管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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11その日、機動六課(B面)後編

「敵、第三波、撃破!」

 

 通信担当のアルトの声が弾んだ。ヴィルヘルムの指揮を見るのは2回目だったが、正直、彼が事務系の幹部なのが信じられないほど見事な戦術だった。

 ヴォルケンリッターの二人に至ってはまだ一発も魔法を放っておらず、余力を残している。

(このまま、勝ってしまうんじゃ)と、甘い考えまで浮かんできたところを、グリフィスの声が邪魔をした。

 

「状況確認!」

 

 現在の六課の戦力は小隊3つと分隊1つ一個中隊弱だ。

 小隊は交替部隊1分隊、警備分隊(機銃手隊)1分隊、ミッド式一般隊員数分隊、ベルカ式一般隊員数分隊で構成されている。(以下3小隊をエア小隊、グランド小隊、アース小隊と仮名)

 残りの分隊はヴィルヘルム、シャマル、ザフィーラの戦闘機人対応分隊だ。たった三人で分隊とは大げさかもしれないが、しっかりとした目的を持った集団なので分隊と呼称するべきだろう。

 この三つの小隊をどの方向からガジェットが来ても六課隊舎を守れるように配置していた。

 副長達は戦闘機人に最も近い小隊で指揮を取っていた。もちろんその間にも他の小隊と、ガジェットとの小競り合いが起こっていたが、被害はほとんど出ていない。アルトから見るとまだまだ余力があるように思える。

 だが、戦闘はめまぐるしく状況が変わっていくもの。

 

「副長、戦闘機人が動き始めました」

 

 シャマルの念話を捉えてサーチャーを確認する。

 確かにこちらの迎撃エリアの外で停止していた戦闘機人がガジェットを引きつれ接近してきている。

 

「映像を回して」

 

 オペレーターの主任であるシャーリーが指示を出し、拡大された映像が空間モニターに映しだされた。

 シャーリーは映像を睨みつけるように観察し始めた。デバイスマイスターでもある彼女なら相手の武装やガジェットの形状からでもある程度能力を割り出すことができる。

 結果、戦闘機人の一名は接近戦タイプ、一名はステルス性の高い装備をしていることから、中距離から長距離での戦闘、もしくは支援をするタイプとあたりを付ける。 ガジェットの方は簡単だ、Ⅰ型の重武装タイプこれで間違いない。

 ガジェットは当初、デバイスマスター達から余剰スペースが多すぎると考えられていた。要するに中身がスカスカだったわけだが、今ではその理由も簡単に説明できる。機能の増設用のスペース確保のためだ。

 現に初めて管理局世界にガジェットが現れた時と比べると、かなり性能が上がっている。だが、どうやらそれも打ち止めのようだ。機体の外部に追加の武装が見えている。

 シャーリーはその情報をまとめてヴィルヘルムに送った。

「副長、武装を追加したガジェットは攻撃力を増加していますが、防御は従来型と大差ありません」

「わかった」

 

 シャーリーからの情報を聞いてヴィルヘルムはすぐに部下達に指示を出した。ミッド組とベルカ組を組にしてベルカ式を防御に専念させ、ミッド式の射撃で仕留めていくことにする。攻撃力の高い相手に迂闊に近づくのは危険との判断からだ。

 

 

 

 エア小隊もヴィルヘルムの指示にならい攻撃を開始した。しかし、

 

「なに!」

「かわした!」

 

 エア小隊が相手をしていたガジェット達の動きが急に良くなり攻撃をかわし始めた。無人操作から有人の遠隔操作に切り替わったようだ。

 ホテル・アグスタで召喚士が使ってきた魔法だ。

 

「召喚が来るぞ!」

「副長に報告!」

 

 地面に四角形の魔法陣が浮かび上がり、巨大な甲虫型の召喚虫『地雷王』が現れ始めた。

 

 

 

 報告を聞いてヴィルヘルムが怒鳴った。

 

「シャマル、ロングアーチ、広域サーチ急げ!」

「は、はい」

 

 ヴィルヘルムの声には焦りの色がある。これはただ事ではないと、シャマルは急いで探査魔法用意しようとしたが、途中で防御魔法に切り替える。

 

