「そもそも、パリが解放されてまだ数時間足らず。だのに何故ここまで周到な編成計画が存在するのですか」
拠点でコーヒーを飲みながら、ケイは根本的な質問を放った。
「元々計画されてたから」
「皮算用って言葉知ってますか」
「情報を武器にする奴って、偏執的なまでに先の事も考えるんだよ」
「だから、解放された時を想定して計画していた、と?」
「そうだね」
「きっも…」
ケイが述べた感想がこの一言だ。
その計画とやらを実行する為、暗殺者や諜報員を動かす情報戦に巻き込まれたのか。
「今回の騒動には大別して3つの組織が動いているんだ」
自由ガリア政府
ブリタニア
ブリタニア陸軍
「2つは大尉の母国の組織ですね」
「目指す所は大まかには同じなんだけど、その過程と手段が違い過ぎていてね」
「では新設部隊とやらから聞かせてください」
「その前に、基礎的な事を軽く流しておこうか」
連合軍内において、統合戦闘飛行隊の編成番台には一定の基準が有る
10の位が所属地域、1の位が設立順となる。
西部戦線が1、東部戦線が2、地中海が3、扶桑ウラル以東が4、北欧が5、リベリオン総軍が6、特殊運用の7。
501の様な統合戦闘航空団はその組織事管轄司令部の異動も想定されていた為、500と言う編成番台と1の位が設立順の設定となった。
▽
新設部隊の規模は航空団。
6番目に設立されるので編成番台は506。
設定されたコールサインは『ノーブル』
「部隊長にはガリア空軍ウィッチ、ピエレッテ・アンリ・クロステルマン中尉を就ける予定だよ」
「部隊長候補なども決まっているのでしたら、一体何が問題だと?
「ガリア政府とその王党派が所属するウィッチは貴族限定と要望を出してね」
「貴族、ウィッチ?」
今更だが、ウィッチという存在は人類の数に対してその絶対数が少ない。
各国が必死にウィッチ候補を探して、幼い頃から養成所に通うように勧めて、漸く現場が火の車という状態に抑えられている。
さらに貴族という存在も一握りの上流階級だけである。そんな貴族の血筋に都合良くウィッチが居るとは限らず、居ても代わりの後継ぎに困らない訳ではないのだ。
「馬鹿でしょ?」
――けどガリアという国は政情が不安定なのが大昔からのデフォルトだからね。
そう付け足した大尉は、どこか馬鹿にしたような笑みであった。
「そんな条件が整った人員など滅多に……居たとしても相当な根回しが必要でしょ」
「それが分かってるから、これを機にリベリオンが動き始めたんだよ」
新大陸の覇者であるリベリオン合衆国。
比類なき工業力と尽きる事に無い資源を持ち、破格の人的資源と兵数を揃えたこの国家。
だが様々な理由により余り欧州へ戦力が送れていないのが現状だ。
「ウィッチの数が足りないなら、リベリオンのウィッチを編成すればいいと」
「そう。当然ガリア政府も拒否しているし、ブリタニアも否定的だ。だけどこの先の展開なんて簡単に予想出来る。貴族ウィッチが足りずに中々正式発足に至らないだろうね」
「……そもそも、そのクロステルマン中尉が部隊長を引き受けるかも確定はしていなのですよね」
ケイのこの予想は後に的確に命中する。
ペリーヌは自分の領地の復興を守るべき民の立場から進めてガリアを復興させる道を選ぶ。
「恐らくだが、先に折れるのはガリア政府だ。数が揃わないならもうリベリオンのウィッチ使うかとなるが、そこで黙っていないのが王党派とMI6だ」
「まだ集まらないと確定した訳ではないのにそこまで分かるんですか」
「分かるよ。だって―――戦力になる貴族ウィッチの数を私が把握してない訳無いじゃないか」
ケイは大尉のその言葉に嫌な寒気を覚えた。
「……なら、今回のこの騒ぎは、リベリオンへの牽制ですか」
「リベリオン国内で襲われた事にも意味があるし、リベリオンのウィッチは自衛も満足に出来ない」
だから戦地で、ましてや防衛部隊ではやっていけないという認識を世界に与えるだけでいい。
国を動かす存在は、良くも悪くも世論を気にする。
