シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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場面が所々飛ぶ理由は、楠里では役者不足が過ぎるから。
後はオリキャラが居ない所でも時は進むから。


司令部の魔女

 ベルリンに鎮座するネウロイの巣『ヴォルフ』

 数ある巣の中でも、一等大きな規模を持つこの巣は、以前より度々行動を起こすことがあった。

 

 最近の中で特に顕著な行動と言えば、巣の頂点部分より発射される音速ロケット爆弾だ。まるで史実西暦のV2ロケットを彷彿とさせるソレは、キールへ向けて進軍中の部隊に着弾した。幸いにも戦死こそ無かったが、着弾の衝撃で部隊を率いていた指揮官が足首を捻る事態にはなった。

 

 その指揮官であるパットン将軍は、無事に帰って来た司令部でネウロイの巣の方向へ怒鳴り散らしながら葉巻を吸っていた。傍らで呆れた顔を隠さないブラッドレー元帥と、緊張した顔の坂本は、パットン将軍の腹の虫が収まるまで黙って見ていた。

 だが流石は軍団を纏める長というのだろうか、僅か数分で落ち着きを取り戻した。

 

「地図広げろ」

 

 軍人の貌に戻ったパットン将軍は、自身が負傷した地点にバツ印を付けた。ヴォルフから着弾地点はかなり離れており、普通の攻撃方法でない事は確かだ。

 

「巣に近づく我々を狙ってきたのか、それともキールを狙ってきたのか。どちらでも最悪だが、せめて攻撃の予兆ぐらいは把握したい」

「犠牲を覚悟で偵察機飛ばすか?」

「どうせ近づくだけでバタバタ撃墜されるのが目に見えている。余計な犠牲を払っていれば士気も駄々下がりだな」

「となれば、だ。少人数の深部偵察隊を編成して行かせる訳だが、何かこう適当な人員は居ねーのか?」

 

 そうパットン将軍が聞くが、そんな簡単に使い捨てられる人員など居ないのが現実だ。そうして会議で幾ばくかの時が経ち、痺れを切らしたブラッドレー元帥が小声でつぶやいた。

 

「442部隊から2名程動かすのはどうだ」

「首輪外したら脱走しねーか?」

「定時連絡が途絶えたら脱走判定で良いだろう。どの道ネウロイの勢力圏では通信を使った時点で直ぐに捕捉される。もう少しで潰れる部隊なんだから問題は無い」

「ケッ、まあ国際指名手配レベルの重犯罪者には丁度いいか。誰を動かすんだ?」

 

「それはもう決めている。一般兵は送るだけ無駄だからウィッチにするぞ」

「ただでさえ戦力が欲しいって時に、犯罪者とはいえウィッチを使い潰すのかよ」

「あぁそうだ。あの部隊に放り込まれる程の犯罪者などそれぐらいの価値しかない。気分の良い話では無いがな」

「で、名前は」

 

「名前は無い。あの部隊に所属する奴は人種国籍所属関係無く名前を剝奪される。残るのはコールサインだけだ」

「もう分かったからさっさと言えっての」

 

 

 ネーデルラント基地では現在、偵察結果により齎された、攻撃直前の巣を撮影した写真を元に作戦会議が行われていた。技術支援及び装備支援の為に、エーリカ・ハルトマンの妹であるウルスラも会議に参加している。

 

「偵察結果によると、あのネウロイが発射される数分前、巣の頭頂部が赤く光る事が確認されたわ」

「そしてその数分後には爆弾型の高速ネウロイが射出され、迎撃する間もなく着弾する訳か」

 

 どうやら一旦高度を稼ぐため上昇し、落下のタイミングでトップスピードへと至るらしい。

 レシプロ機では迎撃が不可能と結論付けられ、ジェットでも加速に時間が掛かる為難しいと判断された。ではどうすればいいのか。提案は話を聞いていたウルスラより出された。

 

「またジェットか」

 

 エーリカがげんなりしながらウルスラを見た。だが姉の性格を理解しているのか、微塵も気にせずに機体の説明を始めた。

 機体名称『Me163 コメート』

 

 ジェットの先駆け的な機体であり、ノイエ・カールスラント技術省で実験生産された機体だ。

 ハルブ実験飛行隊でのデータや、以前のバルクホルンらのデータを元に改良されたこのユニットは、現行ジェットの問題点であった魔法力の消費量や、最高速度に至るまでの加速力が改善された。

 あくまで改善されたであり、完成したという訳ではない。

 

 続いて誰が乗るのか。

 当たり前だがジェットに乗るには慣熟訓練が欠かせない。レシプロ機とは違い視覚を通して齎される情報は桁違いに増大し、速度を制御する為に精密な魔法力操作も求められる。

 

 そして有視界で超高速戦闘に付いて行けるだけの機体制御能力と射撃能力も必要となる。

 

 もう少し時代が進めばロックオン可能なミサイルの原型なども出てくるが、今は無い。

 

 そうした中、誰が一番適切な搭乗員かと言えば、ジェットを何度か操作したバルクホルンだ。

 

