First Kiss   作:グルヌイユ

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小説書くのは初心者ですが妄想は一流のつもりです!
ですのでおこたのような暖かい目でご覧下さい。


第1話

 私の人生は破綻だらけのつまらない人生でした。きっとほとんどの自ら死を選ぶ人達も同じような虚無感と後悔を感じていると思います。私の人生はどこから狂ったのでしょうか?東京に上京したから?パワハラ上司の大嶋さんと劣悪な労働環境だった株式会社シーザーに出会ったから?親友が殺されたから?

 それとも……最初から間違っていたのかもしれません。ですが最後に私はこの社会に一石を投じてやろうと思います。この命に変えても、そしてこの文章を見た私と同じような人へ手遅れになる前に早く行動しなさい。 この遺書はマスコミ各社へ送って頂けると幸いです。      ──吉木徹也──

 近くには電車が走るこのマンションは東京に上京してから八年も住んでいる。早いものだ。ここへ来た時は東京で頑張ってなにかでかいことしてやろうと意気込んでいた。それが八年も経てばすっかり腑抜けになってしまった。いや正確には人として変わってしまったのだろう。

 住み慣れた部屋は綺麗に片付けた。家具はあれどここには塵一つない。時刻は18時を過ぎた。どうせ最後の晩餐だ。外食にでも行こうか。いつも買い物で使うトートバッグに遺書と財布、この間ベランダ用に買ったが出すのを忘れた安物のサンダルそしてポケットにスマホをつめてスニーカーを履く。

 玄関に鍵を閉める。もう見ることは無い扉に寂しさを感じる。

 

「ありがとな、今まで。事故物件にしちゃってごめんな」

 

 俺にとって死は美学だ。この考えは一年ほど前から抱くようになった。死ぬその瞬間をどれだけ美しく出来るか、或いはどれほど意味を持たすことが出来るかそれこそが美学だ。

 そして最近答えに達した。それは自殺をすることでかつての会社に復讐をしブラック企業の弊害を世間へ晒すことそして今の社会に俺という存在を問題として叩きつけることだ。

 最後の晩餐はマンションから歩いて5分の所にある行きつけのラーメン屋に決めた。ここはもう何百回と行ってる。

 初めて来たのは社会人二年目、深夜あまりにもラーメンが食べたい衝動に駆られてここに辿り着いた。

 

「へいらっしゃい!ってなんだ徹也か。カウンターなら空いてるぞ」

 

 中に入るとまあまあの客と人懐っこい大将そしてコクのある脂ギッシュな香りが俺を出迎えた。

 

「いつもので」

「へいよ!それにしても久しぶりだな。どうだい、最近の調子は?」

 

 大将は俺以外にも話しかけてるんじゃないかと言わんばかりの大声だ。

 

「会社をクビになりましてね、この一ヶ月はバイトと手当でなんとか……」

「おっと、そいつぁついてねぇな。ま、ラーメンでも食べて元気だしとくれよ」

 

 大将は一瞬だけ顔をしかめたあとすぐにいつもの笑顔に戻った。俺に気でも使ったのだろうか?

 待つこと五分、いつもので頼んでやってきたのは味噌ラーメン。何度食べても飽きが来ない。そのせいか僅か十分でペロりと完食してしまった。

 

「ご馳走様でした。大将、ここにお代置いておきます」

「おう!ってお前払う金額多いぞ、いつもみたいにピッタリ出すかと……」

「いえ釣りは大丈夫です」

 

 後ろから大将に呼びかけられるが無視をして夜の街に歩みを進める。

 さてどこで死のうか?

 沢山の人に目に付いて尚且つ遺書が荒らされることの無いそんな場所は……。

 歩くこと二十分、食後の運動としては十分だが死に場所を決めるには不十分だ。

 人気のない道を歩いていると前方から女性が近づいてくる。何気なくすれ違う……。

 

「きゃ!」

「うわぁ」

 

 しかし女性の方が突然倒れ込んできたため俺は為す術もなく一緒に転ぶ。お互いの荷物が道に無造作に散らばってしまう。

 

「すみません!」

「いえ、大丈夫です。転んだ様ですが痛みは無いですか?」

「はい……大丈夫です」

 

 俺の方に散らばっていた彼女の荷物とバッグを拾い集め手早く返却しようとした、が俺はそれが出来なかった。理由は彼女の持っているものにあった。

 

「遺書…………あのこれって……」

 

 彼女の疑問を遮るために多少乱暴にそれをひったくる。この後に用意される会話は何となく予想できるが俺としてはそんなもの聞きたくもない。しかし肝心のトートバッグも彼女がまだ持っている。仕方ないのでそれも早く返してもらうとしよう。彼女のバッグを差し出す。

 

「これどうぞ、それと私のトートバッグ返して貰っても?」

「その前に……私の質問に答えて貰ってもいいですか?」

 

