シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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天城の魔女

「戦闘・左対空、主砲及び機銃同時戦用意」

 

 楠里を含めた邀撃戦力が空に上がって数分後。

 艦長は念の為、艦隊に対空戦闘用意を命じた。これは楠里自身も言っていたが、万が一突破された場合の保険である。

 易々とは許さないが、戦場に絶対は無い。故に準備しておいて損をする事も無い。

 

「主砲、弾頭・対ネウロイ用対空弾」

 

 空母以外で主砲を持った艦達が、楠里らが飛び去った方角へ砲を向けていく。

 天城も無いよりはマシ程度の対空銃座に次々と水兵が配置に付く。

 

「艦隊陣形、第三警戒航行序列を維持」

「全艦、対空戦闘用意良し」

「津家大尉より入電。『ネウロイ認ム。戦闘ヲ開始セリ』」

「対空警戒を厳と為せ。艦列を維持しつつ現海域を離脱する」

 

 あくまでも今回は人員を欧州へ運ぶためのもの。進んで戦闘をする艦隊ではない。

 

「頼んだぞ津家大尉。だが、無理はするなよ」

「艦隊全艦、強速を維持」

 

 

 艦隊が海域を離脱する為に動き始めた頃、楠里らはネウロイを正面に捉えていた。

 現在の戦力は、楠里を飛行隊長として、部下のウィッチが4名。偶数編成ではなく奇数である。

 

「2と3、4と5でバディ。必ず2名で戦う様に」

『了解!』

 

 交戦許可とゴーサインを出すと、指示通りに2名ずつに分かれて散開していく。

 楠里が今回持ってきたのは501所属時から使っている対装甲ライフルだ。

 戦域全体を俯瞰して不確定要素の侵入が無いかを確かめつつ、ネウロイに攻撃を加えていく。少しでも危険な動作を感じれば、即座にそこへ向けて大口径の弾丸が飛んでくる。

 

「2番機、フラフラし過ぎです。3番機と息を合わせるように」

『ち、違います! 近づくと辺りにとんでもない風圧が生じます!』

 

 楠里が前に出過ぎた2番機を制するが、返って来た返答は楠里に疑問を植え付けた。

 

『こちら4番機! 2番機の言う通り、コイツは何か変です!』

 

 続いて別のウィッチからも報告が上がって来た。

 

「……私の前には変なのばかり現れる」

 

 試しに敵の中央部に向けて対装甲ライフルを撃つが、その弾丸は不自然な程に遅く、最後には勢いがほぼ無くなった。

 

「駄目です! 風圧が強すぎてこれ以上の接近は出来ません!」

 

 なるほどと楠里は思った。精強無比の天城航空隊が一方的にやられたのは、そもそも攻撃自体がほぼ通らなかったからかと。

 第1波として出撃したウィッチも、実戦経験が少ないとはいえウィッチである。

 

「固有魔法……そうか、クソ。やはりJFWに居ると感覚が狂う」

 

 501や502といったJFWを見ていると麻痺してくるが、本来固有魔法は持っている方が少ない。持っているだけで辺りからは称賛され評価される程だ。

 

「如何致しましょうか」

「2番機、私の対装甲ライフルを持て」

「へっ!? はい!」

 

 どうせ後回しにしても相手にしないといけないのだ。

 更にここを逃せばまた変な所で湧き出てくるのは目に見えている。

 

 それに現状は落伍者も居ない。

 

 楠里はそう考えて対装甲ライフルを持たせた。

 

「私の後に続くように。なるべく真後ろを飛ぶように」

 

 作戦としてはこうだ。楠里が烈風穿・錐で回転しつつ風圧を切り裂いて突き進む。

 真後ろで控えている2番機をなるべく敵に近づけて対装甲ライフルを撃たせる。

 

 3、4、5番機はそれぞれ左右上の三方向を固めて警戒する。

 必要に応じてシールドを張りつつ援護という形だ。

 

「そんな事出来る訳無いじゃないですか!」

 

 当然無茶だ無理だと反論が出るが、楠里はこう言い放った。

 

「艦隊を危険に晒しますか? ここで仕留めないと、何処かの誰かが死にますよ」

「うっ……ではせめて艦隊の対空砲火の射程圏内で戦いましょう!?」

「対空砲の破片が私達に当たる方が早いですよソレ」

 

 そもそも対空砲の射程圏に入っている時点で、既にネウロイの攻撃圏内でもある。

 

