シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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結集の魔女

 道無き道を行き、時には崖から飛び降りて。

 

 3名は数十分前に出発した村へと戻ってきた。

 周囲一帯の建物に対してネウロイは既に攻撃を始めており、村人達の悲鳴が響き渡っている。

 

「服部軍曹、上がるまでは援護しますから早くなさい」

 

 楠里はM45のスライドを引きつつ、静夏を急かす。その傍を避難誘導の為に芳佳が駆け抜けていく。

 

「わ、分かりました! 服部静夏、上がります!」

 

 牽制程度にしからならないが、無いよりはマシ程度の銃撃を楠里はネウロイに浴びせる。

 

「ここ……はぁ、やはり未来予知なんて出来ませんよね。あの時出来たのはあの人の能力故ですか」

 

 自分なりの予想で偏差射撃を試みるが、ネウロイは悉く方向を転換してそれを避ける。

 

 そうしていると、準備を整えた静夏が空へと上がった。

 

 静夏はコレが初めての出撃、いわゆる初陣である。更に言えば指示を出してくれる隊長機や僚機も居ない。正真正銘の孤独な戦いだ。

 下に楠里が居るが、正直戦力としては鼻で嗤える程度だ。

 

「初弾装填――確認。安全装置、解除ッ……大丈夫、訓練通りにやればッ」

 

 そんな初々しい挙動を下から見ていた楠里は、嘗ての自分とひかりの姿を当てはめていた。

 

 ひかりの初陣の時や訓練の時、あのようにスムーズな動作は出来ていなかった。

 では4、5年前の楠里自身はどうなのか。

 

 答えは簡単で、ひかり以上に酷い動きだった。

 

 寒さと恐怖で手は震えるし、辺りは吹雪と夜間である為何も見えない。何時何処からどのように攻撃が来るか分からず、闇雲に撃ったものである。

 

「流石士官学校の首席は動きが良い」

 

 初々しい動きながらも、ネウロイを1機落として初戦果を挙げた静夏。

 

「やった! 訓練通りッ。なんだ、ネウロイなんて……」

 

 訓練を一切行わずに空母赤城を守った芳佳の顔が浮かんだ楠里だが、アレはまた別と頭を振った。

 

 そう言いつつまたも1機を墜とした。初陣でコレだけ動ければ将来有望である。この場に坂本が居れば、戦闘中の為何も言わないが、終わった後にさぞ褒めちぎってくれるであろう。

 

 だが静夏の活躍も、ヴェネツィアやハイデマリーの前に現れた個体の出現により止められた。

 

 その巨体からは想像できない程の高機動を駆使し、容易く静夏の視界と射線から外れたネウロイは、絶大な威力のビームを静夏へ向けて放った。

 

 身を捻って回避したが、逸れたビームは地面に着弾し、大きなクレーターを作り上げた。

 その威力の高さ、そして着弾点付近にいた村人達の焼け焦げた死体を見て、一瞬気を取られた静夏は、致命的な隙を晒してしまった。

 

 静夏の隙を見逃さなかったネウロイの一撃は、静夏の命を奪うには十分であった。

 しかしこの静夏も伊達に厳しい士官学校の訓練を受けて来た訳ではない。

 

 幸い反射的に張る事が出来たシールドは、その威力をほぼ無効化した。着弾の衝撃で静夏は武器を手放してしまい、そのまま墜落してしまったが。

 

 無意識にシールドを張って地面への激突は避ける事が出来たが、それでも戦闘不能には変わりない。

 

 501の戦闘を見慣れていると麻痺してくるが、本来は銃器とユニットを十全に操って漸くネウロイに競り負けないレベルに達する。

 

 ネウロイは単機で絶大な性能を有するが、人間は1人ではほぼ何も出来ない。だから戦術や数で押すと言った行動が存在するのだ。

 

 一部では1人で戦況を覆すウィッチもいるが、今は魔法力が無くなっている。

 

 楠里は墜落した静夏を素早く回収すると、近くの木陰へと引っ張り込んだ。直ぐに芳佳も合流し、これからどうするかの作戦を話う事になった。

 

「村の防空壕に到達するまで数分、その時点で詰みますね」

「何とかして村から遠ざけないと……」

「私が上がります。こんな時の為の軍人ですから」

「…………」

 

