シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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揺蕩う魔女

「じゃあ行って来まーす」

 

 欧州、ヘルウェティア連邦。

 医療の最先端である医学校の校門前で、芳佳達は別れの挨拶をしていた。

 

「宮藤さん、頑張って下さい!」

「定期的に報告は上がってきますから、間違えても有紀兵曹長と同じ事とかしないでくださいね」

「ヴ……ワカッテルヨ」 

 

 楠里に釘を刺された芳佳は、若干肩を落としながら校舎へと消えていった。

 全寮制の学校である為、2人の任務は此処で終了となる。

 

 そしてすぐ後ろでは、最終的な見送り要員として派遣されたハルトマンが、輸送車に背を預けながら欠伸をかみ殺している。

 

 普段のグータラ度合とは異なり、静夏がいる為か、英雄としての顔を持ったハルトマンだ。

 毎回このぐらい真面目ならいいのにと楠里は呆れつつ、輸送車へと近づいた。

 

 静夏の任務は終了したが、楠里はまだ終わっていない。

 このまま再度パ・ド・カレー軍港まで静夏を送り、帰船に乗せて漸く終わりとなる。

 

「じゃあそろそろ港に向かおうか」

「運転はハルトマン中尉がするんですか。出来るんですよね」

「言っておくけど、あの中でシャー……イェーガー大尉以外に大型と中型免許持ってるの私だけだからね」

「崖から飛んだりドリフトしたり」

「津家大尉! ハルトマン中尉の様な品行方正で清廉潔白なウルトラエースの軍人の鑑の様な御方がそのような規律無き行動をする筈ありません!」

「……そうですよね。朝もしっかり起きて部屋も埃一つ無い綺麗な部屋で、上官や命令には寡黙で従順でありながら、同僚や部下には沢山世話を焼く完璧な軍人ですよね。天使ですよね」

「んんちょっと待って。待って待ってお願い待って」

 

 楠里はその言葉を聞かずに輸送車に乗り込んだ。

 

「ほらさっさと乗りなさい服部軍曹。ではハルトマン中尉、運転をお願いしますよ」

 

 ハルトマンは『やらかした』と思いながらもハンドルを握った。

 まああと数日化けの皮が剝がれなければ良いだけである。

 

 何も静夏が501に配属される訳ではないのだ。

 

 そんな甘い予測が覆るのは少し先の話なのだが。

 

 

 

 そうして戻ってきた港には、扶桑へ向かう海軍の船は無かった。というのも、天城は別任務の為既に離れているので居ない。

 

「服部軍曹が帰りに乗る船はアレです」

 

 楠里が指さした先に鎮座していたのは、現代の強襲揚陸艦を思わせる軍艦であった。

 

「あれは。陸軍兵員特殊輸送船丙型・あきつ丸」

「なにあれ。陸軍なのに空母持ってんの?」

「輸送船ですよ。陸軍戦闘機を13機程、分割でなら30機分は載せれますが」

「いや、だから空母じゃん」

「輸送船ですって」

 

 などと言いあっている内に、港を管理する指揮所に着いた3名は、扶桑海軍の大佐へと報告した。

 

「任務御苦労。特に服部軍曹はまだ学生ながら良くやったぞ」

「ありがとうございます!」

「扶桑本土帰国後、司令部での報告を以て、臨時付与した軍曹の階級は抹消となる。任務中に士官学校で習う筈だった分の課題云々は着いてからにする。一先ずはあきつ丸で疲れを癒すように。津家大尉から何か一言あるか」

「特には」

 

 静夏が少し悲しそうな表情を浮かべるが、楠里はそれに気づいていない。

 

「では津家大尉……先延ばしては煙に巻いていた事案に目を向ける時間だ」

「……一応お聞きしますが、辞退などは」

「笑わせるな」

「年貢の納め時だね津家」

 

 この悪魔ここぞとばかりにと楠里はハルトマンを睨むが、ハルトマンは目を合わせない。

 

「ヴェネツィアでの活躍などを称し、現時刻を以て津家大尉は少佐へと昇進だ。おめでとう」

 

