「高射砲はどうしたァ!?」
「駄目です、先程の攻撃により対空火器が全て沈黙しました!」
キール軍港の司令部では、パットン将軍が指揮を執っている。
「
「現在補給中ですが、機材損壊により20mm及び30mmの装弾に遅延が生じています!」
「goddamn!」
キール上空では、ハルトマン、エイラ、楠里、イージスの4名が新たに出現したネウロイと戦闘を繰り広げている。
「将軍、地上からではあの素早い目標には当たりません。寧ろ対空弾の破片がウィッチ隊の戦闘機動を阻害する恐れがあります」
ミーナはパットンの横で進言するが、そんな事はパットンも分かっている。配下の陸戦ウィッチに誤射をするような新兵は居ないが、何もしないのは性格が許さない。
「せめて対空砲火による回廊を作ってやりたいが……!」
基地の命運は、ウルトラエースとミラクルエース、後はオマケの2人に託された。
▽
そんなオマケの片割れである楠里は、現在ハルトマンの支援を受けつつ戦闘を行っていた。
「どうして、こうも……手強い敵ばかりなのでしょうね」
空になった弾倉を投げ捨てて予備弾倉を手に持った楠里はぼやく。13㎜という大口径である為、予備弾薬など早々多くは持てない。
「口動かす暇あるなら集中してよ」
ハルトマンもいつもの様な口調を返せる程の余裕は無い。
なんせ敵の機動と言えば、ハルトマンを撃墜した個体の数倍は変な機動をしているからだ。後ろを取って追いかけていた筈が、まばたきを1つする間に何故か此方へ向かって来ている。
咄嗟に避けても、正面から迫って来るビームを躱しきる事は出来ない為、掠り傷が幾重にも増えていく。ヘッドオンを強制されるこの戦いでは、防御力の無い零式ユニットは格段に不利となる。更に手を抜いているのか、楠里らの後ろを取っても中々撃ってこない。それが余計に焦りを生み出している。
幾度目かのヘッドオンで楠里とネウロイは交差した。そして変わらず楠里が掠り傷を負い、ネウロイはその速度を維持したままハルトマンへと向かう。
ハルトマンは天性の勘ともいえる才能で体を捻り、楠里と同じように正面から攻撃を加えて交差した。違いがあると言えば、ビームを紙一重だが避け切った事であろうか。そうしてウルトラエースの攻撃を凌いだら、次はお前だと言わんばかりにエイラへと向き直る。
「予知出来ても体が反応出来るとは限らねーんだよナー。まあ避けれるけど」
銃弾やビームが来ると分かっても、反射神経が追いつかずに被弾などは多々ある。
エイラはハルトマン以上に綺麗な機動で交差した後、機関銃を後ろへ向けて片手で撃った。視線は前を向いたままだが、不気味な程にネウロイへ命中し、手傷を負わせた。
最後はイージスへ向けて突撃し、同じように正面からビームを浴びせる。イージスは楠里の様な機動ではなく、徹頭徹尾中距離から遠距離で戦うスタイルだ。近づかれても高機動等出来る筈が無い。
「……エンジン、強制停止」
故に、ユニットへの魔法力をカットし、垂直へ落下して攻撃範囲から離脱した。攻撃を躱したと確認出来れば、再度魔法力を流して再起動して宙に浮く。ネウロイからすればエンジンを切って慣性落下する人体など狙い撃ちに出来るが、そこはイージスが落下しながらも弾幕を張って照準を定めさせなかった。そのお陰か、ネウロイはイージスに掠り傷程度しか付けられなかったのだ。
数分かけ、4人と戦ったネウロイは、不気味な程にピタリと空中で静止した。
隙が出来たと攻撃を加えたかった楠里らだが、乱された陣形を元に戻しつつ再装填を済ませたりと、態勢を整える事しか出来なかった。
『……』
4人の準備が整い、再度攻撃を仕掛けようとしたその時、ネウロイは突如として方向を転換して彼方へ飛び去って行った。
「……え、逃げたのか?」
「っはぁ~……逃げた方角はヴォルフだよ」
ハルトマンは何と無く読めた未来に頭痛を覚え、エイラはタロットを見ながら険しい顔をしている。
「性能をコピーして増殖でもする気ですねアレは」
イージスは何故3人がこんなに落ち着いているのか理解出来ず、怪訝な顔を向けた。
「追撃するべきでは?」
「追ってどうなるのさ。私達4人相手にデータ採り出来る程の性能を持った相手だよ?」
