アークナイツRPGをエンジョイプレイ、DLCを添えて 作:エヴォルヴ
ちなみに【獄門】の詠唱は「開門」のみ! あとはスキルが勝手に喋ってくれるゾ。
どこかの戦場、その中心に、彼らはいた。
「……ぁ……グレ、イヴ……?」
「ああ、無事みたいだね」
先程、レユニオンの術師達が、高台に陣取っていた回復役のシャイニングを集中放火を浴びせて倒そうとしていた。
彼女が持つ力ならばその程度無駄の一言だが、その力を使うにはまだ少し時間が必要だった。それを知っていたロドス所属の傭兵は彼女を庇い、重症を負いながらも離脱する。
「なぜ私を庇ったのですか……!?」
「ははっ、家族守るのに、理由は必要かな?」
にこやかに笑う彼の体は、肉が裂け、血が滴っている。アーツによって焼かれた部分は不幸中の幸いなのか、焼けて塞がってはいるものの、限界であることは誰の目にも明らかだった。
「──こりゃあ駄目だね。……もうちょい生きていたかったけど、ここまでかな」
「グレイヴ……? 何を──まさか……!?」
「エンカク!」
「あぁ? 何だ」
シャイニングを狙った術師の血に染まって戻ってきたサルカズの傭兵を、グレイヴという男は呼びつけ、シャイニングを押し付けて口を開く。
「門を開く。……あとは頼むよ」
「てめぇ、正気か?」
「わりかしマトモさ」
ニッコリと笑ったグレイヴに、エンカクは掴みかかった。
「死ぬぞ?」
「知ってる。な、マトモだろ? しっかり自覚してる」
「てめぇ、ふざけるなよ……!?」
声を荒上げた。離脱している部隊の誰もが驚愕で目を見開き、グレイヴとエンカク……全く似ていない兄弟の方を向く。
いつものエンカクなら、声を荒上げることもしないし、誰かの死に興味を持つことさえない。そんな彼が今、兄の言葉を聞いて激昂している。
「ふざけてないさ。戦場に出たんだから、誰かが死ぬのは当たり前だろ? 今回それが俺だっただけさ」
「ッ! 勝とうが負けようがそれを開けば死ぬ! それを分かって──」
「エンカク」
穏やかに、強い力が籠った声で、グレイヴは名前を呼び、微笑んだ。医療従事者達にはそれがまるで、別れを告げる人の笑みにも見えた。
「頼むよ」
「──また、勝ち逃げするのか」
困ったような笑みを見せた彼に、エンカクは憎々しげな表情を見せ、押し付けられたシャイニングを抱えて歩いていく。
「待ってください……! グレイヴ……!」
「じゃあ殿任せて皆はさっさと離れて離れて! 巻き込みたくないから」
抱えられた状態でもがいているシャイニングの声を無視して、追ってきているであろうレユニオン達を迎え撃つために立ち止まったグレイヴ。
部隊の誰もがその覚悟に敬意を示し、足を引っ張らないように全力で後退していく。いつも冷静沈着なシャイニングの悲痛な声が響く中、グレイヴは微笑む。
「いやー、もうちょい生きていたかったけど、仕方ないか。…………名残惜しいけど、始めようか。──【開門】」
その言葉と共に空間が歪み、禍々しい雰囲気を纏った扉が現れる。
レユニオンの兵士の大群がグレイヴの視界に映った瞬間、それが開いた。聞こえる。聞こえる、聞こえる……死者の声が、亡霊の怨嗟が、生命の業が。
『第一拘束【憤怒】、解錠。我、万象悉くを滅する憤怒の炎。汝が背負う禍なり』
扉から巨大な太刀が現れ、それを彼は掴み取る。その太刀はまるで生きているように蠢めき、鞘からは脈動しているようにも見えた。
「借りますチェンさん………………抜刀──!」
引き抜いた瞬間、地獄の業炎が敵陣を焼いた。舞い上がる炎はまるで血を求める悪魔のように、怒り狂う竜のように敵を燃やし続ける。
「ぎゃあ!?」
「熱い熱い熱い熱いぃぃいいい!!」
「誰が……助げ……」
燃える、燃える、燃える、燃える。灰すら残さない程の熱量が、万象悉くを燃やし尽くす。
「────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
焼き滅ぼす度に全身を焼くような痛みに襲われる。最早感覚すら残っていなかったはずの彼の体が、痛みに悲鳴を上げた。
「ぐぅうう……!」
「──今だ! 奴を殺せ!!」
『第二拘束【嫉妬】、解錠。我、万象悉くを飲み込む嫉妬の濁流。汝が背負う禍なり』
太刀が灰になり、レユニオンの兵士が男性に接近してくる。だが、代わりと言わんばかりに新しい武器が扉から現れた。
それは蛇を模した杖。彼がそれを地面に叩き付けた瞬間、彼を中心に大地を飲み込むほどの水の濁流が百を越える敵を飲み込んでいく。
『第三拘束【傲慢】、解錠。我、万象悉くを刈り取る傲慢の刃。汝が背負う禍なり』
「お゛お゛お゛お゛お゛ぁ゛ぁ゛あ゛!!」
新たな武器を手にしたグレイヴの咆哮が、渓谷に響き渡る。その咆哮と共に繰り出された大鎌の一撃が兵士の命を刈り取り、灰となって消える。
「術師! あの死に損ないに集中放火を浴びせてやれ!!」
「ゴボォッ! ──寄越せ゛ぇ゛え゛え゛え゛!!」
『第四拘束【暴食】、解錠。我、万象悉くを喰らい尽くす巨壁。汝が背負う禍なり』
血の塊を吐き出しながら、新たな武器……否、盾を掴み、構える。その盾は顎を開き、爆炎を喰らい尽くし……吐き出した。
