シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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ガランド中将


中将と魔女

 ウィッチの待遇というものは、軍隊内においてとても優遇されている。

 

 士官学校を卒業すれば少尉任官、養成所上がりでも軍曹の階級からスタートとなる。

 これは階級が低いという理由で上官の男性から不当な扱いや猥褻な事を強要されない為の措置だ。

 

 部屋も2人部屋が与えられ、施錠する権利も有する。

 

 さらに戦果なり何らかの功績を上げて昇進すれば、専用の自室すらも支給される。

 

 

 さて、再結成されたネーデルラント基地には、勿論楠里専用の自室が与えられている。その部屋の扉をノックした静夏は、許可の声を確認すると扉を開けた。

 

「失礼致します!」

 

 静夏は初めて入る楠里の部屋を、失礼は承知で見回した。

 在るのはベッドと椅子と机、クローゼットぐらいだ。

 その他の小物として、カーテンや筆記用具と言った日用雑貨が極少数在るだけである。

 

 家具も雑貨も全ての作りが簡易的な代物で、明らかに安物しかない。

 

 都心や府中に邸宅を建てられる額を持っている佐官の部屋ではないのは、誰の目にも明らかだ。

 酷く無機質で殺風景な部屋を見た静夏は、本当に佐官の部屋かと首を傾げた。

 

 芳佳と共用の自室でも、もっと金が掛かっているしお洒落だ。

 

「そんなに部屋を見ても何もありませんよ」

 

 キョロキョロと部屋内を見ている静夏に対し、楠里は椅子に座って読んでいた本から顔を上げた。

 

「いえ、その」

 

 搬入してから恐らく1度も使われておらず、皴一つ無いベッドのシーツ。

 少し衝撃を与えただけで潰れてしまいそうな安っぽい造りの家具。

 

「何か報告事項でもあるのでは?」

 

 上官は基本的に部下に対して敬語は使わない。

 舐められたら軍務に支障を来す為だ。

 

「はい。輸送機の準備が完了しましたので、滑走路へお越しください」

 

 静夏も最初は楠里の敬語はどうなのかとミーナに伝えた。

 だがその返答は、他人が不快になる言動でないなら本人の自由意思に任せると言う内容であった。

 

「分かりました。では割り当てられた業務に戻って大丈夫です」

「失礼致しました!」

 

 再度敬礼をした静夏は楠里の部屋を出た。

 振り返って扉を閉めたと同時、僅かにではあるが楠里の独り言が耳に入った。

 

チッ、無駄に時間を浪費する蛆が

 

 普段とは違い、心の底から鬱陶しいという感情を乗せた声色を聞いた静夏。

 背筋に冷たい感覚が走る中、足早にその場を離れるのであった。

 

 そうして知らぬ間に部下に恐怖を教えた楠里は、司令部行きの輸送機に乗り込むのであった。

 

 

 カールスラント空軍ウィッチ隊総監・アドルフィーネ・ガランド中将。

 

 501やミーナにとっての強力な後ろ盾であり、欧州方面において楠里へのちょっかいを防いでくれる貴重な人だ。

 

 カールスラント皇帝の信任厚く、多方面においてその能力を遺憾なく発揮する人物。

 

 そんな傑物中将は、現在は西部方面統合軍総司令部の一室で楠里と会っていた。

 

「お、コレ美味しいな」

 

 501部隊を再結成するに際し、事後承諾という書類を全面的に許可したガランド中将は、ヘルウェティア連邦特産のチョコレートを味わっていた。

 

「閣下、やっと面倒な方々との話し合いが一段落付いたというのに、まだ何か御用でも?」

「つれないじゃないか。後ろ盾との一服ぐらい付き合いたまえよ」

「……心配せずとも持って来ていますよ」

 

 付き合えという中将は、手を楠里の方に差し出していた。

 何が欲しいのかを理解している楠里は、溜息をついて懐からある物を手渡した。

 

「おお、コレだコレ。良く撮れてるじゃないか。愛しい愛しいリーネちゃん」

 

 この中将は御偉方に欲しい物があるかと聞かれた時、真っ先にリーネの名を挙げる程には、見た目や雰囲気を好んでいる。

 大輪の花の様な笑顔で写る中将限定リーネブロマイド。

 

「他にご用件は?」

「私の勘なんだが、今基地では大変面白い事が起きている気がする。でも同時、体の一部……おっぱいに急変化を加える様な気がしてな。君の体はその変容に付いて行けないから、避難の意味も込めての呼び出した」

 

なんだそれ

 

 思わず呆れ返った楠里は呟くが、中将は一切聞いていない。

 