 嫌な流れだ。しかしよく女性を見てみれば顔も整っていて美人だ。それにどことなく色気もある。こんな女性になら多少秘密をバラしてもいいだろうとたかを括ってしまうのが男のサガなのかもしれない。それとも死ぬ前だからあらゆることに無関心になってきているのかもしれない。

 

「なんですか?」

「自殺……をするんですか?」

 

 思ったよりもストレートに聞いてきて少しビビる。だが今日の日のことは何度もシュミレーションしてきた。

 

「違いますよ、不謹慎ですが友人へのドッキリで使うんです」

「ドッキリですか……」

「はい」

 

 短く返事をする。ここで変に騒がれて警察にでも連絡されれば今までの計画が水の泡となってしまう。故に微塵も嘘をつく素振りを見せてはいけないし慌ててもいけない。

 

「では中を拝見させて頂いても?」

「え?」

 

 先程まで反芻していた戒めを呆気なく破ってしまう。

 

「ドッキリで使うだけでしたら……中身は大した内容ではない……と思いまして」

「いえ、中身も見せるつもりでしたので……」

「だとしてもドッキリなら見てもいいですよね?」

 

 不味い不味い不味い。なぜこの人はここまで食らいついてくるのか、俺が死ぬことを感じ取ったとでも言うのか?

 これ以上の会話は危険と判断した俺は即座にトートバッグを奪い返すと彼女のバッグを返して足早にその場を去る。

 

「待って……きゃ!」

 

 短い悲鳴につい反応して後ろを振り返るとまた彼女は転んでしまった様だ。膝からは少し血が出ている。

 ここで見捨ててもいい気がするがそれは死ぬ前の未練になりそうで嫌気がさした。俺は死ぬ時には何にも縛られたくはないし地縛霊にもなりたくはない。俺は踵を返すとしゃがみこんで彼女に話しかける。

 

「何やってるんですか……」

「すみません……」

 

 生憎今ハンカチもティッシュも持っていないしもちろん絆創膏も消毒も無い。

 

「とにかく歩けますか?」

「えっと……ヒールが……折れてしまって」

「だったらこれ履いてください」

 

 俺はトートバッグから安物のサンダルを彼女の足下に揃えて置く。

 

「ありがとうございます……」

 

 彼女は履き替えてから覚束無い足取りで歩き始めた。

 

「とりあえずどこか座れる場所を探しましょう」

「すみません、私のせいで」

「私にも責任はありますから」

 

 その後二人で黙ったまま近くの公園にやってきた。特に誰もいないそこは月明かりがよく差し込んでいる。彼女をベンチに座らせる。

 

「少しの間だけ待っていてください。すぐ絆創膏や消毒を買ってきますから」

「本当にごめんなさい……」

 

 何度目かの謝罪の言葉を無視して近くのドラッグストアへ向かって走る。今頃は死ぬはずだったのになんで見ず知らずの人に振り回されているのだろうか?

 ドラッグストアでの買い物をすぐに終わらせ公園へと再び戻る。出来ればどこかへ居なくなっていてくれればという浅い願いは残念ながら叶わなかった。

 

「遅くなりました」

「いえ、全然……」

「それでは膝を出してください。消毒します」

 

 俺の指示に従った彼女はスカートを少し上げる。普段はあまり露にならないであろう。彼女の足は白く細い。その対比のように血は赤く垂れている。

 

「どうかしました?」

 

 声をかけられハッとする。ほんの一瞬見惚れてしまった。赤の他人の足に心を奪われるなんて我ながら最低だ。

 

「いえ、なんでもありません。それでは消毒します。染みると思いますが我慢してください」

 

 脱脂綿に付けた消毒を彼女の傷口につける。

「……ッ」

 

 彼女の我慢する声が喘ぎ声のように聞こえてしまいイタズラ心に火がつきそうになる。

 何をやっているんだ。

 自分の良心に語りかけられ目を覚ますと軽くティッシュで零れた消毒液を拭き取り絆創膏を貼る。

 

「もう終わりましたよ」

「わざわざ手当してくださってありがとうございます」

「いえいえ、それでは」

 

 今度こそ彼女とは一生のお別れだろうと立ち上がった。足がさっきよりも軽い。これで未練は無くなった。早く死に場所を探さないと。

 俺が歩き始めたその時彼女にそっと袖口をつままれた。

 

「あの……もう少しだけ一緒に居られませんか?」

「え?」

 

 振り返ると彼女は儚げで麗らかな瞳をして訴えていた。ずるい。こんな目で見られればだめだとは言えない。

 

「……分かりました」

 

