アークナイツRPGをエンジョイプレイ、DLCを添えて 作:エヴォルヴ
奇っ怪な音楽が流れた。この地獄のような空間には似ても似つかない音楽……その音楽と共に、それは現れた。
「横から失礼するゾ~!」
「ガッ!?」
タルラによって殺されそうになっていたオペレーターが蹴り飛ばされる。蹴り飛ばしたエラフィアの青年がタルラに斬られた……ように見えたが、彼の腕が彼女の剣を防ぎ切っていた。
「何……?」
「いきなり攻撃したら危ないでしょうが……! 俺がタクヤさん達に鍛えられてなかったら……ってちょっと血が出てるし……痛いですね、これは痛い……縛らなきゃ……(止血)」
「(止血後の患部は)冷えてるか~?」
突然、坊主頭の胴着を着た男が現れた。ロドス・アイランドのオペレーター達も、レユニオン・ムーブメント達も困惑している中、更に胴着を着た男が二人増えた。
「(処置を見て)大丈夫ですよ、バッチェ冷えてますよ」
「応急処置はしっかりしてますけど、あとで治療してくださいね?」
「ありがとナス! あ、お三方、出てきてすぐで悪いんですけど……俺、戦うつもりはないんですよ」
「ファッ!? クーン……(戦意喪失) まぁ、トーマスは平和主義だからね、しょうがないね(理解)」
そう言って彼らは影のように溶けて消えていったが……アーツらしき存在を操る彼に、誰もが視線を向けている。
「……じゃあ俺、ゾーヤが心配なんで、消えっから……」
「……行かせると思うのか?」
「何か……(この人との会話が噛み合わなくて)駄目だな……」
何 か 出 て き た 。
紙粘土で作られたのかと思うほどのクオリティである……ペンギン……? が何匹も現れ、その中にはなぜかアザラシもいる。……本当にアザラシなのかは疑問が尽きないものではあるが。
それが起こったのは、警戒を強めようとした時だった。
「(武器を取り上げて)何だこれよぉ?」
「なっ……!? いつの間に……!?」
ペンギンの一羽? がレユニオン・ムーブメントの武器を取り上げていた。そんな体のどこにそんな速度を出せる機構があるのだろうか?
「何だこれよぉ? (死亡確認)」
気付けば、レユニオンの兵士の死体が転がっていた。部位ごとに細切れにされており、ロドス、レユニオン問わず誰もが吐き気に襲われる。
「バラ鞭(武器の隠喩)って言うんですか? 最初は痛くって、えぇ? って思って、持ってた人、バラしたんですけど(反撃)」
もう一羽のペンギンが攻撃されたのか、反撃によってレユニオンの兵士を細切れにしたと発言。警戒レベルが最大に引き上げられる中、誰も動くことができない。その理由は……
「誰が動いていいっつったんだオォン!? (激昂)」
「ギャアッ!? 俺の腕がぁぁぁ!!?」
「痛ぇ……痛ぇよぉ!?」
「痛いのは分かってんだよオラァァァァァ!! YO!!」
恐ろしい男が、彼に攻撃しようと動いた瞬間に誰彼構わず竹刀で叩き伏せるのだ。その殺気に当てられて、誰もが立ち竦んでいる。
「おー、暴れてますね蓮さん。でも俺戦うつもりはないんですよ」
「そりゃ知ってるがなぁ……このレユニオン? だったか? こいつらゾーヤの親父さん殉職させたんだぜ?」
「……は?」
ゾワリ。
空間が殺意で歪み、空気が凍りついていくような感覚に襲われ、誰もが彼の動きに注視しているそんな中、彼は溜め息を吐いて目を閉じた。
「…………ショギョムッジョ……人はいつか死ぬからね。仕方ないね。それなら尚更ゾーヤが心配だ……こんなことしてる場合じゃねぇ、さっさと行かねば……!!」
そう言って、彼は恐ろしい速度で走り去っていく。それを止められる者は誰もいなかった。
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某日、ロドス・アイランド、訓練所にて。
「おい、打って来い打って来い」
「オラァ!!」
「ハッ(嘲笑) そんなんじゃ虫も殺せねぇぞ!」
正拳突きを叩き込まれ、ズィマーが吹き飛ばされる。手加減しているのか、軽く咳き込む程度で復帰したズィマー。
追い討ちをかけるようにして胴着を着た男が飛び蹴りをかます。それを回避してズィマーが全力で斧を振り抜くが……
「カスが効かねぇんだよ! (無敵)」
