シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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訓練の魔女

 ウィッチは基本的に生足を露出している事が多い。これはストライカーユニットを装着するうえで、長ズボン等は魔法力の伝達を阻害するからである。

 

 極寒の国出身のサーニャやエイラ、ニパなどは自前のベルトや重ね穿きズボン(タイツ)を着たりと、地域特有の違いが確認出来る。後はペリーヌといった裕福な家のウィッチも付けている事がある。

 

 扶桑も珍しい方で、服の下にスク水に似たボディスーツを着ているのが一般的だ。

 

 そして楠里はウィッチの中では珍しく、顔以外は肌を見せていないタイプだ。

 これはサーニャやエイラも当てはまるが、楠里は手袋も装着している。

 

 具体的に言えば、坂本や芳佳と同じ種類だが、破れかけのボディスーツを一番下に装着して、その1つ上にはサーニャと似たような黒色のタイツを履いている。ただしこのタイツも経年劣化が酷い。

 

 更にその上から上半身に擦り切れた寒冷地仕様の野戦服を着込み、下半身は上と同色かつユニットにギリギリ干渉しない程度の擦り切れたキュロットを穿いている。

 一見スカートに見えるが、右太腿には固定されたM45入りのホルスターが見える為、全く以てお洒落ではない。

 

 脚にはボロボロの黒い戦闘靴を履き、手には擦り切れた手袋を装着。

 

 何処に目をやっても小汚く見える楠里だが、唯一ロスマン曹長手編みの黒いマフラーだけはまだ新しく見える。

 

 オプションとして読書や書類作業の時限定だが、楠里の視力に合わせたウルスラの予備眼鏡もある。

 

 

 人が他者から受ける印象は、初対面時の清潔さなどで決まる。

 

 静夏が楠里にベテランの雰囲気や威厳を感じなかったのは、お洒落や改善の努力が見られない楠里の自業自得なのだ。

 

 ボーイッシュやボクっ娘を履き違えた見た目の楠里が唯一肌を見せるのは、風呂の時だ。

 

 楠里の体は同年代の少女に比べて格段に小さく、また細い。

 

 枝かよと見紛う程に四肢は細く、今にも圧し折れそうな程であり、体も肋骨を始めとした骨が鮮明に浮き出ている。

 

 骨と皮だけの子供とはこの事であり、それに加えて今までの戦いで負った数多くの傷もそこにある。

 

 例えば焼灼止血法を行った痕、例えば特異個体に風穴を空けられた痕。

 

「見るだけで気分を害する物など隠すに限る」とは、楠里の考えだ。

 

 体だけなら兎も角、太ももやら膝下も傷だらけなのだから、隠す為にこの様な厚着になる。

 

 

 さて、そんな考えで厚着をしている楠里だが、質の悪い事に部下であった陸戦隊各員にも変な影響を与えている。

 

 詳細を話すと、アフリカの様な熱帯地域で冬用の装備を身に着けて完全武装を常に施している。

 寝る時も装備を外さず、風呂は烏の行水。

 

 なのに弱音など一切吐かず、黙々と任務を遂行する。

 

 欧州各地の将兵は、そんな彼らを『人形兵士』とも『鬼神』などと呼び、畏怖の念を向けている。

 あのマルセイユを以てして『頭おかしい』と言わしめる程だ。

 

 

 ともかくとして、ミーナの下に正式配属となった楠里を待ち構えていたのは、やはりと言うか書類作業であった。

 

「あぁクソが、どいつもこいつも」

 

 楠里は普段から敬語や丁寧語といった優しい口調だ。

 だが戦闘時にピンチとなった時や、無駄に頭を使わなければならない時、または独り言を呟く時に限り、化けの皮が若干剥がれる。

 

 普段の口調からは想像出来ないドスの利いた声で毒を吐く。

 

 なんせ真面な教育など受けたことが無いのだ。

 JFWや陸戦隊と話す時の口調など、独学で身に着けたスキルに過ぎない。

 

 楠里がもう少し杜撰で、口調の事まで頭が回っていなければ、今も荒々しい言葉遣いだったかもしれない。

 

「今日はコレを処理すれば終わりよ」

 

 まるで母親の様に楠里に言い聞かせるのは、501の部隊長であるミーナだ。

 

 楠里はまるで反抗期の子供の様な視線をミーナに向けつつ、すっかり冷めたコーヒーに口を付けた。

 一口飲み終われば、カップをソーサーに戻す。

 