「あとたまにはミーナも顔を出す様言っておいてくれ」

 

 このガランド中将、前任者のマロニー大将の失脚後、しれっと501の上官に就任した。

 ミーナとの仲も前任者とは違い大変良好であり、持ちつ持たれつだが個人的な相談も出来るという、限りなく理想的な上司だ。

 

「分かりました。ではこれにて失礼致します」

「何言っているんだ、まだ用件は終わっていないぞ。寧ろここからが本番だ」

 

 やっと帰れると途中まで浮かせた腰を、楠里は嫌々ながらソファーに戻した。

 まず用件を先に言えよと思わなくはないが、相手は目上の人間だ。

 

「手短にお願いしますね」

「君の腹違いの姉に関してだ」

「それが?」

「仮にも血縁なのだから、少しは興味を持ちたまえよ」

 

 楠里自身は別に恨みも無ければ会いたい訳でもない。姉が居た事に驚きはしたが、純粋に興味が無い為、どうしようもないのだ。

 

「で、名も知らぬその姉がどうしましたか」

「彼女は遠からずこの世から消える事になる」

「軍属であるなら戦死など覚悟の上でしょう」

 

 味が分からない紅茶を飲みながら、興味無さげにぼやいた。

 

「……多少の怨恨やその他の感情があるならと思ったが、今の君の全てを見て分かった。本当に一切の興味を持っていないようだ」

「はい」

「分かったよ。この件でもう君の手を煩わせないと約束する」

「……? はぁ、そうですか」

 

 そのような約束をされても、またはされなくても、どちらでも良い話だ。

 

「ご苦労様。夜間飛行は危険だから明日の朝一番で帰るといい。部屋は用意している」

「ありがとうございます。それではこれにて」

 

 

 楠里が退室した部屋で、ガランド中将は冷めた紅茶を飲んでいた。

 3分ほど経過した時、隣室に繋がる扉から坂本が現れた。

 

「津家を救出した当時、姉の方は色々と悟ったような、諦めた様な表情でした。その後の調べで、何となく感付いていた楠里を助けようとしていたらしいです」

「だが娘を溺愛する実父や取り巻きに全て阻止され、いざ強硬手段に出ようとした所で強制査察という訳か」

 

 坂本は楠里の残した紅茶を飲み干すと、軍帽を外した。

 

「憲兵隊の手を一瞬で離れた姉は、元軍医少将の手で弄り回された後、軍法会議で銃殺刑となった。表ではですが」

「実際は442部隊への配置処分という訳だ……シールドか。世の中儘ならんな」

「貴方と扶桑海事変で出会って以降、私は常々そう思っています」

 

「442部隊は多方面作戦やベルリン方面の巣との小競り合いで、既に損耗率が300%を超過した。4度目の補給人員等もう居ない。半年もせずにシールド(442)は崩壊する」

「時間は、いつでも我々の敵です」

「そうだな」

 

 

 基地で太古のウィッチが豊穣を祈願して力を込めた土偶が猛威を振るった日の翌日。

 

 楠里は基地へと帰還し、ブリーフィングルームの扉を開けた。

 

「おいコラ津家ェ! お前だけまた……また騒ぎを回避しやがって、このッ」

 

 エイラが我慢ならんといった表情で楠里に掴みかかった。

 襟首を掴まれ、簡単に足を地面から浮き上がらせた楠里は呟いた。

 

「ガランド中将の予感は当たったと。皆さん胸の部分が不自然に伸びきってますよ」

「うるせぇー!」

「ぶっ飛ばしますわよ!?」

 

 ペリーヌも加わり姦しい中、地面に降りた楠里はミーナの下へ向かった。

 

「その様子ですと結構な被害に遭われた様で」

「……えぇ」

「はーなるほど。芳佳さんが上機嫌なのはそれが理由と」

「何だか津家さんが居ない時に限って変な事が多々起きるわね」

「それ、今までの特異個体の前で同じ事言えますか」

 

 ミーナはそれに特に反論せず、頭痛を抑えるような仕草をするだけであった。

 

 

 楠里が芳佳と訓練の一環で走り込みをしていたある日。

 

 2人は静夏から呼び止められた。

 

「津家少佐、宮藤さーん」

 

 呼び止められた楠里達はその場で止まり、静夏の方へ向いた。

 

「どうしたの静夏ちゃん」

「津家少佐にお手紙です。あとユーティライネン中尉にもお手紙があるのですが、探しても見つからなくて」

 

 楠里は受け取った手紙の差出人を確認しつつ、視界の端に捉えたサーニャを軽く指さした。

 

「あぁそっか、サーニャちゃんに聞けば分かるかも」

 

