バカな! 現実を書き換えただとぉ!?   作:野生の決闘者

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第1話―1 夢か現実か!? デュエルモンスターズの世界!

「なんてこった……」

 

 俺はスマホの画面を見て驚愕した。

 検索エンジンで“デュエルモンスターズ”と調べてみたところ、とんでもない事実が発覚。

 

 遊戯王(デュエルモンスターズ)とは国際的な競技であり、立体映像(ソリッドヴィジョン)システムの開発やら、義務教育に決闘(デュエル)学の導入やら、目を疑うような記事がこれでもかと見つかった。

 

 これはまさしく遊戯王の世界。

 

 極めつけは俺の名前だ。

 斎藤悠一(さいとう ゆういち)という名前なのだが、この“悠”の文字が“遊”へと変わっていたのだ。

 斎藤遊一。

 主人公じゃねーか。

 いや、確かに俺のエースモンスターは攻撃力2500なんだけど。

 

 ……つまるところ、現実がいつの間にか遊戯王の世界に書き換わっているようだ。

 

 ――馬鹿な! カードを書き換えただと!?

 

 良かれと思って台詞を脳内で再生するが、これはそんな生易しいレベルの話ではない。

 本当に遊戯王の世界だという事はつまり、つまり――

 

「毎日デュエルし放題じゃねえかやったぜ!!」

 

 俺は商店街のど真ん中にいるのを忘れて、思わず飛び上がった!

 ……周囲の視線を感じて我に返る。

 

 ひとまず冷静に考えよう。

 ぶっちゃけドラ〇もんのもしもボ〇クスみたいに、気づいたら現実が遊戯王の世界になってましたー、なんてあり得ると思うか?

 

 答えは否。

 

 素人の書いたやっすい二次小説じゃあるまいし、そんなおいしい話があるワケないない。

 どーせ寝ている俺が見ている夢とか、そーいうオチだろう。

 夢は夢でも別にいい。

 せっかく都合のいい夢なんだ。こうなったら起きるまでせいいっぱい堪能してやるぜ。遊戯王の世界を!

 

「よーし楽しくなってきた!!」

 

 再び奇異の視線に晒されながら、俺は学校に向かって全速全身で向かっていった。

 

 

 

 自宅から徒歩30分の距離に、俺の通う高校はあった。

 ここら辺は現実と変わらない。

 どうやら遊戯王に関する事以外はそのままのようだ。ますます都合の良い。

 見慣れた1-Aの教室の扉を開けて、顔なじみのクラスメート達と軽く挨拶しながら席に着く。

 

「よお遊一、おはようさん」

 

 すると、前の席に座っていた生徒が振り返り、声をかけてきた。

 短く切り揃えた茶髪に、座っていても分かる背の高さ。

 小学校からの友人、本城克洋(ほんじょう かつひろ)だ。

 

「おはよう克洋」

「おお? 今日は朝から嬉しそうだな。いつも眠そうなお前にしちゃ、バッチリ起きてるみてえだし」

「あ、わかる?」

 

 俺としてはいつもと変わらずに話したつもりだったけど、相変わらず洞察力というか……勘が優れてる奴だ。

 昔、俺がいじめられていた時も「何か悩みがあるなら話せよ」なんて言って、相談に乗ってくれたっけ。

 ちょっと照れ臭い事を思い出してると、克洋が何か合点がいったように言葉を発する。

 

「あ、ひょっとしてもうメール見たのか」

「メール?」

 

 スマホをちらりと確認すると、数分前に克洋からメールが届いていた。

 

「とぼけんなよ~。前々から予約していた、最新式デュエルルームの順番が回ってきたって話だよ!」

 

 駅前に出来たあそこな、と笑いながら付け加えた。

 

 ――デュエルルーム!

 そんなものがあるのか!?

 俺の驚愕を別の意味に感じ取ったのか、克洋は満足気に頷きながら続ける。

 

決闘盤(デュエルディスク)は貧乏学生の俺等には手が出せない代物だからなぁ。立体映像(ソリッドヴィジョン)を駆使したド派手なデュエルを堪能するには、市内の公共デュエル場か、学校の施設を借りるしかないのが辛い所だけど……」

 

 都合よく説明口調で話し始める克洋。

 助かるのでこのまま聞いておこう。

 

「なんたって今日の設備は最新式だ! ゆえに人気が高くてなかなか予約が取れなかったが……それも昨日まで! 放課後は俺達二人で思う存分迫力満点のデュエルを楽しもうぜ!」

 

 克洋はグっと親指を立てて、ニカッと笑った。

 なるほど!