その吐瀉物は術師達に襲い掛かり、跡形もなく溶かし尽くす。絶叫が響き渡り、それに満足したように顎を閉じた盾が朽ち果てる。
『第五拘束【色欲】、解錠。我、万象悉くを石へと変える魔性の瞳。汝が背負う禍なり』
「ぎぃ゛い゛い゛い゛い゛……!!」
瞳を抉られたような感覚と共に魔眼を解放した。その瞳は例え気配を消していようとも、見た者達が全て石となって朽ち果てさせた。
『第六拘束【怠惰】、解錠。我、万象悉くに安らぎを与える管弦。汝が背負う禍なり』
現れたのは禍々しい雰囲気を纏った
あれだけいたレユニオンの大群が一人によって消される。残ったのはそれを行った者と、死屍累々、そして【獄門】という謎の扉。
『第七拘束【強欲】、解錠。我、汝の魂を求め、救いを与える強欲な剣。汝が遺す禍なり』
その声が響き、グレイヴは何かを求めるように歩き出す。
(ははっ、体がもう動かないはずなのに、動く……しかもこの方角──成る程……こりゃ確かに俺が遺す禍だ)
苦々しい表情を浮かべて歩く。向かっているのは撤退した時の合流地点。ロドス・アイランドの方舟や、家族がいるであろう場所。
血を流し、朦朧としていく意識の中、グレイヴの脳裏には彼自身の記憶が流れていた。
(ああ、懐かしい……エンカクとはよく……力比べをした。シャイニングとは……剣対拳で勝負したっけ……)
「! グレイヴさんが来た! ドクター! グレイヴさんが戻ってきたよ!!」
「酷い傷だ……! 緊急治療の準備──!?」
グレイヴの後ろから扉が現れ、奇っ怪な形状をした剣が現れる。それは仰向けに倒れたグレイヴの心臓に切っ先を向けて浮かんでいる。
誰もが混乱している中、柄から黒い手が無数に出現し、人の隙間を縫って二人のサルカズの腕を掴み、引っ張っていく。
「……!?」
「何だ……この黒い腕は……」
何が何だか分かっていない状態のサルカズ二人。辿り着いた先で、その二人は何かを理解して黒い腕から逃れようとした。
「おい、待て……それは……」
「嫌……! それだけは……! 止めて……!」
「──おい、手の空いてる奴らを集めろ! 全員だ! あの二人をあの剣に近付けんな!!」
シャイニングとエンカクの声で、何かを理解したのはガヴィル。その細身からは想像できない程の力で二人を押さえ込み、動きを少しばかり止めた。だが、それだけで、また動き出す。
その黒い腕が何をしたいのか察した医療班は青ざめ、すぐさま行動に移す。
「力自慢は全員ここであの二人を食い止めろ! 押すでも引くでもいい! 全力で止めるんだ!」
「ホシグマさんやマトイマル、スカジも連れて来い!! エフイーターさんとかもいるはずだ!!」
「止まれやぁああああ!!」
抵抗すればする程、黒い腕の力は強くなっていく。痺れを切らしたように黒い腕が増加し、二人を押さえていた人物全てをはね除け、遂に二人に柄を握らせた。
「……あはは、ごめんね、二人とも……こんな嫌なこと押し付けちゃって……」
血に噎せそうになりながら言葉を発したグレイヴは、エンカクとシャイニングを見て申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「そう思うんだったら、この剣をどうにかしてほしいがな」
「そりゃ無理……かなぁ……【獄門】は開けたら最後……まさかこうなるとは思ってなかったけどッ……!?」
「──!!」
剣は待つことをしなかった。心臓の貫き、温かな鮮血が二人の顔に降りかかり、エンカクは顔を忌々しそうに歪め、シャイニングは声にならない絶叫を上げ、なぜかまだ生きているグレイヴは本当に申し訳なさそうな表情を浮かべた。
『全拘束解錠。【惜別の門】、開門。我、対価を受け取る者。汝、望みを告げよ』
「……はは、はは……そっかそっか……じゃあ……エンカク、シャイニング……ここにはいないけど、リズ……」
正真正銘、最期の力を振り絞り、二人の家族を抱き寄せたグレイヴははっきりと呟いた。
「愛してる……こんな世界でも……俺の分まで笑わなくてもいいから……生きてください……絶対、幸せになって……!!」
『願い、聞き届けたり。我、汝の望みを叶える者なり』
その声が響いた瞬間、エンカクの体の至るところにあった鉱石病が消えていく。まるで呪いが解けたかのように霧散した源石……そして、グレイヴの体が崩壊を始めた。
「待って……グレイヴ……! あなたはどうして……!」
「……俺は……どうして……いつも皆を……泣かせてしまうんだろうなぁ……全く……どうしようも……ない……な……」
その言葉と共に、灰の山となって消えた。その上には、真っ赤な宝石が涙の形にカットされたペンダントだけが残る。
【死にたがりのグレイヴ】……そう呼ばれた本当は誰よりも生きたいと望んだ男……そんな彼の最期は、こんなにも呆気のないものだった。
【惜別の門】
【獄門】を開いた者が、対価を支払い、どのような奇跡すらも起こすことができると言われるもの。
グレイヴはエンカク、シャイニング、ナイチンゲールの幸せを望み、【門】はそれを聞き届けた。家族を対価に手に入れた幸せ……果たしてそれは、幸せだというのだろうか?
ちなみに剣から出てきた黒い腕はボタン連打によって加速します。つまりグレイヴ君を殺させたのは私だ。