シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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遂に楠里がチートに目覚めて敵を倒す


記憶と魔女

「作戦目標は最早言うまでも無く、ベルリンを占拠している巣と、そのコアになります」

 

 ベルリン奪還作戦『オペレーション・サウスウィンド』の最終段階、ヴィクトーリア作戦は西部方面統合軍の総力を以て行われる。

 総力、文字通りの総力戦だ。ここでベルリンを奪還出来なければ戦略想定は根本より破綻し、人類は向こう数年間はベルリンを奪還する力を失う事になる。

 

 しかし、ベルリンには壁型ネウロイが我が物顔で鎮座しており、それを突破する方法が必要となる。

 

「その大火力の中核を成すのが、この『陸上戦艦ラーテ』よ」

「でっか」

「はっ、カールスラント製だな……」

「またとんでもないモノを……」

 

 カールスラントが誇る最新鋭重戦車のティーガーすらも豆粒に見える程の大きさだ。パットン将軍はこの戦車に乗り、最前線で指揮を執る。

 

「なお、宮藤曹長は魔法力枯渇の為、キール基地に待機となります。また、併せて皆さんに報告しておく事があります……津家少佐、いいわね?」

「どうぞ」

 

 そして一度咳払いしたミーナが改めて要項を伝えた。

 

「津家少佐は今回の作戦が最後の出撃となります。少佐の魔法力や現状を鑑み、これ以上の軍務遂行は不可能と上が判断した……そういう形に収まる事になりました」

「漸くとでも言えばいいのか? それともまた何か裏があるのか?」

 

 大事な戦友である筈のミーナに対して、バルクホルンは今回だけ冷たい視線を送った。

 

「反対の立場のお歴々は私が1人1人丁寧に『説得』して了承頂いたわ。扶桑の総長を始めとし、各国軍の将官級は全て首を縦に振らせ……振ってくれたわ」

「ねぇ今振らせたって」

「と・に・か・く、各国の暗部とそれを動かす上の人間には全て話を付けました。その上で良からぬ動きをするのであれば、相応の報いが行く事でしょう」

「具体的には?」

 

 エイラが興味本位で聞いてみた。

 

「それはもう色々と」

 

「わー……手を出したら一族郎党消されるじゃん」

「あ、歩く全方位地雷……」

「容赦無いなぁ……501って事は知らない服部以外は全員その署名にサインしてるって扱いでいいの?」

「皆さんが構わないなら、その形に出来ますよ」

 

 そういうと、頭に疑問符を浮かべている静夏以外が手を上げた。それは即ち、同意の意思有りという事だ。

 

「まさか私の退役で此処までの騒ぎになるとは……」

「うんまあ、各国のアキレス腱を切る事が出来るからね」

 

「あ、勿論貴方の大切な部下達は真っ先に同意してるわ」

「……」

 

 私の周りには、私を思ってくれる人が此処まで居たんだな。楠里はそう心の中で呟くと、ありがとうございますと頭を下げた。

 

 決戦の幕が、上がり始めた。

 

 

 

 静夏はベルリンまであと僅かという所で、パットン将軍が乗るラーテを視界に捉えた。事前に資料で知ってはいたが、いざ実際に目の当たりにすると、何とも規格外の物を作り上げたと感服する。今この場所に居ない芳佳の心配をしつつ、任務に集中しなければと頭を振った。

 

「中佐、よろしいですか」

「何かしら」

「もしキールでの個体が出てきた時は、私とイージスさんで対処します」

 

 ミーナはその提案に渋い顔をした。世界最高のウィッチ達であっても苦戦する相手に、どうして2人で挑もうと言うのか。

 

「私もイージスさんも、恐らくは特異個体やらも、自身の異物感が拭えない時があるんです」

「貴方は何の話をしているの?」

「いえ、忘れてください。恐らく、コレが最期でしょうから」

「確かに、貴方の軍務はこれが最後でしょうけど」

 

「えぇ、皆さんの旅路が幸多き事を願っています」

 

 その言葉に反応を返す前に、ネウロイが遂に動き始めた。

 

 ラーテを脅威と認識したのか、壁型ネウロイがラーテへの攻撃を始めた。

 

 放たれたビームは辺り一帯を消し飛ばしたが、対ネウロイ用装甲を施したラーテと戦車軍団は、その初撃を耐え抜いた。

 

 続いて無数の小型ネウロイが現れ、直掩のウィッチ達に襲い掛かる。

 要塞そのものを相手にしているかの様な戦力差の中、威力を一点に集中させたビームがラーテに放たれる。

 

「もう対抗策を取ってきた。やはり巣は学習速度が桁違いですね」

 

 イージス、神話に登場する盾の名をコールサインに持つ彼女は、ラーテに放たれたビームを真正面から受ける。

 だがお世辞も魔法力が優れている訳ではない。その為威力を殺しきれずに突破され、ラーテに被弾を許してしまう。

 

『いや良くやったぞ! お陰で威力を大幅に減らす事が出来たぜ!』

 

 パットン将軍は無線でイージスを褒めつつも、車内で直ぐに応急修理を行うよう指示を出している。

 

「あと少しで発射地点よ! 総員油断しないで!」

 

 巨体ながらも通常の戦車と同速度で移動し続けるラーテは、501の援護の下、遂に予定されていた攻撃地点へと辿り着いた。

 

