管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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18「副長の休日」Ⅱ

「あ、いたいた。ビル君、久しぶり」

 

 初めて見たのは後ろ姿だった。2m近い長身の男がレティの声に振り返り、レティの姿を確認すると敬礼し、諦めの混ざった顔で口を開いた。

 

「お久しぶりです、提督。しかし、その呼び名は止めてください」

「いいじゃない、親しみを込めた愛称なんだから」

 

 答礼しながらも全く聞き入れる様子の無いレティに対して、ビルと呼ばれた大男は苦笑いをした。

 

「貴方が親愛を強調しながら近付いてきたときは気を付けろ。と、ご主人に忠告されているのですが?」

「あいつめ…」

 

 カワイイ悪戯を弟にされた姉のような、忌々しくも愛おしそうな表情をしてからレティは続けた。

 

「まあ、ともかく話を聞いてちょうだい」

「ナインと言ったら?」

 

 男の拒否ともとれる言葉にもレティは笑って返した。

 

「あら、恩人の私に対してそんなことを言うほど、あなたは礼儀知らずではないでしょう」

「なるほど、確かにそんな風に躾けられた覚えはありませんね」

 

 男は苦笑交じりに返してから、ボソリと「女の出世は早いな」と、一言。はやてが後から聞いた話だと、彼が恩人としているのはレティの夫のことであって、レティ自身に借りを作った覚えはないそうだ。

 「亭主のモノは妻のモノ」ビバ、鬼嫁イズム。

 

「それでご用件は?」

「まずは、この子にあなたを紹介するわね」

 

 レティに促されて、はやてが男の前に立つと、男は先に敬礼をしてきた。レティと話をしながらもこちらの階級章を確認していたのだろう。規則通りなら普通階級が低いものから敬礼をする。この時、はやては3等陸佐相当の特別捜査官の階級章を付けており、男は1等陸尉の階級を付けていた。

 

「はやてさん、こちら第162観測指定世界 中央管理集団 運用統制中隊、ヴィルヘルム・チェスロック・ケーニッヒ1等陸尉よ」

 

 男の目の前に立って見るとやはり男の立派な体格が目立つ。運用統制中隊ということは、基本的に後方勤務の文官の筈だが、見た目は真っ先に戦いに飛び出す前線指揮官と紹介された方が納得できそうだ。

 

「ビル君、こちら特別捜査官、八神はやて2等陸佐、所属は本局 古代遺物管理部 機動六課準備室」

「八神2佐のご活躍は聞き及んでおります。お目に掛れて光栄です」

 

 一方、ヴィルヘルムと呼ばれた男はこちらの顔と名前を知っていたようだ。慇懃に挨拶をしてきた。はやても営業用の笑顔で当たり障りのない挨拶を返す。

 

「ビル君、今日の用事は終わっているわね。時間はどのくらいある?」

「用事の方ではあまりいい返事は貰えませんでしたので、帰りの次元船までの時間を持て余してしまいました」

「今日もAMF対策の論文を持ち込んだのね」

「流石に耳が早い。ええ、地上では主流の考えではありませんので、本局に…。と、思ったのですが、本局でもレジアス中将の方針にNOと言える人は少ないようです…」

 

 ヴィルヘルムは口をへの字に曲げ不満そうに鼻を鳴らす。

 レティにも経験がある。地上の英雄と称され、最高評議委員会の覚えもいいレジアス中将の影響力は強く、出世願望の強い人間などは意見の対立を避ける傾向がある。

 レティは少し試すように聞いた。

 

「それで、続けるの?」

「当然です。しかし、ベルカの哲学者は人の意見を変えるには真理を見せつける必要はない。と、言っています。外堀から埋めていこうかと」

 

 それを聞いたとたんレティは上機嫌になり、バーゲンで気に入った商品を確保するようにヴィルヘルムの腕を掴んだ。

 

「いい考えだわ。その話も含めて私の執務室でお話ししましょう」

 

 

 

 

 

 レティ提督の執務室はいたって普通の執務室だ。鹿威しもなければ、かえって落ち着かなくなるような畳と茶道セットもない。日本人が社長室と言われたら思い浮かべるような、書類の詰まった本棚とデスク、客人用のソファーとテーブルがあり、女性の部屋らしく写真立てや花で飾られている。

 紅茶を運んできた秘書が退出した後、レティが切りだした。

 

