First Kiss   作:グルヌイユ

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ダジャレ募集のために非ログインの方でも感想をできるようにしておきました。
理由意味分からんのう。


第13話

「以上で主な流れの説明は終わりますが、なにか他に気になることは?」

「特にありません」

 

 三十分くらいの打ち合わせも終わりいよいよ担当チームとの顔合わせということになった。

 

「それじゃあ担当の者を呼びますね。おーい、木下くん」

 

 社長が声をかけるとドアが乱暴に開かれる。そこからは見覚えのある若者が出てきた。

 

「初めまして! あ、先輩は久しぶりっすね、って今は親会社の人かー! ああえっと、木下大介です。短い間ですがよろしくお願いします」

 

 男性にしてはやや高い声は二年前から変わらない。特徴的なくせっ毛もブランド物の腕時計もなにも変わっていなかった。

 

「あとは任せるよ」

「任されました!」

 

 その後木下君に連れられVIP室とはお別れとなった。廊下に出てみると見知った風景になぜか安心感を感じた。まだ辞めて半年も経っていないのに随分と昔にここにいたみたいだ。

 前を歩く木下君はスキップ少し前のような落ち着かなさがある。犬の散歩しているみたいだ。

 

「また先輩と仕事ができるなんて感激っす」

「大げさだなー」

「えっと……お二人はどんな関係なんですか?」

 

 美優は困惑気味に尋ねた。

 

「僕が入社した時に僕の研修係だったのが先輩なんすよ」

 

 木下君はえへへと鼻をこする。彼の動作の一つ一つは愛嬌がある。一緒に仕事をしていた時もクライアントが女性だったら遺憾なくマダムキラーを発揮したものだ。

 

「その時に先輩にはめっっちゃお世話になったんで今でもマジリスぺっす」

「こんな子だけどいい奴だから気にしないでください」

「こんな子ってなんすかー」

「ふふふ」

 

 美優も心を開いてくれたようで笑みが漏れる。その刹那木下君もニッパっと笑った。そういうとこだぞ。

 俺の内心の忠告も空回りして木下君は得意げに話し始めた。

 

「いやーなんだったら三船サンには先輩の武勇伝とか聞かせますよ」

「そういうのいいって」

「聞きたいです……是非」

 

 美優は程よく空いていたスペースを瞬く間に詰め興味津々といった様子。それを見てさらに加速するを上げる木下君。これは手が付けられなさそうだ。しばらくは無視しておこう。

 

「先輩ね、携帯の画面が暗くなったときの反射を利用して変顔の練習するんですよ。あとドヤ顔で、ふいんきに流されちゃダメだよ、って言われた時はふんいきですよって言うべきか迷いましたもん」

「徹也さんは結構かわいいパジャマ着るんですよ。フードとかついていたり……あと口笛が微妙に下手なんですよね」

「そう! そうなんですよ、しかも本人割とノリノリなんですよねー」

「……もうやめて!」

 

 俺がストップサインを出してようやく二人は止まった。自分の何気ないクセを明るみに出されるとこっぱずかしい。

 二人が冷静さを取り戻したタイミングで今日の仕事先に着いた。オフィスの扉さえも変わっていなかったせいか灰色の去年が少しだけ舞い戻る。

 

「じゃまずは二人の紹介っすね。まあ軽く自己紹介でもしちゃってください。その後に三船サンにはお仕事のほうを体験していただきます」

「はい分かりました。その間徹也さんは何を……徹也さん?」

 

 これから大嶋さんに会うのか。なにも言われなければいいけど……それでも少し不安だ。

 頬に美優の指が優しく押される。そこで意識が元に戻る。

 

「美優……?」

「笑ってください」

 

 その一言で胸の内が熱くなるのを感じた。隣の木下君は気を遣ってスマホを眺めていた。その勘の良さが今の状況をより客観視させてくれた。多分耳まで真っ赤だと思う。

 木下君の後に続くと多くの人が出迎えてくれた。アイドルが来るということもあって顔も知らない人まで拍手をくれた。

 

 その中には大嶋さんもいた。

 

 

 

 第一目標はあっさりと達成でき残るは美優の宣伝だけとなった。美優のお仕事体験も滞りなく進み三日も経たずにシーザーから帰れそうである。この成果で美優が次の曲に参加出来たらなら嬉しい。

 ただ一つ気がかりだったのは大嶋さんだ。木下君曰くパワハラが発覚してからは窓際に追いやられこの仕事がうまくいかなければクビという文字通り首の皮一枚の状態らしい。

 それなのに仕事中の大嶋さんは以前と比べてどこか覇気がなかった。

 