「IS発動、レイストーム」

 

 少年型?(シャマルにはそう見えた)の戦闘機人の足元に魔法陣状のテンプレートが出現し、手のひらには緑色のエネルギーが集中していく。

 

「クラールヴィント、防いで!」

 

 光が弾け、放たれた拡散砲をシャマルの防御呪文がしっかりと受け止める。双剣の女性型戦闘機人がシャマルの邪魔をしようとしたが、これはザフィーラが間に入って阻止した。

 二人の連携は見事だったが、今のヴィルヘルムにはそれを褒めるような精神的余裕はなかった。

 

(本部を攻撃していた召喚士が、合流してきた!味方の来援を待つつもりが、相手に同じ手を打たれてしまった!なら敵の戦力は最大で!)

 

 ヴィルヘルムの恐れはすぐに現実のものになった。市街地に推定Sランク相当のエネルギー反応が現れた。とたんロングアーチが騒ぎ出す。

 

「砲撃のチャージ確認」

「どうして今まで、気がつかなかったんだ」

「こちらのサーチャーの死角にいたようです」

 

 本来なら地上部隊からの情報連結で死角をカバーできたはずだったが、ハッキングと混乱の影響でカバーしきれないエリアが出来ている。情報戦を得意とする戦闘機人も来ている証拠だ。

 遥か彼方、ここからだと針山のようにしか見えないビル群の1つがキラリと光ったように見えた。

 ヴィルヘルムに出来たことは叫ぶことだけだった。「伏せろ!」と叫んだ声も超アウトレンジからの砲撃が起こす爆音にかき消された。

 凶悪なまでのエネルギーが、グラント小隊が守っていた防衛ラインに突き刺さり、ガジェットごと局員を薙ぎ払った。

 

 

 

「そんな…」

 

 どんなに強力な治療魔法を使えても、死者を蘇らせることはできない。

 シャマルが思わず茫然とすると、ヴィルヘルムが射撃魔法を発動させた。

 

「ガンド・ランツァ」

 

 四つのランサーはシャマルをかすめ、立ち尽くしていたシャマルを狙っていた戦闘機人に迫るが、双剣の戦闘機人は空中に逃れた。

 

「ドレーウング」

 

 ヴィルヘルムの呪文で、かわされたランサーがその場でクルッと向きを変え再度戦闘機人に襲いかかり、戦闘機人の張ったバリアーに接触して爆発した。

 

「シャマル!」

 

 もう一人の戦闘機人と対峙していたザフィーラが叫び、シャマルはようやく正気を取り戻した。

 これでここの戦闘機人は抑える事が出来る。とにかく状況を確認するのが先決だ。ヴィルヘルムがロングアーチに確認させると、ルキノとアルトが震えながらも被害状況を調べ、次の瞬間には大声を出した。

 

「生きてます!みなさん!」

「グランド小隊は壊滅状態ですが、人的被害は重軽症者だけです!」

 

 砲撃は非殺傷設定だったようだ。負傷者の大半は吹き飛ばされた衝撃や、飛んできた瓦礫や破片怪我を追ったものが大半だった。

 二人の戦闘機人と対峙しながらヴィルヘルムも安堵したが、彼らが依然として命の危険に晒されていることには変わりはない。

非殺傷設定といえども砲撃が2発、3発と続けばどうなるか分かったものではないし、負傷者のなかには手当をしなければ危険な者もいるだろう。

 

「ロングアーチ、フロントメンバーとの連絡は!」

「とぎれたままです!」

「とにかく、周囲のスキャンだ!地下を探るのも忘れるな!」

 

 状況から判断すると確認されている戦闘機人の中の砲撃型、情報戦型が増援に来ているようだ、あるいは高速機動型、物質潜行型の戦闘機人が増援に現れる可能性もある。

 これ以上、不意打ちを受けたらもうどうすることもできない。

 

(今の配置じゃ、対応できない。しかし…)

 

 思考する間にも状況が悪化していく、防衛ラインの外側に小型の召喚魔法陣が現れガジェットが現れ始める。グランド小隊を失ったこともあり、これで戦力差は2倍以上なってしまった。

 