「しかし銃弾が効かない相手にそんな事で!」

「銃弾が効かないネウロイなんて今更でしょう。見飽きました」

「え?」

「は?」

「?????」

「ともかく、軍服を纏った以上はこういった事態も覚悟の上でしょう。ほら行きますよ、行動開始」

 

 そんな馬鹿なと部下達は思うが、もうこうなってはどうしようもない。

 これで失敗しようものなら後ろから撃つかとも考えていた部下達。

 

 だが、その予想は悉く外れた。

 

 まず楠里の回転飛行で風を切り裂く事自体不可能と思っていたのだが、やってみれば案外うまくいった。

 

 無論それは楠里の綿密な計算と飛行ルートと、魔法力を代償にした結果なのだが。

 

 楠里の真後ろで対装甲ライフルを構えていた2番機は、楠里が射線から退くと同時に発砲した。

 零距離とはいかないまでも、風の影響を受ける前に着弾する距離であったため、ネウロイの装甲が大きく削り飛ばされた。

 

「3番機、コアに攻撃せよ」

「了解!」

 

 上で警戒していた3番機がコアに機関銃弾を浴びせてコアを破壊した。

 

「やった!」

「4、5番機。照準そのまま」

 

 だが楠里は警戒を解く事を許さず、残りの2機にそのままコアを照準し続けるよう指示した。

 

 疑問を口に出す前に、あっという間に再生し始めたコア。楠里は即座に射撃指示を出す。

 

 

 結局真コアも見事に破壊され、辺りには残滓が漂っている。

 

「凄い、これが501所属の実力……」

 

 自分1人で挙げる事が出来たかもしれない戦果だが、楠里は他のウィッチの顔も立てた。

 全員で協力して強敵を打ち倒したという認識を植え付けたのだ。

 

 ラル少佐から聞いた部隊掌握のコツが活きた瞬間である。

 

「やりましたね隊長!」

 

 作戦が無事成功し、部下達の信頼も勝ち取った楠里。だが同時に『やべー奴らの中に居たやべー奴』という評価も同時に下された。

 

「全員怪我は?」

「軽傷だけです。重傷、戦死ありません!」

「ではさっさと天城へ帰りましょうか。全機、天城へ帰投」

 

 

『戦況報告。津家大尉らが接近中のネウロイを撃墜。戦闘態勢解除、警戒態勢に移行せよ』

 

 艦内に響き渡る放送が、艦隊に迫る危機が去ったと告げている。

 芳佳はほっと溜息をつくと、医務室への道を歩き出した。

 

 第一次迎撃隊は今も重傷であり、芳佳はその手伝いをする。

 

「静夏ちゃん。私は医務室で仕事するから、楠里ちゃんの出迎えよろしくね」

 

 護衛対象から離れるなどとんでもないと言おうとしたが、解かれた緊張故にそれも言う事が出来ず、結局静夏は甲板で楠里の帰投を待つことになった。

 

 

 そして僅か数十分後、楠里達が特に大きな怪我も無く戻ってきた。

 着艦し、ユニットを整備兵預けた楠里は甲板に足を付けた。

 

 靴を履いて顔を上げると、其処には静夏が立っていた。

 

「お帰りなさい津家大尉」

「えぇ戻りました……ここで何を?」

 

 言外に芳佳の護衛はどうしたと聞いた楠里は、静夏から説明を受けた。

 

「そういう訳でして、現在宮藤さんは医務室です」

「なるほど。なら服部軍曹、少し話しましょうか」

 

 楠里は静夏を引き連れて甲板の端にやってきた。

 何かやらかしたのかと身構える静夏だが、楠里は特に怒っている様子は無い。

 

「あの、お話とは……」

「芳佳さん、あぁいえ宮藤少尉が軍人らしくない事に困惑している顔ですね」

「け、決してそのような……!」

 

 最後まで口に出来ない辺り、静夏の正直さが窺える。

 

「文民が坂本少佐に見込まれて501へ入隊し英雄に。悪い言い方をすれば、その才能があったが故に戦時徴兵で最前線送りになった一般人です。魔法力が無くなり予備役という形で軍をクビ扱いになった民間人ですよ?」

「は、栄えある扶桑海軍は宮藤少尉をそんな扱いになどしていません!」

「えぇしてないでしょうね。でも最終的に自分の意思で軍属に戻ったのですから、服部軍曹の言う事も正しいんですよ」

 

 規則面では静夏が圧倒的に正しい。寧ろそれは褒められるべき事だ。

 