 楠里は大佐の従兵に大尉の階級章を外され、恭しく少佐の階級章を取り付けられた。

 

「おめでとうございます津家少佐!」

「ありがとう、ございます」

「これで津家少佐は正式に1部隊を率いる権利を得た訳だ。どうする、望めばワタリガラス飛行隊を編成できるぞ。総長閣下も本人が望むならと仰っている」

「結構です」

 

 佐官に昇進した所で色々と発生する事を、目上の上司と詰めていく楠里。

 そこから少し離れた所で、ハルトマンと静夏は小声で会話していた。

 

 

「あのハルトマン中尉。私は本土で津家少佐の事は全く聞かなかったのですが、そんなに凄い方なのでしょうか」

「軍事機密も絡んでるから詳しい事は言えないけど、少なくとも欧州で大ヒット映画になるぐらいには凄い奴だと思うよ」

「ですが、それ程であれば扶桑でも有名の筈では……」

「まあ色々とあるんじゃないかな。私は知らないけど」

 

「では、先程大佐が仰られたワタリガラスというのは?」

「フレイアー作戦、東欧の巣を破壊した時に臨時編成された部隊。501が解散していた半年間って、津家は502へ出向してたんだけど、そのまま決戦に参加したんだよ。で、巣の破壊後にとんでもなく強いネウロイの個体が現れてね、津家だけが唯一出鱈目な動きに付いて行けたんだ」

「精鋭揃いの502が苦戦する相手に、あの津家少佐が……?」

 

 どこにもそんな雰囲気や力があるように思えない静夏は、納得出来ないと首を捻る。

 

「502の隊長が津家を野戦任官で大尉にして、抽出されたメンバーの指揮権を与えたんだ」

「そのメンバーとは……」

「えーっと、私とエイラと、向こうの副隊長とルマール少尉と、あと先生」

「せ、先生?」

「エディータ・ロスマン曹長」

「あ、あの高名なロスマン曹長!? ハルトマン中尉を育て上げた一流の教育者にしてロッテ戦術の生みの親じゃないですか!」

「そうだね。で、臨時なんとかかんとかワタリガラスって部隊名がつけられて、それを指揮した訳。欧州に着任したら東欧の解放者達って映画見てみなよ」

 

 その時、楠里が手を叩いて2人の会話を遮った。

 

「そんな駄作見なくて結構。服部軍曹、あと30分で出港しますから乗艦なさい」

「わ、分かりました! 津家少佐、ハルトマン中尉、大変お世話になりました!」

 

 挨拶もそこそこ、静夏はあきつ丸に乗り込んだ。

 

 

 去りゆくあきつ丸を見送った後、ハルトマンは楠里を見ながらこれからの予定を確認した。

 

「サントロンだよね。コレで別の地域に配属になったらミーナが怖いよ」

「えぇ、このままサントロンですね」

「まったく、どうして少佐1人確保するだけでこんな目に遭うんだか」

「服部軍曹のイメージを壊さないよう振舞ってくださいね」

「大丈夫だよ。あの子確かに優秀だけど、501配属が決まった訳じゃないし」

「……」

「何その無言」

「分かってないですね、あの坂本少佐推薦のお弟子さんですよ?」

「……」

「まあ淡い希望を持ってればいいじゃないですか。民間人も引っ張ってくる方ですから、直接教育していた士官学校主席を引っ張るぐらい訳無いでしょうね」

 

 坂本少佐は今何をしてますかねと楠里は思いつつ、夕焼けに染まる空を見上げた。

 

 

 

 遣欧扶桑軍全権大使。

 

 少佐でありながら将官クラスの権限が与えられた坂本は、遣欧扶桑軍総司令部の一室に呼び出されていた。

 

「呼び出してすまんな少佐」

「いえ、しかし総長閣下の直接呼出しとは、中々危険な知らせでも?」

「まあ危険だ。危険も危険過ぎてもう1人では抱え込み切れない程に危険だ。津家大尉、ではなくて昇進した津家少佐の保護者の君に言う事があってな」

 

 坂本は楠里の事を胸中に思い浮かべた。

 