 芳佳が本当に珍しく楠里を睨んだ。それは拗ねてるといった可愛い物ではなかった。

 そこには本気で、それ以上の言うなら殴ってでも止めると言う医者の貌をした芳佳が居た。

 

「はぁ、ではどうするんですか。まさかユニット無しでネウロイと戦えるとでも?」

 

―――まぁやれない事はないんですが。

 

「あのジープを使おう。運転は私がするから、楠里ちゃんは機関銃持って助手席に」

「……他人の事言えませんよね芳佳さん」

 

 楠里と芳佳は、乗って来たジープに向けて走り出した。

 

 静夏が使っていた機関銃もしっかりと回収している。

 

 

 急発進したジープは、指揮をしているであろう塔型ネウロイの進行方向とは逆の位置に着いた。

 

 芳佳が機関銃を構えて発砲する。十数発当たった所で、気を引く事に成功したため、村とは正反対の道を走り出した。

 

 運転は芳佳が、機関銃での引き付けは楠里が引き継ぐ。

 

 だが弾丸も無限ではない。もうあと20秒も撃ち続ければ弾切れを起こす。

 

 なので要所要所、ネウロイが村へ戻りそうになれば仕掛けると言った頻度に留めて気を引き続ける。

 

 煩わしい小物を仕留めようとビームが何発も放たれるが、シャーリー仕込みの運転技術を発揮する芳佳は全ての攻撃を回避していく。それでも無傷と言う訳にはいかず、2人とも鼻血を出したりと、軽傷を負っていく。

 

 そうして暫く走っていると、ジープは小川を越えた。

 

 その瞬間、塔型ネウロイの進行はピタリと止まり、地面に潜って消えていった。

 

「やった、のかな」

 

 

「まだです。来ますよ」

 

 1分、2分。どれだけ経過したかは分からないが、その塔型ネウロイは突如として芳佳らの目の前に地面から現れた。

 

 だが2人は軍人だ。多少驚きはしたが、直ぐに射撃を開始した。

 

「飛び降りて!」

 

 芳佳と楠里は直ぐにジープから飛び降りた。操縦者を失ったジープはそのまま塔型ネウロイの根元に激突し、大爆発を引き起こした。

 

 それと同時、態勢を整えた2人が銃弾を浴びせる。

 

 芳佳が機関銃を、楠里がM45を構え、コアがあるであろう頂点部分に集中攻撃を行う。

 

 そんな拮抗も、ネウロイがコアを破壊される事で終わりを迎えた。但し、散り際に放ったビームが2人の至近に着弾し、衝撃で吹き飛ばされたが。

 

 

 芳佳と楠里は草原に投げ出された。

 

 負傷した部分から止め処無く血が流れ、緑の草原を紅く染め上げていく。

 

 芳佳は右脇腹に貫通創、楠里は左肩がゴッソリと削れており、骨だけが何とか繋がっている。

 

「……生きてますか芳佳さん」

「不思議と生きてるよ」

 

 文字通り生きているだけの2人が状況を確認し合っていると、意識を取り戻した静夏がユニットを操り近づいて来た。

 

「お二人とも! しっかりなさって下さいッ」

 

 近づいて来た静夏が2人の状態を改めて確認すると、息を呑んだ。

 片や腹に穴が開いて出血しており、片や左肩が無くなり、腕が落ちる寸前だ。

 

「あ、静夏ちゃん……ネウロイは? 村は?」

「村は無事です! 宮藤少尉と津家大尉のお陰で皆助かりましたッ」

「……そう、よかった」

 

 そう言うと、芳佳は静かに目を閉じた。

 

「少尉、宮藤少尉!」

「揺らすな」

 

 楠里は静夏にそう告げると、非常時用に持たされていた信号拳銃を取り出した。フレアガンとも呼ばれるそれは、色の付いたスモークを打ち上げたり、夜間照明用の弾を撃ち出したりする。

 

「大尉、それは」

「なるべく高度を上げて撃つように。使い方は分かりますね」

 

 動揺する静夏の返事を聞かず、楠里は芳佳の横に倒れ伏した。

 

「大尉!……いや、今は指示された事を―――自分に出来る事をやらないと」

 

 

 静夏が耳の無線機に必死で呼びかけ続ける。だが返って来るのはノイズだけであり、人の声は聞こえない。

 