 俺は彼女の隣に腰掛ける。彼女も話しかけてこないし俺から話すことも無いのでなんてことない時間が過ぎる。しかし驚くことに特に居心地の悪さは感じなかった。東京に来て以来ここまで落ち着けたことがあっただろうか?それだけ静かで安らげる。

 

「さっきの……」

 

 唐突に話し始めたのは彼女だった。

 

「遺書って本物ですよね?」

「本物ですよ」

 

 誰にも言ってこなかったはずなのに何故かその一言はすんなりと出た。

 

「それじゃあ……えっと自己紹介がまだでしたね。私三船美優と言います」

「吉木徹也です」

「吉木徹也さん……吉木さんはその……どうして自殺を?」

 

 当然の疑問で答えたくない質問だった。

 拍動が早くなって冷たい汗が背中を伝う。本当のことを言う気にはなれなかったので表面上の回答を話す。

 

「東京に来て八年勤めていた会社をクビになりましてね。それにもう疲れたんです。何をしても誰も気づいてはくれない。それなら私が生きてる意味なんか無いなって」

「私もそうなんです」

 

 急な賛同に思わず横を向いてしまう。彼女──三船さんはぼんやりと月を眺めている。

 

「変わろうと思って……今日慣れないヒールの靴なんか履いたんですよ。そんな少しの背伸びだけじゃ誰も気づかないどころか人に迷惑までかけてしまって……」

 

 後悔しているんだろう。三船さんの佇まいはどことなく影を帯びている。その姿を見ていると応援してあげたくなる。

 

「変わろうと行動できるのは……凄いことですよ。結果どうこうはやってみないことには分からないことですから。それとそのヒール似合ってますよ……折れてはいますが」

 

 俺が三船さんに送れるのは取ってつけたようなメッセージだけだった。それでも三船さんは小さく笑ってくれた。人を笑わせたのは一体いつぶりだろうか?でもそんなことは気にならなかった。それだけ今のこの時間に幸福を感じている自分が居たからだ。

 黙って見つめていると三船さんは俺の手を取った。不意のことに心臓が跳ね上がる。

 

「私……自分が大人なつもりだったんです。けどそんなことはなくて……だからワガママを言わせてください。お願いだから死ぬのを諦めて貰えませんか?」

 

 三船さんの口から飛び出してきた言霊は俺が一番聞きたくなかった言葉だった。

 

「残念ですが……もう決めたことですので」

 

 決意を表すために手を多少強引に放す。それでも三船さんは食いかかってくる。

 

「それでもお願いします。私吉木さんともっとお話したいと思いました……だから!」

 

 そんな事言われても困る。今までの計画も部屋の掃除も遺書もラーメン屋に払った過払い金も全て無駄になってしまう。それは困る。ここで信念を曲げるのは美しくない。

 俺の微妙な反応を見破ったのか三船さんは先程のカバンから携帯を取り出した。

 

「それじゃ連絡先だけでもいいので……交換して頂けますか?」

 

 彼女は携帯を向けてくる。どういう行動原理なのかまるで理解出来ない。結局俺は彼女の勢いに押されるがまま連絡先を交換した。

 

「ふふっ……」

 

 三船さんは嬉しそうに俺のアイコンを見ている。初期設定から何も変えていないのでおかしな所は無いはずなのに三船さんは小さく喜んでいる。

 

「そんなのこの後私が死ねば何も意味は無くなりますよ」

「それでも吉木さんが言ったんですよ……結果どうこうはやってみないと分からないって」

 

 この短時間で揚げ足をとられるとは……。

 三船さんは満足したのかゆっくりと立ち上がった。

 

「私……今まで流されて生きてきたんです。仕事も、人生だってつまづいてしまって……そんな自分を変えたいってずっと思ってたんです」

 

 三船さんは透き通るような声で高らかと宣言した。

 

「私……何回でもチャレンジしてみます。変われるように……でも上手くいかない時もあると思います。流されたりもすると思います。だから……」

 

 また手を掴まれる。

 

「私のこと見守っていてください、約束ですよ」

「そんな約束守れそうに無いと思いますけど……」

「守ってくれないと……えっと……わ、私も困ります」

「なんですか、困りますって」

 

 説得の言葉は何も出て来なかった。そんな三船さんの様子に思わず笑ってしまった。

 

「と、とにかく死んじゃダメです!ね?」

 

 その後何度も死ぬ死なない口論を繰り返した挙句ついに私の方が折れてしまった。

 

「分かりました……今日は死にません。それで納得して下さい」

「……納得はしませんが確かに夜も遅いですし、ここで手打ちにしておきましょう。それではおやすみなさい」

 

 そのまま彼女は公園から出て行った。俺の中にあった使命感と死ぬ気は鎮火されてしまった。こんな気分では美しく死ねない。結局俺の人生はもう少しだけ延期された。

 

 




三船さんのLASTKissってめっちゃいい曲ですよね。
好きです(直球)
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