シャブ漬け少女のストライクウィッチーズ   作:文月フツカ

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何故短編なのかというと、理由は二つです。
1連載にする程の内容では無い事。
2ストーリーに連続性が無いから。

PC版とスマホ版って、一行に入る文字数が違うじゃないですか。
私の文体では両方見づらいです。


蠟燭の魔女

 

「曰く、ウィッチに不可能は無いとの事だ」

 

 扶桑皇国海軍所属の軍艦、赤城の医務室。

 軍医少将は椅子に縛られた楠里の前で鷹揚に語り出した。

 

「……」

 

 楠里はその話を聞き流しながらも、この軍医少将の動きを観察していた。

 

「私は大を生かす為の小さな犠牲は許容すべきだと考えている。この大の部分が結構誤解されるのだが、私は何も扶桑一国を生かす考えではないんだ」

「……左様で」

「人間は可能性に満ちている。例外、特別、特殊、特異、異常……呼び方は何でも良い。その可能性を1回でも発現させれば、後の全ての人間に可能性が宿るのだ。1回出来たのだから、また出来るかもしれないとね。前例が無いなら前例を造るのだ」

 

 そうやって積み重ねられた過程の上で出た結果を基に、この計画は次の段階へ進む。軍医少将はそう締めくくると、近くに待機させていた従兵から荷物を受け取った。

 

「ソレが実験とやらですか」

 

 どうも動きがぎこちない少将は、受け取った荷物から注射器を2つ取り出した。

 

 だが軍医少将は気にする様子も無く、注射器の説明を始めた。

 

「こちらの透明な方の正式名称を"試製発現薬"と言ってね。他の魔女が固有魔法を発動している最中に採取した魔法力と、融合という固有魔法を合わせた物だ」

「そのような事出来る筈が」

 

 他人同士の魔法力を合わせた所で、特に何か起こる訳でも無い。無論合わせる事も出来ない。

 

「普通ならね。だが私の固有魔法だった融合を使えば可能なのだよ」

「では貴方が亡くなれば、前例とやらは出来ないのでは?」

 

 楠里がもっともな疑問を述べた。固有魔法はその名の通り固有であり、他の誰かが操れる訳では無いのだ。

 

「そこは心配要らない。私の体だったモノも30年は持つ。その間に次を考えるさ……仮にダメだったとしても、無理だったという前例が出来るだけだ」

「……は?」

 

 言葉の意味が分からない楠里は、目の前にいる少将が得体の知れない何かに見え始めた。

 

「まぁ効果は、他人の固有魔法を強制的に植え付ける薬だ。もう一つの赤い液体は本末転倒なモノでね」

「……」

 

 碌なモノではないと分かった楠里だが、今すぐこの軍医少将をどうにか出来ないのも事実だ。

 

「こちらは……まぁアレと同じような代物だ」

 

 忌々しそうに窓を見る軍医少将。

 その視界の中を、ウォーロックと呼ばれる試作の戦闘機械が駆け抜けていった。

 

「ウォーロックと同じ、ですか」

「あぁ、暫くマロニーの玩具を見続けるといい」

「私は貴方の玩具に付き合わされるのですが」

 

 軍医少将は鼻で笑うと、口を開いた。

 

「君からすればどちらも玩具に見えるかね」

 

 

 

 当初、ウォーロックは優勢であった。

 迎撃に出てきたネウロイを悉く撃破せしめ、最終的には数多くのネウロイを支配下に置いた。

 

 だが活躍もそこまでであった。

 突如として制御不能に陥り、瞬く間に暴走し始めたのだ。

 

 坂本が車椅子に隠してあったユニットで出撃をしようと試みるも、真意を見抜いた芳佳が代わりに上がると言い出した。

 

「楠里ちゃん……」

 

 芳佳はそう言いつつ、なんとか発艦を成功させた。

 

 

 医務室では、軍医少将が悪態を吐いていた。

 

「あぁやはりな。根本から造りが別物なのだ、融合を以てしてもああなるだろう」

 

 そう言いながら赤い液体をその場で叩き割って、実験結果を書くであろう書類に記載を始めた。

 

「私も出撃します」

 

 楠里の発言を聞いた軍医少将は、口元を吊り上げた。

 軍医少将は注射器を準備しながら、縛られている楠里に近寄った。

 

「今から君にコレを打つ。副作用は知る必要は無い」

 

