後編は明日
機動六課食堂に添えつけられたTVに移るアナウンサーの狼狽した様子が、現地の混乱した状況を伝えていた。
公開意見陳述会開始から4時間、18時を少し回ったとことで、TV画面にノイズが入り始めた。数秒後には鈍い爆発音が響き映像が大きく揺れる。TVカメラマンが爆音と振動に驚いて転んだようだ。
なんとか立ち上がったカメラマンが地上本部ビル全体を映すと、強烈なエネルギーの柱が叩きつけられ爆煙が上がるところだった。ビルから細かい破片が地上の警備部隊に降り注ぎ事態を混乱させる。
さらに無数の四角い魔法陣が地面に浮かびあがり、ガジェットⅠ型、Ⅲ型が出現し始めた。ガジェット達の発生させたAMFの影響か、あるいは他の電子装備でもあるのか、カメラからの映像はそこで止まった。
ヴィルヘルムと一緒に食事をしていた事務方の幹部は動揺しているようだ。
「副長!」
「あわてるな、幹部が動揺すると部下に伝染する」
言いながらも懐から懐中時計型のデバイスを取りだしHQと連絡をとる。
HQに詰めていたグリフィスから聞く限り状況は良くない。
攻撃開始と同時に地上本部内とのが途絶、防御障壁の主動力を破壊され防御出力が低下、そのうえ指揮管制システムを情報的にも物理的にも完全に抑えられてしまっている。予備のサーチャーすら上がっていない。
(鉄壁を誇る魔法防御をこうも容易く。この手際の良さ……、地上本部の情報が漏れていたとしか思えん)
ヴィルヘルムは地上本部の責任者であるレジアス中将を、思いっきり罵ってやりたい気分になっていたが、部下の前で上官批判をするわけにはいかない。不平不満を愚痴の保管庫にまとめて放り込み、確認と指示を出していく。
「ここのサーチャーシステムに異常はあるか?」
「ありません、すでに全機立ち上げ情報収集を開始。本部警備部隊に情報を送信しています。ただ……」
「どうした?」
はきはきと答えていたグリフィスの言葉が急に止まった。なにか言いにくいことがあるようだ。
「他の地上部隊からのサーチャー情報が回ってきません……」
「こんな時に!」
このような非常時にすら縄張り意識を持ち出してくるものがいたようだ。ヴィルヘルムはグリフィスに「こちらで対処する」と短く答えると、昨夜話をしていた巡洋艦の艦長に通信を繋ぐ。
「よう、悪いことだけあたるな、占いってのは!」
「同感ですが、いまは対処を」
「すまんがこっちも混乱している、民間船の統制すら取れとらん」
艦長は遠回しの表現をしたが、その場をすぐには動けないということだ。だが、ヴィルヘルムも手ぶらで通信を切るわけにはいかない。
「では、せめて情報と上空警戒を」
「上空警戒はいいが、どっかのバカが情報を海の連中にわたすなと触れ回っているようだ」
どうやら、直前になって「テロが起こっても地上本部だけで対処せよ」との命令が下っているようだ。正しいかどうかは別にして命令ならば従わなければならないのが、公務員の辛い所だが……。
「そうですか、では通信の混線には気をつけてください」
「そうだな、特にHooHooチャンネルには気をつけるとしよう」
ヴィルヘルムもこの艦長も命令の隙間を縫うのに長けていた。
HooHooチャンネルとは日本で言うところの映画専用チャンネルのことで、クラナガン周辺では衛星第3放送とも言われている。ようするに非常回線の3番を使って情報を交換しようという暗号だ。
「ロウラン補佐、非常回線の3番を開け」
ヴィルヘルムは艦長の意図を正確に読み取って指示を出す。途端、地上本部周囲の状況が送られてきたが依然として地上本部内部の様子が分からない。とりあえず外からの攻撃はひとまず止まっていることが確認できた。しかし……
(すでに攻撃の必要がなくなったと考えるべきだろう。いくら隊長陣といえども高濃度のAMF内では、デバイスなしでの戦闘は難しい。現在、地上本部が無力化された)
