まるで知らない娘なのでどんなキャラなのかワクワクしていたら結構マイペース?な娘でした。こんな子供が欲しい……。
三船さんとの関係がアイドルとプロデューサーになった。俺としてもまるで面識の無い相手よりも知っている人と関係を組めたのは嬉しい。でも……。
「ダンスはヘロヘロ、声は小さい。笑顔もぎこちない……三船さん本当にアイドルですよね?」
「す、すみません……私もなんで自分が選ばれたのか正直分かっていなくて……」
三船さんはレッスンルームではぁはぁと息をきらす。滴り落ちる汗は努力の証拠ではあるんだがどこか見当違いを拭えない。
「私……アイドル向いているんでしょうか?」
「……」
三船さんをアイドルに焚き付けた者としては何か言ってあげなければならないはずなのに俺は言葉を失くした。
結局その日のレッスンはグダグダなまま終わった。三船さんはレッスン後はフリーだがプロデューサーにはアイドルが暇な時もやることがある。
まずは手当り次第に当たって見ないと!
アーティスト部門。
「アイドル三船美優に御協力頂けないでしょうか?」
「ちょっとこっちも忙しくてねー……手伝いたいのは山々なんだけど……」
モデル部門。
「アイドル三船美優に御協力頂けないでしょうか?」
「ちょっち今、忙しいから。他当たってくれ」
俳優女優部門。
「アイドル三船美優に……」
「今立て込んでんだ! 後にしな!」
お笑い部門。
「アイドル……」
「その子アイドルなのに芸人もやるの?」
アイドル事務所。
「はぁー」
「おや、おつかれのようだね。何か困り事かな?」
「今西さん」
俺は机に突っ伏していた。どこもイベントの準備で無名アイドルになんか構ってくれない。それとも俺に魅力が無いのだろうか……後者だな。
凹んだ俺を気遣ってか今西さんはココアを淹れてくれた。暖かいココアにホッと癒される。その性なのか今西さんにポロッと悩みを言った。
「今西さん……その、三船さんのプロデュースの仕方が分からないんです」
「意外だね。彼女はすぐに頭角を表すと思っていたのに」
今のところ三船さんからは泣き言と後悔しか聞いていない。
「全然ですよ。むしろよくアイドルに選ばれたなって思うくらい……」
「吉木君、自分の担当アイドルはどんな時でも信じなさい」
そんなこと言われても……。
俺の不安の様子を察して今西さんはある話をしてくれた。
「三船君はね。候補生の中なら中の下くらいの成績だったよ。それが熱意だけは人一倍でね。毎回レッスンを殺気じみて受けていたよ。感化された候補生も多いんじゃないかな?」
「そんな訳……」
「話を聞いてみると死なせたくない人がいる……だそうだ」
今西さんの眼鏡が光った。それが誰のことなのか言うまでもない。今西さんは俺が自殺しようとしたことは知らないはずなんですがね。
今西さんは立ち上がると俺の背中を軽く叩いた。
「三船君も君も人のために全力になれる人間なんだよ」
「私は……そんな人間ではないです」
今西さんは軽く笑って事務所を出て行った。
三船さんのプロデュースどうしたらいいんだろう。その一心に会社内を奔走するが悩みの種はすくすくと太い幹になり気づけば大樹になって俺の足を止めた。
そんな時軽やかな音楽が耳に入ってきた。346内のステージホールからだ。
何かイベントやっていたっけ?
興味本位で覗き込むとアイドルらしき人物がステージで歌っている。周りにはスーツを着た男性たちがペンライトを片手に楽しそうだ。その輝かしさには一種の懐かしさも感じた。
呆然とライブを眺めていると隣から声を掛けられた。
「あれ? 吉木さん」
「三船さん、こんな所で何を?」
てっきり帰ったと思っていた三船さんは静かにステージを見つめている。けどその角度だとアイドル見えないのでは……?
