シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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正直2期部分は1番書きにくい。


憂いの魔女

 司令部からマルセイユを預かり、501が駐留する基地上空まで戻ってきた楠里達。

 

「お、ハルトマンと堅物の石頭が居るじゃないか。ミーナ、私は一足先にここで降りるぞ!」

 

 そう言うやいなや、Ju52の扉を開いて飛び降りた。

 

「あ、ちょっと待ちな―――……あぁ、もう」

 

 楠里は確かにこれは癖が強いと心の中で思いつつ、安全の為に扉を閉めた。音に聞こえたアフリカの星であるためか、身の安全は特に心配はしていない。

 

 寧ろ懸念すべきは対人関係にあるとミーナは呟いた。

 

「……これはまた、一波乱ありますね」

「えぇそうね」

 

 ミーナにとっては楠里も波乱を巻き起こす対象者であるが、心優しい司令官はそれを口には出さない。出しはしないが溜息は出る。

 

 そして僅かばかりの時が経ち、輸送機が無事滑走路に着陸すると、険悪な表情で握手をするバルクホルンとマルセイユの姿が見えた。

 

 楠里は出来るだけ関わらない様にする為、静かに輸送機から離れた。だが天才的直感で楠里に気付いたハルトマンが走って付いて来た。

 

「あんな面倒な場面に置いてかないでよねー」

「原因はハルトマン中尉のようですが」

 

 ハルトマンの台詞を鼻で笑った楠里は、珍しい事に手でしっしとハルトマンを追い払った。

 

「えー、珍しく機嫌悪いじゃん。何かあった?」

「……輸送機護衛作戦の折、茂野少佐が戦死なされました」

 

 それを聞いた瞬間、ハルトマンのふにゃけた表情が一瞬で険しい物へと変貌した。

 

「そっか、結構助けて貰ってたもんね」

「これにより茂野少佐は二階級特進、大佐の階級が付与され、現在事後処理班が遺体を埋葬中です」

「おいハルトマン! この基地にいる間に、今度こそ決着を付けるぞー!」

 

 少し離れた場所からマルセイユが大声でハルトマンに呼びかけた。ハルトマンは面倒だと言った表情を浮かべつつ、楠里にどうにかするよう頼んだ。

 

「まあ業務に支障が出ない範囲でなら」

 

 楠里は改めて手でハルトマンを追い払うと、自室へと戻っていった。

 

 

「なんだかなぁ」

 

 ハルトマンは楠里の寂しそうな背中を見ながら、独り言を呟いた。

 

 

 その日行われた作戦ブリーフィングでは、マルセイユの紹介も並行して行われる事になった。

 

 今回のネウロイは陸上と浜辺にドーム型の要塞を建てており、その外殻は戦艦群の艦砲射撃にすら平然と耐え得る装甲を有している。

 

 そこで提案された作戦は、選抜されたウィッチ2名が搭乗した潜水母艦を湾内へ侵入させ、内部からウィッチによる攻撃を行うと言った物であった。

 

「扶桑の潜水艦、伊号400型は現在501で最終点検中だ。作戦期日に乗って出発。湾内に接近して侵入し、ここで選ばれたウィッチ2名が突入、護衛のネウロイを倒しコアを破壊する。以上だ」

 

 そして突入担当のウィッチが発表された。

 

「今回の援軍として作戦に参加する事になった、第31飛行隊のハンナ・マルセイユ大尉」

 

 だがその選抜に異議を唱えたのが、もう1人の突入要員であったバルクホルンだ。この2人、実を言えば昔からウマが合っておらず、何かと言い合いなどに発展する事が多かった。

 規則を遵守して規律ある行動を心がけるバルクホルンは、腕は良いし才能もあるが上官を上官と思わないマルセイユにはほとほと手を焼いていた。マルセイユ自身も目に入っているのはウルトラエースのハルトマンだけで、周囲への言動など腕と戦果で黙らせて来た存在である。

 

「突入部隊は私とハルトマンの筈では!」

「上層部からの指示です」

 

 ミーナは501から参加する人員は、バルクホルン1名と発表した。

 ここで問題なのは、マルセイユからも異論が出た事だ。

 

「アンタじゃ私のパートナーは務まらない」

 

 言外にお前は弱いと指摘されたバルクホルンは、ゆっくりと前に出て魔法力を出した。それをみたマルセイユはニヤリと笑うと、受けて立つと言わんばかりに張り合う。

 