 この世界で決闘盤(デュエルディスク)が高価なのは残念だが、最新式の設備を使えるのは運が良い。

 いやーほんと都合の良い夢だよなーと笑っていると、不意に横から声がした。

 

「――最新式。いま最新式と言ったかな?」

 

 声のした方を振り向くと。

 ワックスで髪をオシャレに固めた細身の男子生徒が、薄ら笑いを浮かべながら立っていた。

 その顔を見るなり、克洋は途端に険しい表情で彼の名を呼ぶ。

 

「……金木(かねき)

「おおっと本城くん。敵意をむき出しにするのは止め給えよ」

 

 ワックスの男――金木くんはオーバーリアクション気味にのけぞると、前髪をふわりとかき上げ言葉を続ける。

 

「僕は別に、斎藤くんをいじめるつもりなんてなかったんだ。ただ、男らしくするために鍛えてあげたかっただけなのさ。今ではこの通り誤解も解けた。そうだろう、斎藤くん?」

 

 金木くんはニヤニヤと笑いながら俺の方を向く。

 

「……昔の事だし、俺は気にしてないよ」

「ほら見たまえ、斎藤くんは気にしてないみたいだよ! 本人が気にしてない事でいつまでもネチネチと恨むのは止めてくれないかね、本城くん?」

 

 続けて克洋の方を向き、勝ち誇ったように金木は言う。

 

「……チッ。――遊一の優しさに感謝しろよ」

 

 克洋は一瞬立ち上がるも、すぐに思い直し、悔しそうにつぶやきながら席に座った。

 

「……ごめん、克洋」

「お前が謝んじゃねーよ。……気にしてないならそれでいいのさ」

 

 克洋はいつもの人の良い笑顔を浮かべる。

 続けて思い出したように手を叩くと、金木に向き直ってこう言った。

 

「……あ、それで何の用だよ金木」

「おっと、そうだった」

 

 金木くんはニタリと笑うと、左腕に取り付けてある、肘から手首までをすっぽり覆った機械を指さす。

 それを見た克洋は目の色を変えて思わず立ち上がった。

 

「お、お前それ……決闘盤(デュエルディスク)、それも新型じゃねぇか!?」

「ううむ良い反応だよ本城くん。斎藤くんも口には出さないが驚いてるね」

 

 満足そうに頷く金木くん。

 すると、どこからともなく表れた二人組の男子と女子が金木くんの左右に並び立ち、さながら漫画の取り巻きキャラのように解説を始めた。

 

「金木さんの父君はかの(インフィニティ)社の重役であらせられるのです! とっても偉いのですよ、父君は!!」

「そうっスよ! 金木さんはパパの七光りで最新式くらい簡単に手にれちゃうっス!! パパの七光りで!」

佐凡(ざぼん)くん、届利屋(とどりや)さん、説明ご苦労。でもちょっと言い方は考えたまえ」

 

 

 現実の金木くんは家電会社の重役の一人息子だったが……なるほど。

 ここではデュエルモンスターズに関する企業に変換されているようだ。

 

「まあそんな感じで僕は君たち庶民とは違い、最新式の決闘盤(デュエルディスク)が簡単に手に入る訳だが、君たちがどーーーーーしても言うなら特別に――」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 金木くんが何かを言いかけたが、始業のチャイムに遮られ、同時に担任の先生が教室に入ってくる。

 

「はーい、さっさと席についてー。HR(ホームルーム)を始めるぞー」

「おい金木、さっき何を言いかけたんだ」

「……なんでもないとも」

 

 急に暗い顔になると、金木くんはとぼとぼ自分の席に戻っていった。

 

「なんのこっちゃ?」

「さぁ――」

 

 俺と克洋は互いに顔を見合わせると、首をかしげながら教卓の方に向き直った。

 

 

 


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