「で、聞いてもらいたい話はね。新暦75年度に設立する部隊への勧誘なんだけど」

「その前に、その計画を聞いた後でも私に断る権利は残されていますか?」

 

 ヴィルヘルムがレティの言葉を止めた。

 計画をわざと話して協力せざる得ない状態にする。あり得る話だ。

 

「もちろんあるわ。部隊、機動六課は正規の手続きを踏んで設立される部隊よ」

「なるほど、分かりました。しかし、その部隊の目的と私に求められている役割が分からない以上即答は出来かねます」

「相変わらず慎重ね。はやてさん説明を」

「はい」

 

 はやては空間モニターを幾つか表示させ、機動六課の構想を説明しながらヴィルヘルムを観察した。レティ提督から事前に渡された資料を思い出し品定めをする。

資料によると彼は、1等陸尉 ヴィルヘルム・チェスロック・ケーニッヒ 現在26歳、出身はミッドチルダ北部ベルカ自治領に程近いフィオナ地方出身、8歳の時馬上試合(トーナメント)に参加するため魔導士ランク陸戦Dを取得、以降更新はしていてもランクアップ試験等は受けていない。

 14歳で経済学の学士号を取得、在学中から友人とベンチャー企業を立ち上げるが、20歳の時に会社から離れ一般キャリアとして入局。

 その後、各部隊を転々として内勤を中心に様々な任務に従事している。

 

(レティ提督の推薦やからおおて見ることにしたけど…。管理局を数年勤めてから民間に移るって話ならよく聞くけど、その逆ってのはあまり聞かへんな。個人的な理由やろか?能力的には、一般キャリアで准尉から、6年で1等陸尉になるには全て一選抜で選ばれているはずや、上司への立ち回りも含めて能力が低いことはないな。魔導士ランクの更新を行わない所を見ると、純粋に指揮官や文官として振舞うのが好みのようや。顔見知りの誘いでも、迂闊に即答しない慎重派ってところやな)

 

 第一印象をそう評価しつつ部隊の説明をしていく。

 設立理由をレリックの対策と、独立性の高い少数精鋭の部隊創立を主眼とした実験であること。部隊の規模、運用期間、現在内定している主要メンバー、後見人、ミゼット達伝説の三提督も非公式ながら機動六課への協力を申し出ている等々。

 しかし、六課設立の本当の目的が、騎士カリムの予知能力プロフェーティン・シュリフテンの結果「いずれ起こりうるであろう陸士部隊の全滅と管理局システムの崩壊」を阻止することは意図的に伝えないことにしておく。

 

(普通の人間は自分の生活基盤が崩壊すると言われても信じない。信じてもそれに耐えられるとも限らない。特に地上にはカリムの能力に懐疑的な人も多い。それに…)

 

 信じずに無視するだけならまだしも、悪い知らせを持って来た人間を諸悪の根源のように攻撃してしまう人というのは意外と多い。ヴィルヘルムが避けられない困難に向き合った時、目を反らしてしまうタイプか、あえて目を向けて乗り越えようとするタイプか分からない以上こちらも慎重になるべきだ。

 とはいえ、レティが推薦するほどの人物だ。文官としては申し分ない能力を持っているのだろう。唾付けずに帰すのは惜しい。

 

(少し彼自身の利益になることを強調して、餌を撒いておこか)

 

 レティの話だと彼は第162観測指定世界の中央に勤めており、配属早々新暦71年に発生したレリック事件に複数機現れたガジェットドローンのAMF発生機能に興味を持っている。以降、その脅威性と対策の為の論文を幾つか時空管理局地上本部に提出しているが、レジアス中将の防衛構想とは反するためにこの論文はあまり評価されていないらしい。

 

(あの論文はよう出来てた。実績のある人のようやから、評価されんことには不満もあるやろ。その辺のプライドを突いて見るのもいいかもしれへん)

 

 論文の内容を思い出しながらはやては思案する。彼が論文で主張しているのは一般的な魔導士でもAMFに対抗する為のデバイス、あるいは代替エネルギーの開発。それに先行して開発までの間、AMFに対抗する部隊の設立が柱になっていた。

 

(つまり、AMF対抗部隊は彼のプランの第一段階であり、六課構想の趣旨と一致する)

 

