「スターズ4、No9逮捕、残り戦闘機人No4、一機!」
その知らせを聞いてから約50分戦闘指揮を執りながら、ヴィルヘルムは部隊を有機的なローテーションを組めるよう再編成した。今では六課以外の武装隊員達もガジェットの攻撃パターンに慣れ始めたようだ。常にチームで死角を補い、早々不覚を取らなくなっているため、1個小隊が予備兵力として待機している。
(我々が戦闘に参加してから約1時間、スカリエッティを逮捕したはいいが、攻略目標のゆりかごはいまだ止まらずか…)
戦闘機人をいくら倒そうがスカリエッティを逮捕しようが、ゆりかごを止めることが出来なければ六課の勝利とはいえない。
ゆりかごは軌道上に到達してしまえば管理局の主力艦隊と正面決戦が出来るという。そうなってしまえばどちらが勝とうが甚大な被害が確実に出る。そうさせない為に発足したのが機動六課。
(今まさに六課の存在意義が問われているわけか…、あるいは課長は自身の存在意義を問うているかもしれないな)
ヴィルヘルムから見てもはやての事件捜査に対する痛々しいまでの献身は危うく見える。
(自身が高ランク魔導師だと、課長の性格からいってそろそろ突入したがっているころだな…、悪癖が出てなければいいが…)
ヴィルヘルムが心配していると、はやてからの通信が入る。はやてはアースラの状態と残りタイムリミットを確認すると、
「防衛ライン現状維持。誰か指揮交替!今から私も突入する!」
案の定、突入を決意したようだ。しかし、指揮を交替する相手も定めていなかったようだ。流石にこれはまずいとヴィルヘルムが通信に割り込もうとすると、先にアルトの通信が割り込んできた。
「八神部隊長、あともうちょっとだけ待ってください」
本来彼女はオペレーターの筈だが、ヘリパイロットのヴァイス陸曹が六課襲撃の際に負傷してしまったため、臨時にヘリパイロットを務めている。
「大事なお届けモノを、今そちらに」
アルトははやての意見に全面的に賛成のようだ。はやての副官にしてユニゾンデバイスでもあるリィンをヘリに乗せ、ゆりかごに急行している。
(指揮の引き継ぎもそこそこにエースが全て現場を離れると、普通の隊員は不安になるだろうに…)
六課のフロント陣はストライカーと呼んで差し支えないほどの成長を見せているが、いくら本局の武装隊員とはいえ、そういった魔導士の数は多くない。その上、ランクの高いエース級魔導士はすべて突入隊として、ゆりかご内部に突入している。各員の負担はいつも以上に大きき筈だ。ヴィルヘルムから見ると六課の隊長陣はそのあたりの感覚が希薄に思える。
(そのあたりのフォローをするのが私の仕事か…)
ヴィルヘルムはグリフィスに自分もゆりかごに向かうことを告げると、先任に当たる第203パトロール中隊の1尉を呼び出すと指揮を引き継ぐ。
「グリフィス、部隊間の連携だけは忘れるな!」
「はい」
「1尉、ロウラン補佐をフォローしてやってくれ」
「了解、まかせてください」
「予備兵力は、ヘリに搭乗。私に付き合え!」
ヘリをゆりかごに向かわせ、ヴィルヘルムはヴァイスに連絡を入れた。
「ヴァイス、そちらはどうだ!」
「問題なしッス。ギンガは無事保護。召喚士、こちらの戦闘機人は全員逮捕。こちらの人員も軽傷程度で問題ありません」
「機材の方は、借り物のヘリを壊してはいないだろうな」
「俺は六課のヘリパイロットですぜ」
まだまだ、アルトになんか負けないと、ヴァイスは笑った。
「よし、スターズ、ライトニング、両フロントをシャマルと合流させ可能な限り回復させろ。各隊長の支援に向かわせる。特にスバルは最優先だ!」
ゆりかご内は高濃度のAMFが張られている、導士や騎士では対応できない可能性がある。ヴァイスもヴィルヘルムの意図が分かったのだろう。先任下士官として補足を入れてきた。
「なら、ティアナにも足を持たせた方がいいッスね」
「用意できるか?」
「任せてください!」
「手段は任せる」
これで万が一、はやて達がゆりかご内に取り残された時の備えは整った。改めて、彼我の配置を確認する。こちらのヘリがゆりかごに到着するのは、アルトから少し遅れて到着することになりそうだ。はやてが突入した後となると、後任と連携を取れるかどうかわからない。
(到着早々、戦闘になる可能性も考慮すると。今のうちにいくつか陣形を伝達しておくか)
アルトとの通信のあとから数分、はやてはこちらに向かってくるJF704式を視界にとらえた。が、ガジェットの指揮を執っている指揮官もそのことに気が付いたようだ。ガジェット達の一部が縦陣(空戦では柱の様な陣形)を組み、こちらの包囲を破り合流を防ごうとしてくる。
対してはやてはこちらも部隊の一部に横陣(空戦では面の様な陣形)を組ませる。射撃が中心の現代の空戦において、この陣形なら正面に対して間合いを保ったまま火力を集中できる。その間にリィンと合流、広域魔法でガジェットを薙ぎ払う事が出来る筈だった…。
「…えっ」
隊員たちの反応が鈍い。何とか陣形を整えたものの、隊員同士での相互支援が上手く出来ずにいるようだ。魔法弾の威力も少し落ちている。
(予想より早く局員たちが疲労してきてる。展開面積が広過ぎた!あかん、混戦に持ち込まれる!)
