが、当たる角度でも悪かったのか、魔法力が練り込まれていないからなのか。

 

 立ち込める煙の中を睨んでいると、不意に赤い点が見えた。

 咄嗟に体を捻った楠里だが、ユニットの一部にビームが掠った。

 

「楠里ちゃん!」

 

 丁度その時、大和から発艦したリーネが到着し、楠里の横に並んだ。

 

「早かったですね」

「大分急いだよ。でも芳佳ちゃんが……」

 

 楠里は芳佳の不調を甘く見ていたと歯嚙みし、改めてネウロイを見据えた。

 

「……艦隊は離脱させましょうか」

「そう、だね……」

 

 リーネは楠里がネウロイの気を引いている内に連絡を入れた。旗艦の大和からは少し沈黙が続いたが、悲痛な謝罪と共に、艦隊が進路変更を開始した。

 

 

 

 囮になり戦いだしてから10分辺りが経った頃。

 

 楠里がネウロイへと接近して攻撃を引き付け、対装甲ライフルを持ったリーネが攻撃を加える。

 コンビネーションで時間を稼ぐ作戦だが、どうやっても時間制限からは逃れられない。

 

 楠里の魔法力では持って後10分と行った所である。

 

 航空戦において10分という時間は大変長く、容易に稼げるモノではない。

 

 だが、とうとうその時が訪れてしまった。

 

 楠里が一瞬集中力を欠いたのを見逃さなかったネウロイは、リーネにその牙を向けた。

 

 超高威力のビームはリーネのシールドに着弾すると、僅か2秒程でソレを食い破った。

 

 リーネの悲鳴が響く中、楠里は急いでリーネの前に出て第2射を受け止めた。

 受け止めたとは言っても斜めに逸らしているだけだが。

 

 そして楠里のシールドも甲高い音を立てて消滅した。咄嗟に手を引いた楠里だが、一歩間に合わなかった。

 

 右の手の甲にほんの僅かにネウロイのビームが掠った。

 

 

 ただそれだけで、皮膚は焼け爛れ、肉の焦げる匂いが充満した。

 

「く、楠里ちゃん!」

 

 リーネが悲鳴に近い呼びかけを発したと同時、凄まじい量の魔法力が戦艦大和より出現した。

 

 そして大和より巨大な扶桑式魔法陣が、大和をすっぽりと覆った。

 

 ネウロイはその魔法力を最大級の脅威と見なしたのか、リーネと楠里を無視して艦隊へと向かう。

 

 

 その巨大な魔法力の持ち主である芳佳は、リーネと楠里の怪我を見ると怒りを露わにした。

 

「よくも……よくもリーネちゃん達をッ」

 

 普段怒らない人間が本気で怒ると怖い。芳佳もその例に漏れず、怒りに身を任せてネウロイに突撃した。

 

 普通であれば危険だと言うのだが、芳佳は真正面からネウロイの装甲を食い破り、まるで小説の様な倒し方をしてしまった。

 

 

「2人とも大丈夫!?」

「芳佳ちゃん!」

 

 リーネは自分が助かった事よりも、芳佳がまたちゃんと飛べた事に喜んで抱き着いた。

 そんな光景を楠里は眺めていたのだが、不意に被弾した右手を見た。

 

「……傷は?」

 

 先程まで激痛を走らせていた右手の火傷。骨すらも薄っすらと見えていたというのに、その傷はまるで何事も無かったかのように無くなっていた。

 

 火傷の後も無く、見えていた骨も無く、全く痛みも走っていない。

 

 試しに手を握ったり開いたりしても違和感が無かった。もっと言えば、体全体を覆っていた重い倦怠感やらも、少しではあるが和らいでいた。

 

「あ、楠里ちゃんの傷はさっきすれ違った時治したよ」

「えぇ……」

「芳佳ちゃん……」

 

 

 

「まさか津家の予想が当たっていたとは」

「それにしても、コレが扶桑の新型……凄いわね」

「精査の結果、芳佳さんの魔法力は未だに成長中という事でした」

 

 芳佳の父が設計したそのストライカーユニットは、名を『J7W1 震電』といった。

 

 史実西暦世界の現代でも、幻のエンテ型レシプロ機にして、烈風を超えるであろうとも言われた浪漫溢れる機体である。

 

 芳佳並みの魔法力を持たなければ始動すら出来ないという化け物具合で、文字通りの宮藤芳佳専用ユニットだ。

 

 ミーナと坂本が芳佳の成長やリーネの決断に感心して話し合う中、楠里は2人の傍で震電の仕様書を眺めていた。当然だが、楠里の裏技でも起動は出来ない。

 

 ハンガーから見える月を眺めつつ、楠里は口を開いた。

 

「もう皆さんに付いて行くのは難しいかもしれませんね」

 

 その言葉は、特に坂本自身が一番良く分かっていた。既に魔法力減退が始まっている坂本と、起動すらも危うくなって来ている楠里。

 

 2人は、そう長い間は飛べないと心の中で思っている。

 

「……あいつらの成長は嬉しいが、時が経つというのは残酷な物だ」

 

 暫くの間、月光が寂しそうな3人を照らしていた。

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