警備情報が漏れていたとしても、陽動や戦力分散などの搦め手もなしに力技で地上本部を制圧してくるなど誰も予想していなかった。
会場内へのデバイスの持ち込み禁止など、現場での警備態勢も裏目裏目に出ている。
現場の意見も聞こうと通信を繋ぐとちょうどスバル達が突入の意思を固めたところだった。
「副隊長、私達が中に入ります! なのはさん達を助けに行かないと!」
拳を握り言うスバルを見返すヴィータ。
ヴィータは部下達を信じることにしたようだ。続くオーバーSランクの航空戦力の接近にも動揺せず地上を部下達に任せ自らは航空戦力の迎撃に向かう。
ヴィルヘルムも妥当な判断と考え、その作戦を補強するには何ができるか考える。
(高町1尉とハラオウン執務官との合流ポイントが分かっているなら、彼女達が脱出してくるのに呼応して敵の包囲に穴をあけ、地上部隊にその穴を拡大させるのが理想か……)
地上部隊が六課を援護してくれるとは限らないが、手柄の一人占めをさせるまいとして各部隊はこぞって戦力を送ってくるだろう。来ないようなら煽ってやればいい。
どれほど六課が活躍しようが地上本部は「地上警備部隊の必死の反撃によりテロリストを撃退した」と報道されるに決まっているが、六課の部隊長陣のなかでそんな事を気にする人はいまい。
ヴィルヘルムはヘリに交替部隊のグランド分隊を集め、出動の準備を始めるが……
「高エネルギー反応2体、高速で飛来、こっちに向かってます」
どうやらこちらの思い道理にはいかせてはもらえないようだ。航空戦力が接近しているとなると、ヘリでフラフラと出て行っては狙い撃ちにされてしまう。
HQで指揮を執っていたグリフィスも正確に状況を呼んでいるようで、通信を送ってきた。
「副長、出動は取り辞めてください」
「ああ、分かっている。迎撃に集中しろ」
「はい」
ヴィルヘルムが答えると、グリフィスはすぐさまオペレーター達に指示を出した。
「待機部隊迎撃用意、近隣部隊に応援要請」
「はい」
「総員最大警戒態勢」
どうやらグリフィスはこの状況でも気圧されてはいないようだ。昨夜のことは聞かなかったが、ルキノとの会話が彼自身の士気を高めているようだ。
だが他の部隊員はそうはいかない、事務方の陸士や空士のなかにはデバイスや武器を使った実射訓練を行うのは年に一度程度という者も少なくない、誰かがハッパをかける必要がある。
「ロウラン補佐、お前が全体の指揮を取れ、私は前線に出る」
「副長自らですか!」
「ああ、初陣のものも多いからな、士気を高めてやる必要がある」
六課に残っている中で最高位のものが前線に立つのだから、他のものは後方に下がるわけにもいかなくなる。軍隊や警察機構の指揮官の基本、率先垂範というやつだ。
「武器・デバイス班は各装備の配分開始!」
「部隊残留局員はB装備で各ポストに集合せよ!」
「委託民間人の方は誘導に従って退避してください!」
「設備班、警備班は迎撃及び防御システムの立ち上げを急げ!」
シャーリー達の声が放送装置から響き、六課の施設内を局員たちが駆け回る。まごつく陸士を下士官たちが怒鳴りつける。戦えない者たちも窓の前や使わない出入り口の前に椅子や机を積み上げ簡単なバリケードを作り始めた。
ヴィルヘルムも最初に敵と接触すると予測されるポストに向かっていると、背後から声をかけられた。
「副長さん!」
「こら、まちなさい。君」
見るとデバイスを持った隊員と、管理局では採用されていない作業服を着た女がやってきた。六課のサーチャーを開発した会社の社員だろう、作業服の胸には三つのひし形が並んだワンポイントがある。
大規模なサーチャーは大量生産されないこともあり、それだけで日本円にして何十億という金が動く。当然管理局としても性能の保障や不具合等が起こった時のサポートなど、条件が良くないと契約を結ばない。逆に会社の方は必要以上に乱暴な使用方法で壊れた部品まで補償させられてはたまらないと、定期メンテナンスを名目にチェックを入れに来る。彼女もその一人の筈だったが直に会うのは初めてだ。