敵味方入り乱れての混戦状態になってしまうと、当然はやての広域魔法など使えない。しかも、局員が疲労してきているとなると今の陣形ではこちらが不利だ。ガジェット達の縦陣は左右の連携を気にすることなく、後方から次々と新手を繰り出してくることが出来ので、横陣形を崩されかねない。
(いま、ガジェットにヘリが襲われたらしまいや)
遮蔽物が多い地表近くならばともかく、空中戦ではヘリはガジェットⅡ型のいいカモにしかならない。
(私の大魔力任せに防御を展開、ガジェットを食い止める)
リィンのサポートなしでそんなことをしたら、ゆりかご内への突入が出来なくなってしまいそうだが仕方がない。はやてが意を決しガジェット戦列に飛び込もうとした瞬間。
「弾丸陣型、各員、我に続け!」
無数のランサーがガジェットの頭上に降り注いだ。それを合図に矢印の陣形(空戦では円錐の様な陣形)をした部隊がガジェット編隊に突撃していく。先頭はプレートメイルに身を包んだ現代ベルカの騎士。
「副長!」
はやてが驚いたのは一瞬のこと、すぐにヴィルヘルムの狙いに気が付き。部隊に3正射だけさせ後退させる。
その間に直上からの逆落としで加速したヴィルヘルムの小隊は機動戦闘力=量×速度の2乗の法則に従いガジェット編隊の中央まで突進、そこから左側面に突破してガジェット達を混乱させた。まるで騎士が敵を両断するように…、いや、ガジェットに槍を突き立て、返り血のごとくオイルを浴びながらも先頭を突き進むヴィルヘルムの姿は、そんな華麗な姿をしていない。どちらかと言えば、猛り狂った狂戦士が敵に槍を突き立てただけでは飽き足らず、力任せにその胴体を引き千切る姿のようだった。
ヴィルヘルムはガジェットの編隊の内部から側面に飛び出すと、ガジェット達が反応できずにいる間に陣形を組み直した。そのまま、愚直に前進を続けるガジェットの先頭部隊に並走攻撃を仕掛けた。それが、後退、密集したはやての横陣の連携となりガジェット先頭部隊は瞬く間に消滅した。
先頭部隊を失ったガジェット編隊は穂先を失った槍のように、貫通力を失って動きを止める。ヴィルヘルムの小隊はそのまま、はやての横陣の脇を通り後ろに下がる。
(遮蔽物の無い空間、長い彼我の距離、合流と詠唱の為の時間。これだけそろえば…)
横陣とすれ違った時、はやてはこちらの意図を正確に察し、リィンとユニゾンをはたし詠唱を完成させている。ヴィルヘルムは知らぬうちに思考を言葉に出していた。
「八神はやてに敵はない!蹴散らせ、はやて!」
「まかせときぃ!」
ワルキューレのごとくシュベルツクロイツを掲げたはやての魔力が膨れ上がり、砲撃魔法が展開される。
「響け終焉の笛!ラグナロク!」
轟音
それが収まった時、ガジェットは欠片一つ残さず消滅していた。
うおおおおおおおおおおおおお!
そのあまりの威力が、疲れていたはずの隊員達に興奮を与え、歓声や勝鬨が生まれた。
(戦いの流れを変える英雄の一撃だな。これで彼らは疲労を忘れ、勢いを取り戻す。このカリスマ、私にはない力だ)
はやてを賞賛しながらも、羨望が胸を焦がす。ヴィルヘルムはそんな自分をバカバカしく思いながらも、感情が胸を焼く感覚を数秒の間楽しんだ。
はやてが自身の状態を確認すると、リィンのサポートのおかげでブレイカー級の砲撃を放ってもまだまだ余裕があることが分かった。
(よし、突入するだけの余力は十分ある。指揮を交替したら突入するで、リィン!)