 はやてはヴィルヘルムの論文の内容を把握していると伝える。ついで、地上部隊は論文や防衛構想の内容ではなく、作者の階級と権威よって評価していると非難した。そのあと、六課ならばAMFに対応した隊員の育成や、論文の内容を裏付けるAMF戦のデータには事欠かないと伝えると、一度言葉を切る。

 

「もちろん、データは論文に使ってもろて一向に構いまへん」

 

 言い終えたはやては改めてヴィルヘルムの様子を観察する。体を若干前のめりにし、聞いていたヴィルヘルムは一度頷いた。

 

「非常に興味深い話です。しかし、六課構想には全くリスクを負わずに利益を得るものがいます」

「三提督のことやろか?」

「そうです、彼らだけはリスクと利益の比率が合いません」

 

 分かっていたことなので、はやてはヴィルヘルムの言葉を肯定して頷いた。

 三提督はあくまで非公式の協力だ。公式の後見人のクロノやレティ達は六課が不利な立場に立たされた時、後見人として責任を負うことになる。が、三提督はあくまで非公式。六課が成功した暁には協力に対する成果を主張することが出来るし、失敗したときには、はやてに責任を押し付けてシラを切ることが出来る。最もリスクを負い危険な立場にあるのは実行部隊の長であるはやてだ。確かに割に合っていない。

 ヴィルヘルムの言っていることは尤もだ。しかし、

 

「やけどアンタ『嵐が去るのを待って船を出す者は儲けることは出来ない』とも、言うやろ」

 

 『嵐が去るのを待って船を出す者は、儲けることは出来ない』リスクを恐れずに挑戦した者だけが成功を収めるというミッド近辺に住む商人達の金言だ。相手との距離を縮めたいときは、相手の文化のジョークや格言を利用する。ナカジマ3佐から教わった交渉テクニックの1つだった。

 ヴィルヘルははやての対応を気に入ったらしい。クククッと笑い、

 

「なるほど、歴代の闇の書の主は何の努力も無しに突然得た力を自分の器量と勘違いし、ヴォルケンリッターなる傀儡人形を暴走させたと聞いていましたが、どうやら今の主は人形の使いどころをわきまえているようですね。」

 

 いきなり急所を突き刺してきた。ヴィルヘルムは何も読み取ることのできない無表情で畳み掛ける。

 

「確かにミッド地上本部は悪い意味で権威主義です。ですが、相手の欠点を指摘できるからと言って、指摘した者の意見が正しいとは限らない。六課構想の過剰な戦力、たった一年という運用期間の短さを見るに、この部隊には他に明確な目的があって設立される部隊に思えます。本来の目的を知らせずに人を使おうとする人間を、私は誠意がある士官とは認めない」

 

 家族であり宝物のヴォルケンリッターを人形扱いされて思わず頭に血が上る。マルチタスクの1つが戦闘演算を行い、目の前の男を八つ裂きにする道筋を弾きだす。が、はやてはそれを欠片も顔に出さずに頭を下げた。

 

「確かにそうやね…。機密事項とはいえ、六課設立の目的をお話ししなかったことは謝罪します」

 

 頭を下げ顔が相手の視線から外れた途端、表情が歪むのを自覚する。今すぐ飛びかかってあのすまし顔にブレイカーを叩きこんでやりたい。あるいは階級はこちらが上なので「無礼だ」と一言言ってしまえば済むことかもしれないが、この程度の非難で階級を盾にしているようでは、指揮官として失格だ。守護騎士達と共に罪を被り償っていくことなどできない。

しかし

 

「自分と闇の書の罪、否定はしません。せやけど…」

 

 家族の名誉だけは守りたかった。怒りを御し心を落ち着かせる。顔を上げると相手は無表情を保ったまま静かにこちらを見ていた。

 

「一つだけ、うちの子たちは傀儡人形やない。そこんとこだけは訂正してもらいます」

 

 何とか声を荒げずに済んだ。交渉の場で相手に自分の心理を読まれるような行為は禁物。こちらの弱みをわざわざ暴露しているようなものだ。

 まっすぐにヴィルヘルムを見返すと、彼はあっさり謝罪してきた。

 

「なるほど…、貴方は誇り高い人間のようだ。非礼をお詫びします八神3佐。私には貴方と貴方の騎士達に500シリング払う用意があります」

 