 その言葉と同時、楠里に容赦なく針が打たれた。

 

「……―――ッ! あ"ッえ"あ"!?」

 

 自分の物ではない魔法力が流れ込んでくる事による激痛。

 そしてその激痛に無理矢理適応させようと蠢く別の魔法力。大きな針で滅多刺しにされているが、それ以上の痛みを与えれば、その針の痛みは気にならない。

 但しそれ以上の痛みは考慮しない物とする。

 

 そんな終わる事の無い激痛が延々と楠里の体を駆け巡る。

 

「君は人類で初めて、固有魔法を二つ持った存在になれるかもしれない。仮に耐えきれなくても、予備は確保可能だ。安心するといい」

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!」

 

 絶え間ない悲鳴が医務室に響く。傍に居た従兵も目を背ける程の惨状を、軍医少将は平然と見つめていた。

 

「ふむ、心拍数も許容範囲だ。ほら、そろそろ脳内麻薬を分泌しないと壊れるぞ?」

 

 奇声のような悲鳴を上げつつも、楠里は先ほどから脳内麻薬術式を発動している。

 だがその効果も突き破ってくる程の激痛なのだ。

 

「あ"ッ……え"へへ。あ"ひゃあああああああッ!」

 

 人は許容範囲を超えると、心や肉体を守るために色々な行動を起こす。

 

 激痛と脳内麻薬の果てに楠里の本能が取った行動は、ただただ笑う事であった。

 

「さて、固有魔法は共存し合うか片方か両方消し飛ぶか。実験に身を奉げてくれた魔女の為にも、より良い結果は期待したいね」

「えぁ、いひひッ……きひひひひひ」

 

 そう言いつつも、何も期待していない目を向ける軍医少将。

「さて、代償の力は定着するかな。それはな、魔法力を別の何かで補える固有魔法だ。自分の生命力や血液などを失う代わり、魔法力を生み出すんだ」

 

 未だに笑い続ける楠里の耳には、そんな言葉は入ってこない。

 

「あ"ー……あ"ぇー」

「そろそろ本体が運び込まれた頃か。維持装置も値段は凄まじいが、資金源など幾らでもある」

 

 

「目が覚めたか」

 

 楠里は軍医少将を睨みつけた。

 

「えぇ。最悪の目覚めです」

「どうやら固有魔法はしっかりと発現しているようだ。私の娘だったウィッチの固有魔法だ。精々大切にするといい」

 

 楠里は己の耳を疑った。倫理的にも聞き逃せない事を平然と言い放った軍医少将は、楠里の対面の椅子に座って足を組んだ。

 

「自分の娘ですら実験体にするのですね」

 

 既に拘束は解かれているため、楠里はフラフラと立ち上がりつつも言葉を発した。

 

 正直に言えば一刻も早く医務室から立ち去りたかったが、目の前の存在がそれを許さない。

 

「私の友人で、君の父親よりはマシさ。彼はあろうことか実の娘を自分の手を汚さず殺そうとしていたのだからな。どうしようもない奴だが能力や人脈はあった。節操の無い下半身は君という存在も作ってくれたのだから感謝はしている」

「……」

「どうした。私を殴り飛ばしてここを出てもいいんだぞ。既に私が予定していた実験は最終段階だ。この部屋に閉じ込めておく意味も無い」

「では遠慮なく」

 

 楠里は出せる力で軍医少将の顔面を殴ると、勢いよく医務室から飛び出して行った。

 

「今頃総長殿はもぬけの殻の研究室を見て唖然としておられるかもしれんな」

 

 

 

 

 赤城上空では、尚も激しい空戦が繰り広げられている。

 

 ネウロイと化したウォーロックは、隙があれば傾斜している赤城に追撃を加える。

 

「不味い、そろそろ船体が限界だ……」

 

 坂本は芳佳や赤城も心配ではあるが、少将と共にいる楠里の方も気になっていた。

 上官命令という、軍では絶対に逆らってはいけない言葉が坂本をその場に縛り付けていた。

 

「少佐!」

「しまっ―――」

 

 その時、ビームが船体を貫き、遂に赤城の船体が沈み始めた

 それと同時に、坂本とペリーヌも衝撃で飛行甲板の端に飛ばされ、その身を海に投げ出す寸前に陥った。

 