彼女はヴィルヘルムの前に来るなり、とんでもないことを言った。
「スリーダイヤ電機のノラ・ドゥです。私にもお手伝いさせてください」
「申し出には感謝しますが、危険ですので局員に従って退避してください」
ヴィルヘルムは失礼のないように、しかし、あっさり断ったが、このノラという女性は食い下がった。
「六課のサーチャーシステムは我が社が開発したものです。私ならば戦っている間、どんな事態があってもお役にたてるはずです」
「戦闘中の対処は局員が行います。そして、民間人の保護は局の義務。お気持ちだけ受け取っておきます」
「しかし……」
あまり時間がない、ヴィルヘルムは尚も食い下がる彼女を連れていくように隊員に命令した。
先程から手に持ったデバイスが小さな音を立てていた。
デバイスの持ち主の少年は自分の手を見ないように気をつけながら周りを見渡した。最初に見えたのは機銃を構えた警備班の隊員だった。機銃と言っても当然質量兵器ではなく、小型魔力炉とカートリッジと封入されている魔力を使ってシュートバレットをばら撒くデバイスだ。目を閉じて詳細を思い出してみる。
(全長は1.1m、本体のみの重量でも5.82㎏、給弾方法はベルトリンク方式、発射速度分間1000発)
スラスラと出てきた。当然だ、何しろ少年が整備しているデバイスだ。
しかし、少年は気を紛らわすことはできなかったようだ。少年は入局テストの時、言わなかった本音を叫んで逃げ出したい気持ちを必死になって抑えていた。
(僕はデバイスマイスターになるための勉強をするために管理局に入ったんだ。管理局の都合なんて知った事じゃないよ)
なんてことを! と、思う人もいるかもしれないが実は少年のような考えを持っている局員は少なくない。特に管理局世界で経済的に貧しい世界や、発言力に低い世界では積極的に管理局への入局を進めている。多くの人材を管理局に派遣することで失業者率を下げたり、先進世界の技術を取り入れる。あるいは管理局世界での孤立を防ぐなどと言った政治的意図がある。
少年の出身世界もそういった世界の1つだ。局をやめれば勉強どころか路頭に迷う。内戦が続いている世界ではなく、犯罪があっても比較的治安のいいミッドチルダに配属された時は、少年はこれで戦わずに勉強ができると喜んでいた。
(まさか、先進世界でこんなテロが起こるなんて)
少年は目を開けない。震えている手を見てしまえば、いや、自分が怯えていることを自覚してしまったら、もう何も考えられない。
少年はこのように追い詰められた状態だったので、誰かが震える手を握ってきたときは悲鳴をあげそうなほど驚いた。
「顔色が悪いわ。大丈夫?」
手を握っていたのは、シャマルだった。普段の白衣姿ではなく緑色の騎士甲冑姿で、少年の手を包むように握っている。驚きのあまり少年が口をパクパクさせていると、シャマルは優しく頬笑み言葉をかけた。
「君は、好きな人はいる?」
「へっ?」
少年にはあまりに場違いな発言に聞こえた。震えていたことも忘れて間抜けな声を出す。
「こんなときに正義とか平和のためにとか、考えてはダメよ」
「はあ……」
「それより、家族のこと、君に笑ってくれるあの子のことを考えて」
手を握り頬笑みながら言ってくるものだから、少年は思わず考えてしまった。
(好きな人というわけではないが、憧れている人ならいる。3歳しか違わないのにすでにデバイスマイスターの資格を持っている先輩で、人見知りしない性格の……)
そこまで考え閉まった後にシャマルの頬笑みが変化していること気がついた。先程の聖母のような頬笑みから、うわさ好きの女子が他人の恋話に花を咲かせているような笑みに変わっている。
「思い当たる人がいるのね!? 誰、誰?」
「え、あ、あの」