 シリングは古代ベルカの貨幣。古代ベルカでは貴族又は騎士は人から侮辱を被った場合、500シリング、そうでない者は300シリングの補償を受ける権利があったと言うから、彼はわたしの態度からシグナム達を騎士と認める気になったようだ。

 上官の度量は部下の叱り方で決まる。もしかしたら、わざと無礼な態度を取って試したのかもしれない。

 機密事項にあたる闇の書事件の顛末を知る耳を持ち、上官にカマを掛ける度胸。なかなか、油断ならない人物のようだ。が、流石に一言言ってやりたくなり、非難する意味も込めて口を開く。

 

「いけずな人やな」

「政治的な処置と思ってください。」

 

 ヴィルヘルムは降参の意思表示だろう、肩をすくめて見せた。

 それを見てそれまで若手将校達の様子を見守っていたレティが、笑いながら会話に加わる。

 

「自己紹介は終わったわね?では、ビル君。改めて六課構想の目的を説明するわ」

 

 レティはカリム・グラシアの希少技能「プロフェーティン・シュリフテン」による預言も含めた六課の目的を説明すること促してきた。それに従い、ヴィルヘルムに説明をしたが彼は懐疑的な反応を示すだけだった。

 

「申し訳ありませんが、私はそう言った個人の才能には頼りたくありません。その予言が解釈によって左右されるような不安定なものならなおさらです。無条件でヤーとは言えませんね」

「ええ、だからビル君。君に六課に参加してほしいのよ。ビル君ははやてさんとはまた違った角度からモノを見ることができるわ」

「なるほど、私に煩型(うるさがた)をやれということですね」

 

 一理ある考え方だ。円錐は正面から見れば三角形だが、真上から見下ろすと円の形をしている。事件も同じ複数からの視点を持つことで初めてその全容が掴めることがある。民間経験のある彼は、なのはちゃん達にはない視点を持っているかもしれない。

 とはいえ、慎重派の人間はすぐには結論を出すことない。必ず裏を取ろうとする。

 案の定、ヴィルヘルムは懐から懐中時計を出すと、帰りの定期船の時間だと言って返事を保留した。レティも彼の行動を理解していたらしく引き止めなかった。

 

「お返事は一週間以内にちょうだい」

「ええ、それまでには必ず。八神3佐、今日は話が出来てよかった」

「せやな、機会がおおたら、またな」

 

 

 

 その日の晩、ミッドチルダ標準時の日付が変わるころ、ヴィルヘルムのもとに通信が入った。通信が来るであろうことを予想していたヴィルヘルムはすぐに回線を開いた。

 

「こんばんわ、ビル君。それとも、そちらはお昼だったかしら?」

「ちょうど、昼食を取り終えたところです」

 

 こちらの昼休みを狙って連絡を掛けてきただろうに、そんな挨拶をしてきたレティに、ヴィルヘルムは食後のコーヒーが入ったマグカップを掲げて見せた。

 原隊に戻った後、六課構想の裏を取ったヴィルヘルムはレティ達の言葉にウソがないこと、レティ達がはやてが背負った闇の書事件の失点を取り戻させる狙いがあることを掴んでいた。

 

「で、あなたはどう思ったの?はやてさんのこと」

「どうもなにも、少々自分にリスクを架し過ぎているように感じますが、それ以外は文句など付けることなどできませんよ。指揮官としての経験が不足しているという点も、時間と周囲が許せば解決してくれる問題です。その間見守る為に後見人におなりになられたのでしょう?」

 

 ヴィルヘルムの答えはレティを喜ばせるものだったらしく、空間モニターの先でレティは機嫌よく笑っている。

 

「ええ、彼女はいい子だから。で、あなたは加わらなくていいの?」

「私が?ご冗談でしょう。」

 

 レティの誘いに、ヴィルヘルムは苦笑した。確かに既にエースと呼ばれ、能力も人格も申し分ない彼女の下で働くのも悪くはないだろう。しかし、英雄の隣にいる自分を思い浮かべるにはヴィルヘルムは自分を知り過ぎている。

 

「私は人より少しだけ良くできる程度の才覚しかありませんよ。彼女達のように常識を飛び越えて何処までも高く飛んでいくことは出来ません。私が加わったのではエースの足を引っ張るのが関の山でしょう」

 

 「残念ながら」と、続くところだったが、ヴィルヘルムの向こう気が言葉を切らせた。自分の才能の限界を認められない自分を見られるのが恥ずかしくなり、ヴィルヘルムはコーヒーを飲み干す動作で顔を隠した。

