First Kiss   作:グルヌイユ

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デレステ始めて100日経ちました。まだまだにわかですが楽しんでいます。


第3話

 俺は三船さんとのやり取りは途絶えると思っていた。しかし彼女は毎晩必ずと言っていいほど連絡をしてきた。その内容は今日の出来事や行ってみたい場所アロマテラピーなどバライティー豊富だ。おそらく俺が死なないように牽制をしているのだろう。それでも俺は三船さんと話すことが毎日の小さな楽しみになってしまった。

 その日も自殺について調べ三船さんからの連絡を待っている時だった。玄関のチャイムが鳴った。宅配便は頼んだ覚えが無いのといつもこのぐらいに電話がかかってくるので何となく三船さんだろうなと考えながら玄関を開けると予想通り三船さんだった。

 

「毎日話しているのに……こうして会うのは久しぶり……ですね」

「そうですね、部屋も結構近いのに会うのは二週間ぶりくらいですかね。何か用事でも?」

 

 三船さんは小さく頷いた。俺は何故かそれが少し嬉しかった。

 その時の俺は三船さんは今日はどんな話をしてくれるのかなんて淡い期待を持っていた。

 三船さんは部屋に入ると辺りをキョロキョロして驚いた。

 

「……掃除されているんですね」

「いつでも引き渡せるようにしておかないといけませんしね」

 

 俺の遠回しの自殺予告に気づいた三船さんは俺を小さく睨んだ。だがすぐに勝ち誇った表情になった。三船さんの珍しい顔によっぽど今日話す話題は面白いのだろうと思った。

 二人でソファーに腰掛けたところで俺から会話を切り込んだ。

 

「それで話とは何でしょうか?」

 

 俺の質問を受けると三船さんはバッグからファイルを取り出しそれを俺に手渡した。

 

「なんですか? これは」

「中を確認して貰えないでしょうか?」

 

 三船さんに言われ指示通りに中を開くと346新規アイドルプロジェクト候補生と書かれた紙が目に飛び込んできた。

 驚くべきはその紙のアイドルの名前が三船美優とあったことだ。

 

「………………え?」

 

 数秒の間で驚愕、疑問の2つが頭の中でグルグルと回る。

 

「約束通り……アイドルになりましたよ……私」

 

 大胆不敵な笑みを浮かべる三船さん。それが意味することは前の約束は彼女の完全勝利に終わったということだ。

 

「そんなに……私に……死んで欲しくないと?」

「はい」

 

 呑み込めない現実に思わず当然の疑問を尋ねると三船さんは短く強く返事をした。

 

「私は……吉木さんには死んで欲しくありません」

「どうして……」

 

 どうして俺なんかのためにそこまでできるの? こんな価値のない人間を死なせないためにアイドルなんてものやって……。

 

「もう口答えは許しません! 少なくとも私の言う通りに生きていただけるんですよね?」

 

前回の自分の切り返しがここに来て自分の首を締めることにことになるとは……。

 

「それよりも、吉木さんにはこれを見て欲しいんです」

 

 俺が理解に苦しみ頭を抱えていると三船さんからさらに資料を手渡された。そこには新規プロデューサー募集と書かれていた。

 

「これは……?」

「346がアイドル部門を作る際にプロデューサーも募集してるみたいです。吉木さんにはプロデューサーになって貰います」

 

 俺は驚きのあまりガバッと三船さんの方を向く。三船さんの表情は自信ありげだ。

 

「なんで……」

「吉木さんに拒否の権利はありません! 私をアイドルにしたんですからあなたにもプロデューサーになって貰うくらいじゃないと収支が合いません」

「だとしてもプロデューサーなんて私に出来るわけが……」

「結果どうこうはやってみないと分からない、ですよね?」

 

 どんどん外堀が埋まっていく気がした。結局話し合いはアイドルになったというカードを切られ続け一方的に俺が負けた。

 その日から日常がガラリと変わった。20時になると三船さんは俺の部屋に来て346に聞かれそうなこと、俺のアピールポイントなど様々なことを一緒に対策した。三船さんはどこにそんな熱量があったのか疑いたくなるほど熱心に接してくれた。それでも俺は絶対に受からないと思う。だがその日は来てしまった。

 着なくなって1ヶ月ほど経ったスーツに腕を通し鏡で自分の姿を確認する。特に問題は無い。LINEで送られてきた三船さんからのアドバイスは

 