 芳佳に銃を投げ渡すなど、魔法力を使っていたペリーヌ。

 片手で必死に坂本の手を繋いで甲板に掴まる。

 

「この程度、この程度で諦めたりなどッ」

「もういいペリーヌ。お前だけでも退避をするんだ!」

 

 ペリーヌはその命令を聞かず、必死に坂本の手を握り続ける。

 

 だが、ウォーロックはそれを嘲笑うかのように赤城に止めの一撃を放った。

 船体を貫いたその一撃は、ペリーヌが甲板から手を放す決定的な原因となってしまった。

 

「あっ」

 

 後悔、悔恨、恐怖など、様々な感情が頭を駆け巡り、既に届くはずの無い空へと向かって手を伸ばし続けるペリーヌ。

 

 そんな彼女を、坂本は優しく抱き抱えつつ、謝罪の言葉を呟いた。

 

「すまない皆、すまない楠里……」

 

 

 

 

 

「はい。私は大丈夫です」

 

 それは誰の言葉か。

 

 

 不意に落下の感覚が消失したかと思いきや、体が滞空している感覚が生まれた。

 

「……津家さん?」

「お前、どうやって」

 

 

 浮いていた。

 

 津家楠里は苦しそうな表情を浮かべながらも、坂本とペリーヌの手を握りながら浮いていた。

 

 そう、ユニットを装着していない状態で。

 

 

 

 そうやって驚いているのも束の間、楠里はシャーリーが操縦する飛行機が近寄って来たのを確認すると、二人を後部座席へと投げ入れた。

 

「お二人をお願い致します」

 

 坂本らが何かを言う前に、楠里は魔力を纏いつつ、生身で飛行を始めた。

 

「待て楠里! どこへ行く気だ!」

 

 

 楠里は速度を上げつつ、沈みゆく赤城の内部へと入って行った。その行動の意味が分からない坂本や乗組員達は、必死に戻って来いと叫ぶも、楠里は聞かなかった。

 

 

 

「アレの生命力では無理だという予想は覆ったか」

 

 既に海水が膝辺りまで浸水している赤城の医務室。

 軍医少将は椅子に座りつつ考えを纏めていた。

 床には従兵が倒れている。

 

 メモなどを取っても今は無駄なので、出来うる限り情報を頭に入れておく。

 

 軍医少将は次の実験を頭の中で組み立てたが、直ぐに首を横に振った。

 

「本土から意識を逸らした故に、もはや総長殿の根回しに対抗は出来ないか。まぁ都合は良い」

 

 独り言を呟いていると、魔力反応が近づいて来た。

 その反応は医務室の前で止まったのを見て、軍医少将は首を傾げた。

 

「……」

 

 その正体は楠里であった。

 

「……どうした。今は実験の経過観察中なので自由に行動していていいぞ」

 

 戦闘中、ましてや沈みかけの空母の中にいるというのに、顔色を一切変えない軍医少将。

 対する楠里も表情を一切変えずに、魔法力で強化した身体能力で軍医少将の髪を引っ掴んだ。

 

「……」

「ここで私を始末するかね。だとすれば非効率な選択を取ったな」

 

 その言葉を聞くと同時、楠里は軍医少将の顔面に強烈なパンチを入れた。

 衝撃で堪らず呻くが、続いて鳩尾にも一発入れられた。

 

 息が出来なくなり悶えるが、楠里は遠慮せずに軍医少将の左足を圧し折った。

 

「脱出します。その口を閉じていてください」

 

 気絶という楽な逃れ方を許さない楠里は、痛みで呻く軍医少将の服を掴むと、浮遊しながら脱出を開始した。

 

 船のあちこちに少将の体がぶつかってもお構いなしに進み続ける。

 

 

 そしてウォーロックのビームで開いた風穴から勢いよく飛び出すと、赤城艦長が搭乗している内火艇の傍に落とした。

 

 ここで、遂に赤城が海中深くへと消え去った。

 

 

 

 扶桑皇国海軍航空母艦・赤城が轟沈した。

 

 その光景を眺める楠里は、内心焦っていた。

 

―――あと、どれぐらい持つか。

 

 今この様にユニット無しで浮いているのは、業腹ながらも軍医少将が打った薬品の成果だ。

 

 津家楠里に打たれた試製発現薬は、別の魔女の固有魔法を植え付ける薬だ。まだまだ未完成かつ不完全であるこの薬品。

 副作用もしっかりとある。

 