 そう言うと大きく手を挙げてサーニャを呼び止める芳佳。何か考え事をしていたのか、僅かに反応が遅れたが、サーニャは用件を聞き入れてくれた。

 

「エイラ? それなら多分、こっち」

 

 サーニャの道案内に付き添った楠里は、シャーリーの部屋に到達した。

 想像していた場所とは真逆であった為若干驚いたが、既に入室した3人の後を追って入った。

 

 中ではサーニャの予想通り、エイラが机を借りて作業をしている。

 サトゥルヌス祭でツリーに飾るヒンメリを作っていたエイラは、受け取った手紙を見て顔を綻ばせた。

 

「おー、ニパからじゃん」

「私はひかりさんから手紙届きましたよ」

「ひかりも元気そうで……あ、ひかりからお前に手紙預かってたけど渡すの忘れてた」

 

 そう言うとエイラはポケットから手紙を1つ出した。文句の1つでも言いたい楠里だったが、すんでの所で呑み込んだ。

 なんせこの楠里は502所属時、ミーナからの手紙の返信を完全に忘れてやらかした事があるからだ。

 

 自身がエイラ以上のやらかしをしていた手前、何も言わずに手紙を受け取る。

 

 エイラから手渡された内容は楠里の身を案じる物であり、こちらは元気という内容だ。だが2枚目は返事が無いから心配であり寂しいといった内容であった。

 

「エイラさん紙とペン貸してください」

「ほらよ」

 

 手渡された2点を受け取った楠里は、机の上でせっせと返事を書き始めた。

 楠里にしては珍しく申し訳なさそうな表情であったため、その場に居た静夏は珍しい物を見た様な感覚に陥った。

 

「差出人はどの様な方なのですか?」

「どの様なって、まあコイツにとっても私らにとっても可愛い後輩だよ」

「でも、楠里ちゃんの思考を一番色濃く受け継いだ被害者かも」

「はぁ…?」

 

 分からないと首を傾げる静夏だが、芳佳が思い出したように声を上げた。

 

「あ、雁淵孝美さんの妹さんか!」

 

 流石に雁淵の名前を出せば、誰の事か分かった静夏は再度驚愕に包まれた。

 

「雁淵大尉って、あのリバウ撤退戦の英雄!」

 

 そうして傍で会話が続けられる中、手紙が書けた楠里は立ち上がり、急ぎ足で部屋を出て行った。上官検閲の為にミーナに渡した後は、直ぐに送られるであろう。

 

 

 ベルリン奪還作戦に先駆け、まずはキール軍港を奪還する必要がある。

 その為戦略偵察諜報部による偵察が行われたところ、現在のキールは原因不明の濃霧に覆われているとの事であった。

 航空偵察写真にも霧しか写っておらず、通常の奪還作戦は困難との事だ。

 

 これを受けて司令部は2日後正午にキール軍港に対する無差別爆撃を決定した。

 成功しても被害が甚大であるが、現状打つ手はこれだけしか無いのも現実なのだ。

 

 バルクホルンらが当然反対と異を唱えるが、上からの命令は絶対である。無論ミーナも納得はしていないが、従うしか無いのだ。

 

 サーニャとエイラは先日遭遇したネウロイが原因だと分かったのか、表情も暗い。

 

 対地爆撃ならルーデルを連れて来れば良いと思うかもしれない。

 だが彼女はオラーシャ方面から黒海方面へ押し寄せてくるネウロイの波に対しての防波堤だ。動かすだけでそれ相応のリスクが伴う。それと同時に彼女の上官であるゲーリング元帥の胃と髪に大ダメージが行く。

 

 同日、バルクホルンを戦闘隊長とした爆撃機護衛隊が基地を飛び立った。

 司令室から見送った楠里は、またも呆けていた。

 

「失礼します」

 

 そうしていると、サーニャ、エイラ、芳佳、静夏の4名が入室してきた。

 

 サーニャ曰く、キール軍港を覆っている原因のネウロイを、自分たちが撃破するとの事。

 

 ミーナと楠里は顔を見合わせるが、サーニャの意思が固い事が分かると、作戦と訓練の許可を出したのだった。

 

 

 501において訓練が大好きなのは誰か。

 坂本やバルクホルンといったメンバーが頭に浮かぶかもしれない。

 

 だが坂本に続いて訓練が大好きなのは、実はサーニャであったりする。よくエイラにも特訓をするよう言っており、サーニャが大好きなエイラはその都度了承するので、常に2人の息は合っている。

 

 両親を探していたサーニャだが、とある一件で無事であると確認された為、今まで以上に軍務に集中する事が出来るのだ。

 