少年が答えに困っているとシャマルを呼ぶ声が聞こえた。いつの間にか現れたヴィルヘルムが呼んでいる。シャマルは「ここを切り抜けたら話を聞かせてね」と、言葉を残してヴィルヘルムのもとに向かった。
少年はキツネにつままれたような顔をしていたが、震えは止まっていた。
2体の戦闘機人が六課に到着するまであと3分を切ったところで、ヴィルヘルムのもとにグリフィスからの連絡が入った。
戦闘機人二体の反応が空中で停止したそうだ。かわりに何処からともなく現れたガジェットがこちらに向かってきているという。
「自分たちでは手を出さず。まずはこちらの戦力を推し量るつもりか」
「そうみたいです、二体とも射程外のぎりぎりのところで停止しています」
「戦闘機人は新型か?」
「はい、シャマル先生の捉えた反応は六課のデータと一致しません」
クラールヴィントのセンサーが捉えた情報ならば、まず幻術の類で攪乱されたものではないだろう。
敵の戦闘機人が新型ということはどんな能力を持っているか分からない。こちらの切り札になるシャマルとザフィーラは温存しておくべきだろう。
「シャマル医官、ザフィーラ、お前達はまだ手を出すな」
「え、でも……」
心配するシャマルだったが、ザフィーラは少し意見が違うようだ。一度だけヴィルヘルムを見ると、シャマルを止める。
「シャマル、ここは副長に預けよう」
「ザフィーラまで」
「お前達には戦闘機人の対処に当たってもらう、雑魚相手に消耗するな」
ガジェットⅠ型とⅢ型の混成部隊が六課の敷地内に侵入してきた。ガジェット達は特に陣刑を取ることなくまっすぐ先進し、基地警護用のオートスフィアや携帯結界システムを盾とした局員で築かれた防衛ラインに近づいた。そこから100m離れた所には外側から見えづらい位置に杭が打たれている。陸士が有効射程の基準にするために打たれたものだ。
「打ち方、初め」
ヴィルヘルムは50mまでガジェットを引き付けてから、念話で命じた。
魔力弾が連続で放たれ轟音を立てる。交替部隊や警備分隊以外の局員たちの魔法弾はⅢ型にはほとんど効果がなかったが、Ⅰ型にはダメージを与えることが出来た。半数が削り取られ、残り半数はオートスフィアや携帯結界システムの防御魔法に接触し足を止めた瞬間。
「おおおおおお」
「うわああああ」
雄叫びをあげて、槍を突き出すベルカ組の攻撃によって撃破された。残りのⅢ型も警備分隊の機銃の集中正射とアース分隊との連携で破壊された。
初めて現れた時にはライトニングFの二人を追い詰めたⅢ型だが、いまでは性能が判明しや対処法が考えられている。経験豊富な交替部隊なら十分相手を出来る。
しかし、敵第一陣を撃退した問題が起きた。戦闘で興奮した局員が分隊長の制止の声を聞かずに、破壊されたガジェットの残骸に向かって攻撃を続けている。ある者は射撃を続け、ある者は槍を残骸相手に振っている。こうなっては迂闊に近づくとその者が怪我、あるいは致命傷を負ってしまう。
これを収めるにはヴィルヘルムやザフィーラなどの経験の豊富な者が対処しなければならなかった。彼らは錯乱した隊員の死角から忍び寄ると素早くデバイスを取り上げる。それでもまだ正気に戻らない者には、容赦なく鉄拳をあびせ正気に戻した。「打ち方やめ」と、叫びながら二度繰り返すとようやく収まった。
「ロウラン准尉! 状況を!」
ヴィルヘルム自身の気がつかないうちに声が大きくなっていた。射撃音による音と破壊されるガジェットの爆発音によって耳がおかしくなっているのもあるし、ヴィルヘルム自身も興奮しているのもある。
「ガジェット第一陣撃破、こちらの損耗は軽微です」
「シャマル医官、敵の様子は」
「Ⅱ型数個編隊が海上から接近中、交戦圏内まで……ああ!」
敵の様子を伝えようとしていた、シャマルが驚きの声を上げた。
「どうした?」
「Ⅱ型が打ち落とされていきます」
海の方向を見ると、日が落ち暗くなった水平線の彼方に、一筋の光が駆け上がっていくのが見えた。