 楠里は坂本を一瞥するが、止めようといった雰囲気は感じない。まさかこういう時は指揮官や次席指揮官が止めるのかと思った楠里は1歩前へ出た。

 だがその瞬間、2人の魔法力と体がぶつかり合って、辺りに振動やら衝撃を齎した。

 

 徐々に罅割れた床は、数秒もしないうちにクレーターへと変化し、その破片を辺りに飛び散らせた。

 

「ストーップ!……私がマルセイユのパートナーをやるよ、それでいいだろ?」

 

 いい加減に面倒になったハルトマンが仕方無しにと立候補すれば、マルセイユがそれを受け入れた。

 周囲が驚く中で、楠里は壊された床を見ていた。

 

「楽しみだな、ハルトマン」

 

 ニヤリと笑ったマルセイユは、ここでの用事は終わったとばかりに出口へと歩いて行った。

 

「……今お2人が壊した床の修繕費は、給料から天引きしておきますね」

 

 だがここで空気の読まない楠里が発言した事により、一層の混乱が生まれた。

 

「な、待ってくれ津家。元はと言えばマルセイユが我儘を言ったからだろ!?」

「それは聞き捨てならないな。手を出そうとしたのはそっちが先だ」

「魔法力を出した時点で同罪です」

「お前もバルクホルンと同じで石頭だな! 大体前に立っているが階級は佐官じゃないだろ!?」

 

 楠里自身も佐官など冗談じゃないと思っているが、それはそれとして別の話である。

 

「貴方と同じ大尉ですよ……ついでに言えば501の次席指揮官です。何故かね……ええ何故か」

 

 坂本をチラッと見た楠里だが、既に我関せずを貫いている坂本は目を合わせない。

 

「あーはいはい分かった。勝手に引けばいいじゃないか……お前の部下になった奴が可哀想だよ」

 

 ふんと鼻を鳴らしたマルセイユはずかずかと部屋を出て行った。

 

「……これだから管理職というのは」

 

 持っていたバインダーに目を落とした楠里は、目を疑った。

 

「え、楠里ちゃん!?」

 

 楠里が左手に持っていたバインダーは、楠里自身の握力によって損壊しており、ボロボロと破片が地面に落ちていた。

 

 右手を見れば、無意識の内に爪が食い込む程握っていたのか、血が滴り落ちていた。

 

「……」

 

 楠里は茫然とその惨状を目に収めると、少し休むと言って部屋を出て行った。

 

 

 陽が明けて、他の人員が朝食を取っている頃。

 

 治療された手を見ながら、楠里はマルセイユに言われた事を思い出していた。

 

―――お前の部下になった奴が可哀想だよ。

 

 その言葉がずっと楠里の中に渦巻いている。確かに、本来であれば艦隊勤務に組み込まれる筈の第9陸戦隊があの様な目にあったのは、楠里が大元の原因である。

 

 なので可哀想という表現は合っている。自身さえいなければ一方的に擦り減っていくだけのタワーディフェンスのような塹壕戦などやる必要も無かった筈なのだ。

 

 楠里の存在が陸戦隊を不幸にしているという結論に至るのは、ここより少し先の話である。

 

 だがもし先程の場に陸戦隊の人員が1人でもいれば、銃殺刑を覚悟でマルセイユに殴りかかっていたという事を表記しておく。

 彼らは楠里の部下である事に誇りを感じている。称賛されこそすれ、憐れまれる筋合いなど無い。元々理不尽な異動は、訓練成績も悪かった自身らの責でもあるし、汚職中将が原因なのだから。

 

 

「そういえば昨日のあのチビは?」

「え、チビ? 楠里ちゃんの事かな」

 

 芳佳がそう言うが、マルセイユとて名前も知らない為、坂本少佐と同じ軍服を着たチビと言い直した。

 

「楠里ちゃんは基本的に食堂には来ませんね」

 

 リーネが補足すると、マルセイユは楠里を小馬鹿にした。

 

「用意された物を一口も食べないとは失礼な奴だ。よしアイツの分も私が食う!」

「えぇ!?……止めた方が」

 

 食事当番であった芳佳とリーネが止める理由は1つ。楠里の為に用意するご飯はお粥やスープと言った流動食であり、本人の意向で味すら付いてない。

 

 言ってることはマルセイユが正しいのだが、出された味の無いスープに目を白黒させるのは自己責任である。

 

 

 朝食が終わって午前の訓練が始まった。連携技術を高める為、ハルトマンとマルセイユはユニットを履いてダミーターゲットに射撃をしている。

 