『主砲有効射程に到達!』

『主砲発射用意! 何時までもウィッチ達の援護があると思うなよ!』

 

 そしてその号令から僅か数秒後、遂に時は来た。

 

『対ネウロイ用徹甲弾、装填完了! 距離良し! 仰角修正良し! 発射、用意良し!』

『発射ァ!』

 

 同時、陸上では常なら聞く事の出来ない轟音が辺りに響き渡った。

 

 陸上戦艦の名の通り、主砲が艦砲その物である為、威力は凄まじい。

 発砲と同時に衝撃波も発生し、間近に居た楠里とイージスは吹き飛ばされる。ガンガンと鳴り響く耳鳴りの最中、2人が見たのは壁型ネウロイが砕け散る所であった。

 

 その威力、まさに空前絶後。

 パットン将軍が自慢げにキューポラから顔を出すが、次の瞬間驚愕に染められる。

 

「な、再生してやがるのか!?」

 

 アレだけ苦労して1枚砕いたのに、簡単に復活しだしたのだ。

 

「いえ、破壊と同時に真反対の壁も崩れました。恐らくリソースを再分配でもして壁を再構築してるのでしょう」

「ってぇ事はだ、つまり……撃ち続ければぶっ壊せるって事だな!」

「そうですね」

「ネウロイ野郎が、ふざけやがってぇ! すまねえが引き続き援護を頼むぜ!」

「了解」

 

 戦車内に戻ったパットン将軍はネウロイの攻撃で軽傷を負ったが、その指示の下で砲撃を再開した。

 

 501が空を守り、ラーテが次々と壁を破壊していく。

 

 そうして戦う事数分後、遂にベルリンを囲んでいた壁は崩壊した。これを好機と見た戦車隊は進軍を再開する。

 だが壁を破壊したというのに、一向に小型ネウロイの数が減らないのだ。そして本格的にラーテを狙い始めたのか、先程よりも攻撃の密度が数倍にも増している。

 

 そして遂に、小型ネウロイが奮闘する501の防衛網を突破した。夥しい数でラーテに殺到するが、回り込んだ静夏の射撃で何とか食い止める。

 

 静夏は射撃に集中している為気付かないが、付近には不自然な瓦礫が浮かび上がって来た。

 

 それは再生したネウロイの一部が厚い壁となり、ラーテを中心に囲うようにドームを形成し始めている。一向に気付かない静夏は、何故かラーテに搭乗していた芳佳の声で一瞬我に返り、迫りくる壁を見た。このままでは壁に押し潰されて圧死する。

 

 そうして体が硬直したその時、武器を捨てて割り込んだ楠里が静夏を上へと投げ飛ばす。幸いにも静夏は潰される事は無かったが、僅かにユニットが壁に当たり、外へと弾き出された。

 一方楠里は静夏を投げ飛ばした反動でドームの中へと入ってしまう。

 

 それを一部始終見ていて、助けが間に合わなかったミーナは思わず歯噛みをしてしまう。だがまだ完全にドームが閉じ切った訳ではない。地上付近までドームが形成されるには後数秒程余裕がある。

 

 全員でそこに突っ込もうかと視線を向けたその時、ミーナの目には最前線に居ない筈の兵員輸送トラックが3台程ドームの中に入って行くのが見えた。

 

 ラーテや楠里らと寸断されたミーナは、攻撃が止んだ空で部隊を集結させた。

 

 

 

 さて、何故芳佳がラーテに乗っているかと問い詰めたい楠里だが、カールスラントが作り上げた要塞『フラックタワー』の内部はその様な事を聞ける雰囲気ではなかった。負傷者が数多く出て、それを治療する芳佳を見た楠里は、何も言わずにパットン将軍の下へと歩いた。幸いにも有線は生きていたため、外との連絡手段は確保出来ている。

 

「まぁ、此処までは良いとします」

「九死に一生を得るって扶桑の諺だったか」

「正確には、いえ今はそんな事はどうでもいいんです。何故……何でここに居るのよ大馬鹿野郎共!」

 

 楠里はドーム形成直前に雪崩れ込んできた輸送トラックを警戒していたが、運転席と幌の張られた荷台から降りて来た嘗ての部下達を見た瞬間に、呆れと怒りと驚愕、そして何より嬉しさが入り混じった表情を浮かべた。

 

「何ってそりゃ、なぁ?」

「そうそう。我らが隊長殿の為に来たんですよ俺ら」

 

「軍曹ッ、曹長ッ」

「あー無駄です無駄無駄。ここにいる全員、既に配属先から脱走したも同然なんで」

 

「今すぐ戻ってよ! そうすれば色々とコネ使って無罪同然に出来るから!」

「えー、ドームで退路塞がれたのに外に出て帰れって言うんですかー」

「こわーい」

 

「この、馬鹿! 馬鹿ども! 大馬鹿野郎ども!」

 

「随分と幼児退行されてますねぇ……へへへへへへ」

「お前、帰ったらお前の幼馴染に言うわソレ」

「は? キレそう」

「お? 良いよ来いよ」

 

「隊長でなら抜ける」

「隊長では抜けない」

 

「は?」

「お?」

 

「……第9陸戦隊、稼働可能な残存戦力、総員13名。オラーシャの果てに居た奴らから、アフリカに居た奴らまで全員ここに居ます。ご命令を、我らが隊長殿」

 