 余りの激痛に精神が壊れるか、肉体が壊れるかの副作用を乗り切っても、確実に固有魔法を発現するとは限らないのだ。

 

 この薬品が進化し続け、それが完成すれば、大きな力となる。

 

 才能あるウィッチにしか発現しない固有魔法は、もはや固有ではなくなる。

 

 薬品によって後天的に付与可能な能力へとなるのだ。まだまだ未完成ではあるが、それが成功すれば人類史に不滅の金字塔を打ち立てる事になる。

 

 成功すればの話だが。

 

 

「楠里ちゃん!」

 

 マロニーの陰謀を暴き、不利な状況を覆した501が、次々と楠里の傍に集まってきた。

 

「芳佳さん、無事でよかった。援護出来なくてごめんなさい」

「私は大丈夫だよ。それより……」

 

 戦闘隊長の坂本も、ユニットを履いて楠里の傍によった。

 

「津家軍曹、歯を食いしばれ」

 

 その言葉と同時、楠里の顔に坂本のビンタがさく裂した。

 グーではない辺りに坂本の優しさを感じつつ、楠里は坂本に向き直った。

 

「楠里ちゃん……」

 

 

「助け合いだよ助け合い。トゥルーデの顔見てみなよ、この睨んでるようで泣きそうなこの顔」

「やかましい!……さぁお前のユニットだ」

 

 ハルトマンが、バルクホルンが。

 

「一人じゃないよ。皆で前に進まなきゃ」

「そーそー。何でも一人で背負い込んでたら疲れるダロ?」

 

 サーニャが、エイラが。

 

「大体、沈む船の中に入るなんてどれだけ早くても危ないぜ」

「でもでもユニット無しでそこまで浮けるなんて、もしかして天才!?」

 

 シャーリーが、ルッキーニが。

 

「思えば、自らを省みない行動ばかりでしたが、それで助けられました」

「私達全員、楠里ちゃんに死んでほしくないよ」

 

 ペリーヌが、リネットが。

 

「お前は、お前は自分の命を軽く扱いすぎている……自分を大切に出来ない奴が、他人を大切になど出来ないんだ。私達はお前が心身を削って守られる存在ではないぞ」

「こうやって貴女の事を受け入れてくれる皆が居ます。だからその命を無駄に捨てるような事はしないようにね」

 

 坂本が、ミーナが。

 

 ストライクウィッチーズの全員が楠里を大切に思っている。

 

 

 楠里もそれを聞いて、どこか照れたように俯きながら言葉を口に出した。

 

「……ごめんなさい」

 

 

 皆がそれを聞いたと同時、突如海面から巨体が顔を覗かせた。

 

 

 

 

 大空を魔女たちが駆け抜ける。

 

 世界の国々より集められた選りすぐりの魔女たちが力を振るう。

 

 ウォーロックと合体した赤城を撃破し眠らせる為、エース達は空を舞う。

 

 

 統合戦闘航空団の所以はここに在り。

 世界の国々を繋ぐ虹の架け橋の如き綺羅星らは、自分の力を他人の為に振るうのだ。

 

「楠里さんは遊撃で皆の援護を。貴女の戦闘力と判断力なら出来ます」

「了解」

 

 そんな光り輝く集まりの中、混じる人間が一人。

 

 果たして自分はここにいる資格があるのかと思いつつ、津家楠里も空を飛ぶ。

 独りで飛んでいた頃とは全てが違う。

 

 とても動きやすく、周りには頼りになる大切な人達もいる。

 

 

 津家楠里の感情は死んでいるが、変な風にねじ曲がっていた訳ではない。

 元々は普通に喋る少女であったし、それなりに笑ってもいた。

 

 楠里もその老練な空戦技術を発揮して空を舞う。

 

 ネウロイと化した赤城の飛行甲板より、分裂した小型のネウロイが、近くに居たサーニャとエイラの周りを囲んだ。

 

「おっと、360度囲まれると少し不味いんだナ」

「ん……大丈夫」

 

 だが二人は焦るどころか、どこか落ち着いていた。

 

「援護します」

 

 突如として、二人を囲んでいたネウロイが残滓となって消え失せた。楠里が九七式自動砲でネウロイの守りを強引に消し飛ばしたのだ。

 

 扶桑皇国製対装甲ライフル・九七式自動砲を空戦ウィッチ向けに改修したこの型は、激しい空戦の最中でも十分に素早い取り回しを実現した。

 