何事もなかったかのように受け流された。
「嘘だろ!?」
「筋はいいが、基礎を更に磨くべきだ。そんなんじゃ足手まといだぞ」
胴着姿の男の名はAKYS。迫真空手という謎の流派の師範代であり、あのエラフィアが使う自立して行動するアーツにて呼び出される存在。とある日を期にして、ウルサス学生自治団の訓練を主に行うことになった男である。
「長物の扱いは……HNDに頼むべきだな。今日はここまで! 明日は……トーマス探してHNDに武器を使った戦闘を叩き込んでもらえ」
「お、推忍……」
足払いから瓦割りを寸止めされたズィマーが、冷や汗を掻きながら返事をすると、AKYSは影に溶けるようにして消えた。
「だぁぁぁ、疲れたぁぁぁぁ!!」
「ズィマーお姉ちゃん、お疲れ様! はい、飲み物!」
「サンキュー……はぁ……強すぎんだろ師範代……」
グムから受け取ったドリンクを飲みながら溜め息を吐いたズィマー。座り込んでいる彼女の耳に、悲鳴のような声が入ってくる。その方向を見ると、着流しを着た男性と逆三角の肉体を持ったサングラスの男が、訓練に来ていたオペレーターを徹底的に鍛えている。
「精度が上がってないアーツなんて必要ねぇんだよ! 弾幕も薄いんだよなぁ! おら、落ちろ! ……落ちたな(確信) 何寝てんだよ! (理不尽)」
「こら、何をボサッとしている。敵は待ってくれないぞ」
「うわぁ……」
アーツの精度を指摘し、高台から引き摺り落としたと思えばフライングプレスを決めようとしてくるグラサンの男はタクヤ。『悶絶少年専属調教師』という謎の肩書きを持つ実力者である。
攻撃してくる訓練生を、いい音が鳴るビンタのみで捌ききる着物の男は平野源五郎。エラフィアの男、トーマスの扱うアーツの中でも一二を争う存在であり、トーマスや謎の男達からは店長と呼ばれている。
そんな二人の扱きは、訓練生達の中でも恐ろしいものらしく、「ドーベルマン教官の方がまだマシ」という者もいるほどだ。
「平野さんとタクヤさん、相変わらずスパルタだよねー」
「だな……そういやグム、食堂はいいのか?」
「うん! 中野さんがやってくれてるよ!」
中野というのはトーマスのアーツによって呼び出される料理人であり、このロドスの食堂ではグム、マッターホルン、中野でシフトが回っている。
「そうか。……腹減ったな。飯食いに行くかぁ」
「あ、じゃあグムも行く!」
平野とタクヤに扱かれ続ける訓練生達に、心の中で合掌してから訓練室後にした彼女達の頭の中は、もう昼食のことしかなかった。
「……あん?」
「あれ?」
食堂へ向かうズィマー達の視界に、目を疑うような物体が飛び込んできた。なぜか廊下にラーメン屋の屋台が鎮座しているのだ。
「屋台……? グム、こんなのあったか?」
「ううん。なかったと思うよ」
「あらいらっしゃい!」
「うおっ……!?」
後方から元気よく挨拶が飛んできたと思うと、前方にそれは現れた。真っ黒で艶があり、枝分かれした角を生やし、ヘラヘラと笑う青年……ロドス・アイランド、レユニオン・ムーブメント、龍門近衛局、ライン生命……数々の派閥から警戒される男……ノンディスペアーその人である。
「んだよトーマス先輩か……」
「そうだよ。(肯定) 呼んでも呼ばれなくても現れる……というかあなたの心の中にいつでもどこでも365日いつまでも何度でも潜んでる助言者トーマスだ。ノンディスペアーと呼んでくれよな!」
「「どっち?」」
ゲラゲラと笑っている彼を見ていると凄く気が抜けるが、彼の本性を知る者は嫌でも考えてしまう。何を思って目の前にいるこの男は嗤っているのかと。
そんな本性を知らないズィマーとグムは、相変わらずのハイテンションだと思い苦笑した。
「あ、そうだ。(唐突) お前らさ、腹減ってない?」
「いやまぁ……減ってるけど……」
「うちさぁ、ラーメン屋台……やってるんだけど……食べてかない?」
お前が犯人かと言わんばかりの視線を向ける二人へ、ニコニコと笑みを浮かべる彼に毒気を抜かれたように溜め息を吐き、ズィマーとグムは席に座る。
「味噌ラーメンで」
「グムは醤油!」
「あいよー。すぐ美味しいとはいかんが待ちなすって」