「でしたら!」

「規則面に囚われ過ぎると、いざという時動けません。だからといって芳佳さん並みに奔放になれって訳ではないですが」

 

 あまりにもあんまりな言葉であるが、馬鹿な楠里にはこの程度しか言えない。

 

「……津家大尉はいつ軍に入隊されたのですか?」

 

 何故そこで私の話なのかと楠里は頭を傾げるが、別に答えられない質問ではない。

 

「9歳」

「9!?」

 

 9歳は小学3年生である。まだまだ親離れも出来ず、社会常識も身についていない歳だ。

 友達と遊び、時々親に心配を掛けたりと普通は子供らしく過ごす年齢である。

 

「何故そのような幼少期から?」

 

 最近、ミーナは芳佳を始めとして、機密を知るメンバーと話し合った事がある。

 経歴や過去を聞かれた時、何をどこまで話して良いのかを明確に決めた。

 

 今までは誰も喋らないだろと生温い事を言っていたから、自分の事に無頓着な当の本人が暴露するという馬鹿な展開が続いたのだ。

 

「孤児だったので稼ぐ宛は軍が適当だったんですよ」

 

 静夏の家は代々軍人を輩出してきた家系だ。箱入りとまでは行かないがお嬢様である。

 

 そんな人間にとって楠里の過去というのは少々刺激が強い。いや誰にとっても強いかもしれないが、生真面目な静夏にとっては特にという話だ。

 

 楠里は何故今それを質問するのか静夏に問うた。

 

「津家大尉と宮藤少尉、同い年の筈なのに全く雰囲気が違うものでして」

「そんなの人それぞれでしょうに……今日は部屋で休みなさい」

 

 無理矢理静夏に休憩を命じると、楠里は報告の為に艦橋へ上がっていった。

 

 

 

 次の日の深夜。

 

 深い霧が艦隊を覆う中、楠里と結城兵曹長は並んで歩いていた。

 艦内の整備状況であったり現場指揮であったりと、お互いに報告をしている。

 

 だが突如、天城全体に途轍もない衝撃と揺れが響き渡った。

 

 それと同時、何かが破裂したような音が響き渡り、楠里と結城兵曹長は壁に打ち付けられた。

 鋼鉄の壁がいとも簡単に変形し、何処からともなく火の手が上がる。

 

「ぐぁッ」

 

 そして飛来した破片が結城兵曹長の膝に当たり血が吹き出す。

 被害はそれだけに留まらず、襲って来た火の手が楠里の顔面を容赦なく焼いた。

 

「ッ」

 

 咄嗟に顔を捻って直撃は避けたが、以前に焼けた左部分がもう一度こんがりと焼けた。

 余りにも火の手が強すぎた為、熱傷は真皮深層にまで到達した。

 

 ここまで来ればもう痛みは無いが、同時にⅢ度熱傷の判定が下される。

 

 以前は深達性Ⅱ度熱傷で化粧で跡が誤魔化せる程度だったが、次からはそれも難しくなるかもしれない。

 

「津家さん大丈夫ですか!?」

 

 自分の足よりも楠里を心配してくれている結城兵曹長が尋ねると、顔の左半分が焼け爛れた楠里が振り返った。

 

「まぁ、直ぐにどうこうなる訳ではない筈です」

 

 顔半分が焼けている為、いつもより聞き取りづらい呂律だが、一命は取り留めた。

 

「直ぐに退避して治療をッ……くそっ」

 

 結城兵曹長が視線を向けると、瓦礫などで塞がれた通路が見えた。

 

「兵曹長、どう動きますか」

 

 階級は楠里が上だが、経験は兵曹長が上である。だから素人同然の楠里は意見を求めた。

 

「とにかく消火バルブを回しましょう。それが駄目なら急いでこの区画から退避しなければ」

 

 楠里と兵曹長が力を合わせて消火バルブを回すが、衝撃で何処か破損したのか一向に回る気配が無い。

 

「くそ、こんな時に意識が……」

 

 火の手も徐々に強くなってきており、いずれ酸欠になるのは自明であった。

 

『結城、無事か!? そちらはどうなっている!?』

 

 その時、伝声管から富田中尉の声が聞こえて来た。

 結城兵曹長が這って伝声管に辿り着き、状況を伝える。

 

「駄目です、衝撃で消火バルブが回りません! それから私と状況報告中だった津家大尉が負傷!」

『何だと!? クソ、どうすればッ……』

 