 話を聞いたパットン将軍が楠里の傍に立つと、白い歯をキラリと光らせてサムズアップした。

 

「良い部下達じゃねーか」

「えぇ全く。私には勿体ないぐらい、大切で可愛い人達ですよ」

「そんな奴らがお前さんを慕って死地に来てくれたんだ。ならもう言う事は決まってるだろ」

 

「―――生き残るぞ、大馬鹿野郎共!」

 

『了解!』

 

 

「命令違反を冒してまで来るだけあるじゃねーか。アイツらスゲーな!」

 

 生き残った嘗ての部下、13名。その13の内、医療を学んでいた者は3名であった。芳佳1人で手一杯であった応急処置を、芳佳と協力して次々と終わらせて行く。

 

 別の3名は技術士官への道を取っていた。その為損壊した銃器などを手早く修理していく。部品は輸送トラックに積み込んで来たため、余裕はある。

 

 尉官の階級章を付けた3名は、その知力を評価され、参謀クラスへと昇進していた。その為パットン将軍や楠里らと大まかな作戦会議に参加している。

 

 残りの3名はアフリカに居た奴らだ。ガスマスク越しに抜くやら抜けないやらを言い放っていたのはコイツらである。彼らは兵士の中でもエリートである狙撃兵になっていた。だだっ広いアフリカ砂漠や森の中で重用されている。

 

「凄いでしょう? もっと褒めてあげてください」

「……あー、なんだろうな。こういうのを親バカっていうんだろ?」

 

 因みにこの13名の馬鹿達の引率役が、軍曹やら曹長である。

 

「隊長、ユニット直しましたけど、本当にコレでいいんですか?」

「いいの。コレで終わりなんだから、最期ぐらい派手に行ってもいいじゃない」

「はぇー……これまたヴィルケ中佐に怒られてる未来が視えますねぇ!」

 

 楠里はうるさいと返した後、先程屋上へ駆けていった芳佳を追いかけようとした。

 

 だがその瞬間、頭上から、言葉に表せない程の魔法力を感知した。

 

「うわ、何だコレ。測定器損傷!? 計測不可の魔法力量です!」

「遂に測定器まで壊すんですか芳佳さん」

「え、噂に名高い宮藤少尉ですか!?……すっげ、メーター振り切れたままじゃん」

 

 そう言いながらもユニットを履き終えた楠里は外に出た。どこから現われたのか、少数だが地上型ネウロイが出現していた。

 

「ドームも消えかかっていますね。私は上で暴れている芳佳さんに合流します」

「お気を付けて。一同、無事の帰還を祈っています」

「……私をロストした場合は上に指示を仰いで下さい。放棄なり後退なりして安全を確保する事。私の捜索は必要ありません」

「おお、懐かしいですねソレ!……まあお断りします。全員、死力を尽くしてここを守ります。貴方が撃墜されたら、地獄の果てでも探し出してやりますよ」

 

『行ってらっしゃい、隊長』

 

 

「で、何があったんですか芳佳さん」

「楠里ちゃん。私楠里ちゃんの傷とか見て、多少は慣れてるつもりだった。でも駄目だね……静夏ちゃんの傷を見た瞬間、頭真っ白になっちゃった。で、もう覚悟決めたらこうなったよ」

 

 覚悟スゲーなと楠里は思った。

 

 そして行われるのは、芳佳の魔法力量に物を言わせた一方的な蹂躙撃であった。今までの悩みやネウロイとの戦いでの苦戦は何だったのかと言わんばかりだ。千匹は居た小型ネウロイは数秒で芳佳のシールドに摺り潰されて残滓と消え果た。

 

「……えぇ」

 

 余りにも規格外な芳佳の本気を見た楠里は、ただただドン引きであった。まあ苦戦して怪我を負うよりは何倍も良いことではあるのだが。

 

 そうしていると、何かしら状況を打開してきたのであろう501が続々と集まってきた。

 

「宮藤、津家、無事か!?」

 

 見ての通りですよと楠里は芳佳を指差した。

 

「ねえ皆、アレ見て!」

 

 ルッキーニの指さす方向を見ると、そこには地下から出てきた大量の小型ネウロイが、一つの形を形成していく途中で会った。

 徐々に形が定まっていき、最終的には巨大な都市がベルリン上空に出現した。

 

 だがその都市型ベルリンはその場に留まったまま、何も反応を起こさなかった。ミーナ達はそれを訝しんだが、2人だけ違う意見を持っていた。

 

「なるほど」

 

 楠里の何かを納得した言葉と同時、街の都市型の出入り口を司っている門の部分から、急激に道が出来始めた。道と言ってもネウロイで出来ているが、よく見ればそれは滑走路だと分かる。

 

 そして滑走路が完成したと同時、門の下から、以前に遭遇した個体であろうネウロイが姿を現した。だが以前の様に逆翼ではなくなっている。

 その形は、何処か鳥を思わせるような物に変貌していた。

 

「律儀に人類の戦闘機の真似ですか」

「皆さん、あの個体は私とイージスさんで当たります。皆さんは都市型へ集中攻撃してください」

「馬鹿を言うなよ!? たった2人で何が出来るって言うんだ!」

 

 楠里はその言葉に首を振った。

 

「2人ではありません。17名です」

 