そう言いながらも凄まじい速度で器に盛り付けていくトーマス。スープのいい香りによって空腹に追い討ちをかけられているそんな中、ズィマーは違和感を感じた。……具が多いのだ。それも、異常なまでに。
「トーマス先輩? その凄まじい量の具は……?」
「?」
トーマスの首が梟のように曲がる。まるでズィマーの指摘が理解できなかったかのように。
「いや、量! 量が! 多い!!」
「極東のチェーン店でね。田所先輩やMUR先輩、木村先輩にも人気よ?」
「いやそれは……いくらなんでもボリュームが……」
「んー、訓練終えたソニアなら食べれるかと思ったけど……ラーダは問題なさそうだし」
そう答えながらチャーシューをカットして盛り付けていく。そうして彼女達の目の前に置かれたのは……
「味噌ラーメン、チャーシュー大盛と醤油ラーメン、色々大盛お待ちどう」
普通より量が多いくらいのラーメンだった。
「……?」
「いや、多いって言ったからさ」
こんなナマモノでも一応気遣いはできる男である。ヴィクトリア出身者から「彼は戦闘中以外はわりとヴィクトリア紳士だ」という評価を貰えるくらいには。
しかし油断してはいけない。この男、戦闘中は「目の前にいるこいつは何が地雷かな?」という思考で動いている節があり、相手が嫌がることは徹底的に行うのだ。
以前行われた合同演習にて、彼は一人でドクターが指揮を執るエリートオペレーター達を相手取ったが、エリートオペレーター達の大半が彼の挑発に激昂し、それによって部隊壊滅。その中にはモスティマ、シルバーアッシュといった冷静沈着なオペレーターもいたはずなのに、である。
「……美味いけどさ……」
「うん」
「何か負けたような気がする……」
「美味しい! トーマス先輩、あとでこのチャーシューの作り方教えて!」
「いいですとも。(Wメテオ) スープの作り方も教えちゃう! あ、そうだ。ズィマー、AKYS師範代からHNDさんに長物の扱い教えてもらうようにって言われたんだって?」
ラーメンを食べ進めていると、トーマスが突然それを口走った。なぜそれを知っているのかというような表情を見せると、彼はニコニコと笑いながら口を開く。
「俺のアーツって、呼び出さなくても会話はできるからね。AKYS師範代から言われたよ。HNDさんは了承してる」
「何でもお見通しってか?」
「んな訳ないでしょ。そうだったらあの日、俺は色々やらかしてた」
彼が言うあの日とは、チェルノボーグ事変のことである。あの日、彼は学生達と妹のように可愛がっている少女を連れて、チェルノボーグから逃げ出した。連れ出してくれた彼に感謝する者は多い。だが、彼はそれでも悔やんでいたことがある。
「あそこが悪意に飲み込まれるのを見た人は多い。悪意、憎悪、恐怖、憤怒……絶望。君らにも色々無理させちゃったしね」
いくら不可思議なアーツを扱う彼であっても、全てを救うことはできない。だからこそ、間引く必要があった。学生達や妹は守る。だが、他の人は? 守りきれるか? 彼にとってそれは難しかった。学校の教員達に学生達を託された彼は、学生と妹だけを取り、他を見殺しにした。
「それは……」
「過ぎた話だけどね。……さて、この話は終わりだ。食べ終わったみたいだし、俺も片付けるよ」
いつの間にかスープまで無くなっていた器を受け取り、洗い物をしていくトーマス。その表情は先程のように強張ってはおらず、いつもの笑顔が浮かんでいる。
「頑張れ、二人とも」
「? おう」
「じゃあまたね、トーマス先輩!」
後輩二人に手を振って屋台を解体するトーマス。黙々と作業をしていると、ズィマー達が歩いていった方から誰かが幽鬼のようにフラフラと歩いてきた。
「……? ゾーヤ、どうした?」
「……」
「おーい、ゾーヤー?」
フラフラと歩いてきたのはウルサスの少女、アブサント。目に生気は宿っておらず、ただフラフラと歩いている彼女の様子にトーマスは頭を掻く。
「参ったなぁ……ゾーヤ、聞こえてないのか?」
「……ぅぅぅ……」
「Oh……(用水路ピエロ) あんまりこれはやりたくないんだけど……」
そう言って彼はアブサントの頬を軽く叩く。平野店長直伝のビンタは軽くでもいい音が鳴る。
「! あれ……私……何で……? ……トーマス?」
(んー、無自覚……? 夢遊病に近いか?)