 楠里も魔法力を込めてバルブを回そうとするが、全く回る気配が無い。

 

「津家さん。もう、こうなったら……方法は1つしか」

「えぇ。それが最善ですね」

「津家さんだけでも隙間から逃げられないか」

 

 楠里はチラッと隙間に目を向けるが、首を振った。

 

「私はもう魔法力での身体強化も碌に出来ないので無理です」

「……すまない津家さん」

『2人とも無事か!?』

「火がそこまで来ています! 今すぐ水密扉を閉じて注水して下さい!」

『何だと!?』

 

 そこで近づいて来た楠里も声を出した。

 

「どれだけ持っても5分程度です。早くしないと弾薬庫に引火して天城が吹き飛びます」

『だが……だが!』

「艦長、ご決断を」

 

 長崎艦長は歯を食いしばりながら、楠里と兵曹長の判断を尊重した。

 最古参の意見と、その場に居る尉官の判断である。

 

 

 そして、小さく振動が伝わって来た。どうやら水密扉が閉じ始めたようである。

 

「艦長、ご武運を」

「……」

 

 酸素が少なくなる中、兵曹長が天城の安全と艦長の武運を祈る。

 楠里は意識はあるが真面に喋る事が出来ない為、天井を眺めている。

 

「はぁ……はぁ……」

「……今すぐ戻れ。そういっても聞かないんでしょうね」

「津家さん?」

「結城兵曹長、どうやらまだ楽にはなれそうにないみたいですよ」

 

 楠里がチラッと瓦礫に目を向けると、小さな穴から芳佳が這い出てきた。

 

「諦めないで! 4人で回せばきっとバルブも動くよ!」

「宮藤さん!?」

 

 結城兵曹長が芳佳の登場に驚いた。だがこれなら行けるかと思い、最後の力を振り絞ってバルブに手を掛けた。

 楠里も息を切らせながら同じくしがみ付き、芳佳は鉄パイプを挿し込んで動かそうとする。

 

 そしてもう1人。

 

 オペレーション・マルスの時に居た楠里の部下もやってきて、4人で力一杯バルブを回し始めた。

 

 

 あと10秒で注水されるその瞬間、勢い良くバルブが回り、天井の配水管から水が噴き出た。

 その水は辺り一帯の炎を直ぐに鎮火させ、熱気を取り除いていった。

 

 それを眺めながら、4人は地面に座り込んだ。

 

「私の知り合いはどうにも無茶をする人ばかりだ」

 

 楠里が呆れた目で芳佳と部下を見た。

 

「貴方には負けますよ楠里さん。じゃなくて大尉殿」

「楠里ちゃんだけには言われたくない」

 

 芳佳と部下は『ねー?』と意見を合わせた後、呆れた目で楠里を見返した。

 

 

 数分後、溶接機を使って新しい出入り口が作られ、無事に楠里らは救出された。

 

 楠里は部下に肩を貸して貰い、兵曹長は芳佳に肩を貸して貰っている。

 

 兵曹長は担架に乗せられて医務室へ運ばれ、楠里はその場に残った。幸い膝の怪我は軽傷以上重傷未満であり、しっかりと治療を受ければ後遺症は無い見込みだ。

 

「津家大尉、お顔がッ」

 

 静夏が楠里の顔面を見て蒼ざめた。年頃の娘にとって、顔の傷は特に嫌がる。ニキビにも過剰に反応するのだ。軍人と言えどそこは変わらない。

 

「顔?……まあこの程度なら別にいつも通り。放っておけば」

「良い訳ないよね。さ、医務室行こうねー」

 

 有無を言わさぬ態度で楠里は芳佳に抱きかかえられた。

 

「あ、私の部屋から化粧道具取ってきて」

 

 楠里は部下にそう言った。

 

「あの、同性の私が取ってきた方がッ」

 

 静夏が気を利かせてそう言うが、楠里は今の静夏に物を頼む気は無かった。

 芳佳が出てきた時の静夏の顔を見ていれば、楠里の判断は妥当であった。

 

「今は休んでなさい服部軍曹」

 

 楠里はそう言って芳佳に運ばれていった。

 

 

 

 数日後、艦隊は遂に目的地であるパ・ド・カレー港を視界に収めていた。

 

 あの事件の後、芳佳と静夏の仲は更に微妙な物になった。

 芳佳の行動は天城全体の人の命を危険に晒したと静夏は言うが、だからといって目の前の命を簡単に捨てる事は間違っていると芳佳は言う。

 