「まあそんなこと気にしても仕方ないか」

 

 遠目で美優を見る。俺が勤めていた時に関わっていた人達よりも多くの人に囲まれていた。今日一日で大分打ち解けたようで笑った顔が目立つ。元OLということもあってかオフィスは勝手知った土地なのだろう。

 俺は喉の渇きを感じて自販機に買いに行った。ここのココアはおいしい。

 

「あっ」

「……おう」

 

 自動販売機の隅で大嶋さんはコーヒーを飲んでいた。その姿はやっぱり以前よりも小さく感じた。

 

「ひ、久しぶりです」

「そうだな」

 

 思わず声がうわずる。手汗は滲むし居心地は良くない。さっさとココアを買って帰ろう。

 財布を取り出しお金を入れた時だった。

 

「すまなかったな……」

 

 最初誰の声か分からない、それだけしわがれていた。けどその場には大嶋さんしかいなかった。

 

「お前の気持ちも鑑みず……俺はヒドイことをしたな」

 自販機を照らす蛍光灯以外は真っ暗の廊下。少し不気味なふいんきに飲まれそうになった。蓋がズレているごみ箱が気になる。

 今なら普通に話し合うことができそうな気がした。

 

「大嶋さんはどうして……その……元気がないんでしょうか?」

「元気……か」

 

 大嶋さんは小さくそう呟いて飲んでいた缶を投げ捨てた。しかしゴミ箱に弾かれたそれは寂しい音をたてて床に転がるだけだった。

 

「……俺に娘がいるって話覚えてるか?」

 

 大嶋さんに尋ねられ記憶の埃が払われる。確か大嶋さんが部長になったその日に家族との写真盾を見た気がする。

 

「あー、一応……」

「先月余命が決まった」

 

 今までせき止めていた何かが決壊したようなあるいはずっと握っていた拳をようやく開いたようなそんな何かが今の大嶋さんにはある気がする。

 

「それまでは娘のためにって何もかも顧みずに働いたのに……残ったのは疎外感と娘の諦めだけだった」

 

 語尾は吐き出すように短く脆かった。大嶋さんは弱弱しい背中のまま缶を捨てズレていた蓋をしっかり閉めた。

 

「なあ吉木、いっそ俺を殺してくれ。社会的でも精神的でも何でもいい。お前にはいろいろ迷惑をかけた。だからもう……」

「大嶋さん……」

 

 何となく合点がいった。大嶋さんがたまに会食と嘘ついてどこかに行ったのも日に日に口調が悪くなっていったのも働くために俺を身代わりにしたのも全部家族のためだったのか。

 頑張っていたことが空振りに終わってしまうむなしさは美優とのライブを思い出させた。

 でもだからって……。

 

「逃げないで下さいよ」

「吉木?」

「そんなことで今までやってきたことから目をそらすなよ。あんたの娘はまだ死んでないんでしょ! まだできることなんかあるでしょうが、それなのに頑張ってたこと簡単に捨てるなよ!」

 

 沙織はどんなに後悔しても死んだまま。葬式であいつの冷え切った手を握った時どれだけ自分の無力さを感じたか。そして同時に手を伸ばし続けることの大切さも知った。それでも諦めようとしたこともある。

 でも美優がアイドルを諦めていたら多分もっと後悔していた。

 だから今度も手を伸ばす。例えぶん殴りたい上司でも。

 

「会わせてください……娘さんに」

「だが……」

 

 大嶋さんは苦い顔をした後観念したように一言言った。

 

「面会時間まで時間がない。飛ばすぞ」

 

 病院に来たのは一年ぶりだ。だけど鼻をかすかに掠める病院独特の匂いは忘れていなかった。この香りがもし体臭になったら気持ちもやられてしまう気がする。

 目当ての病室にはまだ明かりが灯っていてそこから男の子が一人出てきた。

 その子はこちらを見るなりぺこりと頭を下げた。それに応えるように大嶋さんは視線を送った。

 

「神崎君、いつもすまないね」

「いや大丈夫ですけど……今日荒れてますよ」

「分かった」

 

 神崎君はそのまま行ってしまった。それとすれ違って俺たちは部屋へ入る。

 病院が元々置いている家具を除くと、本や何かのグッズが立ててある生活感の溢れる部屋だった。

 その中央に目を赤く腫らしこちらを射殺すように睨む少女がいた。

 

「さやか、今日はこのお兄さんを連れてきたぞ! この人なんとアイドルのプロデューサーなんだ!」

「あ……吉木徹也です」

 

 さっきまでとは格段にテンションの違う大嶋さんに驚きつつも自己紹介を済ませる。

 しかしさやかちゃんは布団にくるまって「帰って」というだけだった。

 

