アースラからの情報が本局艦隊の到着を伝えてきた。艦隊は攻撃の布陣を整え攻撃の合図を今か今かと待ち構えている。
「美人とのデートじゃあるまいし、こちらが遅れてほしいと思っている時に限って時間より早くきやがって!」
地上出身のヴィルヘルムに言わせれば本局の艦隊など遅刻してやってきては、地上の手柄をかすめ取っていくウスノロといった印象があったが、艦隊を指揮している司令官は優秀な人物らしい。到着予定時刻より数分早く展開を完了させてしまったようだ。
(課長と友人でもある、クロノ提督ならば攻撃はギリギリまで引き延ばしてくれるだろうが、油断は出来んな。)
「突入部隊!状況知らせ!」
ヴィルヘルムが内部に突入した局員に状況を報告させると、途切れ途切れの通信で報告が返ってきた。
「ゆり…ごは休眠モードに…ったようです。」
「AMF濃…上昇!最……では恐らく完全…魔力結合が出来ません」
「破った突…孔が応急修理されていき…す!」
「八神2…との通信途…」
「各ブ…ックの隔壁閉鎖!現…ではとても破…ません!」
どうやら、はやて達は完全な孤立状態のまま最深部に取り残されてしまったようだ。それを聞き2名の魔導士に護衛され、ゆりかごの外へと向かっていたヴィータが最深部へと引き返してしまった。と、護衛していた魔導士が報告してきた。ヴィータが完全な状態でも、最深部に入ってしまえば二次遭難になるのが関の山だろう。ヴィルヘルムは突入部隊に互いの通信を中継させ合いヴィータと通信を繋いだ。
「なにをしている。ヴィータ3尉。脱出しろ」
「はやてを助けに行くんだ!邪魔すんな!」
「不可能だ。最深部では完全に魔力結合が出来ない。魔導士や騎士では救出支援は無理だ。命令だ、引き返せ」
「うるせぇ!てめぇが指図すんじゃねぇ!」
ヴィータは完全に頭に血が上っているようだ。これではらちが明かないと判断したヴィルヘルムは、一旦ヴィータを無視する形で命令を出した。
「突入部隊へ、現在、AMF内でも活動可能な魔導士がこちらに急行している。彼女達の突入ルート及び、通信ラインの確保が君達の最優先事項だ」
ヴィルヘルムは再びヴィータと回線を繋ぐ。
「ヴィータ3尉、聞いての通りだ。ナカジマ2士とランスター2士がそちらに向かう。現在いるエリア内で突入ルートを確保してやれ」
戦闘機人たるスバルならば高濃度AMF内でも隔壁を破るだけの威力を十分出せるはずだ。具体的な作戦を聞いたことでヴィータは少し冷静になった。素直にとはいかないが了承した。
「…わかった」
「結構、それ以上の行動は許さん。二人は引き続きヴィータ3尉の護衛を。これ以上無理だと判断したら彼女を連れて引き返せ」
「「了解」」
ヴィータは自分がはやてを助けに行けないことが不満のようだ。本音を言うならヴィルヘルムも今すぐ飛び出していきたい気分だったが、今の状況では能力的にも立場的にもそれは出来ない。
彼は騎士道物語に出てくるような英雄ではなかったし、たとえ英雄と呼ばれるような者にも出来ないことはある。だからこそ、チームや組織というものに意味がある。組織の中で役割を決め、それを確実にこなす。一見してつまらなく無意味に見える役割を積み重ねることで、手の届かないモノに手を伸ばす、それがチームや組織の存在意義だとヴィルヘルムは考えていた。英雄と呼ばれる者は最後の一番目立つ役割をこなしているだけにすぎないとも…。
「あ、あれは…」
通信にアルトの声が聞こえてきた。ゆりかご右翼後方までヘリを下げていたアルトはゆりかごに高速で接近してくる青いヘリを発見していた。
「ヴァイス陸曹!」
「やっと来たか」
ヴィルヘルムは自身を守らせていた数名をヘリの護衛に回すと、ゆりかごを包囲している他の隊員に命じる。
「ディガンマ分隊、救助チームの道を開く、動け…」
「待ってください。副長!」
スバル達の道を開こうとしたヴィルヘルムを止めたのはヴァイスの声だった。ヴァイスは迷いのない強い声で続ける。
「オレが内部への突入ルートを作ります」
「…」
ヴィルヘルムは任せることを一瞬ためらう。人事記録でのヴァイスの経歴、身内の巻き込まれた事故のミスショットのことを知っているからだ。通常、この手のトラウマは早々解決できるものではない。
(確実性なら、他のものに任せるのが無難だが…)
「副長、やれます」
結局、ヴィルヘルムはヴァイスに任せた。全く根拠がないにも関わらす、ヴァイスの声にはこいつになら任せられると確信させるものがあった。
「わかった、任せる」
「了解」
ヴァイスのヘリはゆりかご底部後方に近づくとハッチを開いた。スバルの移動魔法ウイングロードの届く距離までヘリで接近して突入させるつもりらしい。
「行くぜ、ストームレイダー」
ライフル型のデバイスを構えたヴァイスが航空型ガジェットを次々と打ち落としていく。
「前に言ったなぁ…オレはエースでも達人でもねぇ。身内が巻き込まれた事件にびびって取り返しのつかねぇミスショットもした。死にてぇくらい情けねぇ思いもした…」
空になった弾倉を外し、新しい弾倉を填めるとストームレイダーがカートリッジを3発ロード。本来それほど高くないヴァイスの瞬間魔力最大値を跳ね上げる。
「それでもよ!」
ストームレイダーがヴァリアブルバレットを生成する間、ヴァイスの意識と照準が鋭く尖っていく。
「無鉄砲で馬鹿ったれな、後輩の道を、作ってやるぐらいのこたぁできらぁな!」
ヴァイスの撃った弾丸は迷うことなく、真っ直ぐに目標を撃ち抜いた。