「今は心さんの自主ライブを見ています」
「自主ライブ?」
聞きなれない単語に頭の上でクエスチョンが浮かぶ。そのマークを三船さんは優しく消す。
「346内の人間ならこのステージで自由にパフォーマンスしたり出来るんですよ。それで心さんイベントまでは毎日ここでやると言っていたので」
「自主的ってことは……」
「当然給料も出ませんし周りのスタッフさんも心さんが頼んだボランティアですよ。やっぱり心さんみたいな人が……アイドルやるんですよね」
「三船さん卑屈にならないで下さい」
……待てよ? そのアイドルなら三船さんに手を貸してくれるかもしれない。それに何よりこの自主ライブに参加出来れば三船さんの経験値にもなる。
そんな思考を巡らせている時にライブが終わった。それに合わせて俺は三船さんの手をとる。
「え! よ、吉木さん……」
「行きましょう」
そのままステージ裏へ向かった。
ステージ裏は思ったよりも人が少なかった。昔手伝ったアイドルライブの方がまだ人がいた気がする。
「その心さんってどこですか?」
「ライブ終わりならすぐそこの小さな控え室にいると思います」
三船さんの助言を頼りに機材ひしめく暗がりを進む。心さんって人が気むずかしい人だったらやだなー。
楽屋に入ると俺は驚きの声を出した。
「しゅがは!」
「はーい♡皆のアイドルしゅーがーはーとだゾ? って……ヨシ吉じゃん! おひさ」
「吉木さんと心さんってお知り合いですか?」
遠目で見た時は気が付かなかったが思い返すとライブのパフォーマンスはしゅがはそのものだ。
「ええ……まぁ……」
「ヨシ吉には昔お世話になったからな」
「どういうご関係……なんですか?」
俺としゅがはは目を合わせる。その瞬間しゅがはがイタズラ気に笑ったのでこれはめんどくさいことになりそうだと思った。
「ヨシ吉は〜しゅがはの信者だゾ」
「違います。ただの知り合いです」
「でもでも〜しゅがはのために全力でオタ活してたの忘れないゾ」
「それはお前らの客が少なかったからだろ? それでムード作れって言ったのお前だろ」
「いやいや、あれ言ったのサオリンだし」
三船さんに変な誤解をつけさせる訳にはいかないので全力で会話のラリーを返す。しかし三船さんはきちんと混乱している。頼むから死ぬのを止めた時の意志の強さをもう少し日常でも見せて欲しいんですが……。
「そんなことよりも、しゅがは! 頼みがある」
「なになに〜愛の告白?」
「そ、それはダメです!」
「なんで三船さんが怒るんですか?」
「そりゃー前から美優ちゃんが噂してたプロデューサーだもんな〜」
「心さん!」
え? 俺なんか噂されてるの? ひょっとして自殺考えてる男性とか重いとか? 今しゅがはすげーゲス顔だしな。
「ってそんなことはいいんですよ。しゅがはこのライブに三船さんを参加させて貰えないだろうか?」
「断る」
「と、突然何言い出すんですか吉木さん……心さん?」
さっきまでとは違って真剣な目付きになったしゅがは。何か差し支えないことでもあるのか。
「ヨシ吉、今私に協力してくれてるのは私が一から集めた人達だ。それを易々と一緒にやりましょうは都合が良すぎない?何よりライブをやるのが大変なのはヨシ吉も知ってるだろ」
「心さん……」
「それでも頼む!」
しばらく腕組みをして険しい顔のしゅがははやっと重い口を開けた。
「だったら答えて。美優ちゃんからの話を聞く限りだとヨシ吉は丁寧口調の自殺志願者ってことになってるけど……事実?」
俺は即座に三船さんを睨んだが三船さんも気まずそうに目を逸らした。
「…………事実だ」
「そっか」
バチン。乾いた音が静かな楽屋に響いた。
三船さんは慌てて止めに入ろうとしたが遅かった。しゅがはは俺の胸ぐらを掴んで睨みつけた。