「アレを墜とすには中佐の空間把握とサーニャと私の能力を使いつつ、ハルトマンとペリーヌの固有魔法で回廊を作って行動範囲を制限する。動きが止まった所をリーネの弾道安定の力で翼に穴開けて動きを鈍らせ、シャーリーの超加速でルッキーニと共に肉薄。高熱の固有魔法で装甲を削ったら少佐の怪力で完全に翼を捥ぐとかしないとな」
「文字通りの全力を尽くさないとダメですね」
かつてラル少佐は似たような事が起こらない様にと全力で特異個体を止めた。だがその努力は水泡に帰したも同然となった。今逃げた個体はヴォルフへと戦闘経験という名のデータを送り届け、ベルリンは近日中にあの個体が蔓延る事になるかもしれない。
▽
掠り傷も積もれば重傷となる。戻ってきた楠里とイージスは全身から血を流して、服を赤黒く染め上げていた。医療班とパットン将軍が駆けつけてくるが、2人は我関せずと涼しい顔をしており、息1つ上げていない。
「お、おい……お前ら血塗れじゃねーか。直ぐに処置をだな」
血塗れ人形の2人を見たパットン将軍は恐る恐るといった風に声を掛けるが、2人は慌てもせずに返答した。
「大丈夫です」
「私も大丈夫です」
何がどう大丈夫ですなのか分からないパットン将軍は、頭に疑問符を浮かべながら首を傾げた。
「将軍、この2人は命令しなければ延々と戦い続けます」
「軍人はかくあれかしとは言うが、扶桑のウィッチってのは皆こんなのばっかりなのか?」
パットン将軍は2人を見た後、坂本少佐にも目線を向けた。そして朦朧としながらも意識を保って戦おうとする静夏と、危険を顧みずに皆を守った芳佳を見る。
「残念ですが、私が知る限りの扶桑ウィッチはこの手の性格が多いです」
「……少しでも負傷した奴はさっさと治療を受けろ! 医者の許可が出るまで前線に出れると思うなよ!」
ウィッチを優先してやってくれと軍医に小声で頼んだ将軍は、現場の事後処理の為に離れていった。坂本はイージスに少し視線を向けたが、特に何も言わずにその場を去った。
▽
結局の所、芳佳の魔法力はキールで使い果たされ、再度使用可能となるのは短く見積もって10日後という結論に至った。そういった事を総司令部へ報告する為、パットン将軍らと共に輸送機へ乗り込んだ楠里達。
パットン将軍とて直属のウィッチ隊を率いている身である。芳佳1人に対して負わせる責任が大き過ぎると考えているが、軍全体の事を考えると、個人の為にそこまで配慮する事は出来ない。
そうは言いつつも、到着した総司令部で10日待って欲しいと進言してくれる辺り優しいのだが。
だがはい分かりましたと行かないのが兵站というか、現実である。方面軍を1日稼働させるだけで税金は湯水のように流れていく。通常待機であればまだ物資や金の消耗は抑えられなくもないが。現実は戦闘配備で待機しなければならない為、上層部も渋る。
現場からすれば金勘定ばかりで言い訳と利益を守る事しか頭に無い守銭奴の上層部だが、上層部からすれば国民が稼いだ血税の額を考えず、最新型を軍全体に寄越せやら伸びに伸びた兵站の維持管理費のやり繰りと大変なのだ。
更に言えば国同士の仲は基本悪い。今はネウロイが居るから人類連合軍なるものがあるが、居なければ人類同士で戦争をしていたのだ。過去にも国家間同士で戦争が行われていた為、その確執を引き摺っている部分もある。
だからだろうか。総司令部の将官達は、ペンや書類を投げつけ合い、それが開戦の合図だと言わんばかりに殴り合いを始め出した。
楠里は芳佳やミーナに向かって飛び火したインクやらペンやらを器用に受け止めて地面に投げ捨てる。
パットン将軍も飛来した固定電話の受話器を手で受け止めると、次に飛来した書類の束を手で弾く。ブラッドレー元帥は器用に全て避け切っているが、よく見ると小さく舌打ちをしている。
「す、凄いね……」
「いつもこうですよ」
作戦の開始日は延期されず、予定通り明日決行となった。
仕方ないどうするかと話しつつも、乗って来た輸送機へ向かうミーナ達。力になれなくて済まないとパットン将軍が謝罪を言うが、戦力外通告を受けた芳佳の表情は暗かった。
▽
僅かに自由時間が与えられた楠里は、基地の食堂へ赴いた。喉が少し乾いたため水を貰おうと足を踏み入れると、中には見知った人物が2人居た。
「あ、津家大尉じゃないですか」
楠里に真っ先に気付いたのは、506所属の黒田中尉だ。
「まあ、元気そうで良かったわ」
504の竹井大尉もそれに倣って顔を向けた。