「とにかく面接に遅刻は絶対厳禁ですからね。それと忘れ物はしないように」

 

 なんてお母さんそのものだった。

 準備が終わり腕時計を見ると面接の時間まで余裕がある。しかし念には念をと早めに家を出ることにした。

 10分ほど電車に揺られいよいよ346の近くの駅までやってきた。面接まではまだまだ時間があるが緊張で胃が痛い。少し気分転換のために近くの公園でも歩くことにした。

 公園はのどかで陽当たりもよい。

 ここで死んでもいいなー。

 三船さんからあれだけのラブコールを受けても心はまだ死を求めている。こんな俺にアイドルのプロデューサーなんて……無理だろ。

 ネガティブな心中をリセットするために近くのベンチに腰掛ける。すると近くの芝生で辺りをキョロキョロとしているおじいちゃんが居た。

 数分ほど見ているとおじいちゃんは芝生にしゃがみこんだり顎に拳をつけて考え込んでいたりと何やら困り事のようだ。気になる。

 結局自分の好奇心に勝つことはできず声をかけることにした。

 

「あの……ひょっとして何か探しものですか?」

「えぇ……実は結婚指輪をこの辺りで落としてしまってね……」

 

 おじいちゃんは情けないと言わんばかりに後頭部をかいている。

 

「探すの手伝います。落としたのはこの辺りですか?」

「いやいや悪いよ……私一人で探すよ。これは私の責任だし」

「二人で探した方が早く見つかりますから」

 

 また何か遠慮されそうだったので無視して辺りの芝生を見渡す。しかしいくら目を凝らしてみても指輪は見当たらない。

 

「わざわざすまないね」

 

 観念したのかおじいちゃんも一緒にしゃがみこんで指輪を探し始めた。二人してあちこちに手を出しているとおもむろにおじいちゃんは会話を始めた。

 

「ところで仕事の時間は大丈夫ですかな?」

「いえ、今日は面接で……でもまだ時間はあります。それに会社もここから近いですし……むしろ何もしない方が緊張してしまって」

「なるほど、ちなみにその面接はいつからで?」

 

 キラリと光るものがあり手に取ってみたがただのガラスだった。

 

「9時30分からです。安心してください。それまでには見つかりますよ」

「頼もしいですな」

 

 その後は黙々と指輪を探した。そして……

 

「ありましたよ! 指輪これで合ってますか」

 

 シンプルなデザインの指輪は少しも汚れてはいなかった。

 

「ああ……それです。本当になんと感謝を述べていいやら……」

「いえいえ、見つかって良かったです」

 

 ふぅと一息つくと腕時計を見たおじいちゃんが目を見開く。

 

「じ、時間が……」

 

 おじいちゃんに言われて自分の腕時計を確認すると時刻は10時を回っていた。

 

「不味い……!」

「な、なんと謝罪をしていいやら、とにかく急いで向かった方が良さそうですな」

 

 俺はおじいちゃんに頭を下げるとすぐに鞄を手に取る。今の状況を理解した俺は全速力で走る。こんなに走ったのは何時ぶりだろうか? 全速力で走ったおかげか346にはものの5分で辿り着いた。

 乱れた息を整えて346の会社に入ると面接の方はこちらと書かれた案内板が掲示されていた。その進路に従って進もうとすると警備員に止められた。

 

「あの、通してください。面接に来たんです」

「面接ならつい先程受付を完了しました。お引き取りください」

 

 警備員は無機質な声で現実を突きつける。今までの努力や三船さんのアドバイスの数々が頭に浮かぶ。

 全部無駄だった……。

 抵抗を諦めた俺は警備員に一瞥し来た道を戻ろうとしたその時、声をかけられた。

 

「君は一体何をしに来たのかね?」

 

 振り向くとキツそうな顔をした女性が立っていた。

 

「面接を受けに来たのですが……時間外ですしね」

「間に合っていても不合格だ。その格好……我々をバカにしているのか?」

 

 そう言われて己の格好を見てみると所々に泥や草がついていて一張羅とは言えなかった。

 確かに警備員も止めるわけだ。

 何も言い返せないまま346を出ていった。死を諦めなければならなくなったら俺はなんて弱いんだろうか?