 ならばと高度を上げて必死に呼びかける。

 

 誰か芳佳を助けて欲しいと。

 

 

 その時、芳佳と静夏の無線機から声が聞こえた。それは、501のメンバーの声であった。

 大丈夫か、すぐ行く。だから待っていろ。

 

 励ましの声が幾重にも重なって聞こえてくる。

 

 その内容を聞いた静夏は涙を浮かべつつ、渡されたフレアガンを真上に構えて、発砲した。

 

 発射された彩煙弾の色は赤色。それの意味する所は、支援要請。

 

『グリッド3bにて赤のスモーク確認!』

『宮藤、津家、今行くぞ!』

 

 だが、芳佳を助けるために無線機を使い過ぎた為か、静夏がネウロイに囲まれてしまう。数えるのも嫌になるその数の前に、静夏は諦めかける。

 

「……楠里ちゃん。私、行かなくちゃ」

「……」

「あそこに……皆の所に、行かなくちゃ」

「……」

「一緒に、来てくれる?」

 

 楠里は倒れ伏している状態だが、右手だけを動かして芳佳の手を握った。

 

 その時、周囲に凄まじい衝撃波が生まれた。

 

 それと同時、綺麗な光が衝撃波の中心部から、一気に空へと広がり、500は居たであろう小型のネウロイを一瞬で消し飛ばした。

 

 宮藤芳佳から溢れた膨大な魔法力は、静夏を囲んでいたネウロイすらも一瞬で消し飛ばす。

 立ち上がった芳佳の横で倒れていた楠里の体にも、直ぐに異変が起き始めた。

 

「―――ッ!? な、何、痛ッ……? 痛い? 痛いだと?―――ぐぅぁッ」

 

 楠里が心底驚いたように痛みの部分へ顔を向けると、無くなった筈の左肩が再生し始めていた。

 

 治癒による止血や傷口の縫合などではない。文字通り失われた部分を埋めるように、残った部分から肉や骨が新たに出来て始めていた。

 

「―――治癒じゃない。再生……いや、逆行でもしているような」

 

 僅か数秒。たったそれだけで楠里の無残な左肩は元の状態に戻った。

 

 試しに軽く動かしてみるが、全く異常が無い。

 

「コレは一体―――な、に」

 

 楠里の言葉はまたもや続かなかった。

 

 今度は頭の天辺から足の爪先まで、耐え難い程の激痛が楠里を襲い始めた。

 よく小説や漫画で傷が疼くという表現を目にする。文字通り傷口が動いて疼いている楠里は、息も絶え絶えになって芳佳を見た。

 だが芳佳は目を瞑って集中しており、こちらの事は一切気に留めていない。

 

 左目が、左顔面が、舌が、右胸が、右手首が、内臓が、体全体が。

 

 今まで経験した事の無い痛みが楠里を襲い始めた。

 最早痛いという言葉も、悲鳴すらも出てこない中で、楠里を本日何度目かの驚愕が襲った。

 

「左目が……()える―――これは、血の()?」

 

「ごめん、視えるのも味も『今は』一時的。だけどいつか、いつか絶対、楠里ちゃんが失った物を取り戻す。代償なんてクソ喰らえ! 必ず、楠里ちゃんも、皆も助ける!」

 

 楠里はこの日、扶桑の英雄、宮藤芳佳が復活したのを目の当たりにした。

 

 

 塔型ネウロイが破壊された事により、本体と思われる母艦型ネウロイが地中から姿を現した。

 母艦型は更に無数のネウロイを出現させ、芳佳と楠里の間を再度囲い込んだ。

 

 楠里は肩の調子を確かめながら起き上がり、傍に落ちていたM45を構えた。

 

 だが次の瞬間、芳佳と楠里を囲い込んでいたネウロイが突如として撃破された。

 

「砲撃!? どこから?」

「この戦域で稼働可能な重砲など既に……」

 

 そんな疑問など関係無く、続々と集結した英雄たち、即ち501のウィッチ達が戦闘に入った。

 

「皆、皆来てくれたんだ!……あれ、あの人は?」

「あぁ、ハイデマリー・W・シュナウファー少佐ですね。カールスラント空軍夜間戦闘航空団所属」

「あの人、おっぱいが」

 

