暗闇の中目が覚める。薄目を開きながら時刻を確認すると7時を少し過ぎたくらいだった。まだ寝ていたい。回らない頭で今後の予定を組み立てる。
9時から6時までバイト。それが終われば帰って死に場所探し。昼食はテキトーにコンビニで買えばいいだろう。弁当は面倒臭いし何より冷凍食品はまだ買っていなかったはずだ。だから今日は買い物にも行かないと……めんどくさいな。それもこれも全部あの三船とかいう女のせいだ。もし彼女がいなければ今頃は天国にでも行っているはずだったのにな。
昨日歩き回った疲れのせいか体がダルい。眠気に負けてこのままもう数分は寝ていよう。バイト先には15分足らずで着くし朝食も多分冷蔵庫にはろくなものが入っていないので抜こう。じゃもう少しだけ……。
プルプルプルプル……。
着信音が俺だけの部屋にこだまする。驚いて音の発信源を見るとベッド真横の机の上でスマホが震えていた。
俺に電話をかけてくる人なんか今はいない。会社の人達は関わりたくないからブロックしたしそれ以外の連絡先で朝から電話をかけてくる人なんていない。
眠い目を擦りながらベッドから降りることなく手を伸ばす。相手を確認する前に応答ボタンを押した。
「もしもし、吉木ですが……」
「もしもし、おはようございます。三船です……」
電話をかけられて思い出した。そういえば連絡先交換してたな。
「用件は?」
眠りを妨げられて少しぶっきらぼうに会話を急かす。
「いえ……その、昨日の出来事が夢だったような気がして……それに朝から死にに行かないか心配で……」
言われて気がついた。確かに死ぬ時間帯って夜じゃなくてもいいじゃん!
「その手がありましたか……」
「え?いやダメですよ!死んじゃダメです。分かってますか?」
三船さんの声のボリュームは先程よりも大きくなる。だが彼女のおかげで新しい死にアイデアが浮かんだのでその程度は気にならなかった。
嬉しくなってベッドから飛び起きる。綺麗な部屋を横断しカーテンを開いてベランダの鍵を開ける。眼下に見えるのは電線に止まるカラスの群れと日照権を持っているであろう家々。その間を横断している線路だけだ。朝日はとっくに街を照らしていた。太陽の眩しさに目を細めながらベランダに裸足のまま出る。その時にそういえばベランダだけは掃除していなかったことを思い出した。必然的に足の裏がどうなっているかも想像がつく。
こんなことならトートバッグからサンダルを出してここに置いておくんだった。
遺品になるはずのそれは今は三船さんが持っている。別に安物なので痛手でもなんでもないが今だけは少し後悔にたたられる。
「あの……話聞いてくれてますか?」
手に持っていたスマホから先程よりも弱々しい声が尋ねてきた。
「あ、すみません。忘れてました」
ベランダに出たままエアコンの換気扇に腰を下ろしスピーカーをオンにする。
「それでどんな話でしたっけ?」
「貸していただいたサンダルを返したいのでそのうちまた会いませんか?」
「いやあれくらいいいですよ。あげます」
「そういう訳にもいきません。傷の手当までして貰って……それにここで関係を切ってしまったら吉木さん死んじゃいそうな気がして……」
ご名答。だが関係があろうが無かろうが死ぬことに変わりはない。しかし昨日のイタズラ心が疼き出してしまった。
「実は……今ベランダにいるんですけど、今から飛びましょうかね」
すると携帯からドタドタと音が聞こえた。
そんなに焦ることないのにとも思ったが冷静に考えれば昨日死のうとしていた男がまた死ぬと言っているのだ。正常な人間なら止めに入るのが普通なのだろう。
「今どこですか!絶対にそんなことしてはダメです!」
朝からよくこれだけの大声が出るな。少なくとも俺には無理だ。
「冗談ですって……私は死ぬ時には美学をもって死にますから」
「そんな美学なんか持たないで……」
カァー。
三船さんが言い終わるよりも早くカラスの鳴き声が彼女のセリフを奪う。割と大きな声で鳴いたな。
「あの……今カラスの鳴き声が……」
「ええ……この時間はよく鳴いてますよ」
俺がそう言うと彼女から息を飲む音が聞こえた。
