シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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皆さん凄いですね。


遭遇の魔女

 扶桑は日本と異なり、鎖国政策を行わなかった国だ。

 帝の名代織田家の当主が本能寺で歴史から消えずに西国へ逃げ、その後に天下統一を果たした。

 

 統一後、西欧列強との積極的な外交を始め、資源豊かな南洋島へ有力大名が入植した事により、莫大な資源を有する。

 更に極東に存在する国は扶桑一国のみである為、戦争や内政干渉といった事から無縁であった。

 

 そんな国の軍人、ましてや士官ともなれば母国語以外も喋れないと話にならない。

 

 扶桑語を始めとして、ブリタニア語は喋れて当たり前。第三言語にはカールスラント語かガリア語、第四言語にはオラーシャやヴェネツィア語。

 

 扶桑語以外の言語も喋れて当たり前なのだ。士官学校主席の静夏も当然ブリタニア語やガリア語は十全に理解している。

 

「ライン川を越えると、ネウロイは容赦なく襲って来ますわよ」

 

 ペリーヌから説明を受ける3人中の1人、楠里は地図を見て心の中で呟いた。

 

『9割分からない』

 

 この楠里という軍人、士官にあるまじき事だが扶桑語とブリタニア語以外理解出来て居ない。

 幸い世界公用語はブリタニア語なので、連合軍の基本言語もブリタニア語になる。

 

 では士官過程をどう突破したのか。正解はブリタニア語以外の言語テストが無かった為だ。

 何故無かったのか。それは純粋にブリタニア語さえ分かっていればどこでもやって行けるからである。

 

「……ちょっと、話聞いてます?」

「聞いてます。このルート沿いに行けばいいのでしょう」

「その通りです。ボーっとしてましたわよ」

 

 静夏が司令部と定時連絡を行っている後ろで、芳佳らは別れの挨拶をしていた。

 

「あの気まずい2人の監督役か」

 

 珍しくぼやいた楠里の心境を察してか、ペリーヌとリーネは苦笑するに留めた。

 

「ではそろそろ出発致します」

 

 静夏の合図を機に、用意された輸送車に芳佳と楠里が乗り込んだ。荷台には有事の際の零式ユニットが1機載せられている。

 

 

「ねぇ、一緒に食べようよ。美味しいよ?」

「結構です。今道を確認中ですから」

 

 相も変わらず冷めた関係の2人。それを後ろから見ている楠里はと言えば、どうしようかと悩んでいた。

 上官権限で諌めた方が良いのか、時間が解決するのを待つのが良いのか。

 

『だから士官なんぞになりたくなかったんだ』

 

 心の中でそう毒を吐く楠里は、無意識に表情が強張っていた。

 後ろで楠里の雰囲気を感じ取った静夏は、それで更に気が気でない状態に陥り、場は何処まで行っても悪循環であった。

 

「前方、民間車両」

「何だろう」

 

 その車両は芳佳らの前で急停止をすると、血相を変えた壮年の男性が出てきた。

 

「軍人さん、無線機を貸してくれないか!」

 

 芳佳が理由を聞けば、付近の村で崖崩れが発生し、多くの負傷者が出た。

 迷わず助けに行くと判断した芳佳だが、国境付近は近づくなとペリーヌに言われていた静夏が止める。

 

 命令違反など何のその。行動原理が医者の人間は軍規など知った事ではない。

 これが自衛隊であれば民間人最優先の名目が使えるが。

 

「服部軍曹、民間人の保護と付近一帯の警戒任務を与えます。脅威の芽は早期に見つけて対処しなければ取り返しがつかない事になりますよ。従って活動拠点確保の為、該当の村へ急行しなさい」

「ですが!」

「服部軍曹……命令だ、村へ行け」

「ッ……了解しました」

 

 わーコレが職権乱用かーと楠里は心の中でぼやきつつ、出した殺気を引っ込めた。この様な時、ミーナならどう対処するのであろうか。そんな事を考えながら気を引き締めた。

 

 村に到着した芳佳達は、負傷者が運び込まれている教会へと案内された。

 