 そのセリフと同時、坂本少佐が持ってきた土産が芳佳と楠里の目の前に降ろされた。

 零式水上観測機より投下された物資は、2人が良く知る物であった。

 

「おや、これは」

「震電……私帰りたいの。皆がいるあの場所に。そしてもう理不尽に生きる資格を奪われる人を守りたい。だからもう一度、飛ばせて」

 

 そうしてユニットを履いた芳佳は、魔法力の塊を楠里に投げつけて空へと上がった。

 

「……え、いやいや。え? あの、これ渡されても」

 

 とは言いつつ、おっかなびっくりとしながら、楠里はその魔法力の塊を胸に押し当てた。

 

 まあ何も起こらなかったが。

 

 ちょっとだけ恥ずかしくなった楠里は、その塊を無理矢理口に入れて呑み込んだ。

 

 その瞬間、今まで少しずつ使っていた使い魔の魔法力の残量が、格段に上昇した。

 余りにも出鱈目な芳佳の魔法力に呆れた楠里だが、戦えるのなら文句は無い。

 

 とはいっても武装は拳銃1丁であるめ、出来る事は限られている。

 

 楠里はユニット無しで浮かび上がると、感動して呆けている静夏の元に近づいた。

 

「あ、津家大尉……え、津家大尉!? ユニット無しでどうやって!?」

「その反応、いい加減言われ慣れました。ここは邪魔ですから、坂本少佐の所に行きますよ」

「は、はい!」

 

 

「無事か2人とも」

「さ、坂本少佐」

「どうも」

 

 静夏は色々と言いたい事があった。だがそんな事は後で言える。

 だから言葉を呑み込んで、尊敬する芳佳や501の戦いを見守り始めた。

 

 楠里は年寄りくさい溜息を尽きながら零水観の後部座席に座った。

 

 

 リネット・ビショップ。

 ペリーヌ・クロステルマン。

 エーリカ・ハルトマン。

 ゲルトルート・バルクホルン。

 シャーロット・E・イェーガー。

 フランチェスカ・ルッキーニ。

 エイラ・イルマタル・ユーティライネン。

 サーニャ・V・リトヴャク。

 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。

 ハイデマリー・W・シュナウファー。

 

 そして、宮藤芳佳。

 

「総員、フォーメーションユリウス。目標、前方の超大型ネウロイ」

『了解!』

 

 

 静夏はいつか、501の様なウィッチになれるのかと自信なさげに坂本に尋ねた。

 

「はっはっはっ。なれるさ!」

 

 後部座席で聞いていた楠里は『えぇ……』と微妙な視線を2人に向けつつ、眼下で行われている戦闘という名の一方的な蹂躙を見ていた。

 

 その時、ライン川を遡上してた戦艦大和より、46cm主砲が放たれ、ネウロイの装甲に着弾した。着弾した部分は文字通り消滅し、ネウロイは遂にコアを露出させた。

 

 だがそのコアを守る為、ネウロイは余力を集めた。

 

 芳佳はそれを見て、特大の頑丈なシールドを展開した。

 

『このまま行きます!』

 

「まさか!」

「よく見て置け。アレがお前の目指すべき、真のウィッチだ」

 

 そしてそのまま、ネウロイのコアと本体を貫通し、辺りに撃破された時特有の残滓が振り捲かれた。

 

「す、凄い……けど、あの、原理って」

「皆の力を合わせて。なぁ津家」

「芳佳さんのシールドと他のメンバーのシールド。それらをルッキーニさんの固有魔法で一点集中させて、最後にシャーリーさんの超加速を合わせて突っ込んだんですね」

「そうだな!」

「いや本当に……本当に。服部軍曹、アレ、501以外の人間が対処するなら1方面軍の犠牲は覚悟しないといけないレベルですからね」

 

 楠里は呆れた声で静夏に忠告するが、目の前で起きた奇跡の連続を見れば、その言葉の意味も重さも理解し難い。

 

 

「ミーナ中佐、今、カールスラント国境付近で、新たなネウロイの兆し有りとの報告を受信しました」

 

「聞いたわね、皆。新たな脅威に対し、我々が成すべき事はただ1つ。ここに、501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』を再結成します!」

『了解!』

 




どんな戦闘だったかは実際に劇場版を見てください。


あと1話、劇場版の後日談を持ってこの章は終わりです。
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