「あの、今って電車が走ってますか?」
言われて線路を見ると電車が走っていた。
「はい走ってますよ……なんで分かったんですか?」
言ってから気がついた。嫌な予感がする。偶然が重なっただけだと信じたい。しかしそれは淡い期待だった。
「ひょっとして……吉木さん坂部マンションに住んでます?」
三船さんの推測は正解だ。つまりそれは同じマンションに住んでいるかそうでなくてもこのマンションに今居ることになる。でなければリアルタイムでカラスや電車なんか分かるはずもない。
驚愕のあまり声が出せずにいると三船さんは沈黙を肯定と受け取ったようだ。
「何号室に住んでいますか?」
完全に墓穴を掘った。これからは何とかバレないように努めなければならない。もしマンションの出入りの姿が見られれば外での自殺はもう絶望的と言っていい。もし俺が自殺しようとする所を見られればまた止められるだろう。
「それを言ったら来るじゃないですか」
「サンダル返さないと……」
「だからそれはいいって言ってるじゃないですか」
「とにかく今から会いませんか?お願いします」
昨日の印象からもっと気の弱い人だと思ったら意外にもグイグイくる。それとも知り合い(ほぼ他人)が死ぬと分かって行動力が高くなっているのだろうか?どの道こういう時は撤退に限る。
俺は通話終了ボタンを押した。そして即座に携帯の電源を落とす。死ぬための障害が増えたことで先程までの気持ちの良さはまるで無くなってしまった。残ったのは足裏の汚れだけだ。
「洗うか」
先程の会話で完全に覚醒した俺は風呂場で汚れを落とし冷蔵庫にかろうじて残っていたもので朝食を済ませた。
その後携帯の電源を付けてみると三船さんからの三件の不在着信が画面に表示される。
ネット掲示板で見ていた住所特定がこんなにも怖いものだとは……。早い所死んでしまおう。
ピーンポーン。
無機質なチャイムが来客を告げる。タイミングがタイミングなので無音のまま手に持っていたスマホを落としてしまった。スマホを拾いながら良くない考えが頭をよぎる。
二度目のチャイムが鳴り流石に無視は出来ない。玄関へ行き恐る恐るドアアイを覗く。 そこには三船さんがいた。嘘や幻であって欲しかったがこれで完璧に住所がバレた。大人しく観念して扉を開ける。
「おはようございます」
電話を切られたことを根に持っているのか少し雰囲気がトゲトゲしている。
だがそれ以上に住所をあっさりと当てた三船さんが怖い。だってバレる要素はないはずだ。俺は隣人への挨拶なんかここ一年してないし十階を越えるこのマンションの一住人のことなんか把握している人なんてまずいないはずだ。
「どうして部屋が分かったんですか?」
「大家さんに事情を話して教えてもらいました」
「あーなるほど」
思わず納得の声が出てしまう。その手があったとは……。
「ところで事情を話したというのはどこまで?」
「昨日助けてもらったことと話を聞いて頂いたことだけです」
良かった……。自殺のことはバレていない。これ以上人に伝われば警察沙汰にもなりかねない。それだけは勘弁して欲しい。
「そうですか……それでこれからどうしますか?」
「まずは……」
三船さんは手に持っていたビニール袋を渡してきた。当然中には昨日のサンダルが入っている。
「本当に昨日はありがとうございました」
深々とお辞儀をされて少し恐縮してしまう。
「いえいえお気になさらず」
「それと……」
顔をあげた三船さんはあまり目を合わせずにいた。
「今日の夕飯よろしければ一緒に食べませんか?」
突然のお誘いに固まる。三船さんと夕飯か。確かに悪くは無い。だが、おそらく三船さんの狙いは俺の行動制限だろう。外食の後そのまま一緒に行動すれば俺のことを監視できるしな。
「あの、ご都合が悪いようでしたら……」
「いいですよ」
ここは我慢だな。わざわざ警戒されている今に危険を冒して死ぬ必要は無い。死ぬのはもっと関係が希薄になってからでもいい。
俺がそんな読みをしていることなど微塵も気にしていないのか三船さんの顔がパーッと明るくなる。俺との食事はそんなに嬉しいものなのだろうか?