 ソーサーを持ち上げて音も立てず上品に飲むなど、コレに求めるだけ無駄な努力だ。

 

「バルクホルン少佐殿。規律を重んじる貴官の職務を、何故小官が代行しているのか是非ご教授頂きたい」

「……あのリベリアンがな、私の書いた字は汚いと言ってきてな」

 

 バルクホルンが書いた書類に目を通した楠里は、別段そんな事は無いなと結論付ける。

 

 当たり前だが、バルクホルン少佐の字は綺麗だ。

 誰にでも読めるブリタニア語であるし、普段の几帳面さが垣間見える字である。

 

 大方、シャーリーさんがバルクホルンさんに難癖を付けたのかと思った楠里。

 

チッ、んな事で一々手間増やすなよ

 

 本人は小さく呟いたつもりだが、悪口や冷たい言葉は案外人の耳に残る。

 

 普段から波風立たない優しい口調であれば、余計にその毒は印象深くなるものだ。

 

「あ、す、すまん。コレらは私で処理出来るからやっておくよ」

 

 あのバルクホルンが少し引き攣った笑みを浮かべながら楠里の机にある書類に手を伸ばした。

 

「大丈夫ですよバルクホルンさん。私に任せてください」

 

 楠里は普段通りの表情と口調でそう言ってバルクホルンを止める。

 そのギャップが余計に不気味な雰囲気を醸し出してしまっているのを、馬鹿な楠里は気付かない。

 

「まぁ軽く素の口調を出せる程、私達と仲が良いって証拠よ」

 

 ミーナは都合の悪い部分から目を逸らして楠里を援護した。

 それぐらいの言葉で許されるのは、偏に普段からしっかりとした言動であるが故だ。

 

 

 そうやって諸々の事務作業が一段落し、遂に正式に静夏を部隊員に紹介する為のブリーフィングが行われる事となった。

 

 ネーデルラントに用意された501専用基地、そのブリーフィングルームにメンバーの姿はあった。

 

 楠里と同じように少佐へと昇進したバルクホルンを新戦闘隊長とし、より一層の活躍をしていく事になる。

 

 その事に対してハルトマンが煽り、シャーリーが煽り、ルッキーニが煽り、後ろではエイラがニヤニヤと煽る。

 煽りカスしかいない中、バルクホルンがいよいよ爆発すると言った時、頃合いを見計らったミーナが無理矢理話を進めた。

 

「既にアントウェルペンで顔合わせをしたけど、正式に新メンバーを部隊に加えます。宮藤さんの時と同じく、坂本少佐の推薦です。士官学校主席で、入校までの従兵にも選ばれています」

 

「へぇー、少佐の推薦かぁ……んあ、どうしたハルトマン」

 

 エイラは前に座っていたハルトマンが頭を抱えているのを見て、良い予感がした為話しかけた。

 

「ハルトマン中尉の様な品行方正で清廉潔白なウルトラエースの軍人の鑑の様な御方がそのような規律無き行動しませんよね。朝もしっかり起きて部屋も埃一つ無い綺麗な部屋で、上官や命令には寡黙で従順でありながら、同僚や部下には沢山世話を焼く完璧な軍人ですよね」

 

 楠里も非常に珍しくハルトマンを煽った。

 

「ふぎぎぎぎぃ……」

「そうだよなー。撃墜数世界1位がだらしない訳無いよなー」

 

 前に立つ楠里と後ろのエイラから煽り散らされたハルトマンは不意に顔を上げた。

 

「……あー、もういいや」

「あ、コイツ開き直りやがった」

「下手に見栄を張らなければ良かったでしょうに……服部さん、服部さん入って来なさい」

「……まぁいいか」

 

 ミーナがそう言うと、外から返事があり静夏が入って来た。

 

 楠里は何となく部屋の出入り口の絨毯が少し団子状態になっているなと認識したが、特に気にする事なく後ろを向いた。

 

 だが静夏は緊張していたのか、絨毯の撓んでいた部分に足を取られて盛大に転倒した。

 それだけならまだ良かったのだが、何をどうしたのかそのまま1回転を決め込みつつ前進。最後にはその場に居た全員に見事な尻を見せつけた。

 

 なお楠里は黒板に張られた戦略図を剥がしていた為それを見ていない。

 

 辺りに大笑いが響き渡る中、楠里がどうしたのか振り返れば、何故か座り込んで泣いている静夏と、それを慰める芳佳の姿があった。

 