「今回は私が乗ります」

 

 だが名乗りを上げたのは意外にもミーナであった。

 ミーナの固有魔法は空間把握能力で、敵がどの座標にどの数居るかを正確に導き出す。人型AWACSとでも言うのか、試乗では文句なしの動きであった。

 

 だが警報が鳴ってから悠長に出撃していては間に合う筈がない。そこで採られた手段は、ベルリン近郊まで潜入し、攻撃の予兆が発生すると同時に出撃。

 キールへの攻撃を阻止するという流れだ。

 

 たとえ滅茶苦茶な作戦であっても、やらなければいけない。

 もしキールへの攻撃を許してしまえば、サーニャ達の苦労も水泡に帰す上に、今度こそベルリン奪還作戦は無期限凍結となる。

 

 時間が無いのだ。

 

 

 そうして何とかトラックで移動して、ベルリン近郊の森まで辿り着いたミーナ達。

 急ぐミーナを珍しくハルトマンが抑えるといった事もあったが、今夜はこの森での野宿が決定した。

 

 カールスラント組が各々の気持ちを胸に話し合っていると、近くの草むらから音がした。

 

 バルクホルンが咄嗟に拳銃を抜いてその方向を見ると、音のした方角から1人の少女が歩いてきた。

 

「……誰だ貴様。所属を名乗れ」

 

 銃を突き付けつつ官姓名を明かす様促すと、その少女は疲れた様な表情を隠そうとせず、ゆっくりと敬礼をして名乗った。

 

「イージス。442のイージス」

「何だその名乗りは! 貴様ふざけているのか!」

「待ちなさいバルクホルン少佐。じゃあイージスさん、貴方は此処で何をしているの」

「司令部より下命されたヴォルフ撮影任務の帰還途中でした。ですが別命があり、ヴィルケ中佐らに直近の様子等を報告せよとの事です」

 

 ミーナが事実を確認する為、ごく微量の周波数で手短に照会をすると、司令部はイージスの存在を認めた。

 

 上がそう言うのであれば、多少の不満はあれどバルクホルンは黙り込んだ。

 

「ねね、本名は何て言うのさ」

 

 ハルトマンが、とある友人並みに酷い顔のイージスにそう聞いた。

 

「軍機で詳細は伏せられています。私を呼ぶ時はイージスとお呼びください」

「えー、ここには私達しか居ないんだから大丈夫だよ。いいでしょミーナ」

 

 ミーナは困ったと言わんばかりに頬に手を当てた。

 

「私の名前など知った所で何もありませんよ」

「私たちの部隊員にね、君とよく似た雰囲気のウィッチが居るんだよ」

 

 その話を聞いたイージスは僅かに顔を上げてハルトマンを見た。

 

「そのウィッチのお名前をお聞きしても?」

「自分は名乗らないのに相手の名前は知りたいって不公平じゃないかな」

 

 ハルトマンは「にししっ」と笑うとそう答えた。

 

「それもそうですね。ならお互い、知るべき名前ではないという事で」

 

 まさかここで退くとは思っていなかったハルトマンは、読み間違えたと心の中で不貞腐れた。

 

「腹芸はハルトマン中尉の負けね」

 

 イージスと名乗った少女はゆっくりとミーナの方へ振り向いた。

 

 その少女は、現実世界で言う所の糸目キャラクターと呼ばれる顔の造形であった。笑顔に見えるタイプの糸目ではないが。

 起きているのか寝ているのか分からないその閉じられたような目だが、目の下にはどす黒い隈が出来ており、その少女が一目で健常者ではない事が窺える。

 

 ミーナの方へ振り向いた少女は、その瞼をゆっくりと開き、隠れていた瞳を露にした。

 

 その瞳は案の定というか、瞳孔が開き切って濁っている。目に光が一切無く、ただただどす黒い奈落の様な不気味さがその目には宿っている。

 

 その目を見ただけで、エーリカやウルスラやバルクホルンは、その少女の異常性を察知した。

 だが数秒間ミーナを見つめただけで何も言わず、元の様に瞳が閉じられた。

 

 少女は何も言わずに携帯食料に齧り付くが、一口食べただけで懐に戻した。

 

「手書きで申し訳ございませんが、コレが簡単に周囲一帯を調べた報告書です。30分間隔で上空をネウロイが通過しますのでご注意ください」

「ご苦労様」

 

 イージスはミーナ達が特に質問をしてこないと分かると、年寄りの様な動作で立ち上がった。

 そして再度敬礼をすると、足音を立てずに歩き出した。

 

「あぁそうだ。ここからヴォルフへ向けて数百メートル歩いた所に戦死したウィッチの死体が1つあります。死に立てで損壊も酷いので、なるべく避けて通って下さい」

 

 バルクホルンらが何かを言う前に、イージスは暗い森の中へ消えていった。

 

「3人共、あの子の事は一切の他言無用よ」

 

 ミーナは真剣な表情でハルトマン達に釘を刺した。

 