 1年と少し前、偶然視察で訪れた扶桑本土北方で出会った幼いウィッチ。

 その人生は茨の道しか無く、死ぬ間際だったが、何とか間一髪救出に成功した。

 

 無理矢理501に所属させた後も、色々と騒ぎを起こしてくれたが、掛け替えのない仲間である。

 自分の副司令官としての権限を全面委譲出来る程、人格や能力にも問題が無い(坂本視点での話だが)。

 

 502を始めとし、世界中の有名な部隊からオファーを貰うに至った少女は、嫌だ嫌だと駄々を捏ねながらも先日遂に自分の階級に追いついた。

 

 坂本はもうそれが誇らしくて堪らない。アイツは私が見つけたんだと大声で言い触らしたい程だ。

 だってそうだろう。偶々自分が救い出した少女が、何度か世界の危機を救った挙句、知っている人からは引っ張りだこなのだ。

 

「その言い分ですと津家の事ですか」

「あぁ。さて、少し待ってくれ」

 

 総長はソファーから立ち上げると、扉と窓の鍵を施錠した。

 更にカーテンを張って部屋を薄暗くし、坂本に魔法力で誰か周囲に居ないか探るよう命じた。

 

「居ません。盗聴器の類いも確認出来ません」

「そうか」

 

 総長は少し大きめの灰皿とマッチをテーブルに置き、懐からメモ帳を取り出しつつソファーに戻った。

 

『ここからは筆談だ。間違っても他言しないよう念を押しておく』

 

 その字を見た坂本は頷き、少しテーブルに近づいた。

 

『津家少佐に華族の血が入っている事は、一部の人間しか知らない事だ。そしてその華族の血筋は何処かと色々と調べていたら、不自然な程に一定以上の所から追えないんだ』

 

『意図的に隠蔽されている、と』

 

『その通り。で、数か月前に私はとある場所から秘密裏に呼び出しを食らってな』

『華族を統括する集まりですか』

 

『いや違う。私が呼び出されたのは―――皇居だ』

 

 その途端、坂本の背に冷たい悪寒が走った。

 

『何故またそのような所から……』

『私も吐きそうな程辛かった。秘密裏かつ私的な事であったのが救いだ。小さな一室に通されたまでは良かったが、御簾の向こうには陛下も居られた。そして後御一人』

 

『後の御一人とは』

『陛下の名代を務める華族の姫君だ』

 

『……』

 

 坂本は続きを促した。

 

『「折」という文字、何と読むか』

(いの)る ()る または(おり)

 

『正解だ。では津家少佐の父親である元中将の苗字は』

『折田です』

 

『ではこの(おり)……「おり」だが、別の漢字に変換出来る』

 

『確かに出来ますね。檻であったり、澱など……後は「織」』

「……ん、織?」

 

『折田の折を思いついた字に変換してみろ』

『折田……折、織……織田。―――ッ』

 

 

 織田(おだ)

 

 扶桑を統一し、帝より名代を名乗る事を許された唯一の一族。

 

「だから、だからあの桜花紋と木瓜紋の扇子ッ」

 

 総長は筆談で使われた紙を全て燃やしながら呟いた。

 

「直系ではないし分家も分家だ。しかも数ある内の、どうでも良いぐらいの位置だった。それでも一般人よりは贅沢出来る筈の家に生まれた筈だったのにな」

「では、最初から本家が救えば良かったのでは」

「そういった隠蔽や根回しも含めて、あの中将は優秀だったのだ。まあそれのお陰でもう1人は今も生き地獄だがな」

「楠里は、かの一族の血が入った華族ですか」

「あぁ。姫君自らのお言葉だ。黒田家当主は薄々感付いているようだが。証拠として黒田藤の家紋が入った銃剣を贈っている」

「……だからといって、何かが変わる訳ではありますまい」

 

「あぁ、変わらんよ。だが良きに計らえとのお達しが出ている事実も変わらん」

 

 

 

「津家よ、お前は本当に……面白いな」




劇場版のあとがき

静夏ちゃんは薬漬けが活躍しているのを信じられない勢。
芳佳の視線を独り占めする薬漬けに嫉妬。
でも階級上だから従いはする。

次から最終章のRtBです。
長かったね。

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