 楠里がミーナを見ながら件の静夏らを指差すと、ミーナは苦笑するだけに留めた。

 

 まあ結局シャーリーらには煽られたが、自己紹介も一段落となった。

 

「宮藤さんにも後輩が出来たわね。しっかり指導してあげて?」

「はい!」

 

「では2人の基地案内はリーネさんお願いします」

「分かったよ」

 

 楠里はリーネにお願いすると、快く引き受けてくれた。

 

「バルクホルン少佐、服部軍曹の基礎訓練などは委細お任せ致します」

「分かった津家。あぁそうだ、お前も参加するか」

「いいですね、是非―――」

「あら忘れたのかしら。伏魔殿へ小旅行が待ってるわよ」

 

 楠里は下を向きながら舌打ちをした。

 だがその程度で司令部との折衝や調整業務が無くなる程甘くない。

 

「宮藤さん、中佐が仰られていた伏魔殿とは?」

「司令部じゃないかな」

「そんな事を気にする前に、まずは基地の中を早く見てこい。午前中は基礎訓練で午後は座学だ。言っておくが、初日だから軽め等と生温い事は私は言わんぞ」

「りょ、了解!」

 

 早速バルクホルンが軍人として静夏に指導している。彼女の下で教えを請えば、余程の事が無ければエースウィッチになると確約されているようなモノだ。

 

 ましてや士官学校主席で、既に初陣も飾っている。将来有望な原石を前に、バルクホルンが少し浮かれるのも無理なき話だ。

 

 

 

「あの鋼何処かで……」

 

 基地の滑走路からほんの僅かに離れた海域では、海面から無数の鋼材が垂直に飛び出ていた。

 

「あぁアレか。ウォーロックの時にマロニー一派が格納庫を塞いだ時のだ」

「道理で。それで服部軍曹はどうですか」

「今始めたばかりだから何とも言えん。現場で直接訓練は今の所ペリーヌに任せているが……どうかな」

 

 楠里は坂本から贈られた第二種軍装を脱ぎ捨てたい欲を抑えながら、滑走路に止まっている輸送機へと乗り込んだ。

 

「では行って来ます」

「あぁ。無事帰って来いよ」

「流石に大丈夫ですよ」

 

 静夏を除く501のメンバーは、楠里の大丈夫という言葉は一切信じられていない。

 

 

 思いの外司令部から早く解放された楠里は、正午に差し掛かる頃には基地の滑走路へ降り立った。

 

 輸送機の操縦士を労いつつ、楠里は未だ訓練を続けている芳佳らに目を向けた。

 

「戻りました」

「お帰り」

 

 バルクホルンは、安堵した表情で楠里を出迎えた。

 

「訓練はどうですか」

「基礎的な飛行技術は問題ない。だが銃の反動制御や視野の狭さが目立つな」

「最初の内はどうしても前ばかり見てしまいますからね。端に現れた障害物を認識するのが遅れるのも仕方ないです」

「……格納庫にユニットあるから参加するか?」

「ならお言葉に甘えます。バルクホルンさん、ありがとうございます」

 

 バルクホルンは良いんだと微笑むと、再び空へと視線を移しつつ無線の出力を上げた。

 

「4人とも一旦集まれ。これより津家と模擬戦闘を行う」

 

 静夏以外のメンバーが正気かよと思う。

 

「良いんですの? 魔法力行使はアレですのに」

「あくまでも中距離限定だ。激しい機動はさせん」

 

 そのように話していると、ユニットを装着した楠里がやってきた。

 余談だが、芳佳や静夏のユニットは紫電だが、楠里のユニットは未だ二二型だ。

 

「静香ちゃん。今から4人で楠里ちゃんに挑むけど、あんまり気負わないでね」

「え、あ、はい。ですが4対1では戦力差があり過ぎませんか?」

「心配せずとも良いですわ。純粋な空戦技術だけなら、4人で挑んでも勝てませんから」

 

 まあ実戦は技術だけではないのは誰もが分かっている。

 

 

「総員指定の位置に付いたな。交差したと同時に戦闘開始。津家は4人をペイントまみれにすればいい。4人は1発でも津家に当てたら勝ちだ。用意はいいな?……では始め!」

 

 号令と同時、楠里は4名へ向けて飛行する。

 対するペリーヌらも楠里の方へ向かう。

 

