管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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19「副長の休日」Ⅲ

「と、言うことがあってな」

「そんな話聞いてへんで~」

「そうだろうな、初めて話す。今思えば、こうして楽しげに酒も飲む仲でもなかったからな。たがいにあまり信用していなかった」

 

 言った後、ヴィルヘルムはしみじみと言うとはやてが反論した。

 

「あ~、私は信頼してたで。私まで心の狭い人みたいに言わんといて。」

「嘘付け。露骨な妨害を受けて作業が遅れた時にも、相談一つしなかった」

「そ、そうやったけ?」

「ああ、赤点を隠そうとしている学生の様な顔をしていた」

 

 ヴィルヘルムはクククと思いだし笑いし、はやても当時の自分の滑稽な姿を想像して笑った。二人とも最初から仲が良かったわけではなく、六課立ち上げの苦楽を共にしながら今の関係を作っていったらしい。なのはとフェイトは自分達の知らない親友の一面を見た気がして嬉しくなり話を催促した。ヴィルヘルムははやてを一瞥すると応じた。

 

「新米隊長八神はやての珍道中か?いいだろう」

「ちょお、なに言うつもりや、こらオジサン!」

 

 話題ははやてとヴィルヘルムが顔合わせをした話から、六課立ち上げの際の苦労話や、本局の将校クラブでからまれ、大暴れをした話、ヴィルヘルムとザフィーラが男だけで酒を飲みに繰り出した話が語られ、なのは達からは地球に住んでいた時の話など想い出話が次々飛び出し、食事をしながら酒を飲むこと数時間。

テーブルには栓の開いた酒瓶が並び、すっかり時計の針も酔いも回ったようだ。はやての呂律がだいぶ怪しくなっている。

 

「そろそろお開きにした方がよさそうだな」

「にゃはははは」

「っぷ、わたしはまだまだいけるで…」

 

 酔っぱらいの酔っていないほど当てにならないモノはない。

 

「にゃはははは」

「え、よ、酔ってませんよ~」

 

 そう、ちょうど今のフェイトのように…。

 フェイトは頬が上気し赤くなり、潤んだ瞳が締まらないアンニュイな様相を放っている。そのうえ、熱くなった体温を覚ます為だろう、胸元は大きく開かれ深い渓谷が見事な絶景となっている。

 なかなか目が離せない。

 

「○○、△△△△、□□」

「にゃはははは」

 

 脇腹に鈍痛。はやてが肘鉄を入れながら何か言ってきていたが、ヴィルヘルムの知らない言語だった。

 

「なんて言ったんだ?97管理外世界の言葉か?」

 

 はやてに視線を戻すと、こちらもかなり弛緩したトロンとした表情で腕にしがみついて来た。酔いが回って真っ直ぐ座っていられないのだろう。鈍った頭でヴィルヘルムの言葉を咀嚼すると、普段通り妙なイントネーションを付けたミッドチルダ語で言い直した。

 

「にゃはははは」

「何処、見てんねん、スケベ」

 

 何を言っても恰好が付かないだろうなと判断したヴィルヘルムは視線を反らし、酒瓶の中身を確認するふりをして聞こえないふりをした。

 それはそうと、ふむ、はやては背丈の割にはある方だな。

 

「…ところで、ビル」

「_ッ、なんだ」

 

 腕に当たる感触に気を取られていたヴィルヘルムが動揺を抑えながら返事をすると、はやては小首を傾げながら尋ねてきた。

 

「ビルって、日本語喋れへんの」

「ああ、行ったこともないからな。デバイスに97世界言語の翻訳魔法も入れてない」

「にゃはははは」

 

 先進管理局世界では大抵公用語で、ミッド語か現代ベルカ語の二つの言語どちらかが使われている。この二つのバイリンガルなら生活に不自由がないが、後進世界や管理外世界では1つの世界に100を超える言語が存在していることが当たり前だ。

 ミッドチルダをほとんど出たことのないティアナが、日本でなに不自由なく会話が出来たのもこの翻訳魔法技術の発展のおかげである。(ただし、文字の翻訳をするには処理に時間がかかり、この魔法を頼りにテストを受けたりすると残念な結果になる)