「自国で襲われた挙句満足に対処出来ない人員をリベリオンは送ろうとしていると」
「その印象で世論が沸きたったら終わりだよ。リベリオンの戦力は欧州の国からすれば、好きにはなれないが破格の性能と数を有している。その恩恵がこんな下らない事で受けられないとなれば」
「上層部への叛乱、一般市民の暴動」
「連合軍なんて簡単に崩壊する。別にMI6とてそれは分かってるから上手く舵取りはするけど」
「大筋は分かりました。では大尉の所属する組織は今回何故動いたのですか?」
「簡単に言えば性質の違いかな。MI6は対外諜報機関で、SOEは対外支援機関だから」
ブリタニアの国益を優先するかそうでないかといった違いだ。
永遠の友や敵はおらず、ただ永遠の国益があるだけだ。
ブリタニアとしては、欧州は「いい感じ」にゴタゴタさせて置かないとダメなのだ。
ドーバー海峡は守るに難しく攻めるに容易い。なので意図的に火種や厄介事を裏で起こして気を張らせて、ブリタニアという存在は後回しにという情勢を維持し続ける必要がある。
古代から、ブリタニアという国はそうやって欧州を操って来た。
その点で言えば、カールスラントはブリタニアにとっては近年稀にみる失敗作なのだが。
「ブリカスが」
「SOEはMI6の手段が危険と判断して邪魔したに過ぎない。だけど向こうは王党派にこの事を伝える筈。そうしたら今度は王党派が、手っ取り早く攻撃力を持たないルミナス―――メイトランド少佐とスタッフォード曹長に何かするかもしれない」
まあメイトランド少佐は議会の中に有力なコネがあるがと大尉は心で呟く。
「もういいです。もう巻き込まないでください。言っておきますが、私も私で面倒を抱えてるんです」
「分かった。でも覚えておいて……君と私の縁はまだ切れてない」
「何ですかそれ、まさか私が心変わりするとでも?」
大尉は薄く笑うと椅子から立ち上がり敬礼をした。
「……現刻を以て任務終了だよ。原隊への復帰を命じる」
それを聞いて慌てて立ち上がったケイは、返礼をした。
「了解。イージスはシールドへと復帰します」
「
大尉はそう言い残すと、部屋から出て行った。
▽
関わりたくいない陰謀に巻き込まれたイージス。
だがそういった任務から解放され、元居たクソったれな現場へと戻ってきた。
442部隊は元々リベリオンが指揮権を持っていた。
故にその部隊番号はリベリオンに聞かないと分からない。
神話や現実に名を連ねる盾のコールサインを持ち、死ぬ事が任務のウィッチ。
そして型落ちや旧式で死ぬ事が任務の兵士。
この日、仮設指揮所に集められた盾の魔女達。
「ガリアが解放された事を機に、442はディジョン戦域へ配置変えだ。ただしイージスはロンドンで行った任務結果で恩赦が下った」
「へぇ。そんな物貰えるんだったら私が行けばよかった」
「なあイージスその恩赦譲れよ」
「死ね」
イージスはそう言い放つと舌打ちをして机の足を蹴った。
「ガリア首都・パリでは解放記念式典が催される。イージスはその式典の間、パリで警備任務だ」
「花の都で警備員ごっくろー様でーーーーーす!」
「なーんだ解放じゃねーのか」
因みに恩赦を伝えた士官は、以前煙草を投げつけた士官とは別だ。
件の士官は既にネウロイの攻撃で戦死しており、今の士官もどれほど持つか分からない。
「式典が終了した後、お前は再度この部隊所属だ」
「え、それ恩赦じゃなくてただの任務では」
「連絡事項は以上だ」
そういうと士官はプロジェクターの電源を引っこ抜くと、煙草を加えて出て行った。
「はー、つまんねー。解放されるってなんなら今日からお前を虐めようと思ってたのに」
「1日ってのがまたミソよね。戻りたくないっていう気持ちが1番刺激される」
イージスはそれを無視して指揮所から出ると、ユニットが保管されているボロ小屋へと足を向けた。
数分歩いて何事も無く到着し、いざ入ろうとした所で、出入り口に誰かが立っていた。
下を向いて歩いていたイージスが、邪魔だと言う為に顔を上げると―――
「
イージスは、その