けど今回は指摘頂く前に気付いて消せたのでセーフ。
出撃の魔女
宮藤芳佳がヘルウェティア連邦・ローザンヌ医学校へ短期留学をしている頃。
楠里は当初の予定通り、サン・トロン基地でミーナの指揮下に入って―――いなかった。
現在、ベルギカ王国サン・トロン基地にはミーナとバルクホルンとハルトマンが居る。
506A部隊、ガリア・セダン基地にはペリーヌとリーネが。B部隊ディジョン基地にはシャーリーとルッキーニが居る。
オラーシャのリバウ基地にはサーニャとエイラが駐留している。
では楠里は何処にいるのか。
正解は、ヴェネツィアであった。
連合軍第504統合戦闘航空団『アルダーウィッチーズ「スクトゥム」』
ロマーニャ、ヴェネツィアといったアルプス南方防衛を目的とした部隊である。
「ツイエちゃん、タケイが呼んでたわよ」
「分かりました。フェルさんはどちらに行かれるのですか」
「私は先日の戦闘のご褒美という奴で午後休を貰ったわ」
フェルナンディア・マルヴェッツィ中尉。
ロマーニャ公直轄精鋭部隊『赤ズボン隊』に所属するロマーニャのエースウィッチだ。
以前楠里がロマーニャ近海で撃墜された時や特異個体との戦闘時、そして芳佳の入校への旅路など、事あるごとに助けてくれた人だ。
静夏を扶桑本土へ帰した後、サン・トロンへ着任した楠里を待っていたのは、504への出向命令であった。
巣の破壊があったとはいえど、散々迷惑を掛けてしまった504、もとい竹井大尉からの
それ故に、ごく短期間の間だけ、
「このまま行けば全てのJFWに体験入隊出来ますね」とは楠里の談である。
では出向した楠里の仕事とは何か。
それも決まっており、部隊内の練度を向上させる為のアグレッサーが役割であった。
だが諸事情であまり飛べない事が分かると、代わりに書類作業という役目が任された。
その為、ヒスパニアのウィッチ、アンジェラ・サラス・ララサーバルからは何しに来たんだコイツという意見が出る程だった。
そうした中で書類作業を任せて見れば、あら不思議。
今まで以上に部隊運営が円滑に進み始め、扶桑から何故か物資が優遇され始める始末。
「裏あるよねぇコレ」
そう疑念を口にした504隊長・フェデリカ・N・ドッリオ少佐の勘は正しい。
定例の会議で多少会話した事があるとは言えど、扶桑の上をある程度動かせる少佐とは一体。
まあ坂本や北郷も動かせるし、何なら竹井大尉は扶桑軍将官の娘だ。
幾何か日数が経過し、出向期間が残り1週間となった日の昼。
30分限定と言う制約下で、楠里と504の模擬戦闘訓練が許可された。
楠里が相手をするのは、当初楠里に難色を示したアンジェラだ。
だが楠里としては、彼女の固有魔法『魔法炸裂弾』は、以前自作した魔法力弾の威力増加に繋がる為、願っても無い事であった。
リベリオンから派遣されたウィッチ、ドミニカ・S・ジェンタイルとジェーン・T・ゴッドフリーの両大尉は興味深げに空を見上げている。
その横では、嘗て芳佳の実家に墜落してきた諏訪天姫が『ほぇー』と同じく見上げている。
▽
映画、東欧の解放者達は504のメンバーも全員見ていたが、竹井大尉やフェルナンディア以外は誰も楠里の機動は信じていなかった。
実際に共闘した2人からすれば『あ、ここの機動少し油断してる』と朧気ながら理解出来る。
「いやー、参った参った。あの映画の機動がまさか真実とは」
アンジェラも『名誉赤ズボン隊』に属するエースウィッチだ。おいそれと遅れは取らないが、如何せん楠里の機動が気持ち悪すぎて、射線を確保できない。
アイアンサイトを覗き込み、楠里の姿を捉えたかと思えば、楠里はふと高度を下げてアンジェラの視界から消える。
咄嗟に少し銃身を下げて再び楠里を捕捉しようとするが、肝心の楠里は何処にもいない。
楠里はただ高度を下げたのではなく、直角に近い角度で降下したため、アンジェラは一瞬見失ったのだ。
後はもう簡単だ。
地面に垂直で落ちている状態から急制動を掛け、一気にアンジェラの真下に潜り込む。
そこで気付いたアンジェラが回避しようとするが、一歩遅くペイント弾が着弾した。
銃にしても戦闘機にしてもそうだが、基本的に上から下に撃つ方が有利だ。
だがアンジェラの油断が、今回の空戦で敗北を招いた。
人間だからこそ出来る機動であり、この様な戦闘の場合において、楠里は理不尽な初見殺しの持ち主だ。
では2戦目はどうか。
何も気持ち悪い変態機動だけが楠里の技ではない。
中距離で延々と回避し続け、隙があればチクチクと嫌がらせをするのが本来の戦い方だ。
実際に1戦目も、アンジェラに急接近されるまではその戦い方であった。
普段はノロノロ動くが、近づくと素早く逃げる。
人それをゴキブリという。
そのようなゴキブリ機動でカサカサ逃げ切った楠里は、2戦目のドミニカ・S・ジェンタイルとの戦いにも勝てた。
だがまぐれもまぐれの幸運に変わりは無い。
次やれば必ず楠里が負けると言った所で、丁度制限時間が来てしまった。
「はいお疲れ様です。少佐の機動を模倣しろとは言わないけど、これぐらいの機動をネウロイがしてくる気概で頑張るように」
「あ、いますよ実際。この機動でも付いて行くのがやっとだった特異個体が映画のアレです」
この一言で辺りが凍り付いたのは言うまでもない。
竹井大尉が場の空気を戻そうとした時、通信兵が息を切らせて掛けて来た。
「緊急! アントウェルペンとの通信中に異常な切断を確認しました! 周辺基地と確認作業を行った所、アントウェルペンのみ通信不可であります。只今確認中ですが、緊急の信号弾も発射されたとの情報があります」
「アントウェルペン? ベルリン奪還作戦の重要拠点ね」
そうしていると、更に別の通信兵がやってきた。
「報告します! 501部隊長ヴィルケ中佐より緊急電! 津家少佐は出向期間切り上げ、アントウェルペンへ向けて即時全力出撃との事!」
楠里は竹井大尉とドッリオ少佐に視線を向けた。
2人は直ぐに出立するよう楠里に許可を出し、それを確認した楠里はハンガーへと向かって走り出した。
そして僅か数分後、ユニットに増槽を取り付け、機関銃を手に持った楠里は出撃準備を完了した。
「ツイエちゃん。短い間だったけど楽しかったわ。ミヤフジちゃん達によろしくね」
「こちらこそ、フェルさん。またお会いしましょう―――私が生きていれば」
楠里はそう言うとエンジンを回転させ、加速した。
滑走路を幾らか進み、離陸を完了させた所で、ドッリオ少佐と竹井大尉が下で手を振っていた。
それに軽く答えた楠里は、指示のあったアントウェルペンへの飛行を開始した。
津家楠里、最終章。
本来存在しない命の終焉は、すぐ傍までやってきている。