 ヴィルヘルムが答えると、はやてはニタリと笑い。

 

「○□△、□△□△○、△○○」

「だ、ダメだよ、はやて」

 

 はやての発言にフェイトが更に赤くなって止める。周囲を見回しヴィヴィオが何時も間にか飲んでいた酒のせいで再び夢の中にいること確認すると安堵していた。ちなみに、なのはが会話に入ってこないのは、彼女がひたすらにゃはは、にゃははと笑っては、時折グラスに口をつけるという動作を繰り返しているからである。

 

「フロイライン、ネットに接続、翻訳魔法をダウンロードしろ。言語名、第97管理外世界「地球」極東地区日本」

「にゃはははは」

『有料ですがよろしいですか?』

「かまわん」

 

 ヴィルヘルムがデバイスに命じると、はやてはヴィルヘルムの腕を離し逃げ出そうとしたが首根っこを掴まれ動きを止める。

 ドルンレースヒェンが先程のはやての発言を翻訳した次の瞬間には、はやては頭を抱えることになった。

 

「いった~、なにすんねん。乙女の頭にチョップ入れるか、ふつう」

「乙女がしていい発言じゃないだろ、今のは。ヴィヴィオが意味を聞いてきたらどうするつもりだ」

「へへへ、必死に説明しようとして、アタフタするなのはちゃん達のカワイイ姿が拝めるやん」

「にゃはははは」

「子供を使ってセクハラするな」

 

 ダメだ。全力でセクハラモードになっている。

 ヴィルヘルムはごねるはやてを押し退け、いよいよ収拾がつかなくなる前に解散させることにしたが、なのはは既にフェイトの支えなしでは立ち上がれなくなってしまっている。仕方なくヴィルヘルムが眠っているヴィヴィオを抱きかかえて3人の部屋まで連れ帰ることにした。

 

「送り狼…」

「瘤つき相手になるか」

「にゃはははは」

 

 はやての発言を途中で遮り、ヴィルヘルムははやてに向き直る。

 

「ほら、はやて、君も帰るんだ」

「いやや、このグラスを空けるまで帰られへん」

「分かった、分かった、ならそれを飲んだら帰ってくれ」

「む、3人は送るつもりのくせに、私は無し?」

「君の部屋は隣じゃないか…」

 

 絡み酒になってきたはやての様子に流石にうんざりした声でヴィルヘルムが答えると、はやては口を尖らせ拗ねて見せた。

 大げさな態度だったのでヴィルヘルムの酔った頭でも本気ではないことが分かったし、そんな態度の理由も食事前のヴィヴィオ達の会話で察しが付いた。誰もいない部屋に帰りたくないのだろう。

 しょうがない部隊長だと思いつつも若い娘に頼られていると思えば悪い気はしない。酒も助力し、少しぐらいのわがままには付き合ってもいい気になる。

 

「もう少し付き合ってやるから、3人を送ってくる時間ぐらい待っていろ」

「ん~」

 

 ドルンレースヒェンをポケットの中にねじ込みながら声をかけると、子供の様な気の無い返事が返ってきたので言ってやる。

 

「戻ってくるまで腹を出したまま床で寝たりするんじゃないぞ」

「…」

 

 はやては視線だけこちらに投げてひらひら手を振った。

 

 

 

 

 

 さて、ヴィルヘルムがなのは達を送りに行ってしまうと、人の視線がなくなり途端に眠くなってきた。誰かに見られているというのは適度の緊張感を生むものらしい。

 

「むぅ…」

 

 頬をひっぱり眠気を負いやろうとするが一向に効果がない。かといって、このまま寝てしまうと確実にヴィルヘルムはいつも以上に子供扱いしてくるに違いない。流石にそれは避けたい。考えを巡らそうとして、はやての思考が千鳥足で走り誤った方角に突き進む。

 

「ようは、ちゃんと寝ればいいんや」

 

 

 

 

 

 3人を送り届けたヴィルヘルムが部屋に戻ってくると、リビングには空いたグラスを残しはやての姿が見えない。

 

(考え直して、帰ったか)

 