「さっすがー」

「ありがとう楠里ちゃん」

 

 楠里は二人に黙礼をすると、次に援護が必要なメンバーの下に飛んで行った。

 

 

「ハルトマン、士気を上げるのはいいが後先考えずに突っ込むな!」

「もうトゥルーデったらー。こう動いてもしっかりやってくれる頼もしい奴がいるじゃんか」

 

 ハルトマンとバルクホルンは、分裂した小型に後ろを取られ、攻撃に晒されていた。

 

「っと、後方4時の方向に三機だ」

「了解しました。そちらの判断で右に切り返してください」

「頼んだよー」

 

 二人が切り返すと、後ろに居たネウロイらもそれを追う為に進路を変えた。だがこの進路は、楠里に無防備な真横を晒してしまう進路だ。

 

 亜音速で螺旋回転する20㎜弾は、ネウロイの装甲を消し飛ばし、その衝撃は射線上に居た赤城の対空兵器にも着弾した。

 

 砲火の一部も文字通り消し飛ぶ中、二人の安全を確認した楠里は、シャーリーとルッキーニの下へ飛んだ。

 

「お、丁度今から一発ぶち込むところだ。どうだルッキーニ」

「うじゅ……あの2機がちょっとやな感じするー」

 

 ルッキーニが指を向けた方向には、明らかにこちらを狙っている小型ネウロイが居た。

 

「お任せください。私の発砲と同時に突撃どうぞ」

「よっしゃー! 行くぞルッキーニ!」

「いえーい!」

 

 楠里は丁度二機の小型が近寄った瞬間を見計らって発砲した。放たれた弾丸は一体を貫き、その衝撃波でもう片方も敢えなく消し飛んだ。

 

「ピッチャー振りかぶってー……いっけぇー! ルッキーニィ!」

 

 ルッキーニがシールドを多重展開させて、赤城の艦首に突っ込んだ。

 

 笑いあう二人を見つつ、突入を行う芳佳とリーネとペリーヌの下へと飛んで行った。

 

 

 芳佳たちがコアを破壊するまでの間、分離した小型ネウロイを引き付けておく囮も必要だ。

 

 楠里の零戦操縦技術は、他に類を見ない程に高等技術が詰め込まれていた。

 決して深追いはせず、後ろに着かれたら回避機動を行う。そうやって前に押し出した敵機に鋭い一撃を叩き込むのだ。

 

 だが九七式自動砲二号D型も弾が尽きてしまった。もとよりそこまで装弾数も多くない。

 背嚢も無いため、最初から装填されていた数しか撃てないのだ。

 

 だが楠里は九七式自動砲を躊躇いなく投棄すると、ホルスターからM1911を取り出した。

 マガジンを一度抜いて残弾を確認して再び差し込んだ。

 

 スライドを引いて安全装置を解除して撃ち込む。

 

 だがハンドガンの弾は、この高度では風の影響を直に受ける。

 

「脳内麻薬術式、代償を全力発動」

 

 特殊強心剤を打ち込みつつ、植え付けられた固有魔法を行使する。

 小型ネウロイの機動を予測して撃つ為に力を振るう。

 

 自分の固有魔法で心身を壊しつつ、新しい固有魔法で生命力を犠牲に魔力を生み出す。

 更に無痛薬も服用して極限まで戦闘を継続する。

 

―――自分の体は自分が良くわかる。

 

 先程の皆の言葉が脳裏を過る。だがそれでも楠里は止まらない。

 

―――私は命を無駄にしていない。この命尽きるまで、皆の為に使うだけ。

 

 魔法力尽きて継戦能力が崩壊するその時まで、楠里はストライクウィッチーズの為に飛び続ける。

 

 あの最果てより救い出してくれた坂本に恩を返す為。

 自分の過去を聞いて泣いていたミーナの役に立つ為。

 必死に出来る事を探し手伝いをしてくれた芳佳の為。

 暗い過去を聞いても受け入れてくれた大切な皆の為。

 

 楠里は笑っていた。

 大好きな皆の為に命を燃やせるのがとても嬉しいのだ。たとえ避けられようのない最期が目の前にあったとしても、もう後悔などは何も無い。

 

 かつて楠里は軍医少佐にこう言った。

 

―――行き着く結末に大差はない。

 