「いつもこの調子だ……だから無理にかかわる必要は……」

「いえ大丈夫ですから……こういうのスカウトで慣れてますから」

 一度も成功したことがないことを伏せて自信ありげな顔を演じる。

 

「あとは任せたぞ」

 

 大嶋さんはそれだけ言い残して病室を出て行った。

 

「さやかちゃんでいいかな? その……最近どう?」

 

 当然だが出会ったばかりの相手においそれと自分の話をするはずがない。重たい沈黙が漂うばかりだった。

 なにか突破口はないものかと戸棚を見つめると見覚えのある字がたくさんあった。アイドルのサインだ。それもあまり有名じゃないほうの。

 

「アイドル好きなの」

「……だから何? あなたには関係ないでしょ」

「僕ね、346でプロデューサーしてるんだ。高垣楓とか三船美優とか……知らないかな?」

「大手のアイドルは嫌い……会社の力だけで歌もダンスも大したことないくせにチヤホヤされて、本当に自分の力だけでファンを魅了する人だっているのに……」

「でも……346にだって頑張ってる人はいるよ」

「頑張るのなんて通過点だよ。生きるのに健康である必要があるようにね!」

 

 顔も合わせることなくさやかちゃんは俺の意見を一蹴した。会話に困り果てた俺はまたぼんやりと戸棚を見ると一つだけ綺麗に飾られている区間が目についた。

 

「沙織……」

「大手のプロデューサーはあんな人気のないアイドル知らないでしょ」

 

 俺はノロノロと戸棚の前に立ちサインに触れた。ああ……良かった。まだ沙織は忘れられてなんかいなかったんだ。

 

「……ファンのことは友達と呼んでライブ終わりに写真を撮ったり握手をしたりとても距離の近いやつ。そのくせ少しがめつくてお客さんに向かって平気であたしに金落とせとか言っちゃう」

 

 俺は忘れていると思っていた。でもそんなことはなかった。まるで説明書みたいにスラスラと情報が出てくる。

 

「衣装は自前でその裁縫スキルの高さからファンの服を縫うなんて企画もした。そのイベントわざわざ平日にやるから人全然集まらなくてその帰りは絡み酒された」

 

 どんなに高垣さんに迫られてもどんなに美優のことを好きになっても……多分ずっと好きなんだ。

 

「デビューした時からシュガーハートとは仲が良くて合同ライブとかもやってた。照明もろくに使えないぼろいステージに駆り出された時は流石に文句言ったなー」

「お兄さんなんで泣いてるの?」

 

 いつの間にか起きたさやかちゃんに指摘され自分が泣いていることに気づく。前にもこんなことがあった。年を取ると涙は簡単に出るのだろうか? 

 

「沙織と色んなことしたなーって思ってさ」

「ひょっとしてお兄さんってサオリンのマネージャーだった人?」

 

 さやかちゃんは布団を翻して会話に興味を示してくれた。

 

「いや違うよ。ただのファンだよ。高校時代からの」

「高校時代から?」

「うんそう、僕と沙織は親友だったんだ。最後の最後で喧嘩別れ……いや俺が勝手に見捨てちゃてね。あの時は死にたくなったなー」

 

 あの時のIFを何度も考える。どれだけ頭の中で時間を遡っても現実は変わらない。

 

「死にたくなったなんて嘘でしょ、だって今生きててしかも346じゃん」

「いや死のうとした直前である人に止められてね。気づいたらその人が俺の星になっていた」

「星って……」

「そう、その人情けないくらい自信なかったり本番に弱かったりするくせに星のようなアイドルになるって……言ってくれてさ」

 

 冗談を真に受けて照れ臭そうに笑う美優、グラビアの時は恥ずかしいとばかり連呼する美優、月の下でワガママを言ってくれた美優。少しづつ凍った心を溶かしてくれた優しい星。

 

「私も……今死にたいって言ったらお兄さんはどうする?」

「明日の午後二時くらいに346のレッスンルームに来て。俺にとっての生きる意味を見せてあげる。死ぬのは……そのあとでもいいんじゃない?」

「……死ぬのを止めたりしないんだ」

 

 さやかちゃんはそのことに驚いているようだった。普通そうだよな。

 

「私にとって死は美学なんですよ……なんてね」

 

 それを言い終わると同時に面会終了時間が来た。

 翌日美優のレッスンを見学しているとプレートを首に下げさやかちゃんがやってきた。ブロックを解除した大嶋さんから外出は一時間程度までとクギを刺された。

 

「お、お邪魔します」

「そんなかしこまらなくていいよ。どうこれがアイドルの裏側」

 