 指を指した方向には、何処からか調達した対空火器と、対装甲ライフルで狙撃位置に付いた陸戦隊が既に準備を完了していた。

 

「……待って、あの人達ってまさか!」

「ええそのまさかです。命令違反や脱走同然で滑り込んできましたよ」

「なら、あの個体は任せていいんだよね?」

 

 ハルトマンが最後の念を押す。

 

「はい。時間稼ぎをし、あわよくば撃墜します。ミーナさん達がベルリンを解放する事を祈っています」

 

 そう言った瞬間、再度待ったの声が掛かった。

 

「ちょっと待って下さい! 私達も参加します!」

「あ、アレは……何でアイツらここにいるんだ!?」

 

 驚く501のメンバーの目の前に現れたのは、3名のウィッチ達であった。 

 

 

 ヴォルフがその全容を現し、都市型へ移行し始めたその時、ベルリン周辺に展開していた各西部方面統合軍所属のJFWから、次々と掃討完了の知らせが入って来た。

 同時、隊の中から志願者1名を援軍に出したとの知らせであった。高速輸送機とウィッチ達の魔法力を用いて、かつてないほどの超速飛行で、ベルリンの戦域へと到達した。

 その3名のウィッチ達は、今まさに逆翼個体へ挑もうとする楠里らの前に到着したのだ。

 

「502JFW所属、雁淵軍曹、津家少佐の指揮下に入ります!」

「506JFW所属、黒田中尉、同じく入りまーす」

「504JFW戦闘隊長、竹井大尉。以上3名、津家少佐の指揮下に入ります。統合軍司令部の認可済みです」

 

「……3人とも、一体どうやって此処まで」

 

『私とマンシュタイン元帥が手配した』

「ブラッドレー元帥」

 

『津家少佐、臨時編成権と1部隊の指揮権を一時的に付与する。最良と思う人員を編成し、501の都市型ネウロイ攻略を支援せよ』

 

「は、はははは……私が、この私が、ね。了解しました」

「出世したねー」

 

 ハルトマンがニヤニヤしながら茶化すが、その目は温かかった。

 

「臨時編成を行います。竹井大尉、副隊長をお願いします」

「分かったわ」

 

「黒田中尉」

「はいはーい。前衛やりつつ遊撃で搔き乱すよー」

 

「雁淵軍曹」

「うん、周りを見つつ前衛で頑張るね!」

 

「イージス……いえ、家葛軍曹」

「遊撃ですね。お任せください」

 

「編成完結。編成番台や呼称は司令部が適当に決めておいてください」

 

統合(Joint) 戦闘(Fighter) 飛行隊(Squadron)「ワタリガラス」( "Raven")―――貴官がフレイアー作戦の折に率いたワタリガラス飛行隊と同名だ』

 

 各人員の準備が整った所で、この場で一番階級の高いミーナが声を発した。

 

「津家少佐の部隊が先陣を切ったと同時、私達501も都市型へ向けて攻撃を開始します。頑張ってね」

「最善を尽くしますよ……あ、そうだ」

「どうしたの?」

 

 芳佳が代表をして楠里に尋ねた。

 

「皆さん、行って来ます」

 

『―――行ってらっしゃい』

 

 

 

 特異個体や逆翼個体は、言わば世界の流れを乱す要因を取り除く為に作られたネウロイだ。見えざる何かの意思が介入したのかは分からないが、それは人類と激戦を繰り広げるネウロイを以てしても、何故あの個体が生み出されたのかを理解出来ていない。

 

 特異個体XS-1を始めとしたネウロイは、狙ったかのように楠里の前に現れ続けた。まるで津家楠里という存在を消す為だけに生まれたかのようにだ。

 

 だがその度に津家楠里は生き残り、悉くを凌駕してきた。そしてネウロイのリソースとて無限ではない。

 故に最後に最高傑作と言っていい個体が生み出された。

 

 逆翼の個体は特に決まった名称は付けられず、ただ見た目の通りの逆翼個体と呼ばれている。

 

 現時点で収集出来る人類の航空機設計図を始めとし、これから発展していくであろう多種多様な戦闘機の形態を予想し続け、このベルリンに鎮座する巣を防衛するのに適した形状へと変化する事が出来た。

 

 機動力、攻撃力、生存性、どれを以てしても有人機には幾らか劣る演算結果が続いた。

 

 そうしていつしか、ネウロイの技術と人間の仮想が組み合わされる様になっていった。

 

 こうあれば良いと願って作られた仮想の結晶を組み上げた何かの意思とネウロイの技術は、遂に逆翼個体という最後にして最高の傑作を生みだした。

 

 あらゆる状況に適応し、如何なる状況でも支援を行いつつも圧倒的な制圧力を求める。

 

 当初は逆翼であった個体だが、外側に最適化された追加装甲を身に纏った。これによりただ軽量で不安定かつ生存性の低い機動特化の性能から大幅な進化を遂げた。

 

 綿密に演算され最適化された形状は空気抵抗を極限にまで抑え込み、防御力と攻撃力を飛躍的に上昇させた。それなのに機動力は一切下がっておらず、寧ろ僅かだが上昇もした。

 

 あとはほんの僅かな、愚かな人間の仮想、いや妄想で補完した。

 

 楠里らの肉眼では視認できないが、その個体の装甲には薄く『Raven』と彫られている。

 