「それでは何時にお越しになりますか?」
「バイトが18時には終わりますので、18時半頃ですね」
「私もそれくらいには部屋に居るので804号室に来てください」
「え?804号?」
何と俺の部屋と三船さんの部屋は僅か二部屋分しか離れていなかった。ひょっとしたら今までもすれ違っていたのかもしれない。
「ふふっ……偶然にしては出来すぎですよね。それでは今日の18時半頃……」
「分かりました」
それで会話は終わった。三船さんが本当に804号なのも帰って行った部屋で疑惑から確信へと変わった。
その日のバイトはいつも以上に時間が過ぎるのを早く感じた。それだけ三船さんとの夕飯を楽しみにしている自分が居る。何処に食べに行くのだろうか?イタリアン?中華?もうここ一年は行っていない誰かとの外食に心が踊る。瞬間ふと頭によぎる。
本当に俺は死ねるのか?
俺は帰るとタンスの奥で眠っていた外行きの服装に着替えた。これなら多少はマシだろう。
18時半ピッタリに三船さんの部屋のチャイムを鳴らす。少しするとドアが開いた。
「どうぞ入ってください」
「お邪魔します」
三船さんの格好を見るに部屋着だったのでまだ準備の途中なのだろう。
「ところで今日はどこへ行くんですか?」
「え?」
三船さんはドアからエプロン姿で出てきた。
エプロン姿?
「あの……今日は私の手料理を……食べて貰おうと……」
なるほど、盛大な勘違いをしていたようだ。
「出会ったばかりの男性をすんなり部屋に上げるのはあまり良くないのでは?」
「その心配はしてません。吉木さんは信頼出来る人ですから」
昨日今日の俺の行動の一体どこに信頼出来るポイントがあったのだろうか?それともこの人がチョロいだけなのだろうか?
「……分かりました。もう追求するのは諦めます。それで何を作るんですか?多少なら手伝いますよ」
「わ、悪いですよ。わざわざ来ていただいたのに……」
三船さんの遠慮には耳を貸さずキッチンへと向かう。鍋の近くにカレーのルーがあったのでカレーでも作るのだろう。
周りを見渡して何をしようか思案していると三船さんが後ろに立っていた。
「本当に私がやりますから……」
「知りません。それに二人でやった方が早いでしょうし、三船さん冷蔵庫にあるものは使っても?」
「あ、はい。大丈夫です」
三船さんがそう言うやいなや俺は冷蔵庫を開き食材を確認する。
「このエビとそれからアボカド使っても?」
「全部でなければ……」
俺はアボカドを一つとエビ小八尾を取り出し淡々と調理する。
「吉木さんって料理されるんですか?」
「自炊が一番の節約ですから。それよりもアボカドなんて良く持ってましたね」
「アロマテラピーが趣味で……それで今度作ってみようかなと思って」
俺は玉ねぎを微塵切りにし終えエビを中火で焼いている。一方の三船さんもカレーの具材を鍋で煮込んでいる。
「アロマテラピーってなんですか?」
「アロマの匂いを嗅いでリラックスしたりすることです。ただ私が最近ハマってるのは自作のアロマ作りなんです」
「自分で作れるなんて凄いですね」
焼き終えたエビを一旦冷ますために放置しその間にアボカドを刻む。
「大したものは出来ませんが、良かったら今度やってみますか?」
「よろしければ是非」
三船さんは一瞬こっちを嬉しそうな顔で見てすぐ鍋に視線を戻した。
何となく話すことも無くなり淡々と料理をする。
「なんだかこうしてると……夫婦みたいですね」
「…………」
三船さんは自分の失言に気づいたのだろう。顔を真っ赤にして動揺した。
その弾みでアク抜きをしていた小皿を落としそうになる。
「危ない!」
三船さんを庇いつつ小皿をギリギリキャッチした。が中のお湯が俺の腕にかかった。アッツ!