 

「そうかしら、あなたも立派に常識からはみ出ているわ」

「そうだとしてもせいぜい一歩です。片足を常識の中から引き抜くことなどできません」

「ええ、まあ、そうでしょうね」

 

 あっさり認めるレティに、またヴィルヘルムの向こう気が疼く。それに気が付かないのかレティは続けた。

 

「だからこそあなたに六課に入ってほしいのよ。常識から一歩しか出ることしかできないということは、言い方を変えればその境界線に立ち常識の内外、その両方を同時に見ることが出来ると言うことよ。それははやてさんと一緒に飛んでいる人たちには出来ないこと」

「要するに私に彼女達が暴走しないように、お目付け役をさせるつもりですか?」

「それに近いわね」

 

 レティは顎に手を当ていい喩がないか考える仕草をしてから答えた。

 

「そうね、あなたには灯台になってほしいのよ。エース達が高く飛びすぎて迷子にならないようにね」

「灯台ですか…」

「そう、灯台よ。ねぇ、あなたははやてさん達は何処までも高く飛ぶことが出来ると言ったでしょ。私もね、リンディやクライドを見ていて思ったことがあるのよ。この人たちならって。私の届かないような高いところまで、てね…」

 

 言葉を切り俯くレティの表情が示している感情に名前を付けることが、ヴィルヘルムには出来なかった。羨望、嫉妬、憧憬、後悔、自嘲、悔恨、懺悔どれも違うように思える。

 

「でも、クライドが亡くなってから思ったのよ。誰にも届かないような高さまで飛ぶことは、空という奈落の底に落ちていくことなのじゃないか?とね。もし、誰かがクライドに自分の現在位置をハッキリ教えることが出来ていたのなら…そう思うのよ。それに…」

 

 目を伏せていたレティが顔を上げた時には妖しいモノが表情に浮かんでいた。

 

「聞きわけのいいふりをしているけど、あなたはエース達に負けたくないって思っているでしょう。」

「…ッ」

 

 ヴィルヘルムは本音を率直に言い当てられて言葉に詰まってしまった。気が付かれていないと思って油断していたが、人事部提督の肩書は伊達ではなかった。ヴィルヘルムなどカワイイ坊や扱いだ。もう、どう誤魔化したところでレティの言葉を肯定することにしかならない。

 ヴィルヘルムが閉口していると、レティはしっとりとした笑みを浮かべた。

 

「あなたは常識から一歩しか出ることが出来ないと言ったけど、あなたのいう常識のラインはあなたの思っている所より高い位置にあるわ。あなたはもっと成長できるのよ」

「随分と持ち上げますね」

「あら、私ははやてさん達だけじゃなく、あなたも評価しているつもりよ」

 

 立場上、時空管理局のほぼ全ての動きを把握している人事の提督に煽てられ、ヴィルヘルムは久しぶりに自分の可能性に挑戦してみたくなる。

 

「分かりました、六課へのお誘いお受けしましょう」

「本当、よかったわ」

「ただし、条件があります」

 

 ヴィルヘルムは自分を六課の次席指揮官(副長)にすること、自身が指名する幹部を最低2名以上六課に配属させること条件とした。

通常、次席指揮官が部隊長の権限を取り上げる為には他の幹部2名の同意を必要とする。つまり、何時でもはやての権限を取り上げる権限を条件に出したわけだ。

 しかし、レティはヴィルヘルムの出した条件にかえって上機嫌になった。

 

「そう、その慎重さがほしいのよ。」

「お目付け役なんて嫌われ役、それぐらいの権限がないとドスが利かないでしょう」

「ええ、いいわよ。それにあなたが指名する人なら優秀な人の筈だから、人選の手間が少し減るわ」

 

 二つ返事で了承するレティに、ヴィルヘルムの悪戯心が刺激された。

 

「宜しいのですか?私が六課を乗っ取ってしまうかもしれませんよ」

「大丈夫よ、あなたはこの権限を使ったりしないわ」

「どうしてそう思うのです」

「あなたがそう思っているからよ。その権限を使わなければならないような人の下では、働こうとも思わないはずよ、あなたは」

 

 

 

 それから一週間後、ヴィルヘルムの六課への異動が内定した。

 

 

 




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