 会社を出てとぼとぼと歩いていると突然肩に手を置かれた。ゆっくりと振り返ると先程のおじいちゃんだった。

 

「出来ればお礼がしたい。近くの喫茶店でも行かないかな?」

 

 その後の予定は全く無かったので俺は首を縦に振った。

 喫茶店に着きおじいちゃんはコーヒーを俺はココアを頼んだ。

 

「その様子だと……面接はダメだったみたいだね」

「はい……結局間に合いませんでした」

 

 今までの練習が無駄になったような気がしてならない。あんなに三船さんにも手伝って貰ったのに……。

 

「私のせいでもあるだろうね……」

「いやいやそれは無いですよ!」

 

 これは心の底からの本音だった。仮にもし今一度過去に戻ってもおじいちゃんを見捨てることは出来なかっただろう。

 

「君は後悔はしていないのかい?」

「はい、昔たった一度親友を見捨てたことがありましてね。それ以来誰かを見捨てることが出来ないんですよ」

 

だってその一回が死ぬほど後悔することになるかもしれないからとは続けなかった。

 おじいちゃんは考え込んでしまった。その間にウェイターさんがコーヒーとココアを持ってきてくれた。一口飲むと甘いココアが俺の心によく沁みた。

 

「君にひとつ質問をしてもいいかな?」

 

 おじいちゃんは眼鏡を拭くとかけ直してそう言った。

 

「何ですか?」

「もし君が将来、誰かを助けたことで死んでしまったらどうする?」

 

 その時頭の中で何かが弾けた。

 

「そうか! その手があった」

 

 なんで気づかなかったのだろうか。仮に誰かのために死ねばそれは自殺じゃない。おまけに俺の美学にも反さない死に方だ。これなら三船さんの目も誤魔化せる。つまり、死ねる! 

 俺がさっきとうって変わって明るくなったことからおじいちゃんは困惑している。そんなおじいちゃんの手を強く握る。

 

「おじいちゃん、ありがとうございます。おかげで今とっても楽しくなってきました」

 

 頭の中にはいくつかの理想の死に方が駆け巡る。はは、まだ死ねる。少し回りくどくはあるが死ねるぞ!

 その勢いのままココアを一気に飲み干し財布から代金を机に出す。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。お代は私が……」

「これは感謝料みたいなものですよ」

 

 財布を鞄にしまい込むとすぐ立ち上がる。

 おじいちゃんは最後に俺に尋ねてきた。

 

「それでさっきの答えは!」

 

 おじいちゃんを見るとにっこり笑ってこう答えた。

 

「喜んで死にます! 誰かのために死ぬ、最高の死に方じゃないですか!」

 

 俺はそれだけ言い残すと喫茶店を後にした。こんなにワクワクしているのはいつぶりだろう。やっとこの命を意味のあるものに出来る。あの時忘れた自分の価値を取り戻すことが出来る。それがこんなに嬉しいなんて!

 俺が有頂天になっていると三船さんから連絡が来た。

 

「もしもし?」

 電話に出ると三船さんが食い気味に聞いてきた。

 

「ど、どうでしたか、面接……」

「いやダメでした」

 

 結果を伝えると三船さんは黙り込んでしまった。三船さんが持ってきた話だ。思うところがあるんだろう。

 

「大丈夫ですよ、三船さん。俺はピンピンしてますから! むしろ何か掴めた気がするんです」

「……吉木さん……そんな口調でしたっけ? それに一人称も……」

 

 三船さんの指摘は正しかった。人にこんな話し方をしたのはだいぶ前だった気がする。興奮しすぎて我を忘れていた。

 

「……すみません、取り乱していました。それに面接の練習も付き合って頂いたのにこのような結果になってしまって……」

「いえ、また他のことを探しましょう。あと……話し方はさっきの方が……私は好きです」

 

 三船さんに好きと言われてドキッとする。

 

「そ、そんなこと言われても……」

「ふふっ……照れてますね」

 

 三船さんの方こそキャラが変わってる気がする。これもアイドルをやっているからだろうか? 三船さんは電話の向こうでずっと明るい声をたてている。

 

「とにかく落ち着いたらまた話しましょう、あといつまで笑っているんですか。切りますからね」

 

 携帯を切ると歩き出す。太陽に照らされた俺は新しい死に方を考えていた。

 その二日後346からの通知が届いた。

 内容は俺がプロデューサーとして採用されたことが記載されていた。

 




佐久間まゆさんって好きな相手を自分の物にするためなら何でもするタイプなのか相手に断られたら素直に諦めるタイプなのか。どっちのヤンデレなんでしょうかね?
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