「お疲れみたいだねゾーヤ。さっきボソボソと何か呟いてたよ」
「…………書類、結構多かったからかな。最近全然寝れないんだ」
トーマスは心の中でダウト、と呟いてアブサントを観察し始める。隈、目の充血、青い顔……寝不足であるのは確かだが、彼と彼が呼び出すナマモノ達は別の何かがあると睨んでいた。
『あー、クォレハ……』
(何かありましたか?)
『彼女、寝る度に何かから追い回される夢を見てますね。淫夢くんが確認しました』
そんな話を聞いた彼の表情は無へと変わる。ニコニコと笑う顔はどこへ行ったのかと思う程の無表情は、アブサントの目にも不思議に映る。
「どうしたの?」
「……いや? ──ゾーヤ、ちょっとおいで」
そう言ってトーマスは彼女の腕を引いて、自分の部屋まで連れていく。唐突な行動にアブサントは困惑気味だが、そんなこと関係ないと言わんばかりに彼は牛乳を温め、その中に蜂蜜とラム酒を溶かす。
「ほい」
「……え、と……?」
「飲みな」
有無を言わせない言動。こんな彼を見るのは久しぶりだと思いながら、アブサントは受け取ったホットミルクを一口飲む。温かい牛乳が喉を通ると、ふわふわとした感覚に襲われる。
「……蜂蜜少ししか入れてないんだが……まぁいいか」
「蜂蜜……?」
ウルサス族は蜂蜜で酔うことがあるが、アブサントもその例から外れない。酔って真っ赤になった彼女はうつらうつらと舟を漕ぎ始めた。
「……ぅう、ダメ……寝たら……また……」
「抱え込み過ぎダルルォ……!?」
「トーマスだけには……言われたくない……」
「褒めんなって」
うつらうつらとしている彼女をベッドに放り込み、明かりを最低限へと変える。動きに迷いがない。
「トーマス……」
「ん?」
ポツリと呟いた。
「夢を見るんだ……顔のない何かに追われる夢」
「うん」
「ずっと、後ろから……追いかけてくるの」
熱に魘されたように呟くアブサントの頭を撫でながら、彼女の話を聞くトーマス。その表情は無でもなく、ヘラヘラとした笑みでもなく……慈愛。
「捕まって、暗い底の見えない場所に、引っ張られるの」
「うん」
「…………トーマス」
「ん?」
何かを求めるように両手を伸ばすアブサント。昔もこんなことあったような、と思いながらトーマスは微笑む。
「抱っこ……」
「子供か君は……まぁいいけどさ?」
子供をあやすようにしながら眠りを促すと、ウルサス族の腕力でがっちりとトーマスを固定して眠りについたアブサント。起きてから何か言われそうだと思いながら、彼は笑う。
「おやすみ、アブサント。怖い夢を見ても、兄ちゃんがいるからな。大丈夫、お前は一人じゃないよ……」
この後、悪夢に魘されることなく熟睡したアブサントが、自分の言動を思い出してトーマスに八つ当たりすることになるのだが、それはまた、別の話。
ガバリストコラム
トーマス先輩:変人。ナマモノアーツ使い。可愛い妹と可愛い後輩達(彼にとって母校の生徒は全員可愛い後輩)を見捨てられるわけないだろ! と奮闘。勝ちゃいいのよ。卑怯? 卑劣? 下衆野郎? 褒めんなって。紅茶とチーズケーキしか出ねぇぞ。
ノンディスペアー君:狂人。トーマス先輩が豹変した存在。ナマモノアーツ使い。可愛い妹と可愛い後輩を見捨てられるわけないだろ! と奮闘。敵の作戦悉くを叩き潰す。不意討ち闇討ち何でもござれ。勝てば官軍、負ければ賊軍。人間の屑? ありがとう、君にはこの自家製チャーシューをプレゼントだ。
アブサント:トーマスの妹。昔、小さい頃にも怖い夢を見た時にトーマス君にあやしてもらっていた。