 確かに大差はないが、この結末に至るまでの過程は、自分の人生の中で一番光り輝いていた。

 

 

 

 

「後は芳佳さん達がやってくれるかと」

 

 小型ネウロイの殲滅を終えた楠里。

 ミーナと坂本の下へ戻り、指示を出していた二人に報告をした。

 

「お疲れ様。貴女はどこも怪我はしていないかしら?」

「私は大丈夫です。強いて言えば坂本さんに頂いた掌ぐらいでしょうか」

「はっはっはっはっは。アレはお前の行動が悪い」

 

 楠里はふと赤城を見た。愛着という程ではないが、欧州へ来る時にお世話になったのだ。

 こんな形とは言え沈める事に、少々抵抗があるのも事実だ。

 

「赤城の艦長は失神モノでしょうね」

「まぁな……だが人命には代えられんさ、思う所はあるが」

 

 機体も船も消耗品だというが、財務を管理する人間の耳に入れば失笑される。

 予算も資材も限りがある。なので正規空母一隻をはいそうですかと簡単に新造も出来ない。

 

 

 そうやって三人で赤城を見据えていると、徐々に赤城が消滅を始めた。

 

「宮藤さん、やってくれたのね」

「……あ、こちらも消えていきますね」

 

 赤城の消滅と同時、ガリアを覆っていたネウロイの巣も消滅していった。

 

「うむ。ウォーロックが巣を支配下に置いていたからであろうな」

 

 話していると、皆が芳佳を揉みくちゃにしながら戻ってきた。

 

 皆が笑顔で喜び合う中、楠里もその中に入ろうとした。

 

 

―――ドクン。

 

 

「ッ……グッ、うぁ」

 

 何か。

 

 致命的な何かが失われたような感覚。

 

 楠里は自身の体感が酷く遅くなっていると感じた。

 

 手を伸ばし口を開こうとするも、その一つ一つの動作に異様に時間が掛かる。

 ユニットに回す魔力の代償も最早払えず、楠里は静かにその場を落下し始めた。

 

「え、楠里ちゃん!?」

 

 一番最初に気づいた芳佳が悲鳴に近い声を上げた。気づいたメンバーも全速力で楠里の落下を止める為に魔力を回した。

 

 何とか空中で楠里を抱き抱えたミーナ達は、急ぎつつも揺らさないように基地へ向かっていた。

 無線で軍医と衛生兵を要請しようにも、基地の人員はマロニーらによって拘束されており、即座に行動に移れない。

 

 

 

 勝利の余韻に浸る事無く、基地の滑走路へ降り立ったウィッチ達は、急いで楠里をその場に寝かせた。

 坂本が大声で衛生兵を呼ぶ中、必死で楠里の容態を確認する芳佳とハルトマン。

 

 残った少ない魔力で必死に治癒魔法を掛ける芳佳。

 

「頑張れ楠里。皆お前を待っているぞ!」

 

 必死に声を掛け続け、楠里の意識を戻そうと試みる。

 

 バルクホルンはチラッと楠里が着ている野戦服のポケットに目を落とした。

 以前使ってくれた特殊強心剤を使えば気付け薬になるかと思い、坂本に聞いてみた。

 

「ダメだ。アレは逆に状況を悪化させる」

 

 特殊強心剤は、坂本も苦い顔をしながら軍医少佐と楠里の三人で作り上げたモノだ。

 故にこの薬品が現状を打開する物ではないと知っている。

 

 そのようにアレコレと悩んでる間も、サーニャやエイラ達は楠里に声を掛け続ける。

 

 

 その甲斐あってか、楠里はゆっくりと目を開いた。

 最早魔力が残っていない楠里は、遂に隠していた顔色を出してしまった。

 

 その顔は、一目で健常者の顔色ではないと判別出来た。

 

 蒼ざめた顔色で、口の端からは血を流している。目にはどす黒く巨大な隈が出来ており、瞼も半分しか開いていない。

 

「流石に、自分の生命力を引き換えに魔法力の行使は危ないですね」

 

 その言葉の意味が分からないが、とにかく意識をしっかり持てとバルクホルンが楠里に言葉を掛ける。

 

「もうすぐ軍医が来る! だから耐えるんだ!」

「代償などという固有魔法を発現したウィッチに同情します」

 

「楠里ちゃん、喋っちゃダメだよ……」

 