 そしてこの個体が最高傑作と呼ばれる最たる所以が、増殖能力にある。戦闘を学び、巣にデータを送ることで、巣はその進化した個体を生み出す。その個体がまた別のところでデータを取って送れば、更に進化した個体が巣から出てくる。

 

 試しに1度、巣へデータを送ってから数日後。時間を要したが1体目と瓜二つの2体目が出てきた。

 数日かかった増殖も、回数を重ねればまた改善する。

 

 だが、拠点にしていた巣へ人類が押し寄せて来た。生産体制は止まり、巣が破壊される危険もある。

 

 ならば、とる行動は一つ。巣を撃破しようとする人類を、なにより―――あの2つの異物の存在は消さねばならない。

 

 2体の個体―――Ravenは、遺伝子の様な螺旋機動を描きながら、楠里達に襲い掛かった。

 

 

 

「やっぱり増殖してましたね」

 

『既に予想はされていた事だ。赤いレーザーを放つ方をフギン、桃色に近いレーザーを放つ方をムニンと仮称する』

 

「何でも良いですよ名称なんて。黒田中尉は雁淵軍曹と共にムニンの方を抑えてください。竹井大尉と家葛軍曹は私と共にフギンに当たります。ですが竹井大尉の判断で随時黒田中尉の援護も行ってください」

 

「まずは片方を集中して落とさないとね。被弾即離脱を全員心掛けて無理をしないように」

 

全機(All Aircraft,) 交戦を許可(Cleared to Engage.) 散開(Break.)

了解(Copy) 交戦開始(Engage.)

 

 

 楠里は竹井大尉とイージス共にフギンへ進路を向けた。

 

「あぁ、言い忘れていました。ユニットが傷ついた際には地上で対空砲火を撃っている兵士に指示頂ければ、応急修理や手当て、弾薬補充を行います。また座標を指示すれば対空砲火による壁や回廊を作ってくれます」

 

「そんな万能な兵士、聞いた事無いわよ?」

 

 そうは言いつつもフギンの機動に晒され続けている竹井大尉は訝しむ。

 

「私の自慢の部下ですよ。性能を見れば欲しくなる事間違いナシです。あげませんが」

「……」

 

 イージスはじっと楠里を数秒見つつ回避機動を行っていた。

 

「―――くっ、非常識な機動ね全く、あッ」

 

 元々戦闘力は余り高くない竹井大尉が僅かに傷を負った。少量だが出血し、白い士官服を赤く染め上げる。

 

「竹井大尉、被弾即離脱は貴方が言った事です。治療を受けてください」

「……直ぐ戻るわ。地上兵士を使わせて貰うわね」

 

 などと自分も掠り傷を負って血が出ているにも関わらず、楠里は竹井大尉を一時的に下がらせた。

 

 特殊強心剤を用いても最早脳内麻薬術式の発動が出来ないこの状態は、味方の機動ですら勘と経験で付いて行くしかない。

 

 

 文章にすれば僅か数文字だが、時間は数十秒と経過している。

 

 地上に降りた竹井大尉は、意外と深かった傷を抑えつつ陸戦隊の下へと辿り着いた。

 連絡を受けていた陸戦隊は竹井大尉から銃を預かると、手当を開始した。

 

「大尉殿、ユニットは履いたままで魔法力も流し続けてください。下手に魔法力での身体強化を切ると悪化します」

 

 竹井大尉は被弾した腕の止血作業を行われ、真新しい包帯を巻かれた。

 

「少量ですが鎮痛剤を打っておきます。この場での縫合は危険過ぎるので行いませんが、被弾箇所に魔法力を流し続ける事を意識してください。それだけで傷口が広がる可能性が低くなります」

「了解」

「大尉殿、銃の簡易整備及びユニットの応急修理は完了しました」

「え、私は起動状態だったのよ!? 何でそんな高度な技術を持った人間が前線に居るのよ!?」

「まあ出来なきゃ死ぬ環境だっただけです。銃の装填も終わっていますよ」

 

 竹井大尉は心底感心した。もしこの部隊が配下に居れば、万が一撃墜されても生き残る可能性が格段に高くなる。

 心底504に欲しいと思ったが、楠里のあげないという言葉が頭に思い浮かんだ。

 

 

 そうして空に戻ると同時、黒田中尉が無線で指示を送った。

 

「こちら黒田、指定の座標に対空砲火で回廊を形成出来る!?」

『可能です』

 

 その言葉が証明するように、501へ向かおうとしたムニンは、対空弾の破片で進路を阻害された。その隙を突いた黒田が肉薄し、背負っていた『扶桑号』で装甲に傷を入れる。

 

「すっごーい。ねぇ是非504に来ない!?」

『機会があれば』

 

 

「あぁ、なるほど。やっと靄が晴れた」

 

 竹井大尉が戦線復帰し、漸くフギンに掠り傷を入れた時、イージスが呟いた。

 

「何か分かった事でも?」

 

 楠里は息を荒げながら、何とかそれに返答した。

 

「……いえ、何でもありません」

 

 イージスは僅かに楠里に微笑んだ跡、何か覚悟が決まった様に笑みを浮かべた。

 

「そろそろ疲労が……仕方ない。担当を一時的に変更します。雁淵軍曹と竹井大尉、場所交代です」

「どういう事!?」

 

 ひかりが四苦八苦しながらどうにか返答をすると、楠里も疲労で息を上げながら答える。

 

