アークナイツRPGをエンジョイプレイ、DLCを添えて 作:エヴォルヴ
ロドス・アイランドには優秀な掃除屋がいる。ロドスに所属する職員なら誰でも知っていることだ。
そんな彼は早朝、自室で瞑想をしていた。
「……」
「ん……ふぁ……ジェイル、早いね」
相部屋の幼馴染みが目を覚まし、彼に声をかけたが、彼は全く反応しない。
「…………た」
「ジェイル?」
「救えなかった……救えなかった……! また……みんな……みんな死んで……! あんまりだ……あんまりじゃあないか……!」
ボロボロと涙を流し、叫び、慟哭の呻きを発する。
「何を間違えた……俺は……僕は……私はぁぁぁぁ!!? ……何を……何度……繰り返せば……もう……うんざりじゃあ……ないか……!! ああ……ウィーディ……ウィーディ……どこにいるんだ……私は…………役立たずだよ……」
苦悶の表情を浮かべ、突然頭を抱えたジェイルに対し、幼馴染みのウィーディは苦笑してベッドから抜け出し、ペチペチと彼の頬を叩く。
「ジェイル、起きて。大丈夫?」
「──────はっ!? ああ……おはよう……ウィーディ……」
頬を叩いてきた手を握り、震えを押さえるようにするジェイルに彼女は彼が落ち着くまで待つ。
「ああ……すまないね、ウィーディ……もう少しだけ手を握らせてくれ……」
「いいよ。落ち着くまで握ってて」
潔癖症の彼女を知るロドスの職員やオペレーターが見れば驚愕する光景が、そこには広がっていた。
「……ふぅ……ありがとう、ウィーディ」
「どういたしまして。大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ローランに近い構造だったが……前から大量の赤蜘蛛、右から脳喰らい、左からは貞子……酷い場所だった……」
苦々しげに口にする彼の言葉は嘘であると知っている。だが何を抱えているのか、彼女は知らない。幼い頃から、彼がたまに見せる発狂しているような呻き声も、その呻き声の意味も、それを隠す理由も……何も知らない。
彼の親友以外が知らないそれを、いつか話してくれると信じて、彼女は待つ。そう決めている。
「瞑想しながら遺跡に行ったの?」
「ああ、最近は職員が口煩いのでね。寝ながらやってみれば存外上手くいくものだった。だが酷い場所だった……二度と行かん」
嘘である。ウィーディはそれを知っているが、何も言わない。そっか、と笑って苦い顔をしている彼を一瞥してから朝一のシャワーを浴びる。
『ウィーディ、明日は一日オフだったかね?』
「ん、そうだよ」
『少し、買い物に行かないか? 前に君が言っていた店の予約ができたんだ』
ウィーディの体が一瞬痙攣した後、停止する。
『……もしかして予定があったかね? それなら仕方ないな……』
「う、ううん!? 大丈夫だよ!」
『──そうか。では明日、楽しみにしているよ』
そう言ってジェイルは通常業務へと向かう。彼が去った後、彼女は真っ赤になりながら纏まらない思考をどうにか落ち着けようとする。
(こ、これって、もしかして……デートのお誘い……!? 初めて誘われた……魅力ないのかなって思ってたけど……あ、服どうしよう……!? 全然持ってない……!)