 言った時には気が付かなかったが、真夜中に女を自室に連れ込んで2人きり、確かにまずい。どうやら自身も相当酒が回っているようだと考え直すと、ヴィルヘルムは少し残念に思いながらとりあえず食器を流しに放り込み、リビングの照明を消した。ドルンレースヒェンで明日の予定を確認すると寝室に向かう。

 寝室に入るとカーテンの隙間から月明かりが射し込みボンヤリと寝室を照らしていた。ここは自分の部屋だ。何が何処にあるかぐらいは把握している。これなら明りを付ける必要もないだろうと、ベッド隣りの机にドルンレースヒェンを置き、端に置かれたアンティークの置時計で時刻を確認する。いい加減寝ないと明日に響く。着替えるもの億劫になり、そのままベッドに潜り込む。

 

「ほら、もっとそっちに寄ってくれ」

 

 先客に文句を言って、柔らかく甘い匂いのする体を押し退けながらシーツの中に潜り込む、そこでようやく違和感に気が付く。

 

(ん、先客?)

 

 脳が状況を理解する前に本能が事態を把握したようだ。心臓の鼓動が奇妙なリズムを取り始めた。恐る恐る隣を見るとはやてがいた。

 

「___ッ!」

 

 どうにか悲鳴はあげなかったが、ベッドから転がり落ち背中を机にしたたか打ちつける。その衝撃で置時計がこぼれてヴィルヘルムの頭に直撃した。自分のあまりの醜態にヴィルヘルムは項垂れた。

 

(俺はコメディアンか…)

 

 とりあえず置時計元に戻して目をつぶる。十秒ほど数えると目が慣れ始め、部屋の中がはっきり見え始めた。よく見れば、床にははやての脱ぎ捨てた衣服が散乱していた。

 

(酔っぱらって脱ぎだすとは、とんだ酒乱だ)

 

 まだ酒が残っているというのに頭痛がしてきた。が、寝室を散らかした犯人はベッドの上で気持ちよさそうに寝息を立てていた。ヴィルヘルムが転げ落ちた時に掛け布団が一緒に落ち、はやての姿が月明かりにさらされている。

 

「んぅ…」

 

 掛け布団がなくなり寒さを感じたのだろう、うめき声をあげて寝がえりを打つ姿はしどけない。制服のシャツを羽織ってはいたが寝乱れており、シャツより白い肌と下…

 

(見るな、俺)

 

 はやてをあまり見ないようにしながら、ヴィルヘルムは掛け布団を掛ける。が、うっかりはやての甘い匂いを吸いこんでしまい、マルチタスクの幾つかが暴走し始めた。理性的な思考がギャラルホルンを吹きならし迎撃の構えを見せてはいるが、どうも劣勢のようだ。

 

(落ちつけ俺、相手は20になったばかりの小娘じゃないか。あと、なにを書いているんだ作者)

 

 なかなか、抑えられない鼓動を持て余していると、はやてが呟いた。

 

「リインフォース…」

 

 はやては副官のリインフォースⅡを呼ぶ時は、公式の場でもない限りリインと呼ぶ。呼ばれたのは闇の書事件で失われたもう一人のリインフォースの事だろうか、10年たつ今でもはやては彼女の事を…。

 

「リインフォース、いい揉みごたえや。ん、止めてください?ふ、これだけは止めれへん」

「…」

 

 続く言葉を聞いて一瞬で鼓動が正常に戻った。頭を抱えて寝室に入った後の事をなかったことにすると決めた。

 

(全て、酒のせいだ。一部、記憶がなくなっていても不思議じゃない。ああ、仕方ないことなんだ!)

 

 ヴィルヘルムは六課の副長室で寝ることにした。クローゼットの中から制服を取りだし、ドルンレースヒェンを手に取る。

 

(子守に酔っぱらいの相手か…、今日は厄日だな)

 

 寝室のドアノブを掴むと、名前を呼ばれた。

 

「ビ~ル~」

 

 振り向くと気分よさそうに寝ているはやての姿がある。どんな夢を見ているのか分からないが寝言のようだ。

 

「…のアホ~」

「…」

 

 ヴィルヘルムはため息をつきながら寝室を出た。

 

「ホント、厄日だ」

 




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