「負傷した竹井大尉は足止めをしつつ体力を回復。ひかりさんは私の機動に付いて来てもらいます」

「分かった!」

 

 命令に従った2人が一切の隙を見せずに場所を入れ替わり、ひかりが楠里の後ろに付いた。

 

 この世界において、唯一ひかりだけが楠里の機動を模倣出来ている。ハルトマンやエイラでさえも体力が続かず余り出来ない技だというのにだ。

 

 宮藤芳佳が魔法力お化けなら、雁淵ひかりは体力お化け。

 竹井醇子が管理力お化けなら、黒田邦珂はど根性お化け。

 津家楠里が忍耐力の怪物なら、家葛形は適応力の化け物。

 

 お化けが4人と怪物と化け物が1人。

 

 その中の体力お化けと忍耐力の怪物が、人間が行える限界到達点の超機動でフギンに迫る。

 対するフギンも楠里を消そうと超機動で対抗し、僅かにでも離れた人間からすれば照準すら合わせられない。

 

 そんな戦闘を眺め観察し、ソレに合わせて最適な進化をする適応力の化け物が1人。

 

 最初は合わせられなかった銃の照準が徐々にだが合い始め、最後には不気味な程ネウロイに照準が固定されている。いうなれば、オンラインゲームで不正ツールを用い、常にオートで敵に照準が合うような感じだ。

 

 更にそこから最適化を繰り返し、偏差射撃を加え入れる。

 

 そして遂に整った。

 

 楠里とひかりの機動で、フギンは僅かにイージスから意識を逸らしてしまった。

 

 その瞬間、イージスから放たれた銃弾がフギンの翼に着弾して機動力を削いだ。

 

 しまったと慌てるがもう遅く、正面から楠里が飛来し、後方からひかりが飛来した。

 

 前後から撃ち抜かれたフギンはその追加装甲を全て剝ぎ取られた。

 内部にあった元々の逆翼本体も重度のダメージが入り、最早飛行すら危うくなった。

 

 いざ止めだと再度引き金を引こうとしたその時、逆翼個体は急激に膨張した。

 

「え、何!?」

「―――」

 

 楠里は機関銃を投げ捨て、ひかりと個体の間に割り込むと、シールドを張った。

 その瞬間、膨張した個体は大爆発を起こし、数多のビームが楠里のシールドへ飛来した。

 

 シールドに着弾した瞬間、無理だと確信した楠里はひかりを咄嗟に下へと突き飛ばした。

 

 その予想は見事に命中した。

 楠里のシールドは失笑が出る程に簡単に砕け散り、下に投げた反動で上昇した楠里に命中した。正確には楠里の左腕にだが。

 

 それでも威力は凄まじく、楠里の腕は一瞬で蒸発し、肩から先が消失した。

 

「―――ッ」

 

 楠里は咄嗟に右手に握った無痛薬を打ち込み、痛覚を遮断した。

 

 だが痛覚が無くなっても出血が無くなる訳ではない。しかし楠里は幸運であった。

 

 傷口が高熱で炭化し、出血はしていなかった。

 

「あ、津家さん、津家さん! そんな、私のせいでッ」

 

 近寄って来たひかりが震えた声で楠里にすがりつく。

 

「大丈夫です。片腕が無くても生きていけますよ」

 

 違うそうじゃないとイージスが心の中でツッコミを入れる。

 

「司令部、フギンの撃墜を確認。しかし自爆の余波で津家少佐は重傷。左腕が消失しました」

『……了解。津家少佐は直ちに後方へ』

「いえ、もう此処まで来たらやれる事はやっておきます」

 

 何を馬鹿なとブラッドレー元帥が止めるが、楠里は耳にしていた無線機を投げ捨てた。

 

「その傷で何が出来るんですか」

 

 ムニンはフギンが墜とされた事を確認すると、足止めをしてた黒田中尉と竹井大尉から離脱し、楠里へと迫った。だが背を向けたその時、黒田中尉が咄嗟に翼とエンジン部分であろう箇所を撃ったため、ムニンは高度を落していった。

 

「家葛軍曹、いいからそこを退きなさい」

「ですからその傷で何が出来るんですかと聞いているんです。ただ悪戯に命を捨てるような行動は、この場に居る皆さんを侮辱しています」

 

「……何も勝算無く行くわけではありません」

「行かせません。絶対に止めます」

 

 楠里も普段の冷静な判断力や思考力が鈍っていたのか、イージスを怒鳴った。

 

「いいから其処を退けって言ってんだよ!」

「うるせぇ! 姉の言う事ぐらい少しは聞けよこの愚妹!」

「はああああ!? 私はお前みたいなのを姉だなんて思った事ねーんだよ図に乗んな! そもそも腹違いだろうがよ!」

「あの救いようの無い屑の種から生まれた時点で同じ穴の狢でーす残念でしたぁー!」

 

 楠里は右手でイージス、もとい形の左頬を殴った。

 殴られた形はお返しに右手で楠里の右頬を殴った。

 

「止めてください2人共! こんな事してる場合じゃ……あ」

 

 ひかりが遅かったと言わんばかりに目を瞑ったその時、楠里と形に衝撃が走った。

 

「いい加減にしろよ」

 