(ハイですぅ!)
自分の状態を確かめ指揮を任せようとすると、その相手がちょうど近づいてきたところだった。相手、ヴィルヘルムははやての飛行魔法スレイプニルを原型にした、現代ベルカ式の飛行魔法グルファクシの翼をはばたかせ、はやての前で止まると兜のバイザーを上げ敬礼して見せた。
ヴィルヘルムの顔を見たはやての形のいい眉が一度だけピクリと動く。
「課長、誠に勝手ながら、3等陸佐ヴィルヘルム・チェスロック・ケーニッヒ以下交替部隊は、現時刻を持って指揮下に復帰させていただきます」
「うん、許可する」
散々暴れておいて何を、と、内心笑いながらもはやてはヴィルヘルムに合わせて敬礼を返しながら承認する。融合しているリィンはその様子をくすくす笑っている。
「早速やけど、働いてもらうで!わたしは今からゆりかごに突入する、指揮の交替を!」
「了解しました。援護します!」
ヴィルヘルムは指揮交替のむねを全隊員に伝達すると早速陣形を整え命ずる。
「各員!斉射三発!目標突入孔、撃て!」
援護を受け突入しながらはやてはヴィルヘルムの指揮に舌を巻く。受け取ったばかりにもかかわらず、ヴィルヘルムは見事に指揮を執っている。
普通ならこうはいかない。命令の言葉や言い方によっては、部下達との意思疎通に齟齬が生まれてしまうことがあるからだ。ヴィルヘルムはそれを理解し、時にはスラングに近い言葉まで使って指揮を執る。どう言えば部下達にどう伝わるか、きちっと把握しているからだ。
(皆がついてこられるよう言葉一つ一つにまで配慮と計算がある。突撃からすぐに並行追撃に移れたのは予め作戦を伝達して準備しとったからや)
ヴィルヘルムの指揮には独創性はなくとも、完璧に近い計算と準備が支える堅実さがある。はやてはヴィルヘルムと自分はタイプの違う指揮官だと理解しながらも、大きく溝を開けられたような焦慮に駆られる。
(はやてちゃん、ドライバーフィールドの出力が強すぎますよぉ!そんなんじゃすぐに疲れちゃいますぅ!)
リィンの声にハッとして、ゆりかご内部のガジェット達を薙ぎ払う攻性フィールドを調整する。何時の間にが力を入れ過ぎていたらしい。
(アカン、アカン、反省は後や。今はヴィータとなのはちゃんとはよう合流せな)
はやてが突入後15分が経過、その間にゆりかごの動力炉がヴィータによって破壊され、戦闘機人の最後の一人NO.4クアットロも倒された。地上ではガジェット達が機能を停止し事態は終息に向かうかに見られたが、ゆりかごを守るガジェット達は別系統の命令で動いているらしい、周辺に片っ端から攻撃をし始めた。
(近寄る者はすべて敵、そう言っているようだな)
ヴィルヘルムはゆりかごが最終的な防御機能を作動させたと判断したが、その影響で最深部に突入したはやて達と全く連絡が取れない。最深部ははやて達の実力者でも無力化されるほどの高いAMFに閉ざされてしまったようだ。
現段階でもゆりかごは船速を鈍らせ本局の艦隊は十分に間に合うのだが、そのことが返ってはやて達を窮地に立たせていることに、ヴィルヘルムは焦れる。
(ミッド地上に住む数億の人間とゆりかごに突入した30人に満たない人の命。上層部は天秤にすらかけないだろう…)
「数億の人間の命の為に30弱の人間ごとゆりかごを沈める」それが不特定多数の人間が納得する常識だろう。しかし、ヴィルヘルムは不特定多数ではなく当事者であり、少数より多数を守る理屈を理解はしても、納得するほど酷薄でもなかった。が、打つ手がない。
オーバーSランクの魔導騎士が無力化されている以上、魔導士や騎士が何人いようとも対応できない。
(急いでくれ!ヴァイス)
ヴィルヘルムはエースにもストライカーにもなれない自分に腹を立てた。
事件が終わりを告げる時、ヴィルヘルムは…、
次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS、『約束の空へ+(前篇)』
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