「すまねえ軍人さん。部下の人に嫌われるような事を言わせちまって」

 

 助けを求めて来た村人が、小さな声で楠里に謝罪した。

 

「いいんですよ。あの子まだ士官学校生で正式に任官してないんです」

 

 そして手の空いている人員総出で、芳佳のサポートが行われた。

 

 芳佳はリーネから手渡された手編みの白衣すらも使い、村人の治療に当たった。

 止血、傷口の洗浄、治療、縫合、骨折した部位には添え木を当てる。

 

 出血が派手に見える頭部は慎重に治療を施す。

 

「い、いてぇ……」

 

 岩に押しつぶされた村人の腕は、無残な程に拉げている。

 骨すらも見えている状態で、失血死やショック死をしていないのが不思議な状態だ。

 

「ごめんなさい。今の機材と私の腕では、もう切って傷口を塞ぐしか……」

「……構わねぇよ。やってくれ軍人さん! 片腕でも生きて行けらぁ」

 

 だがその村人は震えており、目にも涙を浮かべている。

 

「楠里ちゃん、お願い」

 

 指名された楠里は、静夏の疑問の声を無視してその村人に近づいた。

 

 

 結局手術や治療は夕方まで続いた。

 だが奇跡的に死者は1人も出なかった。

 

「……」

「服部軍曹」

「……はっ!? な、何でしょうか!」

 

 慌てて静夏が敬礼して返答する。

 

「辺りを見回してみなさい」

 

 そう言われた静夏は、教会内に目を向けた。

 そこには命が危機を乗り越え、安堵した村人達が肩を寄せ合っていた。

 

「……」

「今日、貴方が救った命です。村を見捨てていれば、此処にいる人達は恐らく死んでいたでしょう」

 

 そしてその翌日、1日遅れの行程を急いで消化すべく、楠里達は村を出発した。

 相も変わらず気まずい2人を後部座席から見ていた楠里は、ふと車両が発する以外の振動を検知した。

 

 走っている場所は崖なので多少の揺れの大きさは理解出来るが、如何せん振動の間隔が狭すぎる。

 

「楠里ちゃん、どうかした?」

 

 芳佳が尋ねると、楠里は軽く首を振ってから指示を出した。

 

「服部軍曹、車を止めてください」

「え、あ、はい……」

 

 見るからに元気が無い静夏は、言われたまま車を停車させる。

 止まると同時に楠里は車から降り、地面に足を付けた。

 

「……地震、にしては揺れが規則的すぎる。あぁなるほど……ネウロイか」

「え?」

 

 静夏がその発言に思わず聞き返したと同時、村の郊外で大きな爆発が響き渡り、地面から塔型のネウロイが出現した。

 

 それは、潜水艦の潜望鏡とも呼べる形をしており、その塔頂部分より何らかの残滓を振り捲いている。

 

「ネウロイ!」

「周辺基地に連絡します!」

 

 咄嗟に無線機で連絡を繋げようとするも、肝心の無線機は全く反応しない。

 どれだけ出力や周波数を弄っても、聞こえてくるのはノイズのみだ。

 

 そうしている間にも、ネウロイは村へと近づきつつあった。

 

「現有戦力で対応するしかないですね」

 

 楠里は荷台に積んでいたユニットに触れようとしたが、咄嗟に芳佳が遮った。

 

「駄目!……駄目だよ。今は村に急いで避難誘導を優先しよう。ネウロイを引き付けるだけなら静夏ちゃんの方が良い」

「……はぁ」

 

 楠里は溜息を吐くと、運転席に座った。

 

「大尉、運転でしたら私がッ」

「座って何かに掴まってなさい。荒く行きますよ」

 

 言うや否や急発進した車両は、何の躊躇も無く崖をダイブした。

 

「ひッ……いやあああああああああ」

 

 静夏の悲鳴をBGMとし、村への最短コースを車両はひた走るのであった。

 

 

 

 時は少し遡り、ベルギカ王国サントロン基地。

 

 ここにはミーナとハルトマンとバルクホルンといった名立たるエースらが配属されていた。

 更には、夜間戦闘において撃墜数世界1位のハイデマリー・W・シュナウファー少佐まで居る。

 