 普段の優しい声とは違い、何処までも冷たく無機質な竹井大尉の声が響いたと同時、2人は頭をグーで殴られた。しかも全力で。

 実はこの竹井大尉、怒るとグーで人を殴る程度には怖い。

 リバウの魔王とも言われるウィッチですら、竹井だけは怒らせないようにと努めている。

 

 

「皆さんの魔法力を少し貸して下さい。皆さんの魔法力と私の固有魔法で魔法力を増大させた後、別の固有魔法で突っ込みます」

 

 作戦を変えた楠里はそう提案した。ムニンは高度と速度を落したが、その攻撃性能は健在で、油断して近づけば直ちに落とされる。

 

「魔法力を貸すって、どうやるんですか?」

 

 ひかりが純粋な質問をぶつけた。

 

「手を繋げば僅かですが流れ込みます。まあ唾液だとかの方法もあるらしいですが」

「え、唾液ってつまり津家さんと接―――」

「あわ、わわわ」

「まあ確かにそういう嗜好もあるみたいだけども……」

「必要ならば」

 

 上から楠里、ひかり、黒田、竹井、形の順番である。

 

「いえ手で結構です……はい皆さんありがとうございました。しっかりと固有魔法が発動できる魔法力は貰いましたよ」

 

 嘘である。

 手を繋いだ程度で簡単に魔法力の受け渡し等出来る筈が無い。それが可能であれば、坂本は未だに空を飛べている筈だ。

 

 作戦を変えたとは言ったが、変えたのは作戦を開始するまでのプロセスに過ぎない。

 

「何か凄い固有魔法持ってるんですか?」

「えぇ持ってますよ。全く以て度し難い、極大に意味不明な奴をね……イージス、警告しておきますが、その固有魔法の乱用は寿命を縮めますよ」

「元の持ち主が言うんですから、そうでしょうよ」

 

「あの、2人って姉妹なの?」

 

 竹井の質問には楠里が応えた。

 

「腹違いですがね。因みにどこで私が妹だと分かったんです?」

「陸戦隊を見た時。あの仕様は、私の父が率いていた地上基地守備隊のと同様でしたので」

 

「ふーん」

 

 興味無さげに、かつ脈絡無く楠里は魔法力変換術式を発動した。

 

 

「何、この魔法力量」

 

 竹井大尉が驚くのも無理はない。

 先程感じた芳佳に劣らない程の巨大な魔法力が、楠里の体から渦巻いていた。

 

『―……える? 聞…る? 竹――尉、聞こえる!?』

「え、あ……ヴィルケ中佐?」

『良かった、やっと繋がったわ。今すぐ津家少佐を止めなさい! 詳しい事は後で言うけど、その子が発動している固有魔法は、あらゆるものを代償にして魔法力を一時的に手に入れるっていう代物なのよ!』

「あらゆるもの、ですか」

『もうその子に寿命はほぼ無かった。なら次に何を自己犠牲にするか、もっと警戒しておくんだったわ』

「何を、仰っているのですか?」

 

 イージスが掠れた声でミーナに尋ねた。

 

『この位置からじゃ間に合わないッ……その子は、その子は生まれた時から今この瞬間までの記憶の消去を代償に魔法力を得ているのよ!』

「―――今すぐソレを止めろ津家少佐ァ!」

 

 竹井大尉が急いで楠里に接近するが、魔法力の壁がそれを遮った。

 

「大丈夫。私の記憶だけじゃないですから」

「……は?」

「皆さんの中から、私に関する記憶は全て頂いていきます」

 

『ふ、ふざ……ふざけるな!

 

 無線の向こうから怒りの声が響き渡る。

 

 自己犠牲を常に置き、大切な人達を守るその考え。

 

 だがこれは博愛でもなければ、友愛でもない。

 

 ただただ自己犠牲という狂気的な方法で他者の記憶に残ろうとする異常者だ。

 自分の死によって他者からの承認欲求を満たそうとする精神異常者だ。

 

 唯一違う点があるとすれば、他者から自身の記憶を抹消している点である。

 覚えていてもつらいだけなら、忘れた方が良い。

 

 部下に言った生き残れという命令はなんだったのか。

 

 その命令も楠里自身はちゃんと守っている。

 

 確かに自分の記憶は消える。皆からも忘れ去られて、もう接点は持たないだろう。

 

 だが心臓がほんの僅かでも動いて呼吸をして、目を開けている限り、それは生きている。

 

「……なるほど、精神が一度完全に壊れるとこうなるのか」

 

 形は脳内麻薬術式を発動しながら楠里に近づいた。

 

「その魔法乱用はしないようにとさっき言ったばかりではないですか」

「関係無いです。私の寿命と記憶も持って行きなさい。妹に謝れなかった分と、何も贈り物をして来なかった分、これで多少は埋め合わせさせて貰いますよ」

「……ありがとう、姉さん」

 

 楠里は黙ってイージスから寿命と記憶を生贄に―――しなかった。

 自分に関する記憶だけを代償に奉げ、意識を少し奪い眠らせた。そして竹井大尉へ投げると、修復が終わったムニンへと視線を向けた。

 

「まって津家さん! 津家さんの事忘れたくない! 私は津家さんとまだ沢山お喋りしたいよ!」

「ひかりさん……さようなら」

 

 

 ベルリン上空に青い光が満ち溢れる。

 