「す、すみません。お怪我は?」
「いえ大丈夫です」
真顔で表に出さぬようにし腕を隠すと三船さんは瞬時に腕をとった。
「火傷してるじゃないですか!早く冷やしてください」
されるがまま腕を引っ張られながしで水をかけられる。痛いのもあるがそれ以上に三船さんとの距離が近い。
多分向こうは気にしていないだろうな。
改めて近くで見ると綺麗な人だ。ポカーンとしていると蛇口の水が止まる。
「もう……痩せ我慢はしないでくださいね?」
「原因はそっちですけどね」
「それは……」
三船さんは自分の発言を思い出したのか恥ずかしいと手で顔を覆っている。
「まぁ三船さんとの夫婦生活だったら楽しそうですけどね」
「え……それってどういう……」
「さ、早く作りましょう。そろそろ空腹も限界です」
先に匂わせたのはあっちなのでこれでおあいこだ。
二人でカレーとサラダを作り終えるとリビングに料理を運ぶ。三船さんは俺の向かい側に座った。
「いただきます」
二人の声が重なり三船さんは照れくさそうに目を逸らした。小さなことで照れるくせに私のこと見守って欲しいなんて大胆なセリフは吐くのだからますます理解に苦しむ。
しかしそんなものに囚われても仕方が無いのでカレーを食べることにした。別に普通の市販のカレーの味だ。
「このサラダ美味しいですね!今度作り方教えて貰っても?」
「嫌です」
「……そんなこと言わないでくださいよ……」
三船さんは露骨に肩を落とす。異常だ。初めは何となくで関わったがいま考えるとこの人の行動力はおかしい。なんで俺は今食卓を囲んでいるのだろうか?
「どうして教えてくれな……な、なんで泣いてるんですか!」
「え?」
気がつくと目から涙が溢れていた。
「すみません、なんでですかね?」
袖で涙を拭うがいくら拭いてもまるで涙が止まらない。三船さんはあたふたとしている。
どうしてだろう?なんで涙なんて……。
「すみません、ご迷惑お掛けします」
「そんなに辛かったですか?」
どうやら三船さんは俺が泣いているのはカレーのせいだと勘違いをしているようだ。
「いえ、なぜか分からないですが涙が止まらないんです。なんでですかね?」
「なぜだか分からないってそんなの……」
結局俺はなぜか終始泣き続けた。
食べ終えてから暫くしてだいぶ落ち着いた。それと同時に恥ずかしさが込み上げてきた。大の大人が人前で泣きじゃくるなんて……。
後悔に浸っていると食器を片付け終わった三船さんが隣に座ってきた。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「いえ……昨日のお礼ですから……けれど不思議なものですね」
「何がですか?」
「昨日出会った人を家にあげて一緒に夕飯を食べるなんて……普通ありえないことですから」
確かにその通りだ。俺に至っては今生きていることが、昨日の俺からは考えられないことだ。
「ところで吉木さんって……本当に死んでしまうんですか?」
「……どういう意味ですか?」
三船さんが尋ねてきたことは俺の美学をバカにされたような気がした。
「一緒にご飯を作ってご飯を食べてみてとても死にたいと思ってる人には思えなくて……」
「多分皆同じですよ」
「え?」
三船さんが俺の顔を覗き込んでくる。それを傍目で捉えるが気にしないでおく。
「自殺って選択肢を選ぶ人は普通の人と何ら変わらない生活を送っていて他の人と同じように生きています。違いがあるとすれば心の中くらいでしょうか?」
「心の中がどう違うと?」
「苦しみや楽になりたいという渇望、後は後悔や不安がずっと続くと思ってしまうんです。そんな時逃げ道はたった一つしかない」
「だったら私を頼ってください……その苦しみは一人では無理でも二人でなら……」
三船さんはよくあるキャッチコピーみたいなことを言った。
「……あくまでこれは私の調べた情報を元に推測した話なので実際はどうかは知りません。あと私が死ぬ理由は逃げ道なんかではありません」
三船さんは困惑の色を浮かべている。
「じゃあ……一体なぜ?」
「義務です」
三船さんは呑み込めないという表情をしているがそんなものに囚われず俺は続ける。
「私の死は意味のあるものにしなければいけません。それでいて早く死ななければ私は私を許せない」
「もうやめてください……」