(くそ!2倍も戦力差があっては戦術の入り込む余地はない。こんなことなら危険を冒してもシャマル達を先行させるべきだった。それにしても地上の連中、混乱しているのはわかるが、もう少し根性を見せられないのか!いや、今はとにかくグランド分隊を救出することを考えろ)

 

 ヴィルヘルムは地上部隊に対する愚痴に成りかけた思考を抑え、対策を考える。

 救出作業を行っている数分間の間は、ザフィーラの広域防御に頼るしかなさそうだ。強力な防御魔法でガジェット達を寄せ付けず、その間に救出作業を行う。

しかし、敵には攻城攻撃と言うべき大型召喚虫(地雷王)、拡散砲(レイストーム)、長距離砲(ヘヴィバレル)この三つはいくらザフィーラといえども同時に防ぎきるのは難しい。これらに対抗する措置が必要だ。

 地雷王は長距離攻撃が出来るタイプではないので、エア1、エア4が狙撃で足止め。ガリューと呼ばれている召喚虫が出てきた場合はエア2、エア3の二人で抑えることが出来るだろう。拡散砲はシャマル。長距離砲はヴィルヘルム自身とアース1、アース4で対応する。

グランド小隊の救出が完了次第、ザフィーラは広域防御を解除そのままシャマルの援護。

 戦い慣れていない一般隊員達が六課の外で戦っていては、相手が展開する十分な空間的な余裕があるので一気に押し潰されてしまう。となると警備分隊の指揮で、防御システムを利用して六課隊舎内に引き込み戦力を分断、各個撃破を狙うのが最もまともな戦法だろう。

 アース2、アース3は高速機動型、物質潜行型の戦闘機人が現れた際の予備兵力として、隊舎内に残ってもらう。現れなかった際はそのまま一般隊員の支援に回る。

 攻城攻撃対応のため外に残る隊員達は、ほぼ孤立してしまう状態になるが、何とか時間を稼いでもらうしかない。

 

(結局個人技に頼ることになるとは!なにが『備え』だ!情けない!)

 

 ヴィルヘルムは自分自身を殴り飛ばしてやりたい。と、いう顔をしながら念話で指示を出す。

 指示を聞いたザフィーラは、

 

「ヴィルヘルム、10分持たせる」

 

 それだけ言うと雄叫びをあげ、広域防御を展開した。

 ヴィルヘルムは配置を変えるため部隊を引かせながら、各分隊長に念話を送った。

 

「各分隊長、何分かかる」

「3分で配置変更可能」

「2分でやれ!」

 

 そして、自身のデバイスの待機モードを解除する。

 

「目覚めよ、ドルンレースヒェン」

 

 

 

 うめき声や泣き声しか聞こえなかったのに、励ます声が聞こえてくる。

 グランド3が目を開けると、ぼやけた視界の中に救出に来たアース小隊と補給班達が倒れたグランド小隊を助け起こしている姿が見えてきた。

 指揮を取っているのは、大槍を持ちプレートメイル型の騎士甲冑に身を包んだ背の高い近代ベルカの騎士、ヴィルヘルムだ。

 

「何やってやがる…副長、こいつは『友釣り』だ」

 

 『友釣り』とは、まず、狙撃や爆弾などで敵の誰かに怪我を負わせ動けなくする。傷ついた仲間を助けに来た救出者を致命的な一撃で攻撃する。と、いう非情な戦術の1つだ。

 こうしている間にも、こちらを砲撃してきた戦闘機人は砲撃をチャージしているに違いない。

 グランド3はヴィルヘルムに警告するため大声を出そうとしたが、脇腹に激痛が走り虫の鳴くような声しか出ない。肋骨の何本かは確実に折れている。

 

「砲撃チャージを感知」

 

 アース1がサーチ系の魔法を使い戦闘機人の様子を探り報告している。

 グランド3にはアース1の女性らしい高い声が死刑宣告に聞こえた。

 自分のいた小隊を吹き飛ばした砲撃はSランク、隊長や副隊長クラスの魔力がなければ防御するのは不可能だ。副長が魔法の腕前を隠しているのは気がついていたが、流石にそこまでの魔力を保有しているなら騒ぎになっているはずだ。