「なんでだよヨシ吉! なんで私に言ってくんなかったんだよ! あれから私がどんだけ心配したか。ライブ会場にも来ねーし、携帯も連絡つかないし……その上もしヨシ吉まで死んでたら……私……」
掴む力が弱まる。しゅがはは泣き崩れてしまった。怒涛の展開に三船さんはオロオロとし、俺は下唇を噛むことしか出来なかった。
その気まずさを破ったのは楽屋に入ってきたスタッフさんだった。
「すみませんー照明にちょっとトラブルが起こっちゃって。次ののライブは出来そうにないです」
しゅがはは演技だったんじゃないかと思うレベルですぐに涙を引かせ笑顔を作った。
「リょーかい! しゅがはのスィーティーさに照明が耐えきれなかったのね」
「そういうことー」
スタッフさんが楽屋を後にしようとした時俺は行動に出ていた。
「あの、ひょっとしたら直せるかも知れません」
俺の言動に一同が驚いた。ただしゅがはだけはすぐに納得した顔になった。
「そーいやヨシ吉、昔もそんな感じでトラブル解決してたな」
「元演劇部ですから……多少は」
「本当か? 助かるよ」
スタッフさんに案内されステージの直上にやってきた。ステージをこの角度から見るのは一年ぶりな気がする。照明は劣化による一時的な電線不備だった。そのため割と簡単に直り午後からのライブには支障をきたさなかった。スタッフさん達からは何度も感謝された。
「言っとくけどな。今回美優ちゃんの参加をオッケーしたのは借りを作りたくないからだからな」
「分かっています。しゅがはさん、ありがとうございます」
しゅがはは機嫌を露骨に損ねているがこちらとしてはライブに出させてくれるだけ有難い。
そんなムードなどいざ知らず三船さんはガチガチに緊張してバンジージャンプ飛ぶ前のような泣き言を延々と綴っている。
「ほ、本当に……私も出るんですか?」
「今更何言ってんの? ほら、美優ちゃん衣装着替えて!」
「ええー、吉木さん……あの」
助けを求める視線を送ってくる三船さん。もちろん容赦はしない。
「ものは試しです。行ってきてください」
「でも……」
三船さんが中々踏ん切りがつかずにいる。こんな様子の三船さんになんて言って励ましたらいいんだろう。その時ふと今西さんの言葉を思い出した。
【自分の担当アイドルはどんな時でも信じなさい】
俺は迷わず三船さんの手を取った。三船さんは頬を高揚させながら顔を上げる。
「三船さん、信じています」
「……はい」
三船さんは小さく頷いてから控え室に入って行った。その三船さんの行動にどこか安心した嬉しさを抱く自分がいた。
「やっぱ美優ちゃん見てっとサオリン思い出すんだよなー」
しゅがははうんうんと頷きながら俺の隣で衣装に着替えている。おい、アイドル。
沙織と似ている……か。
「彼女も星のようなアイドルを目指していますから」
ついうっかり補足してしまう。それを聞いてしゅがははマジかと言って笑った。
「……さっきは怒鳴って悪かったよ……お詫びって訳じゃないけど美優ちゃんの飛び入り参加はこれからも歓迎してやるよ」
その一言に右手で小さくガッツポーズをした。良かったこれでライブの経験値を少しずつ積める。
しゅがはは衣装に袖を通しながら唇を尖らせて言った。
「でも……その丁寧口調は辞めて欲しい……かな。壁を作られてるみたいで嫌だ」
「善処します」
「ケンカ売ってんのか?」
しゅがははため息を付いて控え室に向かって行った。その控え室からは三船さんのSOSが届いた。
「心さん! 衣装どれを選んだら……」
「美優ちゃん落ち着けってー、今日見る人346の関係者だからな」
俺はしゅがはが控え室に入る前に不意打ちのような感謝をした。
「ありがとな、しゅがは」
「……ばーか」
返って来たのは小さい罵倒だった。
照明のトラブルのくだりはこじつけです。他の最もらしい原因とかあったら感想で教えて欲しいです。