 そうやって始まった訓練だが、霧の中の視界を再現する為に目隠しを装着して始まった。

 見えないというのはそれだけで不安になり、いつもとは違い芳佳らの飛行は常にフラフラであった。

 

 夕暮れまで訓練が続き、何とか形にはなって来たが、まだまだ不安は残る。

 

「楠里ちゃん、上がってきて」

『5分待ってください』

 

 サーニャは何の気無しに楠里を呼び、それに応えた楠里は上がって来た。

 

「はい目隠し。芳佳ちゃんと服部さん見てて」

 

 楠里は手渡された目隠しとサーニャらを交互に見つめて『あぁ』と納得すると文句を言わずに黙って付けた。

 

 そしてサーニャの号令と同時、エイラと楠里はサーニャをカバーする位置に付いた。

 目隠しをしているにもかかわらず、全く動きにブレが感じられない2人は、サーニャの指示通りの動きを完璧に行った。

 

「サーニャの位置なら目と耳塞いでても分かるんだなー」

「それって嗅覚で判別を?」

「だってサーニャって良い匂いだロ?」

「知りませんよそんな事」

「目標、14時の方向。4秒後に発射」

 

 エイラと楠里は指示通りに発砲し、空中に浮かぶ訓練用デコイに見事命中させた。

 

 

 たった1度で1日の特訓成果を抜かされた静夏達は唖然としつつ、サーニャ達と合流した。

 

「お前らもコレぐらい出来る様になれよナー」

 

 出来た楠里は心の中で無理だろと思いながらサーニャを見た。

 

「せめて今見せた連携の半分ぐらいは今日中に出来るようになろうね。ありがとう楠里ちゃん戻って大丈夫だよ」

「そろそろ陽も暮れるので、程々でお願いしますね」

「分かったわ」

 

 一応上官である楠里を顎で使うサーニャと、それに一切文句を言わずに、寧ろもっとやろうぜと言わんばかりの楠里。

 

 まだ501に慣れきっていない静夏からすれば、このやり取りは全くもって未知の物だ。

 

 

 翌日の日暮れ。

 早朝に出撃したサーニャ達を見送った楠里は、いつも通りの業務を終え、格納庫の出入り口にやってきていた。

 

 すると、何かあったのか喧嘩をしているエイラとサーニャの姿を見た。

 傍には芳佳と静夏がどうしようという雰囲気でオロオロとしている。

 

 曰く、エイラの予知でサーニャが別方向から撃たれる未来が視えたが、サーニャの探知は何も検知していなかったとの事。

 エイラがサーニャを助けるために発砲した事により、サーニャが感知していたネウロイに存在を気取られて作戦は失敗。そのまま撤退してきたというのが聞かされた内容だ。

 

 仲間同士が喧嘩などで衝突すれば、ギスギスといった感じに陥る。

 だが芳佳も楠里も何故か2人の喧嘩を見て暗い気持ちにはならなかった。

 

 なんというか、見慣れたと言えば聞こえは悪いが、既に信頼し合っている上での衝突なのだ。

 仲の良いラブラブの恋人が、ちょっと些細な事で言い合っている程度の、軽い喧嘩。

 

 まあ軍務であるし命が掛かっている以上そのように呑気な事ではないが。

 

 

 その日の夜、浴場に併設されたサウナにて。

 

 エイラと芳佳と静夏が並んで話し合っていた。

 

「エイラさん、私が居る必要ありますかね」

 

 サウナだと言うのに何故かいつも通りの服装の楠里が疑問を投げかけた。脱げよと思うかもしれないが、もう発汗機能等死んでるも同然の楠里からすれば、サウナは入るだけで辛い。

 

「いやその、意見は多い方がいいじゃないか」

「アレだけしっかりと言い返しておいて、もうソレですか」

「うるさい! いいから何か案を出せ」

 

 芳佳がはっきりと喧嘩したから仲直りしたいんですねと言うと、エイラは口を尖らせた。

 

「リトヴャク中尉の命令を無視して勝手に発砲したユーティライネン中尉が悪いです!」

「なっ……このッ!」

 

 エイラによる静夏のおっぱい判定は、中の上という結果だった。傍で聞いていた芳佳は生唾を呑み込んで静夏の胸を凝視している。

 

「把握と予知の差異は時間軸だと思うのです。サーニャさんがネウロイは目の前に居ると把握しても、エイラさんはそのネウロイが凄まじい速度で後ろに回り込んだという未来が視えたと仮定します。今を把握するサーニャさんと未来を予知するエイラさん、お2人の索敵をすり抜ける仕掛けか何かでもあるのでは?」