 さやかちゃんはレッスンルームの機材をまじまじと見つめとても感心していた。それと同時に美優がステップを間違え思わずため息が出た。

 

「本当にあんな人がお兄さんの星なんですか? ライブの映像も見ましたけど地下アイドルの方がまだいいパフォーマンスしますよ」

「随分辛口だね……実際その通りなんだけどさ。パフォーマンスだけでも見てってよ」

 

 実は事前に美優にはさやかちゃんの事情と彼女のために歌ってあげてほしいと言ってある。

 さやかちゃんが入ってきたことにより一度レッスンは終わり美優がこちらにやってきた。

 

「その子が昨日言ってた……さやかちゃんですか?」

「初めまして、大嶋さやかです」

「初めまして、こんにちは」

「ところで今日ライブを見せてくれるってホントですか」

 

 さやかちゃんは目を輝かせながら興味を示す。初対面でもグイグイ来るところに若さを感じる。ライブとまでは言ってなかったんだけどな……。

 

「えっと……ほ、本当ですよ」

 

 さやかちゃんは美優の言葉に一瞬だけ表情が明るくなりその後無表情になった。俺は音源を流すためスピーカーをいじる。俺には上手くいく確信があった。

 たった一人のためのライブが始まった。どうやら歌に専念するようで踊り始めず美優はマイクを両手で強く握り心を撫でるように歌い始めた。

 程よい優しさと儚さを全面に押し出した美優は真っすぐにさやかちゃんを見つめる。

 サビを前に握っていた左手を宙に掲げる。今だけは恋の歌というよりも死なないでほしい願いを美優は歌ってる。

 激しいダンスも照らす照明もない。でも確かに今、ここに美優の全身全霊があった。

 サビに入り美優は胸の前に手を置きながら想いを絞り出すように強く握った。

 最後の最後今までの愛しさと寂しさを混ぜた表情に美優は微笑を加えた。

 まさに圧巻のライブだった。

 

「なんで……こんなにできるのに……全然人気ない訳?」

「美優の弱点と長所は想いなんだ」

 

 やり切った美優にタオルを渡し、さやかちゃんの疑問を俺は捕捉する。

 

「美優は誰かを助けたいとか生きて欲しいと思ったときに本当の力を発揮するんだ。自分のためじゃなく誰かのために」

「誰かのために……?」

 

 前のライブが失敗したのは俺が生きる意味を見出したから、つまり美優が頑張らなくても俺が死ななくなってしまったからだと思う。そして今また目の前の女の子を助けるためにアイドルをした。だからあんなパフォーマンスができたのだ。

 

「そんな……大袈裟ですよ私なんて楓ちゃんにも心さんにも全然及ばなくて……」

「美優ちゃんカッコ良かったよ!」

「本当……? 頑張って踊った甲斐が……ありましたね……ふふ」

 

 さやかちゃんは完全に美優に懐いた? ようだ。そこで俺はおそらく言われたくないであろう言霊を放つ。かつての美優のように。

 

「実は俺のうっかりで美優のファンクラブまだ作ってないんだ」

「お兄さん何してんの? せっかく……」

「だから会員番号一番にならない? こっちも死ぬかもしれない人がファンにいるとありがたいんだ」

「徹也さんそれはちょっと……」

 

 美優の困惑を無視して俺はさやかちゃんをじっと見つめる。さやかちゃんは困ったように手を動かしながらゆっくりと話し始めた。

 

「私は────」

 

 

 

 

 さやかちゃんが帰り美優の着替えを待ちながらぼんやりしている時、すっと横に誰かが寄ってきた。

 

「見学者が来たようだな」

「はい、どうしてもほっとけなくて」

 

 美城常務は鼻を鳴らして缶コーヒーを手渡してきた。

 

「僕ココアがいいんですけど……」

「こういうものは黙って受け取れ……シーザーの件はご苦労だった」

「ありがとうございます。でもあれくらいの情報なら346で調べられたんじゃないですか?」

「ああ、容易いだろうな」

 

 美城常務はまた鼻を鳴らした。崩すことのできない牙城に内心ため息が漏れる。

 じゃあどうしてと訊こうとした俺の疑問を呼んだのか。美城常務はホームズのようにスッパと応えた。

 

「前のイベントで君が会場入り口で項垂れたという報告があってな。その後の性格の変化から失敗に弱い人間である可能性が出てきてな。だからかつてのトラウマを煽った場合に耐えられるかを確かめたかった」

「ひでー話」

「そう言うな。私は君のことを買っている、君は一流だ。担当アイドルの方は分からんがな」

 