 リーネがそう言うも、楠里はお構いなしに喋り続けた。

 

「あの少将、本物ですかね。着ぐるみを着ているように不自然でした」

「そんな話は後で聞きますわ! 今は自分の命を最優先させなさい!」

 

 ペリーヌがそう言うも、楠里は止まらない。

 

「傷を焼くのはお勧めしません、あの時は料理の手伝いをありがとうございました」

「……喋らないでよ! 自分の命を大切にってさっき言われただろ!?」

 

 ハルトマンもそういいつつ、軍医はまだかと怒鳴る。

 

「501の皆、幸せな人生を送ってほしいです。料理は私にとって錬金術でした」

「おいしっかりするんだ。楽しい事を考えるんだ、まだまだ遊び足りないだろう!?」

 

 ルッキーニとシャーリーが泣きながら楠里の両手を掴んだ。

 

「ミーナさんと料理、私は楽しかったですよ。水練も頑張れました」

 

 楠里の言動は徐々におかしくなっていった。まるで昔を一つ一つ思い出したかの様に喋り出した。

 

「うぅ……」

「芳佳さん、初めての飛行で戦果とは凄いです。何時も赤城の清掃お疲れ様です」

 

 もはや呂律もしっかりとしていない中、501で楠里が経験した思い出を喋っていく。

 

「楠里さん……楠里さん!」

「おや、私は何故ここに……確か書類が。アレ、違いますね……出撃でしたね、私が休むと北方司令部がまた言って来ますね」

 

「お前はストライクウィッチーズ所属だ! しっかりするんだ楠里!」

「写真を、撮りましょう。陸戦隊の皆さんは、私が必ず本土へお返しします」

 

 ミーナたちは泣きながら楠里の言葉を聞き続けた。話す内容が徐々に遡り、最果て時代へ戻った。

 

「同期は今も大活躍なんですかね。古新聞では分からないです」

 

「あぁ、初の任地がこんなに穏やかな所とは……違いますね、凄く吹雪いています」

 

「社会的弱者に居場所なんて無い。何のために生まれて来たんだろう」

 

「アレがウィッチ……皆笑顔だな」

 

「あぁ、お腹がすいたなぁ……」

 

 昔思った感情、言った言葉を言い続ける楠里。

 

 楠里自身は半分夢を見ている感覚だ。フワフワと心地よく、今なら睡眠薬など使わずにぐっすり眠れるであろうと確信も持っている。

 だが一眠りする前に、やる事はやっておかないといけないのだ。

 

 楠里は眠気を堪えつつも口を動かした。

 

 

 

 一通り喋り終えた楠里は、いい案を思いついたとミーナに顔を向けた。

 

「ピクニックに行きましょう。心を込めて料理を作ります」

 

 その場にいた全員が泣いていた。うわごとの様に呟き続ける楠里を見て、誰しもが泣いていた。

 

「えぇ、皆で行きましょうね。楠里さんもきっと楽しいわ」

 

 そうやって皆が楠里の手を握った。

 

 その時、一瞬だけ楠里の目に光が戻った。

 

 

 そして人生で一番、最高の笑顔を作って言った。

 

「皆さん、ありがとう。良き人生を」

 

 そう言って笑った楠里は、満足そうに眼を閉じた。

 

 

 後には、その場で泣き崩れるウィッチ達が居た。

 

 

 楠里は頭の中に、一本の蠟燭を思い浮かべた。消えるその一瞬だけ、蠟燭は大きく燃ゆるらしい。

 

 人間五十年。

 津家楠里の人生の中で、先程は間違いなく輝いていた。僅かにではあるが、彼女は自らの命を代償にその輝きを放った。

 

 下天のうちをくらぶれば。

 彼女の人生など、超常的な視点や第三者から見れば、あっという間の出来事なのだ。人生はまだまだこれから等、彼女からは縁遠い言葉だ。

 

 夢幻の如くなり。

 泡沫や蜃気楼の様な私の事も、誰も覚えはしないだろう。だけどせめて、この場にいる人達には覚えていて貰いたい。

 

 

 津家楠里は、確かにここに居ました。

 

 

fin.




どこぞの病弱兄だって一度死んでから元気に剣振ってます。
有機物だって脳内AIに出会うまで五桁回数は死んでます。
だったら薬漬けだって大丈夫だと思います。






まだ本作は完結はしていません。
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