本編の4分の1程度ですのですぐ読めます。
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連合軍第501統合戦闘航空団。
世界各国のエースウィッチを基幹要員とした航空戦力部隊。
その目覚ましい活躍は、後世の歴史書にも大々的に記されている。
類い稀なる才能を持った11人のエースらは、当時絶望の淵に会った人類に希望を与えた。
だがその部隊に所属していたメンバーは口を揃えてこう言うのだ。
―――12人だ、と。
それは基幹要員であるウィッチから、整備兵や警備兵までもそう言うのだ。
だがどの作戦記録を漁っても、12人目のウィッチが居たという痕跡は存在しない。
とある記者がそれを指摘すると、全員不愉快そうな表情を作り、二度とその記者の質問には答えなかった。
そしてその記者を雇っていた親会社の取材にも一切応じなくなったのだ。
そのような事があり、時代が進んだ後世では様々な憶測が飛び交っている。
曰く、懲罰部隊のメンバーが居た。
曰く、特殊部隊のようなウィッチが所属していた。
曰く、プロパガンダの一種など。
ではどのような人物であったかとの質問にも、悲痛な表情で無言を貫いた。
そのようにして様々な噂が流れる中で、姉が古い本を見つけてきた。
タイトルを『真実』と簡素な物であったが、良い暇潰しになるかと思い読んでみる事にした。
▽
この本が何処かの誰かに読まれる頃、この本を手掛けた者達は既に亡くなっている。
生きている間は最高機密扱いで喋る事は出来ないが、命尽きた後ならば問題は無いのだ。
ここに、一人の少女の軌跡を記す。
この本に書かれている事は全て事実であり、忌まわしき大戦時に、当時の軍上層部が抹消した機密だ。
私、カールスラント空軍所属だったミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの名と、第501統合戦闘航空団所属であった全てのメンバーがこの本の正確性を保証する。
この本の制作に関わった全ての人員の署名も同時に印し、筆跡鑑定などの各種確認作業における正確性も同時に保証するものである。
私は本の余りの冒頭文に、溜まらずコーヒーを吹き出した。
想像の斜め上の内容であったため、暫く頭が回らなかったのだ。
「そう言えば、お祖母ちゃんがずっと何か書いてたね」
私の姉である
私達姉妹の祖母は、扶桑海事変や大戦時にウィッチとして従軍し、世界中から称賛された凄い人だ。
魔法力が無くなった後も軍に残り続け、扶桑の為に働き続けた私達の憧れである。
そんなお祖母ちゃんが晩年に必死に書いていた本だと知って、俄然興味が出てきた。
二人で読み進めていくうちに、頭がとても痛くなってきた。
そこに書かれていたのは、扶桑の軍上層部が行っていた非人道的な実験の内容であった。
そしてその実験の犠牲者となったウィッチ、津家楠里さんの悲劇についてだった。
当初、親の居ない孤児として孤児院に入り、軍に志願した。海兵団での成績が良くなかった為に一番北の地への配属となり、そこで数年間軍務に就いた。
だが当時少佐だったお祖母ちゃんが偶然北方へ赴いた時、津家さんを見つけてスカウト。
ベテランの推薦もあって、伝説の部隊であるストライクウィッチーズに所属となり、ガリアを覆っていた巣を倒したのだ。
ここまでだと良くある成り上がり小説の様だが、真実は比べるのも烏滸がましい程に悲惨であった。
汚職を働いていた北方司令部の中将の隠し子であった津家さんは、その存在自体を抹消され、不遇な扱いを受けてきた。
軍曹という低い階級で、予備知識や力も無いのに無理矢理に基地運営をさせる。
ミスをすれば鬼の首を取った様に晒上げ、戦果を挙げれば横から掠め取って報告をする。
使える物資も人員も最低限を下回り、津家さん一人しかいなかった基地は、ゆっくりと機能停止に陥って行った。
出来る筈もない軍務を押し付けられ、心身をボロボロにして耐えて数年。
大型ネウロイがオラーシャの領海から現れ、死にもの狂いで撃墜した津家さん。
だがその戦果すらも取られる寸前、視察に来ていたお祖母ちゃんがその違和感を追及。
直ぐに憲兵隊を呼んで事を明らかにしたらしい。
当時は津家さん本人には詳しく言わなかったが、中将や北方基地司令要員はその悉くが首を飛ばされたそうだ。
不名誉除隊だと伝えたが、実際にはその殆どが銃殺刑となったとある。不名誉除隊すら烏滸がましいと当時の軍令部総長が言ったらしい。
501に所属した津家さんだけども、劣悪な環境を耐え抜いた体は日に日に弱っていき、一度ネウロイに墜とされた。
だけどあろうことか傷口を焼いて自力で帰還を果たし、メンバーに泣かれたと記されている。
ネウロイのコアを使った新型兵器の暴走の鎮圧を行った501。
軍医少将の奸計で、津家さんに狂った実験が続けられ、遂にその命を落とすことになった。
だけど津家さんの最期は、皆に囲まれて笑っていたらしい。
この現代において、特異能力付与薬と呼ばれるソレは、津家さんの犠牲を以て完成したらしい。
「……は?」
私達姉妹は自分の腕を見た。
そこには少し大きな注射の跡が残っている。
それは数年前、ウィッチ養成所に入った時に打たれた所だった。
それは扶桑が開発した画期的な薬で、便利な能力を後天的に発現させる物だった。
現代のウィッチは如何に固有魔法を多く使いこなせるかがステータスの一部となっている。
そういった風潮を、お祖母ちゃんは苦い表情で見ていた。
私が軍に入隊した時に、その薬を打ったと伝えた時、お祖母ちゃんはどこか悲しそうにしていた。
この本を見ればその表情も理解出来る。
大事な人が理不尽に命を落とした果てに作り出された曰く憑きのモノ。
それを嬉々として持て囃して使う世の中や、私達姉妹を見て、お祖母ちゃんは怒っていたのかな。
数々の横暴の証拠書類も添付されており、詳しい記録や写真もあった。
そしてこの本は、11冊世の中に存在するという。
私たちの手元にある一冊を除いた残りは、501のメンバーの子孫に託されているという。
手元にあるのは扶桑語で、ブリタニアにあるのはブリタニア語と、メンバーの祖国の言語で、同じ内容が記されているらしい。
「……お手洗い」
姉は何かを我慢するように部屋を出て行った。あの様子では暫く戻ってこない。
私も今は吐き気を堪えるので精一杯である。同時に注射の跡を掻き毟ってやりたかった。
世の中に出回っている技術や薬は、当時の人々の苦労が詰まった結果なのだ。
頭ではそう分かってはいるが、こうも現実を突き付けられると嫌になる。
こんな事なら知りたくなかった。
「お祖母ちゃん……」
既にこの世に居ないお祖母ちゃんが、津家さんと出会えている事を願うばかりだ。
▽
後年この本が、世界各国の名家から同時期に見つかり、それが世間に公表された。
この事で世論が大いに荒れ、数年の間は暗い時代が続いた。
幸運なのは、その時期は怪異が居なかった事である。
そして、見つかった全ての本の末文には、必ずこう記されていた。
―――最果ての魔女は、その類い稀なる力を以て、多くの魔女を支えたのだ。
1,fin.
視点にズレを感じ、マッドさに感情が向いて本末転倒と評価を頂いていたので、なるべくあっさり終わらせてみました。