シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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合流の魔女

 アントウェルペン近海、スヘルデ河口。

 

 ローザンヌ医学校に通う芳佳は、級友アルテラから父との通信中に異変があったと告げられた。

 芳佳は当然のごとく助けに向かおうと駆け出し、丁度様子を見に来ていた坂本と従兵の土方の助けも得て、ヘルウェティア連邦空軍のユニットを拝借したまでは良かった。

 

 だが明らかに長年放置されていたであろう劣化を見た坂本は、芳佳の飛行を差し止めようとした。

 

 しかしそこは宮藤芳佳。世界で一番坂本の心を動かすのが上手な人間である。

 

『皆を守りたい』

 

 初めて坂本と出会った時に言ったその言葉は、今もこうして活きている。

 そうしてアルプスから大西洋入口まで、南欧州横断という馬鹿げた飛行が実施される事となった。

 

 まあ楠里も南アルプス方面から補給を挟みつつアントウェルペンに向かっているが。

 

 途中幾度か周辺基地との通信を挟みつつ楠里は飛行している。だが肝心のアントウェルペンやミーナ達には一向に繋がらない。

 

 

 何時間か飛び続け、楠里はアントウェルペン周辺で最も近い基地で簡易補給を済ませた。

 

 そうして楠里が再び上がろうとした時、基地の通信兵がアントウェルペンとの通信を回復し、漸く状況を把握する事が出来た。

 

 曰く、スヘルデ河口にて、戦艦ドージェとスヘルデ要塞がネウロイと戦闘中。

 ドージェは小破乃至中破。要塞は被弾し被害甚大。

 

 それを聞いた楠里は、急いで滑走路を離陸した。

 

 

 アントウェルペンがやっと有視界に入った時、既に決着は付く寸前であった。

 

 今回の騒動の原因であろうネウロイは、集結した501のメンバーに追い回されている。個人で圧倒的な実力を誇るというのに、芳佳のお陰で一段と結束力が高まったチームなのだ。

 

 リットリオ級戦艦ドージェも中破にこそ陥ったが、対ネウロイ用装甲へ換装していた為、生き残っている。

 

 急ぐだけ損だったかと楠里は思ったが、他のメンバーも元気そうで安心した。

 

 そうして暫く戦闘を眺めながら戦域に近づいていると、氷山を利用したネウロイは離脱を図った。

 

「……あの氷山の質量、坂本さんなら斬れるんでしょうね」

 

 楠里は慣性で進み続ける氷山をどうにかしようと思ったが、何か出来る程の能力は持ち合わせていない。

 烈風穿や銃剣でどうにか出来ないかと思うが、氷塊は並大抵の威力では打ち破れない。

 

 宇宙のように気温がマイナスにまで突っ切る環境では氷が装甲として有効なように、巨大な氷塊とはそれだけで理不尽な質量兵器になる。

 

 せめて逃げ遅れが居ない事を願いつつ、楠里は戦域へと突入した。

 

 だがそれも既に遅く、ネウロイは501のメンバーによって倒された―――ただし、最期の悪足搔きに、傍迷惑な置き土産を残してだが。

 

 それを見た楠里は一気に加速し、501に合流しようとしていた静夏の真上を猛スピードで抜き去った。

 

 

 

 宮藤芳佳の行動が、また501のメンバーを集結させた。

 

 力を合わせた皆による攻撃で、氷山型ネウロイは倒す事が出来た。

 だが残滓となって消えるその瞬間、スヘルデ要塞を攻撃していたであろう爆弾が放たれた。

 

 その数、50発。

 

 それらが向かう先は、戦艦ドージェ。

 

 

 真っ先に異変に気付いたミーナが号令を出し、シャーリーが全力で追いかける。

 だが僅かに射程に届かない。

 

 シャーリーの固有魔法である超加速を用いても、その爆弾を止める事が出来ない。

 

『今度こそこれまでかッ』

 

 ドージェの艦長にして芳佳の級友の父は、諦めたように繋がったままの通信機越しに呟いた。

 

『特殊強心剤、投与。脳内麻薬術式、最大出力』

 

 その時、501やドージェの通信機に新たな声が響いた。

 

 それは501の最後のメンバーにして、欧州で知らない人間は居ないであろうウィッチであった。

 

『戦艦ドージェ、針路及び速度そのまま。対空迎撃、開始します』

 

 中破して艦体が左舷浸水している中、艦橋要員が見たのは、機関銃を構えて右舷から向かって来る津家楠里の姿であった。

 

 

 楠里は勢い良くドージェの甲板付近で停止して滞空し、爆弾の群れへと照準を定めた。

 

 脳内麻薬術式で導き出された綿密な調整と、アドレナリン分泌による過度な集中力。

 そこから生み出されるスローモーションの世界は、群れの中のどの爆弾を最優先で処理すべきか、楠里が取捨選択する時間を与える。

 

 機関銃の弾数は100発。一つの爆弾型に対して、単純計算で2発使える。

 

 最もドージェに近い爆弾に2発撃ち込み爆発させた。

 

 続いて次に近い爆弾を、その次に近い爆弾を。

 