「交差と同時に撃ちたい所ですが、楠里さん相手に近距離など話になりません。全力で突き放し、中距離で囲みますわよ」

「了解!」

「分かったよ」

 

 静夏はその作戦はどうかと思うが、上官であるペリーヌの命令に従う。

 ネウロイ相手でも正々堂々などと言う程静夏も甘くない。

 

 そして楠里とペリーヌらが交差した。

 

「全力で離れなさい!」

 

 その言葉と同時、一瞬前にすれ違った筈の楠里からペイント弾が飛来した。

 

「え、まだすれ違ったばかりなのに!?」

「シールドで抑えてるうちに距離を稼ごう?」

 

 何発かシールドに着弾したのを確認した楠里は、弾の無駄と見切りをつけた。

 それと同時大きく上昇して高度を稼ぐ。

 

「クロステルマン中尉、上を取られました!」

「私が牽制しますから貴方も上昇なさい。宮藤さん、貴方も上がりなさい」

 

 ペリーヌの牽制射撃は功を成し、楠里が最適な射点に付く事を阻止した。

 

 その隙を突き、楠里よりも高度を稼いだ静夏が撃ち下ろす。

 まさに絶好のタイミングでの射撃だが、楠里はそれらをスルスルと躱し続ける。稀に素早く動いて静夏の視界から一瞬だけ消え捉えさせない。

 

「当たらない……しっかり照準を定めているのに。無風だから極端な偏差射撃も要らない筈なのに」

「静夏ちゃん。馬鹿正直に楠里ちゃんに撃っても基本は当たらないよ。銃弾で回廊……進行方向を塞ぐんだよ。それでも一瞬しか時間は稼げないけどね」

 

 静夏は芳佳のアドバイス通り、楠里が飛行する僅か先を撃った。

 すると楠里は僅かに動きを鈍らせる。その隙を突いて芳佳とペリーヌが十字砲火で楠里を追い詰める。

 

「動きを止めました!」

「このまま動きを縫い付けて! リーネちゃんお願い!」

 

 戦っている3人とは離れた所で、虎視眈々と狙っていたリーネが発砲した。

 

 咄嗟に急上昇をしてその弾を回避したが、その為に機動力が失われた。

 

 静夏は上昇して近距離圏に入った楠里を見て勝利を確信した。

 

「この距離なら、外しま―――え?」

 

 いざ引き金を引こうとしたその時、不意に静夏の視界から楠里が消えた。

 

「避けなさい服部軍曹!」

 

 ペリーヌの警告は一歩遅く、静夏は腹部と頭部に軽い衝撃を感じた。

 一体何だと視線を向けて見れば、いつの間にか懐に居た楠里が拳銃で静夏を撃っていた。

 

 腹部に大きなペイント弾を2発、左頭部に1発食らった静夏は、被撃墜判定を貰った。

 

「静夏ちゃんッ」

「相も変わらず、この!」

 

 近づけさせまいと2人で弾幕を張るが、楠里はするすると中距離まで下がり、また弾を避け始めた。

 楠里はまた様子見を決めると思ったが、急に進路を変えた。

 

「あ、リーネちゃんが危ない!」

「まずは狙撃手からとは正しいですわね。ただ私達に後ろを向ける事がどれだけ甘いか、分かってるでしょうに」

 

 事実、先程からペリーヌと芳佳の射撃は楠里に掠っている。

 

 先程までの余裕な回避ではなく、時々後ろを見ながらの目視回避だ。

 

 その上リーネからも射撃が来るため、前後を常に気にしなければならない。

 

 まあそれでもリーネの下に辿り着いた楠里は、その対装甲ライフルを押しのけてハンドガンを構えた。

 

「ごめんね楠里ちゃん。私達も強くなってるんだ」

 

 楠里がリーネの左手を見ると、いつの間にか取り出したリボルバーを構えていた。

 

「……」

 

 楠里はリボルバーの引き金が引かれる瞬間、左手の甲でリボルバーの射線を無理矢理ずらした。それと同時にM45をリーネの腹部に目掛けて発砲した。

 

「甘いよ」

 

 先程楠里が行った動きの要領を踏まえ、リーネは楠里の右手首を咄嗟に叩いて射線をずらし、お返しと言わんばかりにリボルバーの照準を再度合わせた。

 

 

「あんな近距離で拳銃同士って、誤射の可能性が有って撃てませんわ」

「あ、いいなアレ私もおっぱ「真剣にやりなさい」―――え、私真剣だよ!?」

 