「リーフ、どうしよ……」
彼女の思考は絶賛大混乱であった。
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「……ミコラーシュ」
「何かな?」
ロドス・アイランドの休憩室の喫煙所にて、午前中の業務を終えた二人の男性がミントシガレットを口に咥えて話していた。
一人はニヤニヤと不気味にも思える笑みを浮かべ、鳥籠を被り、制服のようなものを着た男性……マッドな雰囲気を纏った脳神経及び精神科医のミコラーシュ。もう一人は枯れ羽帽子を被って、裁きを待つ罪人のような顔をしているロドスの掃除屋ジェイルである。
「気持ち悪いと思われていないだろうか?」
「ふむ……大丈夫だろう。嫌がれなかったのだろう?」
「まぁ、そうだが……だが……嫌われたと思うと……」
「時折同衾する仲の癖に今更何を言うのかね君」
頭を抱える親友のジェイルに対して、辛辣にも思える言葉を吐くミコラーシュ。
「あれは昔からの習慣だ。別に疚しいことは何もない」
「煩悩を消すために私や学徒達に、鎮静剤を求めていたのは何だったのかね?」
ブシュウッ! とジェイルの体から血の槍が飛び出す。何をすればそうなるのか疑問は尽きないが、彼の思考に何か発狂ゲージが溜まるようなものが飛び込んできたらしい。
「鎮静剤は血腥いから嫌だと言われて、結局飲めなかった……」
「つまりその日にヤったと?」
「ヤってない……! 彼女にそんな邪な感情を向けられん……! 私の導きの光だぞ……!? 咄嗟に意識を夢に移した!」
変なところでピュアで紳士な彼に対して、ミコラーシュは溜め息を吐く。殺し合った親友の仲ではあるからこそ、背中を押さなければならないが、背中をパッチ・ザ・グッドラックが如く押そうにも、ジェイルの心は鉛の秘薬を服用した処刑隊並みに堅物だ。下手に押しても逆に妥協されていない最強変形車輪によるカウンターを喰らうくらいには堅物な彼に対して、言えることはただ一つ。
「彼女だって男女で共に寝る意味は理解している。理解しながらも共に寝るということは、そういうことだろう? あちらから誘われたのなら、尚更だ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
喫煙所に自らの血液を撒き散らし、絶命したように倒れた彼は、何事もなかったように起き上がってその血液を、とある武器に吸わせる。
「……千景をそう使うのは君が初めてだろうな……」
「便利だぞ」
「カインの騎士達が見たら激昂するぞ……」
幾学模様の刀身が彼の血を啜り、残った血液も試験管で残さず回収したジェイルは四次元ポケットと化しているコートに一本だけ残して全て捩じ込む。
「研究に使うといいミコラーシュ。上位者への祈りはもう必要ない気がするが……」
「ありがとう、友よ。また今度舌を噛むほどに語り明かそうじゃないか……あの日、あの夜のことを。我々のみが知る、別世界の古都を」
「私としては勘弁願いたいがね……あれは地獄だっ──」
『ギャアアアアアアアア!!??』
「「……」」
絶叫が聞こえた。
「……君、何か儀式素材でも置いていたかね?」
「いや、今日は全く。…………眷属の死血と上位者の叡智を棚に置いたままだったが……」
「ふぅむ……それではないな。他には?」
確実にそれである。この男達、啓蒙がカンストしていることへの自覚がないためか、あれを見た一般人がどうなるのかを最早忘れている。
「儀式の血は置いてないしなぁ……うーむ……うーむ……! あ、そういえば小アメンの腕を立て掛けていた」
「それだ」
不 正 解 で あ る 。いや、当たってはいるが、さほどの問題ではない。問題は眷属の死血と上位者の叡智だ。早く気付け。
「さて、休憩も終わったところだし、行こうかな」
「む? 掃除かね?」
「いいや、違う」
勿体ぶるようにした後、ジェイルは微笑んで答える。
「マラソンさ。ナッパもだが……イズも行かないといけない。雷光スタマイが欲しいんだ。あと、貞子マラソンもやらねば」
「他に趣味を作りたまえよ、君」
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「ぬぅ……出ないなぁ」
9kv8xiyi……それは地底人のスタートと呼ばれる聖杯ダンジョン。そのマラソンを行っているジェイルの顔は思案顔だった。
「形状変形もしないし……ふーむ……うむむ……」
唸りながらも3デブと呼ばれているそれらを狩りまくる様は、まさに訓練された地底人だろう。形状変形もしないそれを根気よく行っている彼は溜め息を吐き、天を仰ぐ。
「……ふぅむ……むむむ……む?」
鐘の音が共鳴した。自分以外に狩人はいないはずだが、と困惑していると、長身の男性が現れた。
「……何だここは」
「む……!? エンカク君か」
「…………お前の仕業か?」
「ふぅむ……それが分からないのだよ。鐘を鳴らした覚えもなくてね」
サルカズの剣士、エンカクが就寝をしていると、どういうわけか聖杯ダンジョンに紛れ込んでしまったようなのである。
「そもそも、ここはどこだ?」
「聖杯ダンジョンさ。私の趣味の場でもある」