 一流って何だろうか? ふと、さやかちゃんの言葉が蘇る。

 

【会社の力だけで歌もダンスも大したことないくせにチヤホヤされて、本当に自分の力だけでファンを魅了する人だっているのに……】  

 

「俺も美優も一流なんかじゃないですよ。一人じゃ何もできない。自分の力だけじゃ輝けないし死にたくなる。でも隣にプロデューサーがいてステージにアイドルがいて周りにファンがいるから進んでいけるんですよ」

「期待はしない……だがその言葉覚えておこう」

 

 美城常務がその場を立ち去ろうとしたときやり残したことをもう一つ思い出した。

 

「それと一つ頼みたいことが……」

「なんだ?」

「あと二、三日僕をシーザーに置いていただけませんか?」

 

 

 シーザーでの業務を終え今は美優のライブに一直線になっている。レッスンの終わった美優を待たせながらライブの段取りに一人芝居であーだこーだ考えている時ドアが乱暴に開けられる。

 美優と小動物のように恐る恐る確認すると入ってきたのは人懐っこい犬だった。

 

「こんちはー」

「木下君、ついにできたのかな?」

 

 木下君は大げさに頷くとそそっかしく手荷物を漁る。そして目的のものを提示した。

 

「それって……私のライブの?」

 

 木下君が持ってきたのは次の美優のライブ宣伝ポスターだった。反射する水面を蒼色のドレスで歩く美優はどこか神秘的でつい見とれそうになる。

 

「これが……私」

「これ作ったの大嶋さんなんですよねー。二日間くらいずっと先輩から何か言われてた……」

「世間話しかしてないよ」

 

 木下君の追求を躱しつつ俺は美優から受け取りカメラアプリを起動する。

 

「美優! ポスター持ってそこに立って」

「SNS用の写真ですね!」

 

 美優を撮り終え画像をアップロードすると瞬く間に拡散されていく。

 横からのぞき込んできた木下君も興味深げに観察していた。

 

「美優さんってアカウントあったんすねー、俺もフォローしよー……ってかこの子レスめっちゃ早くないっすか?」

「ああ、何たってファン一号だからな」

 

 俺は撮り終えたポスターを壁に貼りながらそう答えた。シンプルな内装にそれを貼って初めて他プロデューサーの気持ちが分かった。

 

「徹也さん見過ぎです……」

 

 美優に注意され言い表せない幸福感が俺を満たした。

 木下君の指さしたアカウント名にはSAYAKA@三船美優推しと書かれていた。

 




<長いあとがき>
 この二話でオリキャラめっちゃ出るやんと思われた方もいると思います。せいかい!というのもこの話元々短編で書こうかなと考えていた話なんですよ(ちょうど十一月くらいに)
で、その当時デレステにいい感じに慣れてきてて「どうせならコミュ作っちゃうか!」というフッ軽で始まったのがこの作品なのですが……まさかたどり着くまでに二か月かかるとは思っていませんでした。
でもいい感じに着地できた気がするので満足満足。
三船さんの歌うシーンは佐藤 亜美菜さん(橘 ありす役)を参考にしました。in factといい彼女の表現力には脱帽ですね。今鬼リピしてフルを買おうか真剣に悩んでます。
ちなみにここからは蛇足なんですがこの二話分にはパラダイム転換というテーマがあります。(確か習ったのは七つの習慣だった気がします。うろ覚えですね……)
僕らは日常を生きているとその背景を忘れてしまいがちになります。食べてるご飯は家畜や農家の方やお店の方の努力。歩いてる道も工事の方や耐久性を考える技術者がいます。
でもそのことを理解するのは難しいことだと思います。例えば今までパワハラ上司という側面しかなかった大嶋さんが難病娘の父というのは吉木君としても飲み込みずらい事実。
でもその殻を破れるのは結局自分しかいないんですよ(だとしてもパワハラはダメなんですけどね)
だから僕達も一つの視点に捉われずに殻を破れるようになりたいですね。
ってこんな偉そうに語ってますが僕はつい先日人に当たってしまいました。やっぱり一流には中々なれないものです。でも焦らず一歩一歩成長していきます。
吉木君と三船さんのように
<参考文献>
広告マンの「お仕事」と「正体」がよーくわかる本 著秋山 謙一郎
広告 業界の仕組みとながれ 著イノウ
広告業界の仕事図鑑 著宮嶋和明

<参考動画>
comical pops(デレステ声優たちのライブ)のpv2の 「to you for me」リンクを乗せていいか分からなかったので文章で打っておきます。
多分comical popsとyoutubeで検索をかければ出ます。気になる方はぜひ
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