一瞬の閃光と数秒遅れの爆発音。
洋上数十㎞にいる巡洋艦が多術式魔力砲でⅡ型を迎撃してくれているようだ。多術式砲は地球で言うところのペイトリオットミサイルの様な地対空迎撃装備だ。流石に地上兵力の相手はしてくれないが、少なくとも手の届かない高高度から一方的に打たれる心配はなくなった。
「約束は守ってくれるようだな。また、頭が上がらなくなる」
あの艦長なら一時間も頑張れば応援に駆けつけてくれるだろう。こちらはそれまで相手の攻撃に合わせて、何とか持ちこたえればいい。
ヴィルヘルムは警備分隊長に念話で問いただした。
「分隊長、どのくらい耐えられる」
「ガジェット相手なら、弾が持つ限りは……。補給班次第ですな……あいつじゃな」
「なら問題ないな」
「え、そうですか?」
警備分隊長は補給分隊長を信頼できないでいるようだ。不安が念話越しに伝わってきたが、ヴィルヘルムは心配していなかった。
ヴィルヘルム達が戦闘を行っているころ、当の補給分隊長は武器庫の中で予備デバイスの数を数えていた。
とはいえすでに各隊員に配分を終えてしまっているので、予備の数も20機あるわけではない。すぐに数え終わったが、彼はもう一度最初から数えなおす。他にやることがないからだ。
先程までは、警備分隊の使うカートリッジの用意を手伝っていたが、ガジェットが破壊されたときに起こった爆発音に驚いて、カートリッジの詰まった箱を床にぶちまけてしまい、部下達に思いっきり嫌な顔をされた。以来、邪魔にならないようにデバイスの数を何度も数え直している。
「よし、準備完了」
彼の部下達がカートリッジの準備が完了した。機銃型のデバイスは専用のリングで1つ1つのカートリッジを繋いでやらないと使用できない。流石に戦っている最中にそんなことは出来ないので、ここで行っていたのだ。
「よ、よし、と、届けに行こう」
「はぁ? なに言っているんですか、まだ戦闘中なんですよ!」
「分かってる、で、でも、機銃のカートリッジ、は、すぐなくなってし、まうものなんだ」
普段、部下達に意見されるとなにも言えなくなってしまう分隊長だったが、突っかかりながらも反論した。
部下達は意外なモノを見るようにこちらを見ている。彼らにとってはこの補給分隊長など、馬鹿にする対象でしかなかった。
あまり背が高くなく、生白い肌、フレームの太い眼鏡、要するに彼はガリ勉タイプの容姿をしていた。そのうえ、話し方が訥弁で本人もそのことを気にしているのか、実に自信無さげにオドオドと話をする。テストの成績だけで管理局員になったと言われても仕方のない容貌の持ち主だった。
部下に馬鹿にされている。補給班長はそのこと良く知っていたが、仕方ないことだとも思っていた。今も部下はあきれたような態度を隠そうともしていない。
「本気ですか」
「と、とりあえず、1、分隊分だけ、でも、持って行くよ。よ、用意を、続けて」
そう言うと全部で30㎏はあるカートリッジの束を背負いタイプのコンテナにもたもたと積み込むと、杖型デバイスを支えにして何とか立ち上がり、ふらふらと走り始めた。
部下達は茫然していたが、彼の悲鳴が遠くで聞こえた時には、「そのうち怖気づいて戻ってくるだろう」と、思いついて作業を再開した。が、数分が経過しても戻ってこない。
「なあ、探しに行った方がいいんじゃないか?」
「ああ、そうだな」
流石に死なれては目覚めが悪い。と、心配する者が出始めたころ彼らの頼り無い分隊長が転がり込んできた。
持っているデバイスは故障してしまっているし、制服はボロボロ、涙と鼻水で顔はグチャグチャとさらに見栄えのしない様子になっていたが、コンテナの中は空だった。
彼はガジェットの攻撃の中を駆け回り、カートリッジを配って回ったのだ。杖はガジェットの攻撃でデバイスを壊してしまった隊員と交換したものだった。
「もう、は、半分近く、カートリッジを使ってしまっ、ている。急いで配ら、ないと」