 

「アース4、威力強化」

「了解!」

 

 アース4の強化魔法の補助を受けると同時に、敵の砲撃が放たれる。ヴィルヘルムが砲撃魔法で対抗するがやはり威力が違いすぎる。

 グランド3の視線の先で砲撃同士がぶつかり…、合わなかった。

ヴィルヘルムの砲撃は遥か上空に外れ、戦闘機人の砲撃は六課の敷地に面した海面に落ちて巨大な水柱を立てた。

 戦闘機人の攻撃はSランクの砲撃とはいえ、数キロ先からの攻撃には精密な計算が必要だ。様々な現象のチョットした変化で狙いが大きく逸れることがある。ヴィルヘルムはそれを利用し、互いの砲撃を干渉し合わせることで狙いを外させたのである。たとえるなら剣術の受け流しだ。

 

「アース1、敵の次弾は幻術とのコンビネーションだ」

「わかっています。すでにロングアーチから幻術パターンのデータを受け取っています」

「よし。救出部隊、砲撃を恐れるな!あと数名だ、助け残しを出すなよ!」

 

 グランド小隊を救出に来たアース小隊は、ヴィルヘルムに叱咤激励されながら負傷者を搬送している。グランド3も涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした補給班の士官に、助け起こされながら呟いた。

 

「ち、副長め。いい腕しているじゃねーか」

 

 

 

 六課隊舎内がにわかに騒がしくなってきた。

 武装隊の最新輸送ヘリ、JF704式のハンガーに続く隔壁を全て閉鎖したヴァイス陸曹は、他の隔壁閉じるため走りながらそう感じた。

 どうやら、副長は施設の無事を諦めて人の被害を減らす戦い方をするつもりのようだ。いつもは施設やデバイスを手荒に扱うと「官品愛護の精神はどうした!」と怒り出す裏方らしからぬ大盤振る舞いだ。

 最後の隔壁を降ろし終えると、三つのひし形のワンポイントが入った作業服の女性とすれ違った。数秒もたたないうちに女性の向かった先から、次々とケガ人が運ばれてくる。

 そのなかの一人は年長の交替部隊隊員グランド1だった。彼は他の局員に肩を貸してもらいながら歩いていたが、限界が来たらしいガクッと膝が折れる。

 

「あぶねぇ!」

 

 ヴァイスが咄嗟に肩を貸している隊員の反対側から支え、そのまま比較的に安全と考えられている区画へと連れていく。

 そこではすでにバックヤードスタッフが避難しており、衛生員(シャマルの部下)と負傷者の手当てをしていた。人手が足りないのであろう、シャーリーやアルトも駆けつけている。

 グランド1を寝かせると一緒に彼を運んできた局員は「あと、お願いします」と言い残すと衛生員に彼の容体を伝えに行った。

 ヴァイスも元武装隊、応急手当ての心得ぐらいある。ここで負傷者の手当てをしていた方が部隊のためになるだろう。と、考えグランド1の傷の具合を確認しようとすると強く腕を掴まれた。

 

「若いの、こんなところで衛生員のまねごとか?」

 

 グランド1がヴァイスの腕を掴み、荒い呼吸をしながら問いかけていた。

 経験豊かな目がヴァイスを見ている。

 

「いや俺は…」

 

 なぜか、「そうです」とか「それが最善です」と言えず、何を言いたいのかも言葉にならず、名前の付けられない思いだけが空回りする。

 ヴァイスの様子を見て、グランド1は笑った。彼とってはヴァイスの思いなど一目瞭然なのだろう。

 

「俺はお前が初等科の鞄を背負っているときから管理局で飯を食ってきた。おかげでいろんな魔導師を見てきた。辞めていく奴、同じことを繰り返す奴、強運が続く奴、そして…」

 

 長く話して疲れたのか、グランド1は大きく深呼吸をした。

 

「そして、立ち直る奴」

「俺も…」

 

 「立ち直れると?」とは、続けられなかった。グランド1は気にせず、

 

「俺の知っている限りでは、立ち直ったのはそう願っている者の中からしか出てこなかったがね」

 