 スローモーションの世界で的確に撃ち抜いていく。その偏執的なまでの正確な射撃と、高脅威を素早く判断する加速した思考。

 

 501やドージェの人間から見れば、今の楠里の戦闘は、まるで未来を予知しているかのように正確な射撃を行い続けている。

 

 史実西暦世界でいうならば、今の楠里は船を守る最後の盾。

 イージス艦に搭載されたCIWSの様に、高速で飛来する高脅威を迎撃している。

 

 1つ、2つ、3つと絶え間なく迎撃し続け、遂に爆弾が残り1つとなった時、銃がジャムった。

 何度かトリガーを引いても無駄と判断した楠里は、太もものホルスターからM45を取り出して発砲した。

 

 その弾頭、楠里お手製の魔法力弾。

 

 拳銃弾の癖して対装甲ライフル並みの初速と貫徹力を兼ね備えた何かは、迫りくる爆弾を簡単に貫通した。

 物体が高速で移動する時、特にその正面は極端に固くなる。ましてや巨大な質量を誇っているのだ。

 本来機関銃弾や拳銃弾でも抜く事が出来ない。

 

 だがウィッチの放つ弾丸は普通ではない。

 

 故に人力イージスもかくやと言わんばかりの芸当がここに誕生した。

 

『助かった、のか? しかし、君は―――』

『扶桑海軍所属、津家少佐です。高脅威を殲滅しました』

 

 その瞬間、艦内で歓声と驚きの声が響き渡る。

 

 あの津家少佐か。

 ガリアやロマーニャを解放した英雄、宮藤芳佳の戦友にして501の副司令官。

 502のフレイアー作戦の時の映画に出ていたあの津家少佐。

 渡り鴉と名高き英雄。

 

 艦橋に居た士官が、甲板の水兵達が、今しがた目の前で行われた戦闘と、それを行った楠里に対して万雷の喝采と敬礼を贈る。

 

 楠里の存在を確認した芳佳は近づこうとしたが、またも何処か不調なのか、落下を始めた。

 

 急いでリーネが助けようとするが、一足早く静夏が芳佳を確保した。

 憧れの芳佳に再び会えた事や、先程の501の戦闘を見て興奮冷めやらぬ様子である。

 

 

 結局の所、アントウェルペンの被害は壊滅的であった。

 

 楠里が当初見た通り、巨大な氷山はアントウェルペン港を破壊しつくし、港湾施設はその機能を喪失した。これにより予てより計画されていたベルリン奪還作戦『オペレーション・サウスウィンド』は無期限延期。

 

 また1から戦略を練り直す事になってしまった。

 

 だがそれでも嬉しいニュースはある。

 奪還作戦に際し、ベルリン方面への警戒の為、501統合戦闘航空団が三度結成される事になった。

 そして坂本少佐は完全にウィッチとして上がりを迎えたが、その過去の功績や手腕を買われ、今後は司令部勤務となる。

 ミーナの拳が血で染まる程の果てない交渉の末、坂本少佐の所属云々の最終的な決定権はミーナが握る事になった。

 扶桑海軍の人事を黙らせる事が出来る程、その手腕は素晴らしい。

 だがそれでも今までの様に基地で一緒という訳にも行かないのが現実なのだ。

 

 その報告をミーナが行い、横では楠里がバインダーを持って佇んでいる。

 

「坂本少佐は正式に部隊を離れますが、新たに新メンバーを加えます」

 

 同時、ミーナの口から501再結成の号令が発せられた。

 

 

 各々が会話をする中、手持ち無沙汰の静夏が楠里に話しかけた。

 

「あ、あの津家少佐。先程の戦闘はお見事でした!」

 

 そう言われた楠里は静夏に振り返らず、そして何も言わずにぼーっと夕陽を眺めていた。

 何かあったのかと静香が楠里の体を揺らした時、楠里はふと我に返った様に、そして驚いたように静夏に反応した。

 

「あっ……あぁ服部軍曹。少し呆けてました、何か御用で?」

「先程の戦闘、とても凄かったです! 正直に言うと、津家少佐が501所属と言われても、何処か信じ切れていませんでした……」

 

 楠里はそれを聞いて少し苦笑を浮かべた。

 そこへ坂本が近づいてきて、楠里の肩を笑顔で叩いた。

 

「私がお前を最果てで拾ってから色々な事があった。津家がここまで来てくれて、私はとても嬉しいぞ。まさに感無量という奴だな!」

「坂本さんのお陰で、価値のある人生になったと思いますよ」

 

 そうして笑い会う2人を見ていた静夏は、いつか自分もあんな風に会話出来る戦友が出来るのかと思った。

 それが芳佳であったなら、どれ程嬉しい事だろうか。

 

「あ、あの! 私もいつか、いつか津家少佐の様な戦いが出来るでしょうか!」

「出来ま『いや無理』―――出来ますって」

 

 501の総員から遮られた楠里だが、歯牙にもかけず言い切った。

 

 

 時は1945年。

 

 ある涼しい日の出来事であった。

 




魔法力超便利。便利過ぎて芳佳がナーフされる程。
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