「あ、お、俺も行きます」
「俺も」
相変わらずの話かたで、モタモタとカートリッジを積み込む彼を部下達が手伝い始めた。
馬鹿にしていた相手が危険を顧みず任務を達成して見せたのだ。ここで何もしなければ彼らとしても面子が立たなくなる。と、いう意識もあったのかもしれないが、彼らは分隊長を適確にサポートし始めた。
ある者は壊れたデバイスを修理させるために武器・デバイス班のもとへ向かい。破壊されたバリケードを直すための資材を運ぶ者もいた。
補給分隊長は、何故部下達が突然態度を変えたのかわからなかったが、先頭にたって前線を走り続けた。
「敵、第2陣、撃破」
「戦闘機人はまだ動かないのか?」
「はい、依然として動きを見せません」
「よし、お前達2人は引き続き、戦闘機人の監視を!」
戦闘機人2機の動きには積極性が見られない。このままガジェットで押し切るつもりか、シャマル達を六課から引き離し分断を狙っているのか。
いずれにしても好都合だ。このまま時間が過ぎていくなら応援が到着する。そうなったらこちらの勝ちだ。
後は防御を彼らに任せて、AAランクの術者が無傷のまま戦闘機人2体を撃破できる。
「副長、ガジェット達が集結、錐行陣形を取りつつあります」
ロングアーチから送られてきた情報に目を通す、確かに錐行陣形(三角形の陣形)を取りつつある、先頭はⅢ型だ。防御の厚いⅢ型を盾に突進し、こちらの防御を強引に突き破るつもりだろう。
一般隊員達の攻撃ではⅢ型には、ほとんど効果がないのでこのままでは突き崩されてしまう。
「アース1、アース4、防衛ライン後方で迎撃準備!」
「ああ、なるほど」
「了解!」
交替部隊の二人が後方に下がる。他の局員達には突撃に合わせて、防衛ラインの中央から観音開きの扉が押し広げられるように、後退していくよう命じた。(一の字の防衛ラインを11のように縦2本の線に変化させるような動き)
ガジェットが突進してくる。局員たちはなんとか指示通りに動いてくれている。が、流石にマタドールが闘牛をかわすようにとはいかないらしく、攻撃をかわしているのだか、ただ逃げているか側から見ていると区別がつかないありさまだった。
それでも大きな怪我人を出さずにガジェットの突進をかわし切った。
「よし、アース1、アース4」
「起動」
アース4の送った小さな信号を受けて、カード型の簡略デバイスにこめられた術式が目を覚ます。
局員たちの防御ラインを突破し、六課施設になだれ込もうとしていたガジェットの群はアース4の作った即席地雷原に飛び込む形になった。先頭のⅢ型が炎熱魔法で吹き飛ばされる。爆発に巻き込まれなかったⅢ型は、アース1が地面を槍状に変化させ串刺しにしていった。二人はこのために退いていたのである。
後に続いていたⅠ型は爆煙の中に飛び込むのを危険と判断して停止したところを、局員達に狙い撃ちにされていった。ちょうど地雷と局員でコの字型に半包囲した形だ。三十秒もかからずにⅠ型も全て破壊された。
「ヤッター!」
「俺達でもやれるぞ!」
「よっしゃー」
局員たちが歓声を上げる、3回の攻撃を撃退できたことで局員たちにも自信がついたようだ。勢いづいて目がランランとしている。
その中でヴィルヘルムにシャマルから念話が届いた。
「副長、戦闘機人が動き始めました」
守りたかった物、守らなきゃいけなかった物
壊されていく物、消えてしまう物
次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS、『その日、機動六課(B面)後編』
テイク、オフ
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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何卒よろしくお願い申し上げます。