 衛生員が来て、グランド1の手当てを始めた。グランド1は持っていた汎用型デバイスを置くと目を閉じて身を任せている。

 

「こいつを見てやってくれ!」

 

 ヴァイス達のいる区画にエア小隊の負傷者が運ばれてきた。グランド小隊の救出が終了しガジェットとの戦闘が再開し始めたようだ。隊舎内からも小規模の爆発音が聞こえ始めた。

 

「誰でもいい!魔導師ランク保持者はいないか!」

 

 負傷者を連れてきた局員が大声で叫ぶ。ここで戦況を伝えても戦闘能力のない局員が不安がるだけだ。ヴァイスは局員の腕を掴んで区画から離れると戦況を聞いた。

 聞く限りだとエア小隊は押されつつある。召喚士のガジェットが強化されているうえに、戦闘経験の浅い一般隊員だけでは連携も取りにくいようだ。

 

「クソッ!」

 

 気が付くとヴァイスは区画内に戻り、グランド1が使っていた汎用型デバイスを掴んでいた。

 妹の巻き込まれた事件が頭を掠める。あの時の緊張、呼吸の乱れ、魔法弾を放った感触…。

 

「借りていきます!」

 

 ヴァイスはエア小隊の守っている区画へ走りだした。

 

「ビビってる、場合じゃねぇよな」

 

 

 

 槍に貫かれてガジェットⅢ型が機能を停止し地面に転がった。

 

「5、4、3、2、1、今」

「ヴァナル・ガンド」

 

 マルチタスクを最大に活用し、砲撃用の魔力のチャージとガジェットとの戦闘を同時に行っていたヴィルヘルムが砲撃を放つ。何度目かの砲撃は再び海上へ落ちた。

 ヴィルヘルムの砲撃は出力射程において敵に劣っていたが、その分チャージ速度において勝っていた。もし敵が距離を詰め受け流しが出来ない距離に移動したとしても、早さに勝るこちらの砲撃で先に攻撃することが出来る。

 また、敵は幻術を駆使し砲撃の個所を欺瞞していたが、六課のオペレーターが制作した幻術の解析は完璧に機能し、アース1が砲撃場所の特定するのを助けていいた。

 六課は何とか拮抗状態を保っていた。

 

(拮抗しているがそれだけだ。もうすぐ支えきれなくなってしまう。私もとうとう地金が出てきたか)

 

 苦々しく追い詰められていることを認める。すでに自分自身という最後のカードをきってしまった。これ以上戦力投入をされたらもうどうしようもない。何とかこの場を切り抜けてシャマル達と合流、敵を各個撃破出来る方法はないか考える。

 その間にも戦闘は続く、密集隊形でガジェットを倒しながら、アース1に聞く。

 

「敵の砲撃が来るまで、あと何秒だ!」

「現在、チャージは止まっています」

「見失ったのか!?」

 

 いま、敵が攻撃の手を休める理由はない。ヴィルヘルムはアース1が敵を見失ったと考えたが、アース1はキッパリ「観察眼には自信がある」と否定し、アース4に軽口をたたく。

 

「ガジェットだけなら軽いわね。休憩よ、休憩。ねぇ、コーヒー入れてくれない」

「豆が切れている。缶コーヒーで我慢しな」

 

 この軽口で勝機が見えた。いそいでデバイスに計算をさせる。

 

「フロイライン、戦闘機人の反応から計算しろ、敵はあと何発打てる」

 

 こちらが疲労しているように戦闘機人のエネルギーも無限ではない。特に砲撃型は大出力砲撃を地上本部制圧のために何発も放っている。その分力尽きるのも早い筈。

 案の定、愛機はあと数発で力尽きるとの計算結果をはじきだした。ならば、相手を休ませてやる必要はない。

 

「フィン・シュラーク」

 

 数本のランサーが1つにまとまり、長距離用のランサーになり、シャマル達の相手をしていた戦闘機人に放たれた。遠隔操作可能なランサーを避ける為、戦闘機人の機が一瞬逸れる。その一瞬を見逃すヴォルケンリッターではなかった。