 地上から見ても空を飛ぶ2人の練度は凄まじい物であった。

 

 だが坂本やバルクホルンといった熟練組からしてみれば息が合っていないという評価であった。

 楠里の目から見れば十分に凄いと思うのだが、どうやらそうではなかったらしい。

 

 首が痛くなって来た楠里が目を瞑ってマッサージをしていると、急にミーナが飛行中止命令を出した。

 どうやらマルセイユがハルトマンの後ろを取って照準を向けたらしい。

 

「津家さん。空き部屋にベッド2つ運び入れておいて」

 

 ミーナはそれだけ言うと2人の下へ向かっていった。後に残された楠里は返答をすると、基地内へと戻った。

 

 

 ハルトマンとマルセイユに同室の命令が下された翌日、次は基礎体力を鍛える為に走り込みが行われた。

 訓練教官担当の坂本少佐の合図で、滑走路で全力の競走となった本日、非常に珍しく楠里も訓練に参加していた。

 普段は自主的に参加しようとすればミーナから仕事が振られ、珍しく言われない日も別の人員から仕事が振られる。

 基地内にいる一般兵や事務方も、既に楠里は次席指揮官と認識している為、通りかかるだけで色々と報告が上がってくる。

 

―――ここの老朽化を修繕する費用をお願いします!

 

 司令官に言えよと毎回楠里は思っているが、断るとミーナに皺寄せが行くため、結局自分で動いている。

 現場や下の人間からすれば、即座に動いて下を気にしてくれる楠里は結構人気がある。

 

 訓練自体はハルトマンと同じ位置で走り続けている為、501の人員には手抜きがバレている。だが坂本やバルクホルンが何も言わない辺りに、普段からの人望が垣間見えなくもない。

 

 その日の食事には、楠里が珍しく食堂へ顔を出した。だが既に他の人は食べ始めている。

 

「あ、楠里ちゃんいらっしゃい」

 

 芳佳は作り置きしていたお粥を温めると、茶碗に盛ってどうぞと差し出した。受け取った楠里は頂きますと手を合わせると、チビチビと口に運び始めた。

 

 たかが茶碗1杯のお粥、しかも器の半分すらも入っていない量だというのに、20分近く掛けて食べた楠里は立ち上がった。

 

 余りの遅さに苛立ちを隠せないマルセイユが何度か口を開きかけるも、ミーナがその度に目で座ってろと制した。

 

 だが楠里はと言えば、白米と牛乳を同時に口に入れるマルセイユを見て硬直していた。

 

 この基地に来た時から勝負事に拘るマルセイユは、ここでもその気質を発揮している。

 

 

 

 その日の夜。

 

 露天風呂でハルトマンとマルセイユが夜空を見上げていた。

 

 語り合うのはアフリカの事や、どうして勝負事に拘るのか。

 

「そういえば、1年ぐらい前に5名の扶桑人兵士がアフリカに配属されてな」

「ふーん」

「そいつらが何とも不気味な奴らなんだ」

「ハンナのテンションに引いてるだけじゃないの」

 

 ハルトマンの指摘に耳を貸さないマルセイユは、そのまま話を続ける。

 

「アフリカは基本的に砂漠でな、暑くない場所自体が珍しいんだ。夜になれば極寒になって、非常に生活がしづらい」

「大変そうだな」

「で、配属された5名の兵士ってのが常に寒冷地用の野戦服を纏ってるんだ。しかもその上から予備弾倉やらも装備して、寝る時も銃を絶対に手放さない」

「うへぇ」

「極めつけは、炎天下の中でフードを被ってフルフェイスの対瘴気防毒面(ガスマスク)を着けて動いているのに、息切れ1つ起こさないんだ」

「想像するだけでキツイ」

「以前アフリカにあったネウロイの攻勢で、部隊を救う為、5人の内2人が戦死した。だが残された3名は心配もせず悲観もせず普通の態度なんだ」

「ふーん」

「欧州の各部隊では、鬼の様に強い扶桑兵士がいるって噂だが、アイツらもその部隊なんだろうか」

 

 ハルトマンはもう話のオチが読めていたが、特に何も言わずに空を見上げていた。マルセイユもそれ以上語ろうとしないのか、別の話を切り出した。

 

 

「そういえば、あの副司令とかいうチビは何なんだ?」

 

 マルセイユはここ数日、501の副司令である楠里をそれなりに観察していたが、どうにも浮いた存在であった。

 

「何って何さ」

 

 対するハルトマンは湯船に肩まで浸かりながら話を流している。

 