酷く楽しそうに語る彼に、エンカクは少し引いた。カビ臭さも感じるこんな場所に、何があるというのか……そんなことを考えていると、ジェイルは聞いてもいないのに答える。
「力さ」
「──何?」
「ここで手に入る血晶石というもので、武器に更なる力を与えるのさ。私の千景もそうだ」
クスクスと笑いながら彼が取り出した刀に、エンカクはゾワリと肌が粟立つ感覚を覚えた。彼が握る【千景】には、呪われた濡血晶石が三つ搭載されており、その二つが最高倍率スタマイ、もう一つが最高倍率全マイというもの。恐ろしい力を孕んでいるそれに、エンカクはらしくもなく惹かれた。
「興味があるようだねぇ?」
「力にはな」
「歓迎しよう! 新たな地底人!! さて、手順が色々あるが……今回だけ、特別にこの聖杯ダンジョンも体験してもらおう!」
興奮したように走り出すジェイルを追って、エンカクも走り出す。梯子を登った先にいた敵を殺し、その奥へ向かってレバーを起動し、来た道を戻って閉ざされていた場所を開く。
「さぁ、ここからはこれを」
「……銃?」
そっと手渡された銃に訝しげな表情を見せると、狩人はニッコリと笑う。
「ラテラーノ銃ではないから誰でも撃てる。使わないなら使わないでいいさ。面倒だがね」
そう言いながら扉を開いた彼らの前に現れたのは、三体の真っ白いデブだった。
「……何だあれは」
「3デブ」
「そのままか?」
「正式名称は忘れた。三体いるから3デブ。それで十分だよ」
3デブの一体が鉈を振り上げ、それに合わせてジェイルが発砲……怯んだところに勢いよくその腕を捩じ込み、内臓を引きずり出して破壊する。それを二、三回繰り返した頃、3デブの一体が倒れる。
「これを繰り返す。君ぐらいとなれば素晴らしい内臓攻撃が──!! ああ……素晴らしい……!!」
銃パリィを繰り返していたジェイルとは違い、エンカクは後ろから肉を切り裂き、剥き出しになった背骨を引きずり出し絶命させた。その威力に狩人は感涙している。まぁ、それをしながらも残っていたデブを殺す。
「……成る程。これは確かに……それで……これがそうか?」
死体から拾い上げたおどろおどろしい物体を見て、ジェイルは頷く。
「それが呪われた濡血晶だ。どれどれ……それは……?」
鑑定士が宝石などを鑑定するように、それをじっと見つめる彼は、少し経った後に歓喜するように叫んだ。
「Ooh,Majestic!! 呪われた愚者の濡血晶34.4%のスタマイとは!? 幸先がいいなぁエンカク君!」
「……そうなのか?」
「ああ、体力が最大の時に与えるダメージを増加するもの──!? しまった!? エンカク君、急用を思い出したので失礼する! 目覚めるのなら、これを使いたまえ! あ、あとこれは先輩からの餞別だ!」
そう言って狩人の確かな徴といくつかの聖杯、そしてマニュアルをエンカクに渡し、消えていった。そのまま一人残された彼は狩人の確かな徴を使い、目を覚まし、そのマニュアルを読む。
「……ほう? この炎の血晶石というのは……」
引きずり込まれた彼は、もう戻れないだろう。ようこそ地底へ。エンカクはこれからたくさんの地獄を味わうことだろう……具体的には温められたり、倍率が良くなかったり、マイナスオプションが良くなかったりと。頑張れ。
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さて、ジェイルがどうして慌てていたのか。それは彼が聖杯にどれだけ潜っていたのかが理由だ。
彼は夜ぶっ通しで聖杯ダンジョンに潜っていた。自分からデートに誘っておいて、それを忘れたかのように。
「くそ……シャワーは浴びた……髪は……大丈夫。香水もほんの少し付けた……」
「──ジェイル」
「!!」
慌てて準備をして、龍門繁華街の前……待ち合わせの噴水広場にて身嗜みの最終確認を行っている彼の前に、待ち合わせをしていた彼女が現れた。
「──や、やぁウィーディ……おはよう……」
「おはよ。えと……どう、かな?」
ウィーディの服装はいつもとは違う。白をメインにしたセーラー服に近い服を着た彼女を見た彼は、全身が熱くなるような感覚に襲われる。
「凄く……似合っているよ……」
「本当? ありがと」
微笑むウィーディは、心の中でグッと拳を握る。ロドスに来てから初めてのデートに向けて、一日だけではあるものの、彼女は準備をしてきた。
あまり見ないファッション雑誌とにらめっこしながら、ファッションに明るく、乙女同盟を結んでいる一人である
「それで……今日は店が開くまでに時間があるが……どうしようか?」
「んー……じゃあ、行ってみたいところがあるから、そこ行ってみよ?」
(……何か見られているが……まぁ、害意はないようだし、問題ないだろう)
「ジェイル?」
「! ああ、すまない。じゃあ行こうか」
二人は手を繋いで歩き出す。歩幅を合わせて歩く幼馴染みは初々しいカップルのようで、見る者全てが微笑ましいものを見るような視線を向けている。ウィーディとジェイルの一日デート、始まりである。
もしかしたらR-18の方も書くかも…?
多分これはまた続きます。
キャラに合いそうな血晶石はなんだろうね?