 シャマルのバインドが拡散砲型を捉え、フォローに入った接近戦型をザフィーラが体当たりして弾き飛ばした。2機は空中で衝突してそのまま地面に墜落。ザフィーラは『鋼のくびき』を横なぎに放ち止めを刺そうとしたが、戦闘機人はこれを大量のガジェットを盾にすることによって防いだ。

 一時的にではあるがシャマル達の周囲のガジェットが数を減らす。

 

「砲撃チャージ反応!」

 

(よし、乗ってきた)

 

 手持ちの弾数が少なくなった敵は長距離砲撃があることをチラつかせ、こちらの合流を防ぐつもりだったようだが、ランサーの固め打ち『フィン・シュラーク』を使えばここからでもシャマル達の援護は可能だ。それを知った敵はヴィルヘルムに援護させないために、絶えず砲撃を打って援護を阻止してくるしかない。そして、弾数ならこちらの方が上だ。

 敵の砲撃が来る。こちらも撃ち返し互いの砲撃がねじ曲がる。砲撃を放つ隙はアース1、アース4が絶妙なフォローを入れてくれる。

 再び、砲撃のチャージ。あと、せいぜい2、3発繰り返せばこちらの勝ちだ。

 

「きゃ~~~~」

 

 悲鳴がヴィルヘルムの計算を狂わせた。

 六課隊舎の中から作業服を着た女性が飛び出してきた。その後ろにはガジェット数機。

 

「副長!」

「かまわん、行け!」

 

 アース1が女性を助けるために走りだす。アース1からすでに敵のデータを受け取っていたヴィルヘルムも応じた。

 アース4がこれ以上ガジェットを近づけさせないために防御陣を張る。陣の中にはヴィルヘルム、アース1、アース4、女性と数機のガジェットだけだ。

砲撃が水面に落ちる音とガジェット破壊が重なり一瞬耳が聞こえなくなる。

 

 左の腿、脇腹、肩が熱い!

 

「…ッ」

「副長!」

 

 アース4もこちらの異変に気付き声をあげた。そして、ヴィルヘルムに近づこうとして魔力反応のない衝撃波に弾き飛ばされた。

 ヴィルヘルムが肩を見ると鋭い刃が後ろから肩を貫いている。刃は筋肉が締まる前に引き抜かれ、傷口からは血が流れ出す。

 ヴィルヘルムは刃が抜かれたことでようやく振り向く事が出来た。

 振り向いた先には、右手の親指・人差し指・中指に鋭い金属の爪を付けた作業服の女性がいた。少し離れた場所には背中に傷を負い倒れたアース1。

作業服の女性、ノラ・ドゥは爪に付いた血をひと舐めすると、こちらを流し眼で見る。

 

「なかなかの丈夫な甲冑ですね。急所から逸れましたわ」

 

 ヴィルヘルムは答えずデバイスを右腕だけで構えた。この女がいる限り敵は砲撃を撃ってこられないはずだ。殺さす捉える事が出来れば、こちらが有利になる。

 

(アース1も私の傷も手当が出来れば十分助かる傷だ。手当てができれば…)

 

「その傷で、まだ、戦うおつもりですか?」

 

 ノラは哀れなモノを見る目でこちらを見ながら爪を構えた。

 

「お辛いでしょうに、わたくしが…楽にして差し上げます!」

 

 ノラが猫のように飛び出してくるのに合わせて、一足飛びで突進しながら槍を突き出す。

 体重と魔力が乗った一撃は、ノラの爪の一本を折ったがこちらも攻撃の軌道が逸れ槍先はノラの体を掠めるに留まった。それでもこちらの反撃はノラの予想を超えたらしい。大きく間合いを外した。

 長期戦になればこちらに勝ち目はない。この機を逃さず攻撃に出ようとして、慌てて踏みとどまる。ノラが飛び退いた先にはアース1が倒れており、彼を人質に取られてしまったからだ。

 急制動に傷ついた体が悲鳴をあげる。痛みは堪えたが大きな隙が出来てしまった。ノラが放った環状バインドがヴィルヘルムを拘束する。

 

「その傷でその動き…、ただ魔法の出来る文官というわけではないようですね」

 

 ヴィルヘルムが身動きを取れずにいることを確認したノラは、アース1の首筋に突き付けていた爪を短く戻した。

 