「お久しぶりです。竹井大尉も黒田中尉も、銃剣をありがとうございます」
「いやぁー役に立ってるようで良かったですよ」
「美緒やミーナ中佐から情報を回して貰ってはいたけど、実際に会わないと落ち着かないものね」
大変世話になった2人に対し、楠里は頭を下げつつも席に着いた。
「あ、爺ちゃん、じゃなくて黒田本家の当主に色々と聞いたんですが、津家大尉の事は教えて貰えませんでした」
「黒田中尉、この子もう少佐になったらしいわよ? でも私の父も口を噤んだままなのが気になるわね」
「待ってください。一大華族の当主や軍高官が私の何を知って黙ってるんですか」
2人は知らないと答える。だが黒い何かが有るのは薄々感付いているのか、深く楠里に追及したりはしない。目の前に居るのは一緒に戦った事がある仲間、それだけだ。
その後数十分、3人は色々と話し込んだ。だがそろそろお互いの集合時間が迫って来ていた為、解散となった。
「津家少佐、誰も彼もが言ってると思うけど、死んでは駄目よ」
「そうですよ津家大尉、じゃなくて少佐。無駄に死んでいい命なんて、この世に1つと無いんですから」
「……ええ、善処しますよ」
ホントかなぁ?と2人は怪訝な眼差しを送るが、楠里はその視線に気付かずそのまま去っていった。
▽
「ん、アレって……あ、津家さーん!」
集合時間に合流を果たし、基地に帰還する為の輸送機まで後少しと言った所で、楠里に声が掛かった。楠里は『おや?』と声のした方角へ視線を向けると、その声の主を確認した。
「ひかりさんではないですか。それにラル少佐もマンシュタイン元帥も。3人ともご壮健ですか」
楠里は小走りでひかりに駆け寄り返答した。ひかりは近寄って来る楠里にギューッと抱き着くと、『えへへー』と胸に顔を埋めた。よしよしとひかりの頭を撫でつつ、楠里は残る2人に視線を向けた。
「久しぶりだな大尉、いや今は少佐か。階級で並ばれると中々に変な感じがする」
「雁渕軍曹は502でずっと君の事を心配していたから、再会も一等喜ばしいものだ」
楠里はマンシュタイン元帥の言葉を聞いて、ひかりの頭をポンポンと叩いた。
そうしていると、ミーナ達もやってきた。
「グンデュラ、貴方も相変わらずね」
「それはお前もだろう。501は壁型に対してどう対処するんだ」
「まだ立案中よ。502も大変そうね」
明日のベルリン奪還作戦では、501が直にベルリンを叩く。502と504、そして506の3個統合戦闘航空団が別方面よりベルリンへ侵攻乃至迎撃に当たる。
ミーナとラルがアレコレと牽制しつつ話し合う中で、元帥や将軍と呼ばれる上官らも敬礼をしてから色々と雑談に入った。
「えっと、楠里ちゃん。その子は確か……」
「あ、以前どこかで見た……えーっと」
言われてみれば初めましてかと楠里は想い、お互いへ向けて自己紹介した。
「こちらは宮藤芳佳軍医少尉、連合軍階級では曹長です。501所属でガリア、ヴェネツィアの巣を破壊した英雄です」
「いやぁ、皆がそう言ってるだけだよ」
「あ、そうだ思い出した! 以前新聞で見たんだった!」
「それで芳佳さん、こちらは雁淵ひかり軍曹。原隊は遣欧特支隊で502所属です。芳佳さんが以前治療した雁淵孝美大尉の妹さんですよ」
「あぁ雁淵孝美さんの!」
「え、お姉ちゃんを治療してくれたウィッチって、宮藤さんの事だったんですか!?」
ケチャップではなくしっかりとした傷を治した。
そこからは2人は笑顔で話し合い、楠里が僅かに離れてそれを見るという、微笑ましい光景が広がった。だが楽しい時間というのは長くは続かない。
「さて、そろそろ時間だ。名残惜しいのは分かるが、明日の作戦に向けての最終調整をしないとな。津家少佐、雁淵軍曹を悲しませたくないなら生き残るようにな。ではパットン将軍、ブラッドレー元帥、いずれまた」
「おうよ」
「マンシュタイン元帥もご武運を」
「ではなミーナ。お互い生きてベルリンで会おうじゃないか」
「そうね。私達がウィッチでいる間に、必ず会いましょうね」
「ひかりさんはもう誰から見ても502のエースです。仲間を大切にして、必ず生き残って下さいね」
「分かったよ津家さん。でも津家さんも絶対に死なないでね」
そうして奇跡的に出会えた事を喜びつつ、楠里らは輸送機へと乗り込んだ。
ミグラントを処分したのは失敗だったかも。でも便利過ぎるのも悪い。