「じゃあ私が見たのはあのネウロイが横に移動した未来だってのか?」

「それは分かりませんが、何らかの仕掛けがあるんでしょうね」

「……さっすが津家だ! それに比べてお前らな」

「ユーティライネン中尉があのような事をしなければ!」

「まだ揉まれたいようだな」

 

 などと胸を揉んで思考と場を混乱させた張本人が抜かしている。

 

 後、結局津家の意見以外何も参考にならなかったとはエイラの言葉である。

 

 

 再度出撃許可をミーナから捥ぎ取ったサーニャは、エイラを作戦メンバーから外す事を決めた。

 サーニャとの自室でヒンメリを作っていたエイラは、楠里から言われた事を考えつつサーニャに話そうとした。

 だが何か急いでるようなサーニャは取り合わず、そのまま行ってしまった。

 

 サトゥルヌスのツリーを眺めていると、やってきたエイラにその話を聞いて楠里は驚いた。いつも冷静沈着なサーニャがエイラの話を聞かずにと言うのは、何か余程の事があったのかもしれない。

 

 エイラが作った特製のヒンメリをツリーに飾っていると、基地を見回っていたミーナがやってきた。

 

「そう。サーニャさんも故郷を追われてるものね……私達の気持ちが良く分かるのかもね」

「どういう事だよ中佐」

「……私たちがウィッチで居られるのは後僅か。ベルリン奪還まで私やバルクホルン少佐の魔法力が保つか分からないって、サーニャさんも分かってるみたいで」

「サーニャの奴」

 

「まあここに1人、故郷や魔法力どころか命そのものが危ない子もいるんだけどね」

 

 ミーナがそう言うと、エイラも呆れた目で楠里を見た。

 

「あれ、どこから飛び火したのでしょうか」

 

 そんな戯言を聞きつつエイラは朝日で光り輝くヒンメリを見た。

 

「……ッ、津家の言った事あながち間違ってないじゃないか! 行くぞ津家!」

 

 エイラはその言葉と同時に格納庫へ向けて走り出した。ミーナの顔を見た楠里は、一応行って来ると伝えると、走ってエイラの後を追いかけた。

 

 

「なるほど、感知に引っかからないタイプの親機」

 

 濃霧の中で、間一髪サーニャの救出に間に合ったエイラ。

 今まで悪かった趨勢が一気に傾いたのを楠里は感じ取った。

 

 サーニャとエイラが親機へ向かう中、芳佳ら3人は子機の方を足止めする事となった。

 だがその戦闘も僅か数十秒で終結した。

 

 楠里自身は何も見てない為分からないが、サーニャとエイラのいつも通りの連携で親機が倒されたらしい。

 

 いつも通りの力を発揮すれば、結局の所は鎧袖一触。

 また2人の痴話喧嘩に巻き込まれただけではと楠里は思ったが、仲良く手を繋ぐ2人を見て、その言葉を呑み込んだ。

 

 ネウロイを撃破した事により、キール軍港を覆っていた濃霧が晴れ、無差別爆撃は中止。

 キールを制圧していた砲台型ネウロイに対してのピンポイント爆撃作戦へと切り替わった。

 

 その奪還作戦も即日終了し、とうとうここに、ベルリン奪還作戦の橋頭堡が確保されたのであった。

 

「そうだ津家、お前の意見のお陰で敵のトリックに早めに気づけた。ありがとな」

「迷惑掛けてごめんね楠里ちゃん」

 

 2人からの言葉に対して、楠里は困ったような表情を浮かべながらも返答した。

 

「それは何よりです。お2人の仲が悪いと、こちらも悲しいですよ」

 

 サーニャのフリーガーハマーを背負い、左手にエイラの機関銃を持ち、右手の自身の機関銃を持った楠里がそう応えた。

 

「あの、私が持ちますよ?」

「いえ大丈夫、最近筋力が衰えたからコレぐらいは」

 

 明らかに積載過多の装備を付けている楠里。

 

「あれ、前方12時の方向、ウィッチ1名がベルリン方面に向けて飛んでるわ」

「哨戒ウィッチか? どこの部隊だろうな」

 

 楠里はそのウィッチに通信を入れようと周波数を開いたが、ミーナの通信がそれを遮った。

 

『5人ともお疲れ様。今日は基地でサトゥルヌス祭をやるから無事に帰ってきてね』

「おー、いつもとは違うご馳走楽しみだ」

 

 

 後世、この基地で行われたサトゥルヌス祭で、撮影された写真がある。

 エイラとサーニャの2人と共に写っていたそのウィッチは、件の2人に挟まれて何処か胃が痛そうな仕草で写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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