 これはどちらも正しい為、どちらが間違っているとは言えないのだ。

 

 助けられた当人である楠里はといえば、化粧の時間が増えてうんざりしている。

 

 芳佳と静夏の冷え切った関係を後ろから見ていた楠里は、ふと聞き慣れたエンジン音を耳にした。

 静夏は素早くエンジン音を識別して、もしかしてと空を見た。

 

「リーネちゃん! ペリーヌさん!」

 

 芳佳が2人の姿を認めると同時、リーネが飛行態勢のまま芳佳に抱き着いた。

 

 勢いで何回か甲板を転がった2人は、お互いを抱き抱えて笑顔で会話している。

 

「ッこの人が、リネット・ビショップ曹長!?」

「相変わらずですわね。たった2ヶ月会ってないだけで」

「あ、貴方は! お会いできて光栄です! ペリーヌ・クロステルマン中尉! 私、扶桑海軍軍曹、服部静夏と申します!」

「聞いておりますわ、服部軍曹。疲れたでしょう? 宮藤さんと一緒だと」

 

 静夏はいえそんな事はと言うが、芳佳の方に目を向けた時の表情が全てを物語っている。それだけで全てを察したペリーヌは苦笑いをするのだった。

 

 そこに楠里が近づいてきて、ペリーヌにラムネを手渡した。

 

「どうぞ」

「あらありがとうございます。で、楠里さん? 実際に2人の様子は?」

 

 ペリーヌが楠里に親し気に質問する。

 

「想像通りですよ。数日前に天城が氷山にぶつかりまして、その一件が決定打になりました」

「はぁ、もう。予想通りというか、予見出来た事というか」

「バルクホルンさん初期型って所です」

「まぁまぁそれは何とも」

 

 静夏の姿とその性格から容易に場面が想像出来たペリーヌはくすくすと笑った。

 

「あの! クロステルマン中尉は津家大尉とお知り合いなんですか?」

「あら、言ってませんの?」

 

 そう楠里に尋ねるペリーヌ。

 

「信じられてないので」

「まぁ、そちらでの規制が効いてる証拠ですわね。えぇ服部軍曹、この津家大尉は確かに501所属で次席指揮官ですわ」

「ええ!?」

 

 有名なペリーヌからの証言で、遂に楠里の501所属が本当の事だと静夏に認識された。

 

「ガリア解放後に一旦501は解散したでしょう? 再結成するまでの半年間は502所属でしたわ」

「えええ!?……そんな、こんな人が?」

「あら、楠里さんも貴方に何か変な言動を?」

「いえ決して! ただ、全くそのようなご活躍をされた情報を見聞きしたことが無く、そんな雰囲気も纏っておられなかったので、つい……」

「ベテランですわよ。少なくともここにいる誰よりも幼い頃から従軍して生き延びている程の」

 

 楠里は自身に対する評価を聞き流しながら、とあるモノをペリーヌに手渡した。

 

「どうぞ」

「なんですかコレは……通帳? 凄い額が入ってますわね」

「久しぶりに本土の口座を見たら、機密の口止め料(アレ)やら特別賞与(ソレ)やらのお陰でこの額ですよ。どうせ使わないので復興費にどうぞ」

「有難いですけど、ここまで大きな額を素で貰うのも気が引けますわねぇ」

 

 ペリーヌは貴族という地位であり、それ相応に金を動かした経験もある。そんなペリーヌにも躊躇させる程の金額が、その通帳には載っていた。

 

 具体的に言うと、扶桑の首都である東京や、旧首都である京都府の一等地に大きな邸宅を建てても余る程だ。

 

「不躾ながら、ご迷惑でなければ私も拝見してよろしいでしょうか?」

 

 静夏はペリーヌのその反応が気になり、通帳を見たいと申し出た。

 特に何も言う事が無い楠里は、気軽にその通帳を手渡した。

 

「どうぞ?」

「失礼します……ひっ」

 

 中身を見た静夏は、その金額の多さに途轍もない寒気を覚えた。

 同時にその通帳がとんでもなく重く感じられ、直ぐに楠里に返却した。

 

「あと数時間で入港ですので、暫くここでお喋りしていましょうか。はいお手紙」

 

 ペリーヌは楠里宛に届いた各JFWからの熱烈なラブコールの手紙を受け取ると懐に仕舞い込んだ。

 

 

 こうして、微妙な関係の芳佳と静夏は、欧州の地を踏んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アナグラムとか言葉遊びって楽しいですよね。




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