三船さんは涙を流していた。ついさっきまで理解が追いついていなかったはずの彼女は今は泣いている。
「もし昨日吉木さんに出会わなかったら、話をしなかったら、私は今も途方に暮れていた。けどあなたが励ましてくれた。そのおかげで私は今日を頑張ろうと思えました。カレーだって……あなたがいたからいつもより美味しく感じられた。それなのにどうして……そんな簡単に死ぬなんて……」
真顔でただ見つめている俺とは対比して三船さんは大粒の涙を流している。
「傲慢ですね、私にとっての死とは言わばゴール。祝福こそされ可哀想だと蔑まれる筋合いはない。三船さんが何を思おうが勝手ですがそれを俺に押し付けないでいただきたい!」
つい声が大きくなりハッとする。ここまで感情的になる必要はなかった。
「だったら……どうしたら死ぬのを諦めてくれますか?」
俺がどれだけ説明しても或いは説得してもこの人はまるで聞く耳を持たない。ずっと泣いている三船さんに声を荒らげて何かを言うことは罪悪感がのしかかる。それでも曲げない。
「分からない人だな……どうして私にそこまで拘るんですか?」
「私の……ほんのちょっとの勇気を褒めてくれた……私に優しさをくれた……」
「勇気を褒めたのは俺にはそんなこと出来ないっていう嫉妬ですよ!それに優しさだって元を辿れば原因は俺じゃないですか!」
「吉木さんは私と同じなんです」
三船さんへの否定の言葉が続かない。同じ……?俺と彼女が?そんなわけが……。
黙ってしまった俺を気にせず三船さんは話しかけてくる。
「私と同じように……苦しんでる。だから思ったんですよ?この人には死んで欲しくないって」
分からない。どうしてここまで食い下がるのか?
「それにもし……私が死ぬと言ったら吉木さんはどうしますか?」
「そんなの止めるに決まってますよ……あ」
つい反射的に答えてしまって呆気にとられる。それを聞いて三船さんは小さく微笑んだ。
「少しは私の気持ちを分かってくれますか?」
俺は考えてしまった。もし三船さんが死んでしまったら俺はとてつもなく後悔するだろう。そうなったら美しい死に方なんて出来るだろうか?
「……確かに三船さんの言う通りですね……でも」
それでもこんな人生またダラダラと生きるなんてそんなの耐えられない。そんなの俺には許されない。でもこの人のペースに呑まれ続ければ生き長らえてしまう。それはダメだ。何か流れを変えなければ……。その時究極の一手が頭に浮かんだ。奇想天外だがこれなら三船さんも反論は出来ないだろう。
「いや、分かりました。死ぬのを諦めるのに条件をつけさせてください」
「条件……ですか?」
「はい、もし三船さんがそれを達成出来たら私は少なくとも三船さんの言う通りに生きます。けどもし達成出来なければ今後一切私には関わらないでください」
「…………分かりました。私にできることなら何でもします」
予想通り乗ってきた。それだけ三船さんは俺に死んで欲しくないんだろう。普通は条件を聞いてきたりできる範囲のことなら、なんて前提を作るものなのに。だからこそこんな強い人は俺なんかと関わるべきじゃない。
「アイドルになってください。誰からも応援される星のようなアイドルに」
「え?」
時が止まった、と形容するのが正しいほど部屋が静まり返る。聞こえてくるのは時計が針を動かす音だけだ。
馬鹿なことを言ったものだ。それでもこれで会話は終わりだろう。
何となく気まずくなり帰ることにした。三船さんは放心しているというか心ここに在らずといった様子のままだ。それを横目に荷物を持ち玄関まで向かう。多分もうこの部屋には来ないだろうなと思った。
靴を履きかけた時後ろからドタドタと三船さんがやってきた。
「どうかしましたか?」
三船さんは躊躇う素振りを見せたがその後真っ直ぐと向き合う。
「私……アイドルに……なります。なってみせます!だから死んではダメですよ」
三船さんは顔を真っ赤にしながら高らかと宣言した。どうせ無理だろうと思った俺は短く返事をして部屋を出た。
冷たい外の風は俺の頭を冷静にさせてくれた。
無理だろう。見るからに前で話すタイプの人ではない。どうせ一時の冗談だろう。
それでも心のどこかには期待をしている自分がいた。
無課金ですが天井までガシャ引きたいのでコツコツ貯めています。
現在25000個!