「そう言う、貴様は何者だ。まさか、ノラと言うのが本名ではないだろう」

 

 ノラはクスッと笑うと答えた。

 

「オリヴィエ02と言えば分かるかしら」

 

 言い終えるとノラはパッと駆け出し、一番近い海の中へと飛び込んだ。手負いとはいえこちらに近づくのは危険と判断したらしい。

 魔力を高めバインドを引きちぎる。

 

「グリフィス!砲撃チャージは!?」

「あと30秒です!逃げてください!」

 

 グリフィスはほとんど悲鳴に近い声で答えた。周囲を見渡す、アース4は頭を振りながら立ち上がったところだった。アース1は倒れたままだ。受け流しはできそうにない。

 小型ガジェットが近寄ってくる。

 

「アース4、アース1を担いで隊舎へ走れ!」

 

 ランサーをガジェットに放ちながら大声で怒鳴る。怒鳴り声で意識がはっきりしたアース4が消防夫搬送法でアース1を担ぎながら聞き返してくる。

 

「副長は!」

「かまわん!行け!」

 

 砲撃の直撃を許せば、アース1、アース4も六課隊舎もただでは済まない。

 デバイスのカードリッチを3発使用し手持ちの魔法の中で最大の防御魔法を、起動パスワードの直接入力で展開しながら、念話でグリフィスに連絡を付ける。

 

「神の子よ!魔術詩人の言葉に従い、第1の槍を捨てよ!」

(グリフィス!指揮を引き継げ!)

 

 敵の砲撃が放たれた。数キロ先から放たれたエネルギーの奔流が防御魔法にひびを入れる。

 アース4はまだ隊舎にたどり着いていない。

 エネルギー波の勢いは止まらない。

 

「狂戦士よ!預言詩人の予言に従い、第2の槍を捨てよ!」

(やばくなったら下水道でも何でも使って!逃げ出せ!)

 

 ほとんど不可能と知りつつ、指示を送る。

 防御呪文を強化、補強するが、焼け石に水だ。

 

「英雄よ!吟遊詩人の諷刺に従い、第3の槍を捨てよ!」

(六課隊舎など単なるハードだ!放棄してかまわん!)

 

 アース4が六課隊舎内に飛び込み、防御システムが出入り口を閉鎖、シールドを張る。

 再度の強化と補強、あと数秒しか耐えられない。

 

(お前達が残れば、六課の再建などいくらでも…)

 

 砲撃の出力が上がった。戦闘機人が残りのエネルギー全てを使った一撃は防御を容易く破り、ヴィルヘルムを飲み込んだ。

 

 

 

「艦長!見てください!巨大な魔人が!」

「いや、あれはアルザスの真竜だ!」

 

 戦闘開始から一時間強、六課近海に近づいた巡洋艦の艦橋から見える六課隊舎はひどい有様だった。ボロボロになっているうえにあちこちで火災が発生している。それに海岸付近には巨大に真竜が見える。この竜が敵なら、今すぐこの場から離れなければこの艦自体が危ない。

 

「オイ、反撃の準備をしつつ六課に呼びかけろ!あの真竜は味方か?」

 

 通信が何とか繋がり、グリフィスと名乗る准尉が出た。救援に来たことを伝えると、一瞬声を詰まらせた。艦長には彼が何を言いたかったのかよくわかった。「遅すぎる」と、言いたかったのだろう。

 それでもグリフィスなる若い准尉は礼をいうと、消火と負傷者の救助を要請し、真竜が味方であることを伝えてきた。艦長はそれに応じ、手持ちの魔導師隊を全て派遣した。

 ガジェットⅡには多術式魔力砲の死角を突かれ六課への低空侵入を許し、増援に来ても時すでに遅い。ヴィルヘルムとの約束を果たせなかったと感じていた艦長は、出し惜しみする気はなかった。しかし、地上本部は混乱中、六課は破壊されてしまった。

 

「最悪の状況だな。次の手は『備え』てあるのか?若造」




壊されてしまった地上本部と機動六課
だけど、倒れたままではいられない
立ち上がるんだ、もう一度
次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS、『翼、ふたたび(クロノとヴェロッサ)』
テイク、オフ

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