 なおイージスが齎した情報により、想定よりもスムーズに現場に到着出来た。

 

 

 楠里の知らない所でも時は進み続ける。

 想定外の事態こそあったが、無事ミーナがロケット型ネウロイの迎撃に成功した。その知らせが入ると同時、司令部にいた楠里はとある命令書を受領した。

 

 物資と戦力が漸く当初の目標に到達し、遂にベルリン奪還作戦の準備が整った。

 パットン将軍から子細が記された書類を受け取った楠里はその足で基地へと帰還する事となった。

 

「マンシュタイン元帥。お手数ですが雁淵軍曹へ手紙を渡して頂けませんか」

 

 古今東西、元帥階級の人間に手紙の配達を依頼する少佐など楠里ぐらいであろうか。周りにいた司令部付きの人員はギョッと青褪めた顔でマンシュタイン元帥へと振り返った。

 だがマンシュタイン元帥は特に怒るでもなく、コーヒーを飲みながら楠里の手紙を受け取った。

 

「そのまま渡すのか?」

「別にラル少佐でも構いません。雁淵軍曹に行きつくなら誰でも」

「分かった」

 

 元帥は手紙を持参した鞄に入れると、それ以上何か言う事も無く部屋を出て行った。目上の人間に対する頼み事じゃねーなと辺りの人員は楠里を見るが、そんな視線に一切構う事無く楠里も部屋を出た。その足で滑走路に待機している輸送機に乗り込むと、司令部から離陸したのであった。

 

 

 そうして基地へと帰って来た楠里は、静夏の出迎えを受けた。特に何か異常は無かったという報告を聞き、ミーナの執務机の上に作戦概要が記された書類入り封筒を置くと、格納庫へと移動した。

 

 そこから本日割り振った業務を終わらせ、夕暮れ時に帰還してきたミーナ達を出迎える。

 

 

「本日正午より、遂にベルリン奪還作戦『オペレーション・サウスウィンド』が発令される」

 

 数日後、基地のブリーフィングルームではミーナを始めとし、501所属のウィッチ達全員が集められ、来る一大作戦の概要を聞いていた。

 

 爆撃機による気化爆弾投下で雲を払いのけ、出現したコアをウィッチ達が叩く。聞けば簡単そうではあるが、消費する物資も人員も桁違いに大きい。ウィッチは爆撃機を護衛するが、それも完璧ではない。必ず犠牲は出る。

 

「津家少佐以外は爆撃機に乗り込み、作戦開始空域に到着次第出撃。爆撃機が気化爆弾を投下するまで護衛を継続」

「え、楠里ちゃんは来ないの?」

 

 そう言われた楠里はバルクホルンの代わりに前に立ち説明を始めた。

 

「偵察隊の報告によれば、爆撃機が飛行するルートは広域警報型のネウロイが複数いるとの事です。親機と子機に分かれており、子機に察知されても破壊されても親機には情報が行くようです。その親機に情報が届いた瞬間、ベルリン周辺のネウロイが一斉に爆撃機へ群がってきます」

「って事はその警報型を素早く片付ける必要があるって訳か」

 

 楠里は水を一口飲んでから説明を再開した。

 

「シャーリーさんの言う通りです。更に言えば一定以下の高度でなければ直ぐに察知されるため、高度制限が掛けられます」

「具体的にどの程度の低さなんだ?」

「10ft以上は感知される危険が有ります。速度もほぼ全速でなければ動体感知やらで見つかるでしょうね」

「いや無理だろ!」

 

 10ftをメートルに換算すれば、約3メートルだ。

 

「やらねば爆撃隊はベルリンに近づけすらしません。私が突入して10分以内に警報型を破壊出来なければ、全部隊は即時撤退とります」

 

 地面から僅か3メートル程度しか離れていない高さを、楠里は零式ユニットの最高速度で移動しなければならない。

 当たり前だが平坦な道が続いている訳ではなく、ベルリンへ続く街道には倒壊した木々や瓦礫などが散乱している。それらを全て目視で回避しつつ、目標まで近づかなけばならない。街道の傍には背の高い木々が生い茂る森もある為、左右に回避といった事は出来ない。なのでロールやヨーで進むしか無いのだ。よしんば近づけても倒す時間が遅ければすべてが無駄になる。

 

「1人では危険過ぎます!」

 

 静夏が思わず立ち上がり意見具申をするが、楠里にしか出来ないという決定的な理由を口にした。

 

「どうやら魔法力でも探知してくるようでして。皆さんの魔法力量では難しいですね」

 

 量と質が良すぎる為、直ぐに見つかるというオマケ付きだ。

 

「パットン将軍も難しさを考慮している為、津家少佐には無理だと感じた時は直ぐに撤退する許可が下りています」

「皆さんの道は命に代えても切り開きます」

 

 そういう問題じゃないと誰かが言おうとしたが、基地上空に響き渡る爆撃機のエンジン音が、その意見を搔き消した。

 




トンネル潜りがあるなら渓谷抜け擬きもね
ウィッチだから行ける低空であって、普通なら絶対無理ですね
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