「特に何か強い気配がする訳でもない。訓練でも最後尾をダラダラ走っているだけだというのに、誰もそれを注意しようとしない」

「あぁ……アレはもう燃え尽きてるんだよ。惰性で生きてるに過ぎないけど、世話になった分は返そうって感じで」

「夢でも破れたか? 挫折でも味わったのか?」

「さぁね……」

 

 ハルトマンは楠里の事を話さず、ただただマルセイユの話を聞いていた。

 

 

 

 アドリア海如きで出張るにはオーバースペック過ぎる伊400は、ハルトマンとマルセイユというウィッチ2名を収容して海中を進んでいた。

 

 海上には陣形を組みつつ航行する戦艦群があった。

 

 ブリタニアよりキングジョージ5世級戦艦、ロマーニャ公国よりリットリオ級戦艦、カールスラントよりビスマルク級といった巨艦が中心となり、直掩としてザラ級重巡洋艦やフレッチャー級駆逐艦が居る。

 

 人類とネウロイの間で度々支配権が入れ替わるマルタ島を奪回する作戦において、掻き集められる戦力を集めた結果である。

 

 そんな中で楠里はと言えば、ミーナの横で状況把握に努めている。

 

「作戦開始時刻です。伊号400型は所定の位置にて浮上しました」

「分かったわ。2人とも準備はいいわね?……作戦開始、発進!」

 

 ミーナの号令が下ると共に、潜水空母のカタパルトより射出された2人が空へと上がった。中の様子はミーナの固有魔法で逐次伝えられる。

 

 ハルトマンは敵の数を40と報告した。

 だがマルセイユと共に倒す毎に数を減らしていく。

 

「少佐、あの2人は事が終われば恐らく始めますよ?」

「……」

 

 楠里の忠告を聞いても、坂本は特に何か言う訳でもなかった。ただ困った様に笑って受け流すだけだ。

 

「あぁなるほど、ご経験済みでしたか」

「まぁ、若かったよ」

 

 そんな無駄話をしている間にも、世界の頂点に立つエース2人がコアに止めを刺した。

 

「やはりハルトマンさんらはお強いですね」

 

 強さなど微塵も興味の無い楠里がそう言うと、先程の予想通りの展開が起こった。

 

「ちょ、撃ちましたわよ!?」

 

 悲鳴染みたペリーヌの指摘と共に始まったハルトマンとマルセイユの空中戦は、各々を驚かせる。味方に対して銃を撃った事もそうだが、呆れたミーナや止めない坂本にも驚く。

 

 

 結局勝負は引き分けに終わった。バルクホルンが妹の為にマルセイユのサインを欲していた事、ハルトマンがその為に珍しく立ち上がった事。

 

 そういった一連の事は当人たちの胸に留めて置くとして、基地に戻った後新たな問題が発生した。

 

「あぁどうりで既視感があると思った。アフリカに来た扶桑兵がな、お前と似た野戦服だ」

「……それはそれは」

 

 楠里はその言葉を聞いて相づちを打った。

 

「5名中2名が戦死してな、最期にこう言い残して逝った……『願わくば、遅き到着を祈ります』だとさ」

「……」

「これがそいつらのドッグタグでな。私は扶桑語は堪能ではないから残った3名やケイ……知り合いに聞いたら、501の誰かに渡せと言われてな」

 

 楠里は手渡されたドッグタグを受け取り、その名前と所属を見た。

 

 そこには、見間違う事の無い名前と、第9陸戦隊所属の証が刻まれていた。

 

「確かに受け取りました」

「兵士の中の兵士だったぞソイツら……知り合いか?」

 

 楠里はドッグタグを眺めながら、否定も肯定もせずに背を向けた。

 

 マルセイユはそれに対して何も言う事無く、仕事は終わったと言わんばかりに去ろうとした。

 

「彼らは、強かったでしょう」

「ああ」

「どんな状況でも諦めなかったでしょう」

「ああ」

 

「……揃いも揃って、馬鹿な人達」

 

 楠里はそれだけ言うと、今度こそマルセイユに背を向け去っていった。

 

 

 次の日、珍しく楠里は仕事を休んだ。

 




やっと後2話分で終われる。2期の間は拷問と実験漬けで草とかでも良かったかも。


茂野少佐についてあれこれ予想した方もいらっしゃいますが、アレの遺言に大きな意味はありません。ただ戦車道やってた世界で、入る直前に死んだ元の体の持ち主が楠里だった程度の軽いフレーバー。
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