 楠里とリーネがまるでガン=カタの様に戦っていると、通信が入った。

 

『そこまでだ。津家の掠り続けたダメージ判定が1発分に達した。津家の負けだ、戻ってこい』

 

 バルクホルンの通信を聞いた楠里は、ハンドガンをホルスターに入れた。

 

「あ……危なかった~」

 

 楠里はリーネの緊張が解けた顔を見て思った。

 流石ブリタニア人だと。

 

 

 そうして地上に戻ってきた芳佳ら4人と楠里。

 

 バルクホルンは芳佳らに今回の戦闘での反省点を洗い出す様指示した。

 楠里に関しては、4対1で粘った方だが、数の力には勝てないという今更な結果を得ただけだ。

 

「津家から見て4人はどうだ」

「しっかり連携も取れていましたね。リーネさんの狙撃と芳佳さんのシールドをペリーヌさんが上手く指示を出してコントロールしていました。服部軍曹も油断さえなければもっと戦えましたよ」

 

 楠里は率直な感想を言った。

 

「4対1で10分以上粘られた挙句1人を墜とされ、2人目が倒される寸前だったなんて、こちらからすれば堪った事ではありませんわよ!」

「ふむ。これだけ動けるなら服部も将来は期待できるな」

「ありがとうございます!……ですが、私はどの様にしてやられたのでしょうか」

 

「お前が照準を覗いて視野を狭めた瞬間、僅かに急降下した後全力で懐に入ったんだ。お前は見失った津家を探す事に集中し過ぎた為、咄嗟に回避出来ずに撃たれた。ご丁寧に腹部に2発、頭に1発と確実な撃墜判定を突き付けてな」

 

 504のアンジェラを相手にした時の機動と似通っている。

 

「だから楠里ちゃんを相手取る時は、何かしらの近接武器があるといいよ」

 

 リーネが弾の入っていないリボルバーをクルクルと回転させながら言った。

 

「いつの間にそんな物を携帯するようになったんですか。あの時確実にやれると思ったんですが」

「んー……割と最初から持ってはいたよ? 今までは持って来てなかっただけだよ」

 

「よし、5分ほど休憩したら基礎訓練を再開する。服部も今の戦闘で体が温まったな? 最初よりは動ける筈だ」

 

 楠里はバルクホルンらに一言告げて執務室へと戻った。

 

 その後、再び芳佳の魔法力が不調になったとの知らせを聞く数十分前の事であった。

 

 

 

 魔法圧の不調。

 

 それが軍医より芳佳に下された診断結果であった。これを受け芳佳は当面の間出撃禁止となった。

 

 怒っているように見えて気が気でない程心配しているバルクホルンを見つつ、さて出撃メンバーのローテーションをどうするかと楠里は頭を使っていた。

 

「また箒で飛ぶ所からやるんですか?」

 

 楠里が芳佳にそう尋ねると、その予定だよと芳佳は返答した。

 

「少しでも早く戻さないと」

 

 芳佳の顔には焦りが浮かんでいた。

 

 

 

 

 夢だ。

 

 これは夢だ。

 

 そう確信を持てる程、はっきりと自我が残っている。

 

 何処か見覚えがあるようで、見覚えが無い平原。

 

 空は曇天で、今にも雨が降り出しそうだ。

 

 一歩進み、改めて周りを見渡す。

 

 すると、少し離れた所、川のほとりに少女が座っていた。

 

 

 その少女に近づいて、ここは何処だ、君は誰だと尋ねてみる。

 

 

 その少女は金髪でもあり、黒髪でもあり、可愛い顔立ちでありながら、とても美人であった。

 

 姿形が全く統一されていないが、少女という個体ではあると認識できる。

 

 唯一同じ点は、その少女は目に涙を浮かべているという所だ。

 

 少女は川のほとりで涙を流しながら、血で染まった銃剣や野戦服を洗っている。

 

 

 

 ふと、目が覚めた。

 

 寝汗でじっとりと濡れた寝間着に不快さを覚えつつ、立ち上がった。

 

 カーテンを開けて見れば、今夜は新月の為月は出ていなかった。

 

「……」

 

 試しに、普段から使っているタロットカードで占ってみる。

 

 だが結果はいつも通り。

 

 いつも通り『死神』が出ただけだった。

 

 

 だが、今回の死神は、何か普通ではない。

 

 

 彼女―――エイラはそう確信した。

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