 この4人だけで1個飛行師団並みの戦力を有している。

 

 そんな基地の作戦立案室では、ミーナとハイデマリーが情報を整理しつつ、戦略図にネウロイの活動圏やら接敵地点を記している。

 

 以前シャーリーらがヴェネツィアで接敵した個体、そしてハイデマリーが夜間哨戒中に接敵した個体。

 どちらも国境警備を兼ねる観測班からの報告は上がっていない。

 

 では何処に新しい巣が出来たのか。だとすれば必ず何処かで目撃情報や、色々なズレが生じてくる。

 

 余りにも出来過ぎた襲撃に、ミーナ達は頭を悩ませていた。

 

「現状可能性が在るのは、未確認の新しい巣が何処かに出来たとしか」

「……調査する必要があるわね」

 

 

 と、そう決定づけたものの。

 

「観測班のミスではないのか。そもそも近頃の国境観測班のネウロイ発見率は―――」

 

 ミーナがバルクホルンの言い分に苦笑いを浮かべていると、ここ半年でバルクホルンの扱いが少し上手くなったハルトマンが諭した。

 

「あっれー、ここって宮藤が留学で通る場所じゃーん」

「エンジン始動! 回転数異常ナシ!」

 

 その間、僅か数秒。余りにも短い時間で、偵察とは思えない程の完全武装を施したバルクホルンが、ユニットの起動態勢に入った。

 

「あ、ヘルウェティアまで津家さんも同行してるのよね」

「じゃあもう何かあったって確定じゃん。なーんだ悩まなくても既に事件は起きてるって」

「あの、宮藤さんや津家さんって、あの2人の事ですか?」

 

 ハイデマリーが、英雄宮藤芳佳と映画で知った津家楠里の事を尋ねた。

 

「バルクホルン大尉の可愛い妹と、501に悉く昏い影を落とす次席指揮官(マスコット)よ」

「え、妹!?」

「ミーナ、誤解を招くような事を言うな! ハイデマリー少佐も冗談を真に受けないでくれ」

「あ、そうなんですね。なら津家大尉も」

「そっちは本当だ」

「えぇ……」

 

「ほら、先に行くよおねーちゃん」

「あ、こら待てハルトマン!」

 

 

 そうしてライン川沿いに哨戒飛行を行う事数十分。

 

 河1つ。

 

 たった河を1つ挟んだだけで、カールスラント側の国土は、その悉くが荒れ果てていた。

 

 ライン川の向こう側は、ネウロイの勢力圏。

 

 生まれ育った国が直ぐ目の前にあるというのに、たったそれだけで入る事も出来ないもどかしさ。

 

 いつか必ず取り返すと決意を新たにした2人の前に、シャーリーやハイデマリーらが遭遇した形状のネウロイが出現した。

 

 2人は増槽を投棄して戦闘機動に入る。

 

 

 

 まぁここで多く語る事は無い。

 

 カールスラントが誇る撃墜数世界1位と2位である。

 戦術、連携。

 あらゆる面で楠里程度とは比べ物にならない2人なのだ。

 

 多少銃がジャムる事があったが、それすら何の枷にもならない。

 淡々と、ただ淡々と。

 

 普通のウィッチなら苦戦するであろう個体を、ただ少し面倒だったよね程度の感想で完封した。

 

「疲れた」

「まだ煙突の奴が残ってる」

「あーそれあっち」

「なッ」

 

 そこで目に入ったのは、人類連合軍の絶対防衛線であるライン川の向こうを進むネウロイの姿であった。

 

「もう戦闘は無理だよー。魔法力も弾も持たないもん」

 

 バルクホルンが無線機でミーナに連絡を入れるも、全く繋がらない。

 

 それを嘲笑うかのように、煙突のネウロイは地面へ潜り消えていった。

 

 この後もう1戦あるのだが、それもハルトマンの機転と才能により難を逃れた事を記しておく。

 

 

 ここで消えた煙突型のネウロイが、楠里らの滞在している村に姿を現すまで、後数時間の事であった。

 

 

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