「よし、行け!」
赤いバイクに乗ったスバルとティアナがウイングロードを駆け上がっていくのを見ながら、ヴァイスは満足そうに笑った。
間もなく
「スカリエッティ本拠地、振動停止。突入隊及びライトニング1、ライトニング3脱出確認!」
艦隊オペレーターの声がルキノの通信に続く。
「最深部の機動六課メンバー…、全員脱出確認!」
先発の艦隊司令クロノがブリッチで安堵のため息をついているころ、同じようにはやて達がヘリに収容されるのを確認したヴィルヘルムはため息をついた。が、すぐに命令を出す。ゆりかごはほぼ無力化できたが、まだガジェット達の残存兵力が残っている。油断は出来ない。
「各員陣形を崩さずに徐々に後退しろ!各回転翼は負傷者の収容!他の者は輸送機が来るまでヘリの護衛だ!」
ヴィルヘルムの指揮のもと武装隊員が残敵を掃討しながら後退していく。次々撃破され数を減らしていくガジェット達…。
輸送機が到着し、ガジェットの掃討を終えた隊員達が輸送機に乗り込み始めたころ、空に変化が起こった。赤紫色のもう1つの太陽が現れ、数秒後遥か遠い爆音があたりに響く。シャーリーの喜びの歓声がゆりかごの撃墜を知らせてくれた。
その後、ヴィルヘルムは借りていた小隊を解散し、アルトの操る704式でアースラに戻ると、騎士甲冑を解除する間もなく、はやてから休息を言い渡された。アースラにはヴィルヘルムや交替部隊の部屋も用意してあり、ヴィルヘルムはあてがわれた個室に直接向かった。
巨大なアースラといえど戦艦の個室だ、そんなに大層なモノではない。六畳ほどの空間にベッドと小さなデスクがある程度だ。それでもヴィルヘルムはこの一人になれる手狭な空間に感謝し、その場に崩れ落ちた。
「…ッ!」
倒れたまま制服のボタンを外すと白いシャツに赤いしみが広がっているのが見える。
「傷口が開いたか…、やはり突撃の先頭は無理があったか…」
視界が暗くなり、今にも気を失いそうだったが、床を這って個室に取り付けられた魔力プラグにデバイスを繋ぐ。
「フロイライン回復を頼む」
薄れかける意識で、待機状態のドルンレースヒェンが魔力プラグから魔力を吸い上げ回復魔法を起動するのを確認する。これでとりあえず死ぬことはないだろうと思った瞬間、ヴィルヘルムの意識は落ちていた。
部屋の中、微かな甘い香りに目を覚ます。
「ん、起きたん?」
小柄な女性がベッドの横に椅子を置き腰掛けていた。ここ1年ですっかり聞きなれてしまった声で意識がはっきりしていく。
いつの間にかベッドに寝ている。先程までの死にかけた状態で、ベッドに潜り込んだとは思えないので彼女が魔法で運んでくれたのだろう。
「副長、一つ言わせてもらってええか?」
「なんです」
はやての問いかけにヴィルヘルムが応じると、はやては意地悪そうに笑って言った。
「副長、意外とアホやろ」
怪我を押して出動。常識的に考えれば確かに自殺行為だ。しかし、怪我人に随分ないいようだ。
だが、ヴィルヘルムもこの程度のことで参ってしまうような神経をしてはいない。わざと驚いたような表情をして、教師が出来の悪い生徒に言うように言い返した。
「そんなことも知らなかったのですか?」
「前から知っとるわ!」
この言葉を聞いたはやては┌(>∀<)ノな顔をして手の甲で叩いて来た。それがうっかり傷口に当たる。
「…ッ!」
「あ、ごめん」
顔をしかめたヴィルヘルムを見て、はやては慌てて謝った。残念ながら手荒な舌戦はまだ控えたほうがよさそうだ。
「それにしてもいつ気がつきました?」
「ん?そんなん顔を見れば、一発や」
はやてはヴィルヘルムが無理をしていたことなどすぐに気がついていたようだ。どうやらこちらの意地と面目を立てくれたようだ。
「男の立て方を知っていますね」
「男のこき使う方法もしっとるよ。たとえばどっかのノッポは、この恩に報いる為、粉骨砕身の覚悟で働きます。とか、言ってくれるはずや!」
「…」
ヴィルヘルムが黙っていると、はやては手を取り繰り返した。
「言ってくれるはずや!」
「…」
「言ってくれるはずや!」
「…粉骨砕身、…頑張らせていただきます」
根負けしたヴィルヘルムが棒読みで答えると、はやてはドヤ顔でニタリと笑う。
「流石は副長、頼りになるわぁ」
「それは、どうも」
言い負かされたヴィルヘルムが肩をすくめると、はやてはこちらと自分のおでこに手を当てる。
はやての小さな手が冷たく感じる。自覚していなかったが少し熱があるようだ。
「でも、頑張ってもらうのは、ちょう休んでからやね」
はやてが返事を待たずになにかを呟くと、ヴィルヘルムに睡魔が襲ってきた。
睡眠の魔法を掛けられたらしい。抵抗力が弱まっているためアッと言う間に瞼が重くなっていく。
「今はおやすみ、副長。頼…」
はやての言葉を聞き終える前に、ヴィルヘルムの意識は深い眠りに落ちて行った。
戻って来た日常、そして部隊長のはやてには、嬉しいお知らせ…、
事後処理の書類の山をプレゼント!!
え、副長?副長なら有給休暇中だよ。
次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS、「副長の休日」
楽しい休日に…
テイク、オフ
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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