 津家楠里という存在から発せられた魔法力は、ムニンを呑み込んだ。

 それがどうしたと言わんばかりに攻撃を行うが、放たれたビームは即座に霧散した。

 

 竹井大尉らの力を合わせればもっと何か別の手があったのではないか。

 だが楠里はこの方法を強行した。

 

 もう誰も、傷ついて欲しくない。軍属だから、ウィッチだからだとか関係ない。

 

 今この場所で、たった1人の記憶を代償に確実に足止めと撃破が出来るのであれば、それは実行されるべき最善策だ。

 

 魔法力で完全に捕らえられたムニンは、フギンと同じように自爆をしようと膨張するが、即座に抑え込まれる。

 

 ムニンは追加装甲をパージすると、出力に物を言わせて魔法力の檻から抜け出した。

 それを見た楠里はその強大な魔法力を即座に手元に集め、黒田中尉らから貰った銃剣に縫わせた。

 

 装甲も出力機構も全て壊されたムニンは、全盛期と比べ物にならない程に遅い速度で楠里に向かった。そうはいっても普通のウィッチにとっては脅威に変わりないが。

 

 ホルスターからM45を抜き、全弾を発射する。全ての弾頭が魔法力弾である為、規格が合っていないM45は異音を放つ。

 だがそれを気にすることなく連続で撃ち続けて、最後の1発を撃ったその時、銃は一際大きな音を立てて爆散した。

 M45を持っていた右手は傷だらけになったが、魔法力で即座に修復され、今度は口に咥えていた銃剣が握られた。

 

「烈風穿」

 

 静かに放たれたその技は、ムニンの装甲を正面から抉った。

 

 錐のように何度も回転する楠里の周囲は、何時しか魔法力の渦や風が発生し、ドリルの様な竜巻が発生した。

 

 そして拮抗する事僅か数秒、パキンと甲高い音を立て、ムニンはその姿を残滓へと変えた。

 

 

 同時、ベルリン上空の都市型ネウロイ、ヴォルフのコアがカールスラントウィッチ3名の活躍で破壊された。

 

 その瞬間、ベルリンを覆っていた厚い黒雲が中心部から一気に消失し、青空と太陽の光がベルリンに降り注いだ。

 

 

 1946年、春。

 

 カールスラント首都、ベルリンは第501統合戦闘航空団の手によって解放された。

 

 

 

「絶対にこんな終わり方なんて認めない! 私は、どんな事があっても諦めない!」

 

 それが、地上に降り立った芳佳が言い放った第一声だ。もう大半の人員が、楠里の事を忘れていっている。

 あのミーナでさえも、出会った当初の事などが思い出せなくなっていた。

 ひかりは嫌だ嫌だと泣いているが、周りの人間だって楠里の事を忘れるなど嫌である。

 

 そして芳佳自身も忘れたくないという想いと、こんな身勝手に何処かへ行こうとする楠里への怒りが合わさり、魔法力がまたもや満ち溢れた。

 

「魔法力が足りないなら、もう嫌だと言うぐらい魔法力を分けてあげる。記憶の代償によって魔法力を得たのなら、その代償分の魔法力を私が肩代わりで払えばいいだけ! ほら、遠慮なく持って行けばいいよ! その分皆と楠里ちゃんの記憶は返してもらう!」

 

 芳佳は己の魔法力を、楠里に植え付けられた魔法に対して送る。それは丁寧に送るのではなく、洪水のように、津波のように遠慮なく送る。

 これが欲しいんだろ? これが有れば何もしないんだろ?

 だったら遠慮なく受け取れ。代償という魔法力が壊れようと存在が消えようと送り続けてやる。

 

 自意識など無い固有魔法からすれば、言われた通りに仕事をしたらキレられたのだ。理不尽かもしれないが、その理不尽は別の方にも向けられていた。

 

 楠里が本来持っていた脳内麻薬術式も、芳佳の魔法力で概念ごと消滅させられようとしていた。こんなものがあるから楠里が無理を出来てしまう。だったら全て消去すればいい。

 

 こんなものがあるから楠里の姉も壊れていくのだ。

 だったら全て私の魔法力で消去してやる。

 

「だから、だからッ、手伝ってよ楠里ちゃんの使い魔さん」

 

 芳佳の言葉が響いたと同時、楠里の体から鴉の形をした光が出てきた。

 

『おk』

 

 何処か軽い雰囲気のワタリガラス―――ネヴァンは徐々に姿を変え、人型へと変貌した。

 

 その姿は見る者によって違うため、正確な描写は出来ないが、芳佳の目には、楠里が成長して大人になった姿が見えていた。

 

 そして、各々が忘れていた筈の楠里に関する記憶が、スッと頭に戻ってきた。

 

 まるで一時的にど忘れしていたかのような感覚だ。

 

「ありがとう、使い魔さん」

『寿命とかは無理だけどな』

 

 炭化して消失した筈の腕はいつの間にか再生しており、失う直前の状態であった。

 

 

 オペレーション・サウスウィンド。

 

 数多くの犠牲者を出し、ウィッチ1名が魔法力を喪失し重傷を負ったが、一命を取り留めた。

 




無敵の芳佳ちゃんパワーでハッピーエンド。

次の短めエピローグで終わりです。

後は章を区切って短い没ネタ集をやれば完結となります。
1期からRtBまで描